追憶の百竜夜行までは長い・・・
雨曝しの肉食竜狩り
昼は雨が降り続け、降り止む夜には泥中で腐敗した植物からにじみ出た毒が、洗い流されることなく各所に湧き上がる『クルプティオス湿地帯』。クリスティアーネ達はその1角、地図で言えばベースキャンプを北上してすぐのエリア5で、複数の小型モンスターと対峙していた。
「さすがに都合よくイーオスだけとは思わなかったが、まさかゲネポスと縄張り争い中だったとはな……」
「ですが、どちらが勝とうとこのままでは付近の交通が危険なのは変わりません。申し訳ありませんが、双方まとめて殲滅しなくてはならなそうですね……」
対峙している2種の肉食竜は、どちらもランポスの近縁種で、緑とオレンジ色の縞模様に、それぞれ1対の口外にまで伸びている牙、眉の様なトサカが特徴の『ゲネポス』と、毒々しい赤の体色に、瘤のように膨らんだ鼻先の『イーオス』。
先日の試験でハンターとして正式なデビューを迎え、それを機に強化した『ツインダガー改』を構え、両者に睨みを利かせるドラコに対し、応じるクリスティアーネも手にバルバロイブレイドを掲げ、隙を窺う彼等を威圧する。
「元よりそのつもりさ!でなきゃミナガルデはもちろん、そこから各地の村への通商網が破綻しちまうからな」
「アンタは相変わらずお人よしだね。ま、今回はそうした事情とあってか、なかなかに支払いもいいみたいだけ、マシではあるけどさ」
双方の群れに囲まれながらも、怯えるどころか依頼を紹介されてから義憤に駆られ、意気揚々と強化して間もない『鉄製試作剣斧Ⅱ』を構えるディードに対し、相変わらずだと呆れるイスミも、周囲を取り巻く彼等にバスターソードIを向ける。
牙や爪から分泌される麻痺性の毒で獲物の身体の自由を奪い、生かしたままの相手を苦しめながら貪るゲネポスに、ランゴスタやカンタロスなどの甲虫種なら容易く仕留める毒を喉付近で生成し、
本来はクリスティアーネの希望で、協力がてら帰省の旅費稼ぎも兼ねて同伴していたドラコと共に、クエストと称した自由散策のような形式の『素材ツアー』でイーオスを狩猟するつもりでいたが、その際受付嬢から、付近を通る
しかし飲食や、同じく依頼を受注しに集会所を訪れていた、アダイトや八雲等手の空いていた同期達に協力を求めるより早く、日銭を稼ぎに同じく素材ツアーを受けるつもりだったディードが、偶然流れで説明を耳にした途端、「それは一大事だ!」と真っ先に名乗りを上げ、同伴していたイスミも彼の目付を口実に参加を申し出たため、この顔触れとなった。
そして各員がベースキャンプで支給品を受け取り、発って早々にゲネポスとイーオスの縄張り争いを見つけ、そこに割り込んで三つ巴となり、今に至る。
「これ以上睨み合っても埒が明きませんね……仕掛けます!皆様もお気をつけて!」
「いいぜ、攪乱とトドメは任せろ!」
「悪いな、恨みはないが、流通のために犠牲となってくれ!」
「さあ、一気に決めようかね!」
それまでどちらも威嚇するように吼えるだけとあって様子見に徹していたが、流石にこのまま時間が過ぎるままとはいかないとあって、遂にクリスティアーネの号令で攻勢に転じる。彼女が1歩踏み出しながら放った横薙ぎで、前方にいたゲネポス達を突き飛ばすように払い除けると共に、起き上がる前にドラコが潜り込んで首を斬ったり、喉に剣を突き立てたりとトドメを刺していく。
反対側では、ディードとイスミの斬り上げに運悪く巻き込まれたイーオス達が宙を舞い、当たらなかったイーオス達は、跳躍で後退すると共に頭を下げ、喉に溜め込んだ毒液を吐きつける。しかし切り下がりで何体か犠牲を増やしながらディードが後退すると共に、入れ替わりで前に出たイスミが剣身で防ぎ、更に突進斬りで前に出たディードが迎撃する。
「ドラコ様!危ない!」
「うぉ!ありがとな!」
「決め時だよディード!」
「あいよ!コイツで最後!」
そしてドラコの後ろから飛び掛かってきたゲネポスをクリスティアーネが斬り上げでかち上げると共に脚を刎ね、距離を取って毒を吐こうとしたイーオスをイスミの号令に応えるディードが二連斬りで払い除けてそれぞれ仕留め、全滅させ一息つく。
「ふぅ、結構思ったより多いな。何体仕留めた?」
「数えちゃいないけど、どっちも大体十何体かってところかい?まぁ、剥ぎ取りながら数えりゃいいか……」
額の汗を拭い、死屍累々な周囲を見渡すドラコに、イスミも砥石で得物を研ぎながらある意味尤もな方法を投げ槍に放ち、今まさにそれを実践しているクリスティアーネやディードに続くべく、砥ぎ終えた得物を背負って手近な遺体に歩み寄る。
「ゲネポスが13体にイーオスが10体……結構大規模な群れだな」
「だがこれで終わり、って訳じゃないんだろ?コイツ等の親玉も残ってるみたいだしよ……」
それぞれの遺体から鱗や皮、牙を剥ぎ取ったディードがその数に内心驚いたように漏らすと、即座にドラコが返すが、彼の言う様に、それぞれの群れを率いるボスたる『ドスゲネポス』や『ドスイーオス』を始め、まだ討伐対象は残っている。
「その親玉なんだが、どっちも厄介そうだよ。ドスゲネポスははぐれ連中の軍団が周囲の群れを手当たり次第に従えみたいで、大分規模がデカいそうだ。一方のドスイーオスなんだけど、こっちはソイツ自身が結構デカいらしくて、
そこに荷物整理のため1度キャンプに戻っていたイスミが、追加で送られたらしい依頼書を持って現れる。彼女がそれに記載されていた双方の群れの長の特徴を読み上げると、それを聞いたドラコは、「安請け合いにも程があるだろ……」と非難の目をディードに向ける。
「しょうがないだろ、万が一
「ま、確かに
「やはり別個ならまだしも、大量のゲネポスとイーオスに、それぞれの長も込みとあっては、幾ら通商に滞りが生じてもさすがに割に合わない依頼と敬遠されていたのでしょうね。一応その素材が欲しかった私としては、幸か不幸か渡りに船とも言えたところでしたが」
ディードの危惧も尤もだが、発注からそこそこ長いこと放置されていたことを告げるイスミとは逆に、剥ぎ取り後付近で採取をしていたクリスティアーネが答える様に、
とはいえ受けてしまったものはしょうがないとばかりに、依頼書を畳んでポーチにしまったイスミが軽く伸びをするとともに切り上げる。
「とにかく愚痴ってても仕方ないさ。イーオスシリーズ作りたいってんなら、早いところ連中仕留めて、たんと素材持って帰りな」