クリスティアーネがディノとナディアを
「まさか夕飯に続き朝食まで世話になってしまうとはな……礼を言うよ、ゴエモン」
昨晩到着してからクリスティアーネの案内で周辺を巡り、その際見かけた酒場で翌朝の食事をとろうとしたディノに声をかけ、手早く準備をしてくれたキッチンアイルーのリーダー、ゴエモンは、彼の感謝に台所の床を掃く箒を止め、「いえいえとんでもニャい」と顔と手を横に振る。
「お嬢様も決して小食って訳じゃニャいんですが、昨日の様に遠出をされますと、帰る前に現地でご飯を済ませてしまうことも多いですので、我々としても腕を振るう機会に恵まれるニャら、今回の様にお客様をお連れいただくことは、むしろ大歓迎ですニャ」
それに合わせて同様に掃除していた他のアイルー達も、「そうですニャそうですニャ」と賛同し、更にそこから「折角ですしもっと滞在してってくださいニャ」と引き留めてきたとあって、主であるクリスティアーネが宥めに入る。
「こらこら、気持ちは分かりますし、その点に関しては申し訳ないと思いますが、あまり引き留めては、却ってお二方の迷惑になってしまいますよ。後日また同期のどなたかをお呼びしますから、今回はポッケ村に戻られるのをお見送りしましょう」
「ふふ、クリスはアイルー達に慕われているのですね」
そんな主従のやり取りを眺め、微笑むナディアが「自分もそろそろアイルーを雇ってもいいかもしれない」と考えていたところ、ドアをノックする音が響く。
「どなたでしょうか?今日は、特に来客の予定はないはずでしたが……」
ちょうどポポ車が到着したころだが、何事だろうかと席を立ったクリスティアーネがドアを開けると、ポーチを斜めに掛け、帽子を被った配達のアイルーがペコリとお辞儀をする。
「おはようございますニャ。突然ですけど、昨晩ポッケ村の方に、クリスティアーネさんとディノさん、それからナディアさん宛に、緊急のご指名依頼が届きましたニャ。ただその少し前に、皆さんがこちらに向かわれてしまいましたので、こうして朝一からお届けいたしましたニャ。どうかご確認お願いしますニャ」
「まあ、わざわざありがとうございます。よろしければ、少量ですがどうぞ」
まさか自分達への、それも緊急の依頼とあって、クリスティアーネが届けてくれたアイルーに労いの言葉と共に、ゴエモン達のために用意していた彼等の嗜好品でもある『マタタビ』を渡すと、配達アイルーは「わぁ、ありがとうございますニャ!それではしつこいようですが、緊急依頼ですのでお早めに確認お願いしますニャ!」と言い残し、去って行く。
「俺達宛の依頼だって?珍しいな」
「まさに貴女が身に纏っている装備の元となった、ディアブロス亜種の狩猟依頼を思い出させますね。あの時はアダイトとエルネアもいましたが、油断するつもりはないと言え、今なら余程の相手でもない限り、この3人でも大丈夫に感じます」
「そうですね。今度はあの時の様な失態もなくやってみせます!」
個人への依頼自体はそこまで珍しくないものの、一緒にいたと言え、赴任先が同じポッケ村の自分達だけでなく、多少離れたこのゼークト領にいるクリスティアーネも含めた同期3人を指名とあって、受け取った依頼の便箋を眺めるディノ。一方ナディアは自分達への依頼と聞いて、完成して以来フルミナントソードと並んでクリスティアーネの
「……と、とりあえずポポ車の出発まではまだ時間もありますし、内容を確認しましょうか!」
「っと、そうですね。つい思い出に浸ってしまいましたが、今はこちらを見なくては」
「すまん、先に見てしまったが、こいつはかなり大変な事態の様だぞ……」
しかし、2人が思い出に浸る間に、予期せず一足早く依頼の内容を読んでいたディノが指す、封筒に記載された差出人を見ると、そこにはデビュー後帰郷して以来、久しく耳にしなかった同期、ウツシの名があった。
即座にクリスティアーネとナディアも封を開け、同封されていた手紙を読む。
『久しいな。君達の活躍は、遠く離れた我が故郷、カムラにも行き届いているよ。
さて、世間話は早々に切り上げさせてもらうが、今回君達にこうして連絡を取らせてもらったのは、この手紙に同封した依頼、カムラを襲わんとする百竜夜行への防衛を受けてほしいためだ。
現在カムラの里では、将来起こり得る百竜夜行に備え、迫り来るモンスター達を迎え撃つための防壁、「
そこで!かつて共に切磋琢磨し、信頼を置けると判断した同期の君達に声をかけさせてもらった!
十分と言えるかはわからんが、報酬も可能な限り用意してあるし、滞在する間は里を挙げてもてなそう。改めて、どうか我が故郷、カムラの里を救うために君達の力を貸してほしい!』
「百竜夜行……話は聞いてましたが、まさかこんなに早く訪れるとは……」
訓練所でウツシに聞いた、住処も種族も異なるモンスターが、大挙してカムラの里を襲う厄災、百竜夜行。それに立ち向かうべくハンターを目指していた彼に影響され、訓練所の門を叩いてからわずか1年でデビューし、更に1年でここまで上り詰めるほどの実力を得たのだから、そんな彼への恩を返すためにも、駆け付けるべきだろう。
そう思いクリスティアーネが顔を上げると、同じ思いを宿しただろうディノとナディアに目があい、思わず軽く微笑む。
「これは大変なことになってしまいましたが、怖気づいている場合ではありませんね」
「そうだな。むしろここで見捨てるようじゃ、何のためにハンターになったんだって話だ。それに、
危機を前にしても余裕を失ってないとばかりに、言葉とは裏腹の笑みを浮かべるナディアに対し、ディノも賛同すると共に、おそらく読み終えた途端はせ参じる姿が容易く想像できる、この場にいない
「と、読みふけってしまいましたが、そろそろポッケ村に向かうポポ車の出発時間ですね……。では、少し準備をしてまいりますので、お2人は先に行って、少し待ってもらってください」
気づけば思っていたより時間が経っていたようで、2人が
「お嬢様~!ボク達も連れてってくださいニャ~!」
「お願いしますニャ!ダイアナみたいに戦うことはできニャいけど、お嬢様やお友達の皆様のために料理を作らせてほしいですニャ!」
「お友達の故郷が大変ニャのはわかるけど、ボク達もニャんか手伝いたいニャ!」
「っていうかぶっちゃけお留守番したくニャいです~!退屈で腕が鈍っちゃいますニャ~!」
「買い溜めてる食材も悪くなっちゃうニャ~!」
「あ、貴方達……」
途中から半ば不満をぶつけだしてきたが、彼等の献身願望も、決して建前ではないだろうことは理解できる。しかしキッチンアイルーなら
「お嬢様、彼等の言い分も分かりますニャ。今回は同伴させてもいいんじゃニャいでしょうか?」
「そうですね。手紙を見るに、向こうも向こうで人手不足でしょうから、暇にはならないのでは?」
そこにナディアの援護も加わり、時間も余裕がないとあって、早急に決めなければならないクリスティアーネは、今回ばかりは折れることを決める。
「ハァ……わかりました。では早急に準備をしてください。ないとは思いますが、カムラの皆様に迷惑をかけてはなりませんよ?」
「「「「「やったニャ~!」」」」」
そして同伴の許可に歓喜するキッチンアイルー達の姿に微笑むも、これ以上ポポ車を待たせる訳にもいかぬと、早急にカムラへ向かう準備に取り掛かった。