『ウィニングライブでまさかのセンターボイコット!?
競走相手への暴力と侮辱行為の問題児セキト!
次は桜花賞を獲ると宣言!!』
『怪物マルゼンスキー、桜花賞にてセキトへリベンジを誓う!!
直前でのティアラ路線への変更は吉と出るか、凶と出るか!?』
コンビニで適当に買ったスポーツ紙を読みながら、溜息を吐く。思っていたよりは非難されていないが、やはりセキトの扱いは問題児となっている。いや、むしろあれだけのことをやって、レースを失格にならなかったのを感謝するべきだろうか。
いくら問題を起こしたといっても、所詮はクラシック級のG2。
そこまで大きな扱いを受けないと言った所だろうか。
そう考えれば、少しは安心して――
「どうした、陳宮? 苦虫を噛みつぶしたような顔をしおって」
トレーナー室の机を我が物顔で占拠して、ポテチ(堅あげ塩)を食べるセキトに首を振る。
ダメだ。どう考えても、G1でも問題を起こす姿しか思い浮かばない。
すぐにでも策を練るべきだ。
「フゥン、このオレ様の記事の内容が気に食わんか?」
その通りではあるのだが、事実しか書かれていないため怒ることも出来ない。
むしろ、関係者の方への迷惑を思うと胃が痛くなってくる。
今度、菓子折りをもって謝りに行こう。
「確かにオレ様の記事にしては扱いが小さいが……フゥン、案ずるな。次は一面を俺の名で飾ってやろう」
そういうことが言いたいわけではないし、出来ればその内容を胃に優しいものにして欲しいのだがセキトには伝わらない。いや、伝わったところで、改善してくれるとは思えないのだが。しかし、これからはメディアへの露出も増えていくだろう。トレーナーとして、報道陣への対応をしっかりと教え込んでいくべきだ。なのだが。
「……前のレースでは、ついあの流れで会場を去ったせいで、ライブで踊れなかったからな。次はオレ様の華麗なダンスを愚民共に見せつけてやろう」
どうにも不安が残る。
セキトは端的に言ってアホなのだ。
レースで見せる冷静さと、普段の高飛車な態度で、頭が良さそうな雰囲気を作っているがアホなのだ。バカではないが、アホなのだ。三国志の登場人物はほとんど覚えているのに、歴史のテストの点数は低いアホなのだ。なんか小難しい言葉と、高圧的な態度で初見の人は誤魔化せるが普段はアホなのだ。そんな娘が礼儀正しく受け答えなど出来るだろうか?
少し両方のパターンを想像してみる。
今まで通り『今のレース? フゥン、朝飯前だ。どけ、時間の無駄だ』
礼儀正しい『今のレースですか? すいません、お腹が減っているので通してください』
恐らくこんな感じになる。
セキトは今まで傍若無人な態度で、カッコいいことを言っているように見せているが、一皮むけばあまり深く考えていないことがよく分かる。いや、下は下で人気が出そうだが、対外的には今のままの方が良いような気までしてきた。
「どうした陳宮? 何か
礼儀正しい『トレーナーさん、何かお悩みですか? 私で良ければ相談に乗りますよ?』
……うん、やめよう。
綺麗な口調のセキトなんて、まず私が耐えられない。
まあ、一応本人の意思の確認だけでもしておこう。
「報道陣への対応だと? フゥン、勝手に言わせておけばいい。所詮やつらは誰からの信頼も得ることのできない
よし、路線変更はなし。
こうなったら、私も覚悟を決めてヒール路線を走り抜くとしよう。
……それはそうと。
「フゥン?
