魔法少女リリカルなのはStrikerS ~ 炎殺の邪眼師   作:コエンマ

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第八話の投下です~。


第八話  ファーストアラート ~ 再会

 

 

 機動六課の主な任務は、ロストロギアと呼ばれる古代遺失物の管理とその保護である。古代の遺産はその力の凄まじさと希少性から、邪な盗掘者に狙われることも多い。事実過去にはそうして盗み出されたものも多く、またそれが原因で悲惨な事故などが起きたことも少なくないのだ。

 

 だからそのような事態に遭遇すれば、彼らに出動要請が回ってくるのも当然である。そして今日、機動六課にスバル達新人フォワードが所属開始から二週間にして、記念すべき初仕事が舞い込んできた。

 

 仕事内容は、レリックと呼ばれる高エネルギー貯蔵のロストロギアを運搬していた貨物列車がガジェットに占拠されたことへの対応である。管理局でもその処遇が懸念されていたレリックが狙われたのは想定されていたものの、ここまで早く起こるとは思わなかったというのが後に部隊長が零した言葉だ。

 

 ともあれ可及的速やかに現場に赴き、ガジェットの殲滅及びレリックの回収、その後の護送が下された機動六課は、移動用ヘリに乗って現場へと急いでいたのだが、

 

「何故わざわざオレが出なければならん」

 

 待機命令中のフォワード四人が初陣に身体を緊張させるなか、剣呑な雰囲気を隠そうともせず、怒りと不満を滲ませた声が響いた。

 

 声の主は言わずもがなの飛影である。彼は民間協力者であるが、誰かに命令されて動くことには承諾していないため、この事態に苛立っていた。はやてなどは下手からお願いしたのにもかかわらず、飛影の威圧をモロに受け、半泣きでシャマルに縋りついていたぐらいだ。

 

「ひ、飛影くん。気持ちは分かるけど、飛影くんは次元漂流者なんだし……それに一応は民間協力者って立場でもあるから、私としても波風立てないようにやって欲しいなぁなんて「黙れ」ひゃうっ、ごめんなさい!?」

 

 新人四人の教導官であり、機動六課所属の一等空尉である高町なのはが諭すように言うが、鋭い三白眼で睨まれ悲鳴を上げて後ずさった。

 

 スバル達は涙目で「なんとかして」と訴えてくる彼女を見て、少し顔を引きつらせながら笑って一人残らず目を逸らす。彼女を敵に回すのは怖いが、この場合ではそれ以外の選択肢は取れないのは暗黙の了解であった。好き好んで火中の栗となる趣味はない。四人の内心を見抜いてか、なのははう~っと恨み声を上げた。

 

 そんな彼女にいつもの鬼教官たる威厳はない。というか、飛影の放つ威圧感が凄まじすぎるため、彼女を以ってしても霞んでしまうと言ったほうが正しいだろう。一等空尉憐れである。

 

 飛影はしばらく無言でなのはを睨んでいたが、涙まじりの彼女の視線に僅かに汗を掻き、ばつが悪そうに舌打ちした後に顔を背けた。

 

「……次はない。さっさと終わらせるぞ」

 

「! ありがとう、飛影くん!」

 

「ぬあっ!? だから、すぐ人に抱きつくその癖をやめろと言っただろうが! 何度言ったら分かるんだ貴様は! ガキか!」

 

 言うが早いか、彼に飛びついてその腕をかき抱きながら満面の笑みを零すなのはに対して、飛影はいつものように怒号を上げる。が、身体を振り払ったりはせず、扱いに困っているといった風に無理やり渋面で覆っていた。その表情はかつての彼を知るものが見たら驚くに違いない。

 

「よかったですね、なのはさん」

 

「うん、ありがとうエリオ」

 

「高町っ、貴様は笑っていないでさっさと離れろ! いい加減にせんと、前言を撤回するぞ!」

 

 眉の角度と目の吊り上り具合がすごいことになり始めた飛影に流石にマズイと思ったのか、謝罪を述べながらなのはは残念そうに体を離した。

 

