魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ 炎殺の邪眼師   作:コエンマ

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更新が遅れてしまい、申し訳ないです。

今回も『ACE』シリーズと同時更新なので、よろしくお願いします。


第七話  日常と邂逅 ~ 予兆の先兵

 

 時空管理局機動六課に所属する隊員の朝は早い。まず六時台に起床のベルが各自の部屋で鳴り、身だしなみと服装を整える時間を終えたらすぐに朝の教練の開始である。

 

「ほらー! 皆もっと頑張って!」

 

 機動六課の訓練スペース、陸戦用空間シュミレーターの中で声を上げるのは高町なのは教導官。この訓練は彼女の完全指導でもって成り立っている。本当はライトニング隊隊長のフェイトもこれに携わっているのだが、執務官という立場上そう簡単に両立するのは難しい。

 

 なのはの教練は厳しいが、それを苦だとは思っても嫌だと思うものは少ない。魔導師として最低限実戦に耐えうる実力がなければ、自分だけでなく仲間も危険に晒すことになる。そのような任務を受けることも多々ある管理局において、有望な若手を順調に育てている彼女の教えには定評があった。

 

 そうこうしているうちに早朝訓練の最後、四対一でのシュートイベーションが終了する。肩で息をしているスバル達を眺めながら、なのはが空中から降りてきた。

 

「じゃ、今朝はここまで。一旦集合しよう」

 

「「「「は、はいっ!」」」」

 

 四人はへとへとになりながらも整列し、ようやく教練が終了する。なのははバリアジャケットを解くと、降り立った先で教練を眺めていた飛影に声をかけた。

 

「ねぇ飛影くん。飛影くんから見てどうかな、スバル達は」

 

 一同に軽い緊張が走った。彼が機動六課に来てから早いものでもう二週間が過ぎ、民間協力者として訓練に立ち会っている。直接指導は今のところしていないが、なのはの補佐のような形に収まり的確に指導してくれる飛影を四人はとても尊敬していた。

 

 あの四対一の模擬戦の後、その力を計測した六課のメンバー達はかつてないほどに驚かされていた。魔力はないが、現時点で判明しているだけの戦闘力から換算したところ、実力は最低でもSSランク以上、つまりリミッターをかけていないなのはやフェイトより上であったのだ。あれで加減していたという事実は、はやてすらびっくり仰天させている。

 

 それが判明したときにはリィンやシャーリー、そしてスバル達も開いた口が塞がらないようであったが、なのは達はそれほどでもなかった。彼女らはかつて飛影の戦いを一度見ていたため、自分たちを軽く捻るほどの実力者だと確信していたからである。寧ろ、低評価なのではないかとの声も上がっていた。

 

 そんな理由からか、もはや六課で飛影の名を知らぬものはいない。キャロやエリオなども積極的に飛影と接しているし、時には教授を受けたりもしている。

 

 エリオに至っては既にフェイトと並んで大きな目標になっているようで、訓練にもより一層の力を入れていた。ヴァイスやシャーリー、ルキノなども彼の持つ力に並々ならぬ関心を寄せている。

 

 そして意外なことにヴォルケンリッターの騎士達やはやてもその存在を認め、信頼を置き始めていた。

 

 特にヴィータやシャマルは何かと関わろうとするし、シグナムに至ってはスピードを除けば自分と同じタイプであるためか、並々ならぬ対抗心を燃やしていた。そして、六課きってのスピードタイプであるフェイトに何度も戦いを挑んでは、日々その腕を磨いているらしい。

 

 なんでも彼女曰く、

 

「炎でも剣でも負けていたら、烈火の将の名が泣く」

 

 とのこと。だが今のところの戦績は43戦中0勝43敗で、一太刀たりともその体には届いていないという涙ぐましい有様であった。この間など、どこまでこの記録が伸びるのかと賭けをしていたヴァイスら青年将校をとっ捕まえて憂さ晴らしをしている。

 

 たった二週間。されど飛影の存在は六課で大きくなり始めていた。

 

 だが、彼女たちは知らない。今でさえ凄まじい戦闘力を持つ飛影自身も、なのはやフェイトらと同じく忌呪帯法と呼ばれるもので独自に相当なリミッターを掛けていること、そしてその上からさらにかなりの力を抑えており、それが彼女たちとは根底から違うほどのものであることを。

 

