カンッ!カンッ!と岩肌の各所から覗く鉱脈に、ピッケルが突き立てられる度に音が響き渡る。頭上高くまで空間が広がり、各所を流れる溶岩が真っ赤に輝くエリア4では、イーオスやブルファンゴ以外にも、乾燥地帯に生息し、鎧の様な皮膚と攻撃的な性格をした大型の草食種、『アプケロス』や、ショウグンギザミの幼体、『ガミザミ』の様な採取を邪魔するモンスターが珍しく姿を消していたとあって、武器に持ち替え掃討する手間が省けた4人は、分散して順調に採掘に勤しんでいた。
「こんなところでしょうかね。掘り終わりましたよ」
「こっちも終わったぞ。そろそろ次のエリアに移るか」
やがて非常に高い硬度と耐熱性を誇り、そのせいでまさに今集めている燃石炭が発見されるまで、加工が不可能だった『マカライト鉱石』を始めとした目ぼしい鉱石を掘り尽くした者から順に、北西に当たるエリア5へと通じる通路へと集結していき、最後にナディアが合流したのを確認したディノの号令で移動すると、何匹かのガミザミが、食物を探し地面を突く姿を目にする。
「さすがにそう何度も都合よく、とはいかねぇか」
「むしろ変に何もいない方が、古龍でも来たんじゃないかと却って不安になるものですよ。そうした意味では、多少不便なくらいに邪魔な小型モンスターを見かける方が安心できます」
ガミザミは小柄故の素早さと、それでいて意外に耐久力があるとあって、特にレインやエルネアの様なガンナーからは厄介視される。当然採掘においても、下手に放置すれば、それをいいことに延々ど突き回されて全く進まなくなるため、ある意味ついで程度だったとは言え、目的だった黒刀【零の型】の試し切りには丁度いいと、ピッケルの代わりに抜刀し、斬りかかるアカシ。
同様にナディアもアイアンガンランスを構えると共に、向かってくるガミザミに向けて、ガンランスの主武装たる砲撃を撃ち込み、ディノやクリスティアーネが手を出す前に容赦なく仕留めていく。
彼女が言う様に、小型モンスターが一切姿を見せなくなる様な事態はそうそうなく、災害が生物の姿を取ったような『古龍種』と称されるモンスターが現れた時か、それこそ災害そのものに見舞われた時くらいしかない。
「よし!これで大丈夫だろ。さ、早くコイツ等から剥ぎ取って、採掘しようぜ」
「悪いな、それじゃあお言葉に甘えさせてもらうか。代わりに次のエリアじゃ、掃討は任せてくれ」
そうして最後の1匹を切り上げで仕留めたアカシが、刃を研いで剥ぎ取りナイフに持ち替え、促しながら遺体に突き立てるのにあわせ、残る3人も剥ぎ取っていき、採掘を再開していく。
ディノ達が採掘をしていた頃、森丘のアダイト達は、南北の広場を中央の細道がつなぐエリア3に来ていた。これが少し前のアカシの様に、キノコ等の採取が目的なら、道中でついでに虫や薬草を集めたり、効率重視で分岐した先に個別で向かったりできるところだが、今回の目的はイャンクック、それも2体を相手するとあって、4人でここまで直行した。
「ここまで姿がなかったってことは、この先か、もっと奥の森の方にいるんだろうな。いつでも相手できる様に、構えとこうぜ」
「オッケー、こっちはいつでも準備万全よ!」
中央にそびえ立つ岩山、その手前に広がるエリア4につながる道の前で号令をかけたアダイトにカグヤが元気よく返答し、寡黙なレノとエルネアも頷き、突入しようとした矢先、上空に何かが現れ、一足先にとエリア4に向かっていく。
「今のはイャンクック……!まさにドンピシャってとこだったか……」
「もう1体がいるかどうかわからんが、いないなら今のうちに仕留めておけば有利になるな」
「よぉ~し、俄然やる気出てきたぁっ!さ、早く行きましょ!」
「言われなくても今行くところ。気付かれないよう静かにしてて」
かかる影に気付き、見上げた先を通り過ぎたのは、今まさに狩らんとしていたイャンクック。それを目にするや興奮するカグヤをエルネアが黙らせ、アダイトとレノも気を引き締めるとともに己が得物を握る手に力を籠め、数瞬遅れて続くと、今まさに降り立ったイャンクックは、岩山の方を眺め、『クォオゴゴゴゴゴ……』とうなり声をあげていた。依頼書には『営巣地を巡って縄張り争いをしている様子』と書かれていたことから、おそらく既に決着は着いたが、まだ諦めていないらしい。
「奴が気を背けてるうちに……行くぞ!」
その隙を逃すまいと、中央付近に鎮座する見通しの良い広場に不相応な大岩の陰にエルネアを残し、飛び出した3人は、アダイトが股下に潜り込み、新たに強化した『ハンターナイフ改』で腹を切りつけ、レノが同じく強化した『骨刀【狼牙】』を右の翼に、カグヤが左の翼にボーンスラッシャーを振り下ろし、皮膜を切り裂く。
