メンバーが大分増えた結果、大分肉が付きそうになりましたが
「編成は決まったな?それでは試験を開始する!各パーティー、散開!」
全員がプレートを引き、パーティーが決まったのを確認したイボンコ。回収したプレートを袋に戻すと、彼の号令と共に、受験生達はそれぞれベースキャンプから各地に分散していく。
あるパーティーは岸沿いに西へ、別のパーティーは聳え立つ崖を登って北上する中、クリスティアーネ達のパーティーは、砂浜が広がる西とは逆に、森へと入っていく東へと踏み入る。
「お、モスや。まだ気づかれとらんが、向こうにはブルファンゴもおるな」
入って早々シンが見つけたのは、暢気に鼻を鳴らして地面の匂いを嗅ぎ、好物のキノコを探すブタに似た風貌の小型モンスター、『モス』。苔を意味する名前の通り、体表を覆う苔に紛れて仲間の身体に生えたキノコも食べる食欲旺盛だが、1度攻撃されると執拗に突進し続けてくるため、次のエリアへの上り坂付近で同じ様に地面の匂いを嗅ぐ、似たような性質ながらより大型で攻撃的故危険性も桁違いな『ブルファンゴ』程ではないものの疎まれ、大型モンスター狩猟の際には、揃って戦闘前に掃討される傾向にある。
「何かヤバいのばっかっスけど、モスと言えば確かここ、キノコが採れたっスよね。調合用にアオキノコとか欲しかったし、アレ片付けたらついでに薬草とか色々集めとかないっスか?」
「おい、それより狩猟を――」
「お、そらええな。ほな見つけたついでに、ワイがブルファンゴ片付けてくるわ」
「そうですね。では奥の鉱脈で採掘してきますね」
それを見たレマの提案で、例の先輩を無視して掃討がてら周囲での採取をすることに決まると、シンは邪魔されぬようにとブルファンゴに向かい、クリスティアーネもピッケルを取り出し、ベースキャンプからだと死角になっていた北側の崖に回ると、その下にある裂け目へと突き刺し、鉱石を掘り出す。
「お、生肉採れた。あとで焼いて食うか」
「こっちも特産キノコ採れたっス。いったん納品してくるっスね~」
「了解しました。もう少し採取したら東に向かおうと思いますが、
「せやな、待っとる間の暇潰しくらいにはなろうし、道順としてもそれが順当やろ」
「ミナガルデに帰ったら覚えてろよ……」
突進を待ち構える様に溜め斬りを叩き込み、ブルファンゴの頭を真っ二つにして仕留めたシンが、剥ぎ取り用のナイフで解体したブルファンゴの遺体から取り出した生肉と、毛皮をポーチにしまっていると、食用需要の高い『特産キノコ』を入手したレマが納品のため一時撤退し、クリスティアーネの提案で、彼女の前にそびえる崖を登らず、このまま道沿いに進むことに決まる。一方唯一の先輩は、昨年組んだ訓練生と違い、幾ら高圧的に振舞っても一切動じる様子を見せない後輩達に対し、最早口を出すだけ無駄と判断したのか、ボソリと呟いたきり黙り込む。
しばらくさらに坂を上った先に広がる見晴らしのいい広場の様なエリアにも、特に大型モンスターはおらず、小型の草食モンスター、『ケルビ』が数匹ばらけて思い思いに草を食んでいる。
「ここもハズレのようですね」
「いや、そうでもなさそうやで……」
仕方ないと諦めつつも、気持ちを採取に切り替えたクリスティアーネを、シンが引き留めた。その理由をレマが尋ねるよりも先に、ケルビ達が一斉に顔を上げ、何かを察したように逃げ去って行き、それから間もなく上空から風切り音が響き渡り、やがてバサッ、バサッ、と羽搏き音に変わる。やがて地響きと共に降り立ったのは、ピンクの口角に折り畳んだ大きな耳、同じく目立つしゃくれ上がった大きな嘴。カグヤが目標に掲げ、クリスティアーネも「運が良ければ」程度に賛同したイャンクックだった。
『クォゴゴゴゴ……』と軽く喉を鳴らしたイャンクックは、降り立った際クリスティアーネ達に背を向けた状態だったためか彼女達に気づかず、前方だけを見渡して安全と判断したのか、地面を嘴で掘り起こし、土中の虫達を平らげていく。
「まさかこうも早々にイャンクックと会えるなんて……」
「ちょうどええっちゃええんやろうな……このまま行くか?」
「まだこっちに気付いてないみたいっスし、不意討ちするなら……」