 その驚愕の事実を六課のメンバーが知るのはもう少し後になる。

 

「フン。始めたころの千鳥足よりは少しマシになったようだが、連携に穴が多すぎだ。ナカジマは直線的すぎ、ランスターは保守的すぎる。どちらも機を読むことを忘れるな。モンデュアルはもう少し考えてから動くことだ。いくらスピードがあっても、バカ正直に真正面から突っ込むだけでは芸にもならんからな。攻撃と同時に回避を想定し、方向を広げて機動を柔軟にしろ。ルシエはまず間合いの確保と術の効率化を図ることだけを考えて、相手との距離をいつも頭に留めておけ。動けないアシストなど、ただの的だ」

 

 飛影の厳しい言葉に全員が引きつった顔をした。その言葉に甘さは一切ない。ただ思ったことと気づいたこと、そして事実を淡々と述べているだけ。しかしだからこそ、その指摘は的確だと言えた。

 

 厳しい言葉の裏に嘘はない。飾っても仕方がないことを彼は知っているのだ。そして、マシになったということは成長しているという揺るがない事実を指していた。

 

「お? みんなよかったね。相変わらずの辛口だけど、ちゃんと伸びてるっていう飛影くんのお墨付きを貰えたよ!そんなところで、早朝訓練は終了です。お疲れ様」

 

 はぁああ、と全員が脱力した。それを見てなのはは苦笑する。慣れ始めてきてはいるが、メニューは過酷だ。この反応も仕方のないことだろう。と、そこで焦げ臭い匂いが辺りに漂った。ティアナがはっとして指さすと、スバルのローラーブレードが火花と煙を上げていた。

 

「うわっ、やばっ! 無茶させちゃったぁ~……」

 

 しまったという表情で愛機のローラーを持ち上げるスバル。なのはが整備に回そうと言ったが、誰が見てもかなりガタがキているのは目に見えていた。聞くところによるとティアナの銃も同じような有様のようである。なのはが首をかしげながら考え込んだ。

 

「う~ん、皆も慣れてきたし、そろそろ実戦用の新デバイスに……あれ?何の音?」

 

 意味深長な台詞を口にしていたなのはは、突如響いた電子音に四人を見た。だが、四人とも心当たりがないようで首をかしげている。すると飛影が嫌そうな顔でポケットを探り、深紫のコンパクトを取り出した。

 

 全員が不思議そうに見守るが、飛影はそれを開こうとしない。しばらくそのままでいたが、いきなり音が鳴り止むと飛影がようやくそれを仕舞う。しかしそれも束の間、なのは達の疑問を吹き飛ばす勢いで、今度は上方から怒鳴り声が響いた。

 

 

 

『まったく、持っておるなら早く出んか! 何のために通信機を持たせたと思っておるのだ!』

 

 

 

「「「「「え……えええっ!?」」」」」

 

 全員が上を見た瞬間、驚きの声を上げる。そこにはいつもの空ではなく、スクリーンに映したような透けた体の大きな人間がいたからだ。いや、大きく見える子供と…………おしゃぶり?

 

「何の用だコエンマ。またくだらん茶々を入れにきたのか?」

 

 なのは達が目をまん丸にして固まっているなか、飛影は愛想の欠片もなさそうに返答する。コエンマと呼ばれた少年は呆れたように、いや諦めたように溜息を吐いた。

 

『お前は本っ当に相変わらずだな。そっちでも上手くやっているのかどうか、こうして気を遣ったというのに。定期に連絡はしろといったはずだろ? それにぼたんから報告、というか苦情が上がってきている。あれでもお前たち浦飯グループの一員で紅一点だ。あまり無視してやるな、ベソをかいてたぞ?』

 

「フン、見当違いのことばかり聞いてくる方が悪い。昨日など今日はそっちで何を食べたか、どんな料理があるかなどと聞いてきやがった。その場にいれば、オレが奴を釜茹でにしているところだ」

 

『……済まなかったな。それについては後でみっちり説教しておく。地獄の一丁目辺りに括り付けとけば少しはマシになるだろ』

 

 コエンマがバツが悪そうに眉を寄せた。スバル達は本気で不機嫌になっている飛影と、その不穏な台詞に冷や汗を掻いている。そこになのはがおそるおそる声を上げた。

 

「あ、あの……貴方は……?」

 