 乱れた服装と髪を心底不機嫌そうな顔で整える飛影。彼の性格的には正しいのだが、何かがいろいろと間違っている気がする。というか、抱きつかれているのがほぼ自分に限定されていることに気づいていない彼も彼であった。

 

「はぁ……ま、緊張は少し解れたかな。これなら今日の任務は大丈……スバル、あんたどうしたの?」

 

「……えっ? なにが?」

 

「いや、何がって……なんでそんな膨れっ面してんのよ」

 

 いつものやり取りに少し緊張が解けたティアナが、横にいたスバルを見て怪訝そうに眉を寄せた。

 

 尋ねられた当の本人はその瞬間に表情をリセットし、きょとんとした顔で首をかしげて考えている。どうやら本当に分かっていないようなので、ティアナはなんでもないわよと手を振ると、不機嫌そうに佇む飛影の方を向いた。

 

(まさかスバルまでとか……? まぁ、コイツの事情からすれば、飛影さんの在り方は相当に眩しく見えるんでしょうけど)

 

 ティアナがふぅと息を吐くと、ヴァイスさんが振り返りながら現場に到着したと報告してきた。ヘリの中に緊張が走り、メインハッチが轟音を立てて開く。なのはが全員を見渡しながら言った。

 

「じゃ、ちょっと出てくるけど、皆もがんばってズバッとやっつけちゃおう!」

 

「「「ハイッ!」」」

 

 スバルとティアナ、そしてエリオが気合を入れるように返事をするなか、キャロだけが俯いたまま座っていた。その身体は縮こまり、肩は僅かに震えている。

 

 だが、なのはがそんな彼女に気づいて近づこうとするより先に、キャロの身体に影が落ちた。キャロがハッとして顔を上げると、いつも難しい表情を崩さない民間協力者、飛影が立っていた。

 

「要らん心配をするな。空は高町とテスタロッサが抑えるだろうし、近くにはこいつら三人がいる。それに不本意だがオレも出てやるんだ、あんな雑魚相手に臆する必要はない。ルシエ、お前はただ自分のできることをしろ」

 

 そう言うと、飛影はコートを翻して視線を外す。ぞんざいな言い方ではあったが、声を介した彼の優しさはキャロの内側へとするりと入り込んできていた。しばらくぽけっとしていたキャロだったが、堅くなっていた体からいつの間にか緊張が抜けていたことを知る。

 

 背を向けた飛影の内面は、その表情と共にうかがい知ることはできない。だが自分に向けられた言葉は心の中で反響し、いまだ残っている気がした。胸がほんわかと温かくなる。堅くなっていた表情が崩れ、キャロはヘリに乗って初めてとなる笑みを零した。

 

「は、はいっ……あ、ありがとうございます。お兄ちゃん」

 

『……は?』

 

 キャロが笑顔で放った言葉に場の空気が固まった。なのはやスバルなども驚きのあまり呆然とした顔を見せており、飛影に至っては目を見開いて硬直している。

 

 キャロは少しの間何が起こったのかわからない顔をしていたが、しばらくして自分の失言に気づいたのか、あっと叫んでその顔を真っ赤に染めた。

 

「あ、あのキャロ……飛影さんがお兄さん、というのは一体……?」

 

 空中に漂っていたリィンがいち早く硬直から解け、恐る恐るといったふうにキャロに尋ねてくる。本人は服の袖で口元を隠しながら、赤い顔でぷるぷると震えながら言った。

 

「え、えっと、あの……初めて会った時から思ってたことなんですけど、飛影さんってなんだか頼りがいのある兄って感じがしてて……いえっ、私が勝手に思っていたことなので特に深い意味はないんです! さっきのはちょっと、うっかりそう呼んじゃっただけで! だから、その……うぅ……迷惑でしたよね……」

 

 そこまで言って、キャロは深くフードを被ってしまった。自分のせいで飛影に不快な思いをさせてしまったと思っているのかもしれない。しゅんとしてしまったキャロにどうしたものかとスバル達が考えていると、問題の中心が口を開いた。

