イャンクックを討伐した達成感に浸る間もなく現れたババコンガ。クリスティアーネ達は咄嗟にいつでも構えれるよう武器に手を伸ばすが、1度前足を地に着けたババコンガは再度立ち上がり、何かの匂いを嗅ぐかのようにしばらく鼻を鳴らしていたが、狙いが決まったのか4足歩行に戻ると鈍重そうな風貌に反し軽々と宙に飛び上がり、シン目掛けて落下する。
「うぅおぉ!?」
「危ない!」
慌ててダイブするように回避したシンが武器を構えるより早く、クリスティアーネが腕目掛けてバスターソードを振り下ろす。皮膚まで届かず幾らか毛を刈る程度で、大したダメージはなかったようだが、ババコンガは存在を思い出したかのように彼女に向き直り、爪を振り下ろす。即座に構え直したバスターソードの剣身で受け止めることには成功するが、勢いを殺し切れず後退するクリスティアーネ。そこに隙を突いたレマが、横からババコンガの頭目掛けてウォーハンマーIを振り下ろす。
「うぉりゃーー!」
しかし体を仰け反らせ避けたババコンガは、2人が相手をしてる間に態勢を整えようと、慌ててバスターソードに砥石をかけるシンを再度狙おうと向き直り、飛び上がる。
「ぬおぉお~~!?何でワイばっか狙うんねーん!」
已む無く得物を背負い直し、再度飛び込み回避で避けるが、その後ろで3人に戦線を任せ、逃走しようとした先輩が着地後バウンドしたババコンガに跳ね飛ばされ、断崖から突き落とされる。
「う、うわああああああああああああああ……」
「あ、アイツ落ちてった……」
「ま、まぁお荷物はいなくなったってことで……」
大方3人がババコンガの相手で手が離せないうちに彼等を死んだことにでもして、自分だけ合格するつもりだったのだろうが、皮肉にも逆に自分が脱落することになった。
そんな間の抜けた末路に呆然としていたシンとレマだったが、「お2人とも、気を付けてください!」とクリスティアーネが放った警告に意識をババコンガに戻すと、今まさに放ち始めた地面を引っ掻く様なラリアットを避け、繰り返すうちにバランスを崩して倒れた隙に合流する。
「とりあえず、コイツどないする?このままじゃ引くに引けんで……」
「できればやり過ごして逃げたいところですが、この状況では難しそうですね……」
「それもそうッスけど、さっきから何でシンさんばっか狙ってるんスかね?」
何とかいったん集まりどうするか相談するが、レマの指摘通り、先程からババコンガは執拗にシンばかり狙い、彼女とクリスティアーネに対しては、最低限の反撃くらいしか反応せず、突き落とした先輩に至っては、一切眼中にない様子だった。現に3人目がけて猛進するダッシュを散開して回避されると、ババコンガは真っ先にシンへと向き直り、再度ダッシュで彼を追いかける。
「えぇいこっちくんなーー!」
「またシンさん襲われてるッスねぇ……あの人何かババコンガに襲われるような物持ってたッスか?」
「確かシン様は先程、ブルファンゴを討伐した際に生肉を得ていたはずですが、まさかそれが……?だとしたらレマ様もキノコを採っていたはずですのに、なぜ襲われないのでしょうか?」
なぜ彼ばかり襲われるのかとババコンガの習性を思い出していた所、「戦闘中でも囮用に設置された生肉に食いつくほど食欲旺盛」とかつて座学で説明されていたことから、おそらく彼が先程ブルファンゴを仕留めて得た生肉目当てに狙っているのでは、と推測するも、同じく主食と聞いていたはずのキノコを採集していたはずのレマが、逆にノーマークなことにクリスティアーネが疑問を抱くと、「あー……」と気まずそうにレマがアイテム事情を説明する。
「実は特産キノコを納品した後、一緒に採ってたアオキノコは調合に使っちゃったンスよ……だから今も生肉持ったままのシンさんに比べて、あたしは狙わないんじゃないッスか?もしくは単純に、あのババコンガがキノコより肉が好きだと思うッス……」
果たしてババコンガが先程の嗅ぎ分けでそこまで理解できたのか、あるいはレマの憶測通り単に食性の嗜好かは不明だが、実際彼女の手元には先程採取したキノコがなく、クリスティアーネも鉱石しか採取していないことを考慮すると、未だ逃げ続けるシンの持つ生肉が狙いなのは確定だろう。とりあえず追いつかれる前にとクリスティアーネが得物でダッシュを受け止め、レマが前足目掛けてウォーハンマーIを振り下ろす。毛に阻まれあまりダメージは通らなかったものの、続けて構え直したバスターソードを頭へと振り下ろすクリスティアーネと共に、このままゼエゼエと息切れするシンが落ち着くまでは、足止めに持ち込めるだろう。
