4人が踏み入った洞窟の中心部、エリア9。そこには先程逃げ込んだドスゲネポスの他に、これまで相手した同族より1周り大きなドスゲネポスが、残る戦力を掻き集めたかのような数のゲネポスと共に待ち構えていた。
「あの一際デカいドスゲネポスが群れの親玉みたいだな。なかなか強力そうじゃねぇか……」
「ソイツももちろんだけど、数が揃った分、取り巻きのゲネポス共も侮れないよ」
「マズいな、閃光玉足りるか?とにかくコイツ等を殲滅すれば、ドスイーオスの方が空振りでも、ギルドに示しがつくだろ」
「そうですね。今はまず、彼等を仕留めなくては……!」
絶望的な状況ではあるが、折角ハンターとして1歩を踏み出した矢先、ここで果てるつもりはないとばかりに武器を構えた4人は、大きなドスゲネポスの咆哮に合わせて襲い来るゲネポス達を真正面から迎え撃っていく。
イスミとクリスティアーネの
そうした乱戦のなかでドスゲネポス達も呆然と眺めるだけでなく暴れており、大きい方のドスゲネポスが側面から振り下ろしたクリスティアーネの剣を反対側に跳んで避けると、その場で体を捻り、
「ぐぅっ!」
「大丈夫かクリス!」
「えぇ、何とか!」
その威力に突き飛ばされ、宙を舞った後尻餅を着くが、幸い得物を手放さなかったため、直後追い打ちを仕掛けてきたゲネポス達を剣身で受け止めることに成功し、咄嗟にディードが投げた閃光玉で目を晦ませたところに、反撃の薙ぎ払いで吹き飛ばす。
「さすがに連中も必死ってとこか……まだ何とかなりそうかい?」
「当然だ、俺のライバルはゴシャハギだぜ?どれだけ数で攻められようと、ドスゲネポス程度で止まれるかよ!」
その場にボスがいるとあってか、視界が塞がっても破れかぶれに襲い掛かるゲネポス達に圧され、思わず攻撃の手を止めて守りの姿勢に入ってしまうイスミに対し、鬼人状態の勢いを保ちながら的確にゲネポスを仕留め続けていたドラコは、空元気ながらも余裕を見せ、彼女を襲っていたゲネポス達も蹴散らして見せる。
そして遂に戦えるゲネポスは指で数えられる程度までに減り、ドスゲネポスも揃って満身創痍にまで追い込んだ4人だが、一方で彼等も長引いた戦いにホットドリンクを口にする間もなく、疲労と寒さで息が切れ、細かいダメージの蓄積で防具は各所に傷が目立ち、得物も満足に砥ぐ隙がなかったとあって、大分切れ味が鈍っていた。
「ここまで接戦になるとはね……誰か閃光玉残ってる奴いないかい?」
「悪い、最後の1個だ。だがそれで隙を突ければ勝てるんだろ?喜んでくれてやらぁ!」
イスミの問いにディードがポーチから引き抜いた片手を突き出し、閃光玉を投げる。警戒こそしていたが、疲弊していたのはドスゲネポス達も同じだったようで、不意に投げられた閃光玉に気付くも対処が間に合わず、何体かのゲネポスは、仲間の死体やその血でできた泥濘に足を取られ、動きを封じられる。
「っし!今のうちに!」
そしてゲネポス達が体勢を立て直す前に急いでホットドリンクを飲み干し、警戒し合いながら武器を研いで調子を取り戻すと、そのまま残るゲネポス達を仕留めて行き、最後は2体のドスゲネポスにそれぞれ最大威力の攻撃を叩き込んで仕留める。余りの威力に大きく吹き飛ばされたドスゲネポスが、洞窟の壁面に跳ね返り、『ケアァァ……』と力のない声を挙げて動かなくなったのを確認した4人は、ようやっと戦いが終わったことで緊張が緩み、膝をつく。
「っしゃあ!俺達の勝ちだ!」
「うるさいよ!叫びたくなる気持ちは分かるが、場所考えな!」
「ハハハ、このやり取り見てると、不思議と安心してくるな」