 

「迷惑かどうか以前にオレはお前の兄貴じゃない。お前に対して兄弟紛いなことなどできんし、するつもりもない。理想の兄とやらを押し付けられるのもごめんだ」

 

 厳しさを含んだ言葉にキャロがビクッと震える。それに対して飛影は横目で彼女しばらく見据えたあと、何かを振り切るように続けて言った。

 

「だが……それでもかまわんというのなら、呼び方など好きにしろ。オレは兄になどなるつもりはないが……お前のことだ、そうせんと勝手に負い目を持つだろう。それに、いつまでもグジグジと悩まれでもすれば、後々まで面倒なことになるからな」

 

 予想外の言葉にキャロは驚いて顔を上げた。飛影はそっぽを向いており、視線を此方に合わせようとはしない。だが、彼が自分に対して応えてくれたことにキャロの胸はいっぱいになった。

 

「はいっ・・・ありがとうございます飛影さ、お兄ちゃんっ」

 

「……フンッ」

 

 先ほどの雰囲気など露ほども感じさせない満面の笑みを見せたキャロに、飛影は背を向けて不機嫌そうに息を吐いた。

 

「あ、お兄ちゃん、私のことはキャロって呼んでください。いつまでもルシエじゃなんだか他人行儀だし、私も落ち着かないので……あっ、もちろんお兄ちゃんがよければ、ですけど」

 

「気が向けばな」

 

 キャロと目を合わせぬまま、飛影はぶっきらぼうに告げた。だが、キャロは顔に笑みをたたえたまま、はいと短く頷いた。

 

 飛影がそれを拒絶するつもりであれば、はっきりと口にしていただろうと思ったからだ。しかし言及はしない。言えばダメと言われるかもしれないから。

 

 二人を中心にして穏やかな、そして優しい時間が流れた。エリオも少し思うところがあったのか、キャロと飛影を交互に見ている。しかし、贔屓というのはどの世界でも得てして碌なことにならない。

 

「そ、それなら私もなのはって呼んで! ホラ、高町って言うより呼びやすいし!?」

 

「わ、私もお願いします! ナカジマって呼ばれるのはお父さんとかと同じだからややっこしいし、何よりムズムズしちゃうんで!」

 

 焦りが混ざった声色で二人が詰め寄った。なのはとスバルの凄まじい食いつきに、飛影は若干引きながらキャロに答えたのと同じ返答を返す。

 

 後にこのことがフェイトにも伝わり、同じように迫られることになるのだが、その時には既に興味もなく、飛影は呼び方程度に一々こだわりすぎだと呆れていたという。

 

 ちなみにエリオはこの一件以来彼を兄さんと呼んでいる。理由はキャロと同じらしい。

 

「っ、列車捕捉! 距離約250だ!」

 

 和やかな雰囲気になりつつあった空気をヴァイスの報告が掻き消した。だが、四人から既に堅さはなくなっている。上がっているのではなく適度な緊張が包み込む中、突如ヴァイスの表情が驚愕に彩られた。

 

「な……列車に接近する人影を補足。ガジェットに向かっていってる!? 魔力値は……未検出! また一般人だぁ!?」

 

「「「「「ええっ!?」」」」」

 

 ハッチから飛び出ようとしていたなのはが驚いてたたらを踏む。さしもの飛影も予想外だったのか、腕を組みながら横目でヴァイスを見つめていた。フォワード四人は以前と同様だ。

 

「人影は二人だ、今モニターに出力する!」

 

 ヴァイスの言葉と同時に、スクリーンに列車の走行風景が映った。その周りを飛行タイプのガジェットが飛び交い、なのはより先についていたフェイトが迎撃に飛んでいる。

 

 そして列車の上の崖から駆け下りているのは確かに二人の人間だった。魔力を使っている様子はないが、二人は走行中の列車の上に難なく着地する。スバルが画面に身を乗り出した。

 

「誰、なんだろうね?」

 