余りに都合がいい展開とあって、思わずイャンクックに聞こえない様小声で話し合ってしまう3人。しかしそのチャンスは早々台無しにされる。
「ちょうどいい!お前程度この鉄刀の錆にしてやる!」
「あ!あのバカ!」
思わずシンが毒づいたように、『鉄刀』を構え勢いよく突撃していく先輩の声に振り返ったイャンクックは、一瞬『キョワアァ!』と驚いたように跳ね上がるも、直後そのまま後方へと羽搏きながら下がり、その風圧で先輩の足を止める。
「うわぁ!」
「已むを得ません!このまま相手します!」
「しゃあないか、行くで!」
「やってやるっスよぉ!」
そのままなし崩しではあったものの、イャンクックとの戦いが始まった。
クリスティアーネ達が採取に精を出している頃、他のパーティーも大型モンスター狩猟の準備も兼ねた小型モンスターの掃討や、アイテムの採取をしていた。
「おや、今日はようハンターさんを見かけるの。そうかまたこの季節が来たか……」
そんな中、崖を登ったナディア、イスミ、ディード、フィオドーラは、偶々見つけたハチの巣から採取をしようとした矢先、そこにいた竜人族の老人――通称『山菜爺さん』に話しかけられた。
「珍しいね、山菜爺さんの方から話しかけてくるなんて」
普段はハンターが近くにいても、話しかけられない限り一切反応しない。それが逆に話しかけてきたとあって、どんな風の吹き回しかと訝しむイスミに対し、当の山菜爺さんは特に動じた様子もない。
「まぁそう邪険にしなさんな。毎年この時期になると、今日の様に普段より見る顔が増えての。じゃが一期一会とはよく言うたもんで、その多くはそれっきりになりがちでなぁ……それを思い出すと、つい年寄り心が湧いてしまうわい」
「何か意外だな、山菜爺さんもそんな風に感慨深くなる時があるのか」
これまで特に気にかけなかった山菜爺さんの胸の内を聞いて、何とも言えない気持ちのパーティーを代表する様にボソリと漏らすディード。そんな彼を気にせず、山菜爺さんは「そうじゃ、ここで会うたも何かの縁。別に記念と言った訳でもないが、話のついでにこれをやろう」と赤い液体――身体能力向上効果のある『鬼人薬』の詰まった瓶を4人に渡す。
「あ、ありがとう、ございます?」
「なぁに、おぬし等より先に来たのは皆通り過ぎてったから、手持ちの品も余って追ってな。余り物ですまんが、上手く使ってくれい」
駆け出しには手が届かないアイテムを気前よく渡され、困惑気味に礼を言うナディアを、一切気にした様子もなく「達者での~」と見送る山菜爺さんを背に、「また今度~」と暢気に手を振る最後尾のフィオドーラを待ちながら細道を抜けて、次のエリアへと向かっていく。
一方岸沿いに進んだカグヤ、ビオ、テリル、レインは、そのまま外周部分の半分に当たる北部分に到着し、そこで早速初心者の相手として定番な『ドスランポス』と遭遇する。
「こっちにはまだ気づいてないようだが、周囲にランポスはいない……まだ群れを持たない個体か?」
「ちょっと物足りないけど、対象ではあるし、いかない?」
単体での行動に、産まれた群れを抜けて間もない、放浪個体と推測するレインに対し、カグヤは早くも挑みたいとばかりにソワソワしながら、
「おいおい幾らドスランポスだからって逸りすぎだろ。も少し周囲に警戒を――」
そんな彼女をビオが宥めようとした矢先、ドスランポスとは異なる咆哮が響く。咄嗟に目を向けると、対峙していたのはブルファンゴの親玉、『ドスファンゴ』。経緯は不明だが、種は異なれど、同様に率いる群れを持たない者同士でぶつかり合い始めたらしい。
「あらら、争い出しちゃった」
「ちょうどいい、アタシも混ぜてもらうよ!」
呆けたテリルを横目に、ついに我慢できなくなって飛び出すカグヤ。慌ててレインが呼び止めるもその耳には届かず、已む無く変則的な三つ巴の戦闘を開始する。
「おい勝手に飛び出すな!あぁもう、私がアイツを援護する。お前達は隙を見て、分断された方の相手をしてくれ!」
「わかった!あんま無理するなよ!」
流石にそこで尻切れ蜻蛉にするのもどうかってことで、予定より早いイャンクックの登場にもなりましたが