麓の一部を除き、ほぼ全域が溶岩に覆われた焦熱地帯となっているラティオ活火山。その各所を流れる溶岩が高熱を放つと共に湿気を奪う、生物を拒むような過酷な環境だが、それに守られるかの如く眠っている多数の良質な鉱石を目当てに、同じく過酷な環境に打ち勝ち適応したモンスターにも屈することなく、多くのハンターが訪れている。
そんな火山の麓に位置する小さな砂浜に、今日も今日とてベースキャンプとなる筏を乗り上げさせ、背負った得物の代わりにピッケルを手にしたハンター達が上陸する。
「ッし!到着!しかし噂には聞いていたが、溶岩がないここまで押し寄せてくるみたいな、ムワッとした熱さを感じるぜ……」
降りるなり向かって左に伸びる道の先にある洞窟から漂う熱気を感じ、噂に違わぬ暑さを実感したアカシが、それを茶化すかのように「フゥ~」と息を吹きながら手で顔を扇ぐ。
手にしたピッケルの柄を、肩と水平に担ぐ彼のレザーライトシリーズ姿は、背中の黒刀【零の型】がなければ、こうした鉱石採掘を主な生業とするハンターの俗称でもある『炭鉱夫』が、良くも悪くもより似合う様となっている。
「とりあえず、今回の主目的は燃石炭ですが、方針としては、どの様なルートや行動をお考えで?」
「う゛……」
その横では胸の前でピッケルを横持ちしたナディアが、依頼書にはあくまで「それらしき目撃情報もあるので注意」程度に記載されていたと言え、ドスイーオスがいるかもしれないとあって早くもそちらに意識が向き、唯一ピッケルを構えずソワソワした様子のクリスティアーネを注意すると共に、受注者たるディノに意向を訊ねると、トントンと担いだピッケルの柄で肩を叩きながら、返答される。
「まぁ、今回は目的が目的だから、やることは素材ツアーみたいなものとは言え、どこでモンスターと出くわすか分からんから、4人で1か所ずつ巡ろう。まずはエリア4を通って、一通り全体を周ってはみるつもりだ。ヴォルガノスの出現も報告にないから、9と10も覘くだけ覘いて、問題なければそのまま採掘してもいいだろうしな」
高熱の溶岩の中を自由に泳ぎ回れる驚異的な耐熱性と機動力から、『溶岩竜』の異名を持つ魚竜種、『ヴォルガノス』。その体に纏う冷えた溶岩の鎧を抜きにしても、現状4人の装備ではその餌食となって無駄に散るのが目に見えているほど強力なモンスターのため、出現が確認されれば狩猟達成の報告があるまで、その依頼を受注していないハンターが接触しうるエリアが封鎖される事態にまで達するが、現在は姿がないため開放されており、ちょうどそこでも燃石炭を採掘できるため、問題がなければ立ち寄るつもりの様だ。
「ってことは、もう飲んどいちまった方がいいかい?」
それを聞いたアカシがポーチから取り出したのは、寒冷環境での保温効果があるホットドリンクとは逆に、灼熱環境で体を冷却する『クーラードリンク』。今回の様な火山や砂漠での活動には必須の品だが、意識しないと忘れることが多い上、ホットドリンク以上に命の危機に至る状況になりやすいことから、嘘か真か「最もハンターが持参を忘れる物」と冗談交じりに言われてしまったり、その流れで「リタイア最多の理由はクーラードリンクの持ち忘れ」だの「持っていくのを忘れるのが効果」などとネタにされてしまったりする不遇なアイテムでもある。
「そうだな、ついでに魚も食っとくか」
聞かれたディノは、答えながら率先してクーラードリンクを飲むと、続けてポーチから取り出した、自然回復速度を上げる『こんがり魚』を口にする。これならクーラードリンクの効果が切れても、先日クリスティアーネが体験したような乱戦にでもならない限り、再度口にするまで多少余裕を持てる。
「さて、幾ら時間や精神に余裕はあると言え、
一方ミナガルデに程近い森丘地帯では、イャンクックを狩りに来たアダイトとレノ、そして便乗したカグヤと、彼女に少々強引に呼び込まれて同伴したエルネアが、ベースキャンプで装備や備品の点検をしていた。
「うん、問題なし。レノもそうだが、悪いなエル。こんな厄介払いに付き合わせちまって」
「気にするな。俺も耳障りな雑音を、払いたいと思っていたところだった」
「同じく。私としても、何も知らない外野に戦友が悪く言われるのは不愉快」
「ちょっとー、アタシはスルーなのぉ?」
足止め用の閃光玉や小タル爆弾、そして手数重視な分不足気味な片手剣の破壊力を補うための『大タル爆弾』がポーチ入っていることをしっかり確認したアダイトが、顔を上げてレノとエルネアに声をかけると、相手されなかったカグヤがぶうたれるが、呆れ顔でツッコミを返す。
「そりゃお前、頼んでないのに勝手についてきたんだろ。しかも近くにいたからってエルにも声かけて、予定がなかったのをいいことに返事待たずにパーティー組み込むし……」
「しょうがないじゃん、こっちがまだ装備の準備してるってのに、クリスやディードはこの前も活躍して、いいとこ見せてきたんだから。アタシだってそろそろ大物仕留めたいの!」
元々ディノが話していた通り2人だけで行くつもりだったアダイトとレノだったが、カグヤはそこに割り込むと共に、偶々集会所に居合わせたエルネアも「人数に空きがあり、ガンナーがいなかったから」と呼び寄せ、事前に事情はある程度耳にしていたと言え、了承を得る前にパーティーへと入れてしまった。
とはいえ彼女もモンスターを足止めするための『シビレ罠』を始めとした各種アイテムはしっかり準備してきたし、評としては2人ほどではないにしても、『ドスランポスに苦戦した』と同期内では少々下に見られがちなことに、焦りよりも鬱憤が溜まっていたようで、それを発散するいい機会に感じたらしい。
「カグヤの振る舞いに不満はあるだろうけど、戦力としては問題ない。むしろヘイト稼ぎや
「そーそー!ちゃんと活躍するんだからね!」
「わかったわかった。期待はしとくよ」
「そろそろ出発してもいいか?今回の相手はイャンクック2体だからな。戦力は多いに越したことはない」
都合のいい部分だけエルネアの発言をフォローとして引き出す彼女を呆れたまま流すアダイトを、レノが促す。まさかの2体同時狩猟となってしまったが、下手に合流されると却って結託される危険もある分、各個撃破するにしても味方が多いのは有利に働く以上、口では雑に扱いながらも、協力に名乗り出てくれたとこには素直に感謝している。
だからこそ改めて実力を誇示するためにも、誰1人欠けることなく達成せねばと気を引き締めたアダイトは、腰のハンターナイフを一撫でし、先陣を切ってベースキャンプの設置エリアから踏み出していく。