セキトの食生活の適当さも、徐々に直していかなければと誓うのだった。
「どのレースも最下位からのごぼう抜きばかりって……これじゃあ、全力が分からないじゃなーい!」
握っていたリモコンを放り投げ、マルゼンスキーは机の上に倒れこむ。
そんな彼女とは反対に、女性トレーナーは投げられたリモコンを器用にキャッチして再びビデオの再生ボタンを押す。
画面に映し出された映像は、今までセキトが出場してきたレースのもの。
中央ではまだデビュー戦と、先日のスプリングステークスしか走っていないので、無理をして地方から取り寄せたものだ。
「最初はいつもビリ
私分かんなーい、と女性トレーナーに意見を求めるマルゼンスキー。
それに対して、トレーナーは素直な感想を口にする。
「手は抜いてない……うん、そうよね。いつも最下位からスタートだけど、相手を舐めてるわけじゃない。どっちかというと……」
相手の実力を見るために、あえて最後方に位置付けている。
そして、勝てると見込んだ位置から追い込みをかけているだけ。
「私もそう思うわ。マルゼンみたいにガンガン行こうぜ! て、感じじゃなくて、確実に勝つために、命は大事にって作戦よねぇ」
セキトのレースは大差で勝つことが少ない。
普通の年であれば騒がれたかもしれないが、今年はマルゼンスキーという怪物。
そして、
故に、今まで中央では騒がれなかったのだろう。
そして、大差を狙わない理由は恐らく、彼女の信念によるものだろう。
「最終的に勝てばよかろうなのだぁー! て、ことなのかしら? そこら辺は結構ドライな感じなのね」
結局、最後に勝てなければ過程など意味がない。
三国志から学んだセキトのレース勘は、冷静そのものだ。
それが彼女のアホな部分を隠しているのにかっているのだから、三国志様々である。
「………初めてよ。明確に勝利のイメージが描けないなんて」
ポツリと、マルゼンスキーが零す。
今まで勝ち続けて来た。敗北など味わったこともなかった。
だから、いつだってイメージする自分が最速であり続けられた。
だというのに、セキトの走る姿を見れば見る程に勝利が遠ざかって行く。
「トレーナーちゃん……あの娘の背中が目に焼き付いて離れないの」
最速の景色しかなかった視界に映りこんできた、不愉快な背中。
拭い去ろうとすればするほどに、色鮮やかな赫が浮かび上がってしまう。
それが、彼女の絶対的な自信にクサビを打ち込んでいる。
「私……勝てるかしら?」
だから、つい弱気になってそんな言葉を吐いてしまう。
このままではいけない。危機意識を感じた女性トレーナーは口を開く。
「相手どうこうじゃなくて、まずは自分の走り? ……そうね。相手の弱点を見つけても、結局そこをつける力が無いと意味がないものね」
確かにセキトは、全力を出し切ったことが無いのだろう。
だが、それはマルゼンスキーとて同じはずだ。
その言葉に、マルゼンスキーは少しの動揺を見せる。
「私も全力を出したことが無い…って、私はちゃんと、ちゃんと……」
手を抜いたことが無いのは本当だろう。
しかし、全てを出し切ってレースをしたことはないはずだ。
セキトと同じように、彼女もまた負けたことが無かったのだから。
女性トレーナーの瞳がマルゼンスキーを射貫く。
「はぁ……トレーナーちゃんには嘘はつけないわね。うん、私はきっと全てを出し切って走ったことがないの。だって、そうする必要がなかったんだから」
トレーナーの言葉に観念したように頷き、マルゼンスキーは椅子から立ち上がる。
「でも、今は違う。私の全部を出し切っても、届かないかもしれない背中がある。……トレーナーちゃん。私、初めて分かったことがあるの」
ゆっくりと目を閉じ、あの光景を思い出す。
先頭に自分以外の存在が居て、自分以外の名前が勝者として映る。
そんな待ち望んでいたはずの最悪の光景。
「負けるのって―――すっごく悔しいんだって」
エメラルドの瞳に炎が宿る。
怪物が初めて、
貪欲に、獰猛に、血肉が欲しいと、勝利が欲しいと。
腹を空かせて、
「こうしちゃいられないわ! トレーナーちゃん、ガンガントレーニングするわよ! 次はあの娘をギャフンと言わせてあげるんだから!!」