「シン様!おそらくこのババコンガは先程の生肉を狙っているようです!それをどうにかすれば、一点集中は何とかなるかと!」
「ほんまか!?そーいやイャンクックの剥ぎ取りに夢中で、さっきブルファンゴから剥ぎ取っとったの忘れとった……」
息が落ち着いた途端伝えられた自分の失点に思わず驚いたシンは、元凶となった生肉をその場に捨てようとするが、ポーチの中身を確認していったん思い留まる。
「すまん2人とも!ちと思いついたことあるから、もう少し足止め頼むわ!」
「わかりました!ただなるべく早めにお願いします!このままでは私のバスターソードも、限界を超えそうです!」
「頼むッスよー!」
妨害に苛立たし気な咆哮、もとい腹の音で抵抗するババコンガに耐えつつ、引き続き足止めする2人に急かされながらもシンは生肉と共に何かを取り出し、ナイフで刺した肉の裂け目にそれを押し込む。
「よし、できた!ほぉれお目当てのモンや!遠慮なく食えい!」
そしてその肉を、崖際に生えた大木の根元目掛けて投げ飛ばす。木にぶつかった肉が地面に落ちた音に振り返ったババコンガは、そこに有った目的の物目掛けて一転してまっすぐダッシュで向かい、上機嫌で平らげると、直前までの暴れぶりが嘘の様にその場で仰向けになって眠ってしまう。
「ありゃ、食べたと思ったら急に寝ちゃったッスね」
「さっきポーチ見たら、以前拾っとったネムリ草見つけたんねん。せやから眠り生肉作ってみたんやけど、うまくいったみたいやな」
先程シンがポーチから見つけ、生肉に投入したのは、催眠成分を含んだ『ネムリ草』。ミナガルデに近い『森丘』で訓練中に見つけ、採取したものがポーチの中に残っていて、それを使い作った『眠り生肉』を食べたためにババコンガは睡魔に誘われ、熟睡してしまったのだ。
「いやー、一時はどうなるかと思ったけど、何とかなったッスね」
「そうですね。あの様子ならしばらくは起きないでしょうから、今のうちに……」
「うぉ、イャンクック!誰かここで戦ってたのか?」
目を覚まさない様子に安堵し、早速その場を後にしようとした3人だったが、直後来た道の隣からドラコが現れる。
「ど、ドラコ様!?なぜこちらに?」
「っちゅうか、一緒におったアイツの取り巻きはどないしたん?」
「それなんだが、そういや今気づいたが、あのコネ野郎いねぇな」
「それなんスけどね……」
彼1人だけのことを尋ねると、逆に件の先輩がいないことに気づかれ、レマが経緯を説明する。それを聞いて「なるほどな。まぁ安否はともかく、アイツにはお似合いの末路かね……」と未だ目覚めず腹を掻くババコンガに呆れた目線を向けていたドラコは、自分の経緯を話し始める。
彼の班はイスミやディード達同様崖を登って北上後、洞窟内を回って戻ったところにいたドスランポスを相手していた。しかし件の先輩は自分1人が注目を浴びたいがために華のある太刀を選び、自身を持ち上げる彼等には支援も兼ねたガンナーをやらせていた。そのため代わりに組むこととなったドラコに対し、生意気にも自分達に歯向かい、加えてその躍進を期待され注目を浴びる目障りな後輩を気にする必要などないとばかりに、ボウガンの拡散弾や散弾で彼ごとドスランポス目掛けて攻撃を仕掛けていた。
当然ドラコもやられてばかりではなく、ドスランポスの飛び掛かりを彼等に向かうよう誘導したり、弾が届かない場所に誘導してタイマンを張ったりと抵抗していたのだが、しばらく戦っていた所、突如彼等のいたところから爆発音が響く。てっきり誰かが弾の装填をしくじって落とし、暴発でもさせたのかと思って振り向くと、その先にいたのはリオレイア。そして彼等のいた地点は黒く焼け焦げ、ボウガンや防具の残骸らしき金属や骨の
何故ここにリオレイアが来たのかは不明だが、彼等が気付かず火炎ブレスの犠牲になったことを即座に理解したドラコは、思わず自分もその後を追うことを覚悟したが、幸いにもリオレイアは洞窟へと逃げて行ったドスランポスを追って走り出し、慌てて反対側に転がり逃げることに成功。
しばらく運良く生き延びれたことに実感が湧かず、呆然としていたが、奇遇にも同様に助かっていた弓使いの先輩が恐怖に動けなくなっているのを見つけ、ベースキャンプへの帰還を促し、慌てて逃げて行くのを見送ってからどうするか考えたところ、やはり
「そっちもそっちでエラい目に遭うたな……折角やし、残り
「いや、気持ちはありがたいが、流石にそれはな……そんなセコい真似でお前