「フフフ、そうですね。お2人は訓練所の頃からこうしたやり取りを繰り返してましたし……では、ゲネポス達から剥ぎ取って、キャンプに戻りましょうか!」
思わず洞窟内の反響を考えずに勝利の雄叫びを挙げるディードを、イスミが怒鳴りながら突き飛ばす。そんな2人のやり取りを見て、ドラコとクリスティアーネはまだ終えて日が浅い訓練生時代を思い出して笑いながらも意識を切り替え、ドスゲネポス達の遺体から牙や鱗、皮などの素材となり得る部位を剥ぎ取って行き、洞窟を後にする。
「そういやクリスは、好きなモンスターっているのか?」
多少不完全ではあれども無事依頼を終え、ミナガルデの集会所に戻った4人は、そのまま達成の祝杯を兼ねて食事をとることにしたのだが、頼んだ品が来るまでまっていたところ、突如ドラコが切り出した。
「なんだいドラコ、急に聞き出したじゃないか」
「いや、親父さんにハンター活動を認めさせるのにフルフルを狩らなくちゃいけなくて、そのための装備を揃えるのにゲリョスを狩るから、その準備にイーオスの装備が要る、ってのが今回の成り行きだったろ?けど、俺みたいに好きなモンスターがいるかどうかってのは聞いたことなかったからさ……」
唐突な質問に思わず割り込んだイスミに対し説明する様に、度々ゴシャハギをライバルとも好きなモンスターとも公言していたドラコ以外にも、ヤツマは『電竜』と称される『ライゼクス』、ウツシは自身が物真似を得意とする『雷狼竜』の異名を持つ『ジンオウガ』を挙げている。
しかしクリスティアーネが度々名を挙げていたフルフルやゲリョスは、あくまで責務的な意味合いでの狩猟対象に過ぎず、彼女の嗜好とは異なっているように感じていた。だからこそ難しいことを抜きにした、単純な好き嫌いでの答えを求めての質問と言われ、多少悩むように間を置いたクリスティアーネは、おずおずと口を開く。
「その、ご存知の通り貴族令嬢たる身としては異質の様に言われてましたが……私、グラビモスの重厚な巨躯に親近感を抱いてまして……」
「グラビモスかぁ……まあ、確かに若い女性が好みそうな華は感じられないよな……」
「おいディード、恥を忍んでわざわざ明かしたってのに、そのいい様はないだろ?」
「わ、悪いって。てっきり出身地的に、ポポでも出てくるかと思ったら、全然違ってたからさ……」
まさかのモンスターが挙がったことに呆けるディードに、イスミが注意する。『グラビモス』はハンターに限らず一般的な女性が好みそうな愛くるしい見た目のアイルーとは違い、『鎧竜』の異名通り全身を強固な外殻で覆った強力かつ巨大な飛竜で、どちらかと言えばむしろ武骨な風貌をしており、尚且つ過酷な火山を主な生息地として鉱石を食し、体内の熱を口から一直線に発射する生態から、「狩り応えのある相手」と熟練の屈強な男性ハンターが相手をするイメージが強い。 にも関わらず、――背丈こそ並の男性も上回っていると言え――まさか若い女性、それも貴族令嬢たるクリスティアーネが好きなモンスターにその名を挙げるとは思ってもいなかったために、ディードも驚いてしまっていたようだ。
一方ドラコは、純粋にそれまで知らなかった同期の好きなモンスターを聞けたとあって、上機嫌となっている。
「へ~、グラビモスか!確か火山に住んでるでっかい飛竜なんだろ?いつか挑めるといいな!応援してるぜ!」
「あ、ありがとうございますドラコ様。実は私、他にも自分の様に大きな体躯のモンスターが好きでして、例えば故郷にいるガムートは先程ディード様が挙げたポポと共生関係にありまして……」
「何だ、思ったよりいい方向に進んだみたいじゃないか」
その後も思わぬ話に頼んでいた料理が来ても盛り上がり続け、4人は改めてハンターとしての向上を誓い合った。