結局ゲリョスを狩るのはまだ先になりそうだ・・・
「おっ、クリスか。久しぶりだな」
「あ、アカシ様。ご無沙汰しております」
ドスゲネポス掃討戦から数日後、受付嬢から借りた依頼書の束をペラペラとめくり、ドスイーオスの狩猟依頼を探していたクリスティアーネに声をかけたのは、それまでの骨から甲虫種モンスターの素材で大幅に強化、洗練された『黒刀【零の型】』を背にしたアカシだった。
すでにベルナ村へと向かったカエデや、故郷カムラの里へと戻ったウツシ。修行の旅へと赴いたカツユキの様に、早くもミナガルデを後にした同期もいるが、2人に限らず残った者達は、駆け出しハンター用の集合住宅にて部屋を貰い、こうして集会所を訪れては飲食や依頼の確認をして、ハンター活動に励んでいる。
「先日の活躍、早速あちこちで話題になってるぜ。ッても、その様子じゃ成果は不満だったか?」
「ええ、ドスイーオスの素材が足りないと断られて……」
同期の中でも試験で中、大型モンスターを相手してから早々新たに挑む者はそうおらず、現にアカシも日々の稼ぎを優先し、試験の時にレマも採取していた『特産キノコ』を集める
一方試験の時点で複数のモンスターを相手したとあって、同期の中では1歩進んだ位置にいるクリスティアーネだが、依頼を終え、ギルドからの金銭と共に報酬としてイーオスやゲネポスの素材を追加で受け取った翌日。早速加工屋に駆け込み、イーオスシリーズの作成を注文するも、持ち込んだ素材を確認した職人から、「ドスイーオスの素材が足りないので、この素材量では一式を揃えきれない」と難色を示されてしまう。
依頼人の
「なぁるほど。だから早くもそうやって、新しいドスイーオス関連の依頼を探してた、って訳か……」
「ですが、あの時仕留め損ねたドスイーオスは群れの残りを連れてそのまま行方を
事情を察したアカシに、クリスティアーネはため息を交えながら空振りに終わった依頼書の束を閉じ、呼びつけた給仕担当のアイルーに――「報酬とゲネポスの素材で懐に余裕はあるので」とアカシの分も愚痴を聞いてくれた礼代わりに――『厚切りワイルドベーコンとヤングポテトのジャーマンポテト』を注文がてら、受付に返却するよう頼んで、チップ代わりのマタタビと共に渡す。
「おや?クリスにアカシではありませんか。珍しい組み合わせですが、お2人共どうされたので?」
そこにアイルーとすれ違うようなタイミングで現れ、声をかけたのは、それまで背負ってきたアイアンランスを改装し、新たに砲撃機能を追加した『アイアンガンランス』を背にしたナディア。
「よおナディア。いや、コイツこの前早速ドラコ達と活躍したろ?だがどうにもその時の報酬の素材に、不満があったらしくてな」
「つい先程アカシ様にも語りましたが、早い話、そこで一気にイーオスシリーズ一式を揃えたかったものの、全部作るにはドスイーオスの素材が足りなかったんです。なのでその補充をできそうな依頼を探していましたが、どうにも見つからず……」
ザックリと事情を説明するアカシに補足したクリスティアーネは、
「よぉ、嬢ちゃん方。何かお困りかい?良ければいい仲介屋を紹介するぜ」
「何ですかあなたは?見るからに『怪しんでくれ』と言わんばかりの胡散臭さを隠したいなら、せめて装備を整えてから出直してくださいな」
「何だぁ?持て囃されてるからって、先輩に生意気な口きくほど調子に乗りやがってるのか?」
他のハンターからくすねたのか、腰に挿した金属製の片手剣、『ハンターカリンガ』は素人でも一目見て満足に砥いでないと分かる程ボロボロに刃こぼれが激しく、身に纏った金属製の軽装防具『チェーンシリーズ』も明らかに体格とあっておらず、整備も碌にされてないと一目で分かる程薄汚れたその男を見た途端、クリスティアーネに門前払いされたとあってあからさまな愛想笑いから一転して威圧的に詰め寄ろうとしたが、その肩に伸ばされた手が阻止する。