『ん? おお、そっちでの協力者か。いや、すまんすまん。ワシは霊界で長をやっとる閻魔大王の息子、コエンマだ。今は一応霊界の最高責任者ってことになっとる。正式にはもうコエンマではないのだがな』

 

「れ、霊界ぃっ!? 霊界って、飛影さんが言ってた人の死後を裁いて逝き先を決めるっていう、あの世の世界……そ、それに、閻魔大王さまの息子って、あわ、あわわわ……!」

 

 スバルがコエンマの自己紹介を聞いて青くなる。他のメンバーの反応も似たようなものであったが、飛影はフンと鼻を鳴らすのみ。あの世の支配者に対しても変わらない態度にタメ口、改めて飛影の凄さを垣間見たスバル達だった。

 

「それで、一体何をしに来た。まさか暇を潰すために来たんじゃないだろうな?」

 

『おお、そうじゃった。お前さんに渡すものがあってな。役に立つかどうかは分からんが、ないよりはマシだろうと思って見繕った。今そっちに転送する』

 

 コエンマがそう言や否や、前方に一つの頭陀袋が落ちてきた。そんなに大きくないそれを手にとって中を覗き込んだ飛影は、しばらくの後ため息を吐く。

 

「こんなガラクタを送ってきて、オレにどうしろと言うんだ」

 

『仕方なかろう! あまり高位の霊具は送れんし、こっちだって手を借りたいほど忙しいのだ! それに霊界探偵の必須アイテムだから、持っておいて損はないはずだぞ?お前用にカスタマイズしといたから、妖気でも問題ないはずだ。後々使う機会もあるだろ』

 

 そう言うと、心底いらないというふうな表情をしている飛影を無視してコエンマはなのは達に向き直った。彼に見られ、全員に緊張が走る。コエンマはそのまま全員を見渡し、

 

『そちらの世界の方々、惜しみない協力まことに感謝している。飛影は少し扱いづらいところがあるかもしれんが、これからも支えてやって欲しい』

 

 大きすぎる帽子を引っさげて頭を下げた。これは流石に予想外だったようで、なのはたちは慌ててしまった。

 

「ええっ!? そ、そんな、頭を上げてください! コエンマさんにそんなことされたら、私たちどうしていいか……そ、それに、飛影くんを頼っているのは私たちも一緒なんですから!」

 

「そ、そうですよ!飛影さんには教えられることばかりで……とてもありがたく思っています!」 

 

 コエンマの行動にぎょっとしたなのはやスバルをはじめ、皆が口々に言葉を零す。その様子を見て、懐かしむようにコエンマはふっと笑った。

 

『そちらでもいい仲間を持ったようだな、飛影』

 

「……フン」

 

 コエンマの言葉にそっぽを向いて飛影はつまらなそうにする。そこでコエンマはポンと手を叩いた。

 

『おお、そうだ。もう一つ言い忘れておった。実はな、ワシが――――で、そ―――と―――っ人―――……』

 

 何かを言おうとしたコエンマの声に突如ノイズが入り始めた。それは映像にも伝わり、次第に薄れていく。飛影はわずかに目を開いていたが、しばらくするとぷつっという音が響いて完全に消えてしまった。キャロが心配そうに飛影に尋ねてくる。

 

「コ、コエンマさん大丈夫なんでしょうか? いきなり切れてしまいましたけど……」

 

「心配など不要だ。前にもあったが、単に次元が不安定になってしまった影響で通信が途絶えただけだからな。しばらくは使えんだろうが何か影響があるわけじゃない」

 

 飛影はそう言うと落ちてきた頭陀袋を肩に担ぎ、面倒そうな様子で歩いていってしまう。なのは達は顔を見合わせると少し楽しそうにしていた彼の顔を思い出し、ふふっと笑った。

 

 

 

  -Side Subaru Nakazima-

 

 

 

「はー、気持ちいい~」

 

 あたしはシャワー口から流れ出る雨を顔一杯に受け止めながら思わず言葉を零していた。訓練は辛いけれど、終わった後に浴びるこのシャワーの心地よさはちょっと言い表しがたい。

 

「スバル。気持ちは分かるけど、ほったらかしにされてるキャロのことも考えなさい。頭に泡つけられたまま自分のことされてるんじゃ、いい気分しないわよ」

 

「あはは、ごめんティア。つい……」

 