「少なくとも魔導師じゃないわね。魔法陣はないし、バリアジャケットも展開してないから」

 

「でも魔法を使わないであそこまでできるなんて、お兄ちゃんみたい。お兄ちゃんもあんな風に……お兄ちゃん?」

 

 キャロが同意を求めた飛影の様子に首をかしげた。その目は画面に釘付けとなっており、その口元には笑みが零れていた。

 

 しかし、次の瞬間にはその笑みをいつものように掻き消し、飛影はいきなりハッチに向けて歩き出す。全員が動揺したように彼を見るなか、再び彼は愉快そうに口元を吊り上げて言った。

 

「何を呆けている。これはお前らの初陣なんだろう? 早くせんと、『あいつら』が全部片付けてしまうぞ?」

 

 画面を見ると、先ほどの二人がガジェットに対峙していた。なのはがハッとして四人を見回す。

 

「あっ、そ、そうだった。スターズ隊とライトニング隊、出撃だよ! 私はフェイトちゃんと空をやるから、みんなしっかりね!」

 

「「「「は、はいっ!」」」」

 

 号令を受けた四人は作戦どおりティアナとスバル、エリオとキャロの二チームに分かれて降下していく。それを見送ったあと、なのはは飛影に向かって尋ねた。

 

「ねぇ、もしかしてあの人たちって飛影くんの知り合い?」

 

 飛影はそれに対して少し間を置いた後、

 

「ああ。腐れ縁の、な」

 

 短く、しかし確かな信頼を感じさせる返答をして空に飛び出した。

 

 

 

 -Side Teiana Runstar-

 

 

 

 風を切りながら落下した身体が重力のまま列車へと着地する。そうしてローラーブーツを履いた相棒を横目で捉えながら私は走り出した。

 

 片手には銃型のインテリジェンスデバイスである『クロスミラージュ』、そして隊長たちと同じ規格の新装バリアジャケットは驚くほど私の身体にフィットしている。本当に専用装備として作ってくれたらしい。シャーリーさん達には感謝しなければ。

 

(っと、急がないとね)

 

 感謝は改めて伝えることにして私は二車両前にいる男の人のところまで走った。銃を構えながら声をかける。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 銃を片手に構えて飛び交うガジェットを牽制しながら、私はその男性に近づいた。撃ち抜いたガジェットと対峙していた男の人が振り返る。

 

「お? お嬢ちゃんがコエンマから聞いた魔導師ってやつか?」

 

 服装は青みがかった白系の無地Tシャツに青ジーンズ、そして同色のブルゾンいうラフな格好。身長は高く、180後半はゆうにありそうだ。年は二十代中盤といったところだろうか。

 

 だが注目すべきはそこではない。髪の色はオレンジがかっており、いまだかつて見たこともないほど立派なリーゼントで決まっていた。ここまでのものを見たことがなかったので、私は思わずまじまじと見入ってしまう。

 

 強面だが人懐っこそうなその表情に少し安心する。デバイスも何も持たないので、一見すれば一般人だと思ったが、彼の口から出た言葉に私は驚いた。

 

「え、コエンマさんのことを知ってるってことは、飛影さんの知り合いですか?」

 

「飛影を知ってんのか? 来て早々いきなりヒットたあラッキーすぎな気もするが、探す手間が省けたし話が早くて助かるぜ。おーい、蔵馬ァ!」

 

 リーゼントの青年がガジェットによって破られた穴から列車の中を覗き込む。すると、なかにいたもう一人が飛び出すようにして出てきた。

 

「桑原くんですか、こちらの制圧は終わったよ……って、おや?そちらの女性の方々は?」

 

 長い癖のある赤毛をなびかせた人物が、私たちの前に現れる。赤い無地のTシャツにカジュアルなベージュのジャケットを着て、セットであろうのデニムパンツを見事に着こなしていた。

 

 その人物は桑原と呼ばれたジーンズの青年を見たあと、私と横にいるスバルをとらえて少し驚いたようだったが、彼が手短に事情を説明すると納得したように頷く。

 

