「それじゃ、俺達全員のハンターデビューを祝って――」
「「「「「「「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」」」」」」」
密林での卒業試験を無事同期全員が合格で終え、ミナガルデ第88訓練所に戻ったクリスティアーネ達は、在庫処分も兼ねて、残っていた食材を使い、豪華な料理で祝賀会を開いていた。各員シモフリトマトと砲丸レタスをあえたサラダや、カジキマグロの半身を豪快に炙ったタタキに舌鼓を打ち、年長者達はクリスティアーネの故郷、ゼークト領に近い『フラヒヤ山脈』一帯の雪解け水で作られる『フラヒヤビール』に酔いしれる中、音頭を取ったアダイトがクリスティアーネに話しかける。
「よ、お疲れさん。イャンクックにババコンガと、結構な連戦だったらしいな」
「アダイト様こそ、アルセルタスを相手にお疲れ様でした。あとはこの剣でゲリョスを仕留め、防具も揃えれば、フルフルに挑む準備は万全です……!」
そう語る彼女が手を伸ばした背中には、戻る道中でハンターが入手したモンスターの素材や、採取した鉱石等を使って装備を作成、強化する加工屋に立ち寄り、製作してもらったバルバロイブレイドが真新しさを語る様に輝いている。とはいえ彼女も、この武器1つだけで容易にゲリョスを狩れるとは思っていない。
イャンクックの吐く火炎液や、ババコンガの放屁、投糞などの汚物攻撃の様に、モンスターごとに警戒すべき攻撃が多くあるが、中でもゲリョスは単純な強さや危険性こそ先の両者に並ぶ程度と決して高くはなく、むしろ低い方に位置しながらもそれが多く、単純に警戒が難しいがために受けるダメージも高い死に真似から放つ騙し討ちを始め、口から吐く毒液に、トサカとくちばしを打ち合わせて放つ強烈な閃光、そしてアイテムを盗み取るついばみ攻撃と、手数の多さだけならフルフルなどのより生態的地位の高いモンスター以上に相手が難しいとされている。
幸い騙し討ちは警戒を怠らず、毒液なら解毒作用のある『げどく草』と、薬効を持つ『アオキノコ』を混ぜ合わせた『解毒薬』を準備、閃光は武器での防御に、盗み共々防具の持つ特殊効果の1つとして発動する『スキル』などそれぞれ対策方法はあるものの、厄介なことにスキルを含め、どれ1つとしてまとめて対処可能とはいかない。加えてスキルを追加するのに必要な装飾品は、それぞれベースとなる『原珠』を始め、様々な素材を要するとあって、駆け出しの彼等彼女等には、スキル1つ分でも手が出にくい。
「防具といやぁ、何か希望はあるのか?」
そこに割り込んできたのは、『北風みかん』のジュースが入ったジョッキを手にしたアカシ。防具は装飾品と比べても高価かつ必要素材が多く、中には身軽さを重視してインナーのみで活動するハンターもいるものの、身を守ることを考えるならむしろそれを揃えなければ、ハンターとしてやっていけないとさえ言えるくらい重要な物であり、武器共々ハンターの実力を示すとあって、愛着を持って長いこと同じ防具を身に着けるハンターもいれば、対峙するモンスターや赴くフィールドごとに切り替えるハンターもいる。
「盗みに関しては現状対処は難しいですが、閃光は防御出来ますので、候補としては毒への耐性を高めるイーオスシリーズを考えてますね。少々準備は大変ですけど、同じ毒を使うモンスターなので、多少は予習にもなるかと」
「なるほどな。俺は閃光対策優先でランポスシリーズにするつもりだったが、ある程度バラけてた方がそれぞれ対処しあえるだろ」
それに対しクリスティアーネが挙げたのは、生息地や毒を武器にする点などが類似する、赤い体躯と膨らんだ鼻先が特徴の小型鳥竜種、『イーオス』の素材を使った防具、『イーオスシリーズ』。彼女の言う通り、大剣なら剣身で閃光を防げるため、残る盗みと毒のうち、後者を無効化できるスキルを有するため、ゲリョスに限らず毒を使うモンスターには有効とされているだけでなく、同じ小型鳥竜種の素材を使う防具でも頭1つ性能が高いこともあって、そうした意味ではイャンクックの素材を使った『クックシリーズ』と並んで駆け出し向けの防具と言える。
一方割り込んできたドラコが挙げた『ランポスシリーズ』は、閃光の目晦ましを無効化できるため、防御できない双剣を使う彼には適切と言えるだろう。
「へぇ~、結構考えてるんだねぇ……アタシはどうしよ。装備的にはクリスティアーネに合わせた方がよさそうだけど……」
続けて帰還前に宣言した通り同行するつもりのカグヤが、防具をどうするか悩みだしたところに、「あの、1つよろしいでしょうか……?」とクリスティアーネがそろそろと手を上げる。
「ん?何かあったか?」
「いえ、今更ではありますが、自分の名前ながら、少々長くて呼びにくいのではと思いまして……皆様、よろしければ、クリスと略してお呼びいただいてもよろしいでしょうか?」
彼女が切り出したのは、自身の呼ばれ方について。決して嫌いではないが、他の面々と比べても自身の名前が長いことは自覚しており、そのせいで多少呼びにくそうにしていることが時折あったことから、家族から呼ばれている愛称を提案してみたところ、「え、いいのか?」と逆にアダイトが尋ねる。
「はい。むしろそれくらい気軽に読んでいただける方が、同期の好とも言いましょうか。ある種の親しさを感じれるような……そんな気がするんです」
「オッケー!そういうことならこれからもよろしくね、クリス!」
了承を貰うや否や、早速呼びながら肩を強く叩くカグヤ。それまでは予想できず、思わず驚いた拍子に「ひゃっ!」と叫んでしまったクリスティアーネを見て、「ちょ、それはいきなりすぎだろ!」とアダイトが注意する声に、それぞれで飲食や会話をしていた他の面々も「どうした?」と顔を向ける。
「あぁ~、いや……クリスティアーネが名前長いからって呼び方提案してくれたんだけど、早々カグヤが調子乗ってやらかしてさ……」
「え、アタシのせいなの!?」
「実際そうだろ。あんな叩かれ方したら呼び方問わずビビるわ……」
「まぁ、あんま気にしなくていいぜ。お、カジキマグロまだ残ってたか。俺にもくれ」
彼の事情説明で不服そうにカグヤが声を挙げるも、ドラコはそれを当然と聞き流しながらジョッキに口をつけ、アカシも軽く流すと、カエデに食べ尽くされぬうちにと、残っていた料理に手を付ける。
食材と料理の関連も確認しきれてなかった・・・