派手なポーズを取りながら、自分をせかすマルゼンスキーに女性トレーナーは笑みを溢す。
どうなるかと思ったが、この様子なら大丈夫だろう。
一応、追い上げが不可能なレベルまで相手をちぎる、大逃げという作戦を提示するつもりだったが、今回は何も指示をしないことに決めた。勝っても負けても、次のレースで彼女はきっと大きな成長を遂げる。そう、確信したのだから。
後にトレーナーは語る。
あの日、あの時こそが怪物の―――真の目覚めだったと。
『さあ、遂にこの時がやってまいりました。ティアラ路線、最初のレース、桜花賞。トリプルティアラの1つ目を手にするのはどのウマ娘になるのか』
スタートはまだか、まだかと待ちわびる観客の熱が高まる阪神競馬場。
毎年、穢れ無き桜の女王の誕生に沸くこの地だが、今年の盛り上がりは一味違った。
『場主さん、今年の注目株と言えば、やはりあの2人でしょうか?』
『マルゼンスキーとセキト、やはりこの2人から目が離せないでしょう』
『あの怪物マルゼンスキーを破った、新星セキト。スプリングステークスの騒動から数週間。2人の対決の行方に会場の誰もが目が離せません』
単純な期待株2人の出場だけでなく、世間の注目を集める騒動の中心。
その結末がどうなるのかと、誰もが胸を躍らせていた。
『パドックではウマ娘達が出走の時を今か今かと待ちわびています。……が、どうした? セキトの姿が見えないぞ』
『何かトラブルでもあったんでしょうか。心配ですね』
しかしながら、肝心要の主役の姿、セキトが見当たらない。マルゼンスキーの方は既にパドック入りしており、姿の見えない宿敵の姿を探して、キョロキョロと辺りを見回している。もしや、何かトラブルでもあったのかと解説席、観客席にざわめきが広がって行く中。
「ん……え? ええ!?」
「は!? なんで、こんなとこに居るんだ!?」
観客席からそんな素っ頓狂な声が聞こえてくる。
それにつられて、まず近くの観客が声のした方を見て、さらに声を上げる。
さらにそれに釣られた、遠くの観客が。事態に気づいた実況・解説が。カメラが。
―――観客席から現れたセキトの方を見る。
煌びやかな装飾を施した鎧。
それを一層際立たせる冠。
手には
不敵な笑みと共にセキトは観客席から駆け出し、一息に塀を飛び越えてパドックに降り立つ。
その姿は三国志を知っている者ならば一目で分かる。
『りょ、呂布だぁああああッ!!』
三国志の英雄、呂布のコスプレだった。
これがセキトのキャラ付けが確定した瞬間であると、陳宮は後年ため息交じりに語る。
『度肝を抜く派手な登場! 三国志の呂布を思わせる勝負服!! 場主さん、やはりこれは自分こそが最強であるという意思表示でしょうか?』
『ええ、非常に強気ですねぇ。気合十分、コンディションは絶好調といったところですかね』
『しかし、鎧とは走りづらくないんですかね?』
『大丈夫だと思いますよ。ウマ娘にとっては衣装の走りやすさよりも、自分の気持ちが高まる方が大切ですからね』
『なるほど、ではレースの方も期待できそうです!』
想定外の連続にもかかわらず、上手く実況を続ける解説席に観客とウマ娘達が感心する中、マルゼンスキーはようやく現れた宿敵に話しかけていた。
「まったく、随分と予想外の場所からの登場ね。もしかして道にでも迷ったのかしら?」
「フゥン、オレ様の通った場所が道となるのだ。どこを通ろうとオレ様の勝手だ」
『おおっと! 早くも火花を散らす両者に期待が止まりません!!』
『レースの開始が待ちきれませんねぇ』
売り言葉に買い言葉といった感じで睨み合う2人に沸く場内。
誰もが、彼女達を見つめ期待し、熱気がコース全体を埋め尽くしている。
ならば、これ以上の言葉は不要。
どちらともに言葉を発することなくそれを理解し、ゲートへと向かっていく。
『さあ、各ウマ娘、一列にゲートに並びました』
先程までのざわめきが嘘のように世界が静まり返る。
それは一瞬でいて、永遠のようで。
張り詰めた風船に、針を当てるような緊張感を会場に生み出し。
一気に―――爆発した。
『スタートッ!!』
瞬間、砲撃のような歓声がウマ娘達に叩きつけられた。
桜花賞が初めての大舞台という娘も多い中でのそれは、出遅れという形で現れることになる。