 一瞬女性に思えたが、会話を聞く限りではどうやら男性らしい。だが女の私が嫉妬を覚えるくらいの凄まじい美青年であった。現にスバルは見惚れ、「綺麗だなぁ」と羨ましそうにしている。

 

「なるほど、飛影の協力者ですか。失礼、俺達は飛影を手伝うために霊界から遣わされた者、君たちの味方ってことで間違いないですよ。まあ聞きたいこともいろいろあるかとは思いますが、それは後ほど。先にこの状況をなんとかしなければなりませんから」

 

「あ、はい。そうですね!」

 

 赤毛の美青年の言葉に、横にいたスバルが同意するようにうんうんと頷いた。ジーンズの青年もああと首肯の意を返してくる。

 

 私は内心で頭を抱えた。そう言うのは管理局である私たちの仕事のはずなのに、ああもうっ、なにやってんのよバカスバル!

 

 と、そんなことをやっているとガジェットがこちらに向けて攻撃を加えるべく近づいてきた。私とスバルは二人に下がって欲しい意を伝えるが、彼らはそれを聞かずに前に出た。

 

「心配してくれんのは嬉しいが、こちとら結構な修羅場潜って来てんだ。テメェの危機ぐらいテメェで切り抜けられる。それに女の子に後ろ任せてくつろいでたんじゃ、漢が廃るってもん……って、危ねぇっ!」

 

 言葉を遮るようにジーンズの青年が私の横を駆け抜けた。と同時にズバンという音が響く。慌てて振り返ると、そこにはいつの間にか出現していたガジェットがこちらにケーブルを延ばしていたのが見えた。が、そのケーブルはこちらに届く前に切断されており、廃線となった残骸がいくつも散らばっている。

 

 そして私に背を向ける彼の右手には、

 

「ひ、光の、剣……?」

 

 金色とオレンジ色の中間のような不思議な色をした剣が輝いていた。バチバチと音を立てるその剣はフェイトさんの魔力刃に似ている。

 

 間髪入れずに彼はその剣でガジェットを真っ二つに両断した。魔力を制限するAMFが働いているのにも関わらず、である。そのまま彼はガジェットを破壊しながら列車の後方へと走っていった。

 

 と、列車の中から大きな円形の形が顔を出した。私たちは足元をすくわれないように急いで後方に下がる。事前に渡された資料に見覚えのなかったそいつにスバルが叫んだ。

 

「新型!?」

 

 通常のガジェットの三倍はゆうにありそうな体躯と倍以上はありそうな数のコードは気味悪くうねうねと蠢いている。赤い長髪の青年は悪趣味だな、と吐き捨てるように言葉を零した。それには全力で同意する。

 

 と、そのうちの何本かが私たちを捕らえるべく迫ってきた。

 

「はあああっ!」

 

 スバルが触手のように蠢くケーブルをかわしながらガジェットに肉薄し、渾身の一撃を叩き込んだ。だが、普通のガジェットより耐久性も上がっているようで、お返しにと鞭のようにしなったケーブルに弾かれた。

 

「くっ、こいつ堅い……!!」

 

 瞬時に体制を立て直したためダメージは受けていないようだが、それは相手も同じ。一撃必殺の彼女の拳も装甲を僅かに凹ませただけである。AMFやシールドも巨大化した分だけ強力になっているようで、この距離では対フィールド魔力弾も生成できない。

 

「えっ!?」

 

 有効射撃を決めるため後ろに下がろうとしたとき、私は驚きに声を上げた。あのガジェットに向かい、あろうことか赤毛の青年が丸腰のまま前に出て行くではないか。

 

「あ、危ないですよっ!」

 

 スバルが焦ったように彼に向かって叫ぶが、青年は大丈夫、と短い笑みで答えるとさらに歩みを進めていく。そうして敵の射程ギリギリのところで自分の髪へと手を伸ばし、何かを取り出した。

 

「「はっ!?」」

 

 その取り出された物を見て、私とスバルは素っ頓狂な声を上げた。なぜかと問われれば答えは一つしかない。彼が取り出したものはおよそ闘いの場には相応しくない代物、一輪のバラだったからだ。

 

((なんでバラ……!?))