 もはや条件反射となったようにあたしは頭を下げた。謝るならキャロに対してしなさい、といういつもながら厳しいお言葉を受け、キャロに改めて謝罪する。キャロは気にしていませんから、と笑顔で見上げてきた。ふわぁ、やっぱり癒されるなぁ。

 

「訓練にもやっと慣れてきました。まだまだだけど、強くなってるって感じが出てきて嬉しいです。これもなのはさんや飛影さんのおかげですね」

 

 キャロの台詞のなかに含まれていた言葉に、あたしは胸がどきっとなってしまった。

 

 飛影さん――――。

 

 なのはさんとフェイトさんの命の恩人にして、人間でなく、なんと妖怪だという青年。おどろおどろしかった妖怪のイメージは彼との出会いでかなり変わったが、話によるとそういった妖怪の方が多いとのことだ。何事も聞いてみるものである。

 

 そんな飛影さんは年齢を聞いてみるとなのはさん達より年上の二十五、六歳ほどだということがわかった。あの背でその歳は少し驚いたというのが本音だ。怖いから言わないけど。

 

 そして何より強い。あのシグナム副隊長達をたった一人で倒したというのだから、もはや新人である自分ではお手上げだ。

 

 その教導は受けたことがないけど、試しに受けたらしいフェイトさんが大層お疲れの様子で帰ってきて、早々にぶっ倒れたことから、あたしを含めた全員が青い顔で拒否した。飛影さんをあの強さへと押し上げる教練には大いに興味があるが、こちとら花も恥らう若き身空だ。まだ死にたくない。

 

「そうね。飛影さんの言葉には、気遣いとかは全くと言っていいほどない。けどだからこそ言っていることは的確だし、ちゃんとその先の教示もしてくれるから助かるわ」

 

「はい。おかげで動きが分かってきました。なのはさんは魔法とフォーメーション、飛影さんは個人の動きや役割ををよく教えてくれますから」

 

 ティアナとキャロが飛影さんの話題で盛り上がる。初めは警戒していたティアナや、なかなか話せなかったキャロも今では普通に会話をしている。もっとも彼自身無口だからか、話しかけても「そうか」とか「フン」とか短い返事しか返してくれないことも多いが。

 

(なのはさん達の想い人か……)

 

 私は顔面にシャワーを浴びながら、あの二人の顔を思い出す。ヴァイス陸曹に飛影さんの話を聞いた時のなのはさんは、あたしが見たことのない顔をしていた。

 

 いつもの頼りがいのある顔じゃなくて、すごく強い感情を感じさせる顔。そしてそんな彼女の表情は、思わず見とれてしまうほどに綺麗だった。あのときは驚いたが、知ってみればなるほどこういうことかと思う。

 

 少し前のことになるが、あたしはなのはさんが男性局員に告白されていた場面に出くわしたことがあった。相手の男性はあたしから見てもかなりのイケメンで、その上性格がいいと管理局でも評判になっていた人だ。

 

 だが、彼女は躊躇なくそれを振ってしまった。相手の人は残念だなと苦笑して去っていったが、あたしはどうしても聞きたくなり、気づけばなのはさんに駆け寄って尋ねていた。

 

 なんで断っちゃったんですか、と。

 

 今考えればかなり不躾な質問だったと思う。が、彼女は一度苦笑して優しい笑みを見せながら、

 

『私ね、もう決めてるの。その人はとっても気難しくて、子供の頃一度会った以来ずっと会えてないんだけど、ずっとずっと考えちゃうの。だからどんないい人がいても私はダメ。無意識にその人と比べちゃってるから。あはは、我ながらサイテーだけどね』

 

 あたしにそう言って笑うなのはさんは、でも言ったことを後悔しているようには見えなかった。むしろそれを誇りに思うみたいに胸を張っている姿を見て、彼女ほどの人にそこまで想われてる男性って一体どんな人なんだろう、と考えたのも一度や二度ではない。

 

 だから、会った時はなんでって思った。確かに顔は整っているけど目つきは悪いし、態度は刺々しい。姿も性格もまるで悪党だった。見るからに協調性の欠片もなさそうな彼を私はいぶかしんだが、なのはさんだけでなくフェイトさんまでもが彼を慕っていることを知ったときは、常識が覆りそうなほど心の底から驚いたものだ。

 