『おおっと! 出遅れたウマ娘達が多いぞ!!』
『これは後半に大きく響きそうですねぇ』
スタートの遅れは純粋なタイムとしての遅れだけでなく、焦りも生み出す。
遅れた分を取り戻さねばと躍起になり、無理に飛ばしてかかってしまう。
よくある光景だ。
『しかし、この娘にはそんなことは関係ない! 今日も快調に先頭を行くぞ、マルゼンスキー!』
『このままのペースを保って行って欲しいですねぇ』
『そして、セキトも焦りとは無縁の涼しい顔で走って行く』
しかし、そんな良くある風景にこの2人が当てはまるはずもない。
マルゼンスキーは外の歓声など興味が無いとばかりの集中力で、絶好のスタートを切り。
セキトはどこ吹く風といった様子で自分のペースを保つ。
『先頭はマルゼンスキー、気になるセキトは後方に位置付けている。場主さん、やはり勝負は後半ということでしょうか?』
『走り方から見て、そういった作戦でしょうねぇ。セキトは勿論ですが、マルゼンスキーも抑えて走ってますからねぇ。最終400…200mが山場になりそうです』
『まだまだ先頭は射程圏内。2番手集団からの追い上げも期待したいところです』
細長い集団となったウマ娘達が第1コーナーを曲がって行く。
いつものマルゼンスキーならば、もう少し集団を引き剥がしているのだが今回は違う。
観客達はそれは勝負を終盤に残しているからだと思った。
『レースは中盤を超えてきました。おっと! ここでセキトが徐々に順位を上げて来たぞ!!』
『仕掛けの準備に入りましたね。彼女の追い込みは強烈ですよ』
次のコーナーからが本当の勝負だろう。
解説はそう考え、セキト自身もそのつもりでいた。
マルゼンスキーが振り返るまでは。
『おっとぉッ!? ここでマルゼンスキーが後ろを振り返った!! そして、それに応えるようにセキトがスピードをあげたぁッ!!』
『これは予想外の展開ですねぇ!』
突如としてギアを上げて、マルゼンスキーを追い始めたセキト。
盛り上がる会場とは反対に、彼女の心の内にあったのは。
(貴様…! このオレ様を挑発するとはいい度胸だな!!)
―――怒りだった。
『セキトが今、一気に追い上げて並んだ! 並んだ!!
そして、そのままがっぷり四つぅううッ!!』
『どちらが先に抜け出すのか!? 目が離せません!!』
本来、セキトはもっと後に勝負を仕掛ける予定だった。
だが、そんな考えはマルゼンスキーの目によって吹き飛んでしまった。
彼女は振り向いた時に流し目を使ったのだ。
艶っぽく、色っぽく、それでいて獰猛に。
(ねえ、私を―――襲って?)
まるで、女が男をベッドに誘うように。
私を襲うことも出来ない、意気地なしなのかと挑発し。
追いついて、私の喉元にその歯と舌を這わしてみせろと。
どこまでも扇情的に挑発してみせたのだ。
一秒でも長く
『笑っている! 嗤っているぞ!! マルゼンスキーッ!!
まるで、獲物を前にした怪物のようだッ!!』
『そのまま一気に最終コーナー!!
この直線で全てが決まりますッ!!』
お互いに一歩も譲らぬデッドヒートの中、マルゼンスキーは嗤う。
なんて楽しいんだろう。このまま永遠に2人の逢瀬を続けていたい。
でも、
そんな普段の彼女からは想像できない、残忍な笑みを浮かべながら彼女は走る。
(オレ様を相手に笑ってみせるか…ッ! いいだろう! すぐにその顔を絶望で引きつらせてくれるわッ!!)
(ああッ! ゾクゾクしちゃう! そう、そうよ!! 私は
セキトが一歩引き離せば、マルゼンスキーが一歩詰めてくる。
マルゼンスキーがギアを上げれば、セキトも上げる。
一進一退の攻防に、会場も一喜一憂しボルテージは最高に高まって行く。
『譲らない! 譲らない!! 譲れないッ!!
両者、限界を超えたデッドヒートが終わらないッ!!』
『これは同着もあり得るか!?』
獲物を舌で
それを引きちぎろうと、己が
もつれあい、絡み合い、どちらが前に出ているかなど分からない大激戦。
『ゴール板が目前に迫る!! それでも2人の距離は変わらないッ!!』
(このまま永久に
(このオレ様をここまで本気にさせるか…! 認めてやろう、マルゼンスキー。だが、この
「「―――勝つッ!!」」
『今! 2人並んでゴールイーーンッ!!