 

 それを優しく添えるように持ちながら、彼はガジェットと対峙する。敵と認識したのか、ガジェットが唸りをあげて彼に迫った。

 

 そして目の前に来た彼へガジェットのケーブルが餌を絡め取るように伸ばした、その瞬間。

 

薔薇棘鞭刃(ローズ・ウィップ)!!」

 

 彼を取り囲んでいたケーブルが全て宙に舞っていた。驚くほどの長さと強靭さを誇ったそれらがまるで紙切れのように細分に寸断され、ガジェットはただの丸い塊となる。

 

 そしてそれを成した彼の手には先ほどまでのバラはなく、代わりに緑色の鞭が握られていた。あれでガジェットを切り裂いたのだろうが、私には全く見えなかった。なんという早業だろうか。

 

「終わりだよ」

 

 そして彼が再びそれを振るった瞬間、丸いオブジェは少なくとも十数個の破片に分断され、爆発した。同時に周囲に集まっていたガジェットもまとめて。

 

 スバルが渾身の力を込めても僅かな傷しか残せなかったガジェットが、何の造作もなく破壊されてしまったことに私も、その硬さを知る本人も声が出なかった。それを知ってか知らずか、彼は鞭を消すと私たちに向き直る。

 

「敵は掃討し終えましたよ。桑原くんのほうもどうやら無事に終わったみたいですね」

 

 見るとこちらに手を振るジーンズの青年桑原と、龍の召喚に成功したらしいキャロがエリオと大きめのスーツケースを抱えて巨大化したフリードに跨っていた。その下には煙を上げたガジェットの残骸が一体あるが、他は全て原型を留めぬまでに破壊されている。

 

「やってきて早々ご苦労なことだ。仕事癖がついているんじゃないか蔵馬?」

 

 そこで最近馴染み始めた声が聞こえた。振り向くと、飛影さんがポケットに手を突っ込んだまま口の端を吊り上げて笑っている。その表情はいつもの仏頂面ではなく、どことなく嬉しそうな色を滲ませていた。赤毛の青年にも微笑みが灯る。

 

「君も変わらないな、飛影。次元の狭間に吸い込まれたって聞いたときは驚いたけど、無事で安心したよ。まあ、君がその程度でどうにかなるとは思えなかったけれどね」

 

「フン、コエンマが伝えようとしていたのはこのことだったか。余分なのもついてきたようだが、奴にしては粋な計らいだ」

 

 蔵馬と呼ばれた赤毛の青年に飛影はいつもの皮肉で返した。そこに先ほどのジーンズリーゼントの青年が肩を怒らせてやってくる。

 

「コラ飛影テメェ! 浦飯チームの大戦力を捕まえて、余分たあなんだ!? それに、元はと言えばテメェがコエンマの忠告を無視して穴に落っこちたのが原因らしいじゃねぇか!」

 

「ほう、そいつは初耳だ。戻ったら奴と改めて話し合う必要がありそうだな、ククク……」

 

 その『話し合い』という響きに我らが教導官のと同じものを感じてスバルたちは冷や汗を掻く。そのとき、空で戦っていたなのはとフェイトから通信が入った。

 

『作戦は成功。あとはレリックを護送担当部隊に引き継いで任務は完了だよ。みんな、もう一息頑張ろ!』

 

『ええと、そっちにいるお二人にはあとで事情聴取をさせてもらうのでそのつもりでいて下さい。あ、事情聴取といっても飛影の知り合いみたいですから、形式だけなので構える必要はないです』

 

 二人の声が聞こえ、全員に笑みが宿る。こうして数奇な運命のめぐり合わせで、私たちは飛影さんの『戦友』に出会ったのでした。

 

 

 

 -Side out-

 

 

 

 -Side Jeil Skaliety-

 

 

 