「
引き留めた手の主――ディノに気付いた男は、一瞬怯えたように身を竦ませ目を開いたが、すぐにブツブツと小声で悪態をつきながら集会所を後にした。
「すまんなディノ、助かった」
「気にするな。ああも他人の褌だと宣伝してるみたいに丸分かりじゃ、例の噂に恐れをなしたのを抜きにしても、遅かれ早かれお縄につくだろ。しかし聞き耳立ててたわけじゃないが、ドスイーオスに逃げられたせいで素材が足りなかったとは、災難だったな」
「そうですね。まさか対峙するどころか、姿も見ずにアッサリと縄張りを捨て、撤収を選ぶとは思いもよりませんでした……」
抑止力になり得なかったと暗に詫びも込めて礼を言うアカシに対し、ディノが不快な様子で挙げた噂。それは試験の時、アルセルタスに放ったトドメの横薙ぎで顔を真っ二つにした件に長い尾鰭が着き、いつしか「出合い頭にすれ違いざまアルセルタスを一刀両断してみせた」と誇大的に広まった一方、組んでいたアダイト達に関しては、対照的に「何もせぬまま体よく彼の戦果に便乗した恥知らず」とある意味試験でドラコが合流直前にクリスティアーネ達が仕留めたイャンクックの死体からの剥ぎ取りを勧められ、断る際に懸念していた様な風評被害を被ってしまったことを指していた。
もちろんそうした噂を「くだらない」と一蹴する擁護の声も多く挙がってはいるが、既にミナガルデを去ったせいで知らぬ間に「臆病風に吹かれて逃げ出した」と卑怯者扱いされ続けてしまったカツユキはともかく、流石に鬱陶しく感じたアダイトとレノは、それを払拭すべく可能な限りの準備を整え、噂を気にせず「1枚かませろ」と便乗したカグヤと共にイャンクックを狩りに行っている。
結果事情が事情なため仕方ないとは言え、1人置き去りとなってしまったディノは、何か手頃な採取依頼でもないかと訪れた様だが、クリスティアーネの事情を知ると、「ちょっと待ってろ」と受付嬢の元に向かい、少々話した後受注した依頼書を手に戻ってきた。
「火山で燃石炭を集める依頼があったから、受けてきた。集めた鉱石でスペアの装備を準備するなり、今後のために売って懐を潤すなりすればいいし、運が良ければ、ドスイーオスが来るかもしれないぞ?」
差し出した依頼書に記載されていたのは、産み出す高熱が数々の鉱石を加工可能とする技術革新を齎した、名前通り可燃性の岩石、『燃石炭』の収集。ミナガルデに限らず、各地の加工屋や防衛施設で熱源として重宝されるため、常設的に採取依頼が掲示されている。
「確かにドスイーオスは湿地帯にも現れますが、イーオス共々主な生息域は火山地帯でしたわね。では、僭越ながらお誘いに乗らさせていただきます」
「おっ、いいねえ!最近
言外の同伴の誘いをディノなりの気遣いと理解したナディアと、ちょうどよく新たな得物を振るえる機会を得たことに喜ぶアカシ、そして誘った張本人たるディノの3人に「どうする?」と覗き込まれるクリスティアーネ。ワンテンポ遅れて自身の返答を待たれていたことに気付き、慌てて反応する。
「……!あ、で、では、私も同行させていただきますね!ただその前に、折角ですからお2方の分も追加注文致しますので、まずはお腹を満たしてからにしましょう!」
そうして取繕う様に再度給仕のアイルーを呼んで注文を伝えると、待っている間に必要そうなアイテムを集会所内に併設されたアイテムショップで揃え、届いた料理を味わった後、目的地たる『ラティオ活火山』へ向かう船へと乗り込んだ。