そこにエルネアが『アイアンアサルトⅡ』を構え、こちらに気付いたイャンクックが振り向き、戦闘態勢を整える前にと毒弾を撃ち込み、ダメージと共に毒を与えていく。
「先手は打った!今のうちに少しでもダメージを稼ぐぞ!」
足踏みに巻き込まれない様腹の下から転がり出たアダイトの掛け声に合わせ、敵を見定め『キョワァーッ!』と威嚇するイャンクックと対峙する3人が武器を振り上げ、突撃していく。
一方エリア5で採掘を終え、火口付近のエリア6に登ってきたクリスティアーネ達。そこから溢れ出る熱気が火柱となって激しく燃え上がる様に目を惹かれ、呆然となるも、その熱気でクーラードリンクの効果が切れたことに気付き、慌てて口にする。
「ッハァ!あっぶね、危うく燃える前に干乾びてミイラになるとこだったわ」
「この温度では、あまり長居できませんね。ここと奥のエリアで掘れば、燃石炭も十分集まるはずですし、さっさと採掘を終えて戻りましょう」
「そうですね。グラビモスならまだしも、私達にはキツ過ぎますから……」
「そうと決まれば、さすがにモンスターもこの熱気は辛いみたいだし、姿がないうちにさっさと掘るか。終わって降りれば、少しはマシになるはずだ」
幸いにも採掘を邪魔するモンスターがいないとあって、即座に分散して各々鉱脈を見つけては、ピッケルを突き立て鉱石を集めていく。それが終わればエリア中央辺りにある小さな石柱に集結していき、最深部たるエリア8へと向かう。
「ウゲ、ガブラスが
入って早々右には先程見えた火口が広がり、岸壁の先から、黙々と噴煙が空へと昇っている。その底で滾る溶岩を照明に、黒い体表を赤く光らせながら飛び交うガブラスの姿を見たアカシが、顔を苦々しく歪める。
かつてアダイトが気の早い前祝いで貰い、彼等がハンターデビューに向けて食したガブリブロースはガブラスの肉だが、『強者を利用すれば、楽におこぼれをありつける』と古龍を始めとした大型モンスターに便乗する狡猾な習性から、「災厄の使者」と忌避される一方で、それを逆手にとって厄除けにもされたりと、意外に複雑な認識をされると共に、狩場では高所からイーオスの様に毒を吐き付けてきたり、長い尾で払ってきたりと、4人の様にリーチの長い武器を使うハンターにはそこまで脅威でないとはいえ、小型モンスターでは厄介な部類に位置する。
それが複数滞空しているとあっては採掘に支障が生じそうだが、先程とは逆にディノが前に出ると共に、続いてクリスティアーネも踏み出す。
「さっきのガミザミは率先して駆除してくれたからな、奴等の相手は俺がする。アカシはそのうちに、燃石炭を採掘してくれ」
「私もお手伝いしますね、ナディア様。アカシ様のお手伝いをお願いします」
「おぉ、悪いな。そんじゃさっさと済ましてくるぜ」
「無理はしないでくださいね、クリス」
そうして火口とは逆の壁面へと2人が駆け出すのに気づいたガブラス達が、そちらへと向かおうとした矢先、立ち塞がった残る2人の大剣が振り上げられ、ザックリと切り裂かれたガブラスが次々と地に落ちては、それを目当てに集まり降りた同族が、仲間の骸に口をつける前に、振り下ろしや薙ぎ払いで後を追う様に仕留められていく。
「ついさっきまで隣にいた仲間の死骸でも躊躇なく食いに来るのは、仕留める側としちゃ楽でいいが、あんまり見てていい気分じゃないな……」
「同感ですね。尤も彼等にしてみればそれが自然でしょうし、そうした貪欲のまま死肉を片付ける存在は、私達が身勝手に嫌悪しようとも、なくてはならない存在ですから……」
ガブラスの毒液や尾、そして足元と移動先に注意しながらも駆除を進めていくうち、いつの間にかガブラスは全滅し、足元にその死骸が累々と転がる様を見て両者が複雑な思いに浸っていると、採掘をしていたアカシが、「おぉ~い、終わったぞぉ~」と声をかけながら歩み寄る。
「うわ、結構な量倒したなぁ。お疲れさん」
「このまま放置しても乾くだけですし、まだ素材や食材として活用できる状態のうちに、とりあえず剥ぎ取ってしまいましょうか……」
「そうだな。後はあっちから降りれば、気持ちマシになる中腹まで一気に着くはずだ」
「と、なればそこからは、そのまま帰るだけ、ですね……」
討伐されたガブラスの数に圧倒される彼を横目に、言うな否や剥ぎ取りナイフを手に、てきぱきと皮や肉を剥いでいくナディアにディノが続き、クリスティアーネも依頼は達成したものの、個人的な目的だったドスイーオスは現れずじまいとあって、複雑な胸の内を漏らしながら手を動かす。