「刻印No.9護送体制に入りました。追撃戦力を送りますか?」

 

 止まった列車から護送されていくキャリーケースを見ながら、私の片腕ウーノが画面越しに問いかけてきた。その顔に悔しさはない。ただ命じられる内容を待っているといった様子の彼女に対して、私は苦笑しながら口を開いた。

 

「いや、止めておこう」

 

 未練を感じさせない私の声に彼女は分かりました、とだけ告げる。私は目の前に広がる大画面横のパネルを操作し、列車の上を駆け回る二人と龍にまたがった二人、そして空を縦横無尽に駆ける二人を順番に映し出した。中でも金髪の少女と赤髪の少年に注目しながら、此方を見つめるウーノに苦笑する。

 

「レリックは惜しいが、彼女たちのデータが取れただけで十分さ。プロジェクトFに関してもこの子達個人にしても私の研究にとって興味深い素材ばかり、これだけでも損はない。それに……」

 

 パネルを操作し、リアルタイムで映し出されている映像から対象を切り替える。

 

「予期せぬ大収穫もあったことだしね……」

 

 そこにはオレンジリーゼントと赤髪の青年、そして黒髪の少年の三人が映っていた。先の二人は機動六課の少女たちと言葉を交わしており、少し離れた場所で列車の縁に腰掛けるようにして黒服の少年が座っている。

 

 ウーノの報告によれば、彼は最近六課に保護された次元漂流者で名を飛影と言うらしい。おそらくあの二人は彼の仲間だろう。私は燻っていた探究心が湧きあがってくるのを感じた。

 

「彼らは私のガジェットをいとも簡単に破壊してしまった。それも魔法とも戦闘機人とも違う、圧倒的かつ不可思議な、未知の力で……く、くくく、以前彼を初めて見たときにも思ったが、全く心躍らされるばかりだよ! ああ、早く彼らを研究したいねぇ!」

 

「……ドクター、また悪い癖が……彼らの力は得体が知れません、用心してかかるべきです」

 

「わかっているさ。けど君とその姉妹たちがいれば、計画は遂行できる。協力者もいることだし、いろいろ楽しめそうだ」

 

 ウーノが顔を顰めた。私の言葉によるものではない。『彼』を個人的に好きになれないと言っていたからそのせいだろう。気持ちは分かるが、私としては仲良くして欲しいんだけどね。

 

「さて、調査はここいらでいいだろう。ウーノ、あとはこれを数値として算出したあとでデータとしてまとめてお……!?」

 

 ウーノに指示を飛ばし、画面を消そうとした手が止まった。いや止めざるを得なかった。視線は画面に吸い寄せられ、目が離せない。

 

 画面に映し出された少年、黒服を身に纏った飛影が『こちら』を見据えていた。単に空を見上げるといった感じではない。明らかにこっちを『観察()』ていた。そしてその瞳は少年のものではなく、画面越しにでも分かるほど鋭利な光を帯びている。

 

 その口元が微かに動いた。眉は寄せられ、ひどく不愉快な様子で睨むような視線が私を射抜く。だが私がそう認識したときには、彼は既に背を向けて歩き出していた。口元の動きが音を伴って脳を揺さぶる。

 

 

 

 ――――――消えろ。目障りだ。

 

 

 

「く、くくく……あーっはっはっは!」

 

「ド、ドクター……?」

 

 ウーノが僅かに目を開きながら問いかけてくるが、私は目の前のことでいっぱいだった。その目は去っていく彼の背中とその先にいる二人の青年に向けられている。

 

(どうやってウーノと私のステルスを看破したのかは分からないが、我らの知りうる力でないことは確かだ。ふふふ、俄然興味が湧いてきたねぇ。全く……本当に夢中になってしまいそうだよ、飛影くん)

 

 猶も怪訝そうに尋ねてくるウーノに適当に返しながら、私は戦闘記録をリスタートした。

 

 もちろん、彼ら三人を中心に細かくデータをリークしながら。

 

 

 

 -Side out-

 

 

 

 

 

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