どっちだ? どっちだぁあああッ!?』
『今、写真判定が行われています……どちらに勝利の女神は微笑むのか』
冷めやまぬ熱狂が徐々に騒めきへと変わっていき、最後は沈黙と化す。
誰もが固唾をのんでその瞬間を待ちわびる。
1秒か、1分か、それとも1時間も経ってしまっただろうか。
時間の感覚を失ってしまうような時が流れた後に。
勝者の名が電光掲示板に映し出される。
―――マルゼンスキー。
「イィイイイヤッタァアアアアアッ!!」
『吠えた!! 今!! 勝利の雄叫びを上げるのはこの娘
―――マルゼンスキーだぁああああッ!!』
『見事としか言えない結果です!!』
『両手を高々と天に掲げ、怪物が咆哮を上げる!
やっぱりマルゼンスキーは強かった!!』
『負けたセキトも、本当に見事な走りでした』
天上が割れんばかりの喝采が降り注ぎ、万雷の拍手が勝者へと与えられる。
勝ったのはマルゼンスキー。負けたのはセキト。
その結果を無言で受け止め、セキトは歩き出す。
ガッツポーズをして未だに興奮冷めやらぬマルゼンスキーの下へ。
『あっとぉ!? セキトがゆっくりとマルゼンスキーの下へ近寄って行くぞぉ!』
『大丈夫でしょうか、前みたいなことをしなければいいんですがねぇ』
歓声の中に不安のざわめきが混じる。
多くの者が、スプリングステークスでの再来となるのではないかと、不安視しているのだ。
現に陳宮など関係者へのお詫びの品の注文をしつつ、いつでも飛び出せる体勢を作っている。
いや、先に止めろよと言ってはいけない。人間はウマ娘に力では勝てないのだ。
「超気持ちいいッ!! 何も言えな――あ……」
ハイテンションで叫んでいたマルゼンスキーもここで我に返る。
マルゼンスキーは勝ったのだ。そう、勝ってしまったのだ。
もう二度と、一緒に走ってもらえなくなるかもしれないリスクが生まれるのに。
「え、ええと……いい、レースだったわね」
だから、勝者だというのに恐る恐るといった感じで声をかける。
そして。
「貴様―――このオレ様に勝ったというのに、なんという態度だ!!」
セキトからの叱責を受け、面を食らってしまう。
「へ…?」
「
負けたというのになんという傲慢な態度と、傍からセキトの話を聞いている者は呆れてしまう。
しかし、当人であるマルゼンスキーだけは違った。
「三日天下ってことは……また、走ってくれるの?」
「フゥン、当然のことを聞くな。貴様が逃げようとも、このオレ様が地獄の果てにでも追って行き勝利の栄冠を奪い取ってみせるわ! 覚悟するがいい!!」
ビシッと、マルゼンスキーの首を指さし、次はその首を取ると宣言するセキト。
その姿にマルゼンスキーは思わずといった様子で破顔する。
「フフフ、それじゃあ勝ち続けないとダメね」
「フゥン、その顔も今のうちだけだ。オークスでは貴様の泣き顔が見ものだな」
「あら、泣くのはそっちじゃないの?」
「ほざけ、オレ様に二度の敗北はないわ」
負けた直後だというのに、そう言い切るセキト。
誰もがただの負け惜しみだと思った。だが、すぐに負け惜しみではないと知ることになる。
なぜなら。
『勝ったのはセキトッ!! 今度はハナの差でマルゼンスキーを破ったぁああああッ!!』
宣言通り、次のオークスではしっかりとリベンジを果たしたのだから。
「ああんもう!! 悔しいぃーッ! 次は絶対私が勝つんだから!!」
「フゥン、無駄な努力だと言っておこう」
「ムキー! 待ってなさい! すぐにギャフンって言わせてあげるわ!」
後年、マルゼンスキーはこう語っている。
勝って負けてを繰り返し、競い続ける相手。
それはウマ娘たちにとって無くてはならないものであり。
それを人は―――
「ふむ……私がクラシック三冠を取っている最中にティアラ路線では、中々面白いことになっているね。しかし、ライバルか。マルゼンスキーが彼女の話をよくするわけだ。私も
秋まではまだあるので、次回は他のレースはさみます。