 でも、それがひどい勘違いだったことはもう分かっている。普段の飛影さんはそっけなくて、その上他人への対応も粗雑かつ威圧的だけど、内面はあたしたち以上に人として成熟しているし、その力は本物だ。

 

 過去の片鱗を聞いただけであたしは涙が出そうになってしまったけれど、飛影さんはそれを事実として受け止められる強さを持っていた。『人』とは違うにもかかわらず、それを『人』である者達に曝け出せる強さ。そして、何があろうとブレることのない、孤高の信念を。

 

 その時初めて、二人がなぜ彼を慕っているのか、そのことが少しだけ分かったような気がした。ほんの、少しだけ。

 

 そして同時に羨ましかった。『自分』のことを話せる『強さ』が。

 

 それからだろうか。憧れに似た感情に急かされ、自然とその姿を目で追うようになったのは。

 

 見ているとどこか胸が温かくなって、でもなぜか少し切ない、不思議な気持ち。 

 

 いや、これは憧れとはどこかが違うかもしれない。

 

 もっと強い……

 

「スバル! このバカ! いつまでシャワー浴びてるのよ!」

 

「うひゃいっ!?」

 

 いきなり響いた怒声にあたしは我に返った。見ると、ティアが目の前に仁王立ちで腕を組んでいる。その目はいつになく厳しい。

 

「あんた、堂々と水の無駄遣いしてんじゃ……げっ!? ちょっとスバル、それ!」

 

「え? それってな……って、うわわっ、キャロ!?」

 

「ふぅええええ~?」

 

 ティアが指さした所、シャワーを流したまま考えに耽っていた私のすぐ側で、キャロが真っ赤な顔から湯気を上げて目を回していた。倒れなかっただけ立派なものだが、全開でお湯を浴び続けていたあたしの横にいたためにのぼせてしまったらしい。

 

「あわわっ、こういう時ってどうすればいいんだっけ!? とりあえず水をかければいいのかな!?」

 

「そんなわけないでしょこのバカスバル! 早くキャロをそこから出して脱衣所に運んで! それとミネラルウォーターと水で冷やしたタオルを何枚か持ってきなさい!」

 

 ティアの言葉に分かったと言ってキャロを担ぎなおす。シャマルさんにも一応連絡しておかなきゃと零す親友の言葉を耳に流しながら、あたしは言われたとおりに動き始めた。それで、ついさっきまで考えていたことはさっぱり頭から飛んでしまったのだった。

 

 

 

 -Side out-

 

 

 

 -Side ?????-

 

 

 

「ったく、この森はどこまで続いてんだよ……」

 

「聞いた話ではもうそろそろのはずなんだけど……」

 

 二人の人間が森の中を掻き分けながら会話していた。一人は高い背丈にノースリーブの青みがかったTシャツ、それに青いジーンズと同色のブルゾンという出で立ち、そしてもう一人は薄い赤色の半袖の上にベージュのジャケット、そして同じ色のデニムパンツをすらりと着こなした青年の二人組だった。

 

 ジーンズの青年が、飛んでくるカナブンやらなんやらを他所に放り投げながら先導して、後ろをもう一人の青年がついていく。と、しばらくして開けたところに出た。

 

 どうやら自分たちは崖の上にいるようだ。下の方には人工的な舗装も見える。

 

「おお、やっと出たな。ん、こりゃ線路か?」

 

「そのようだね。ここを通る列車に乗って一時間ほどかけると、街までいけるらしいよ」

 

 ジャケットの青年は手に持った木の葉を親指で撫ぜながら、「どんだけ離れてんだよ」と愚痴るジーンズの青年に苦笑を零す。すると遠くの方から一つの影が見えてきた。フォルムと走っている場所からして、間違いなく列車だ。

 

「おっしゃ、タイミングバッチリだな」

 

 ジーンズの青年が拳を振り上げるが、後ろにいたジャケットの青年は黙って列車を見ていた。その目が少し細められ、やれやれと肩が竦められる。「どうした」と眉を寄せながら呟く相方にふっと笑いかけた。

 

「どうやらゆっくりと景色を堪能、ってわけにはいかないみたいだ。少し手荒にいく必要があるかもね」

 

「さっそく、ってか? 上等だぜ、いっちょ腕慣らしといくか!」

 

 二人は目を合わせ、不敵な笑みを浮かべる。そして高速で接近する列車に近づくために、二人は断崖絶壁から身を躍らせた。

 

 

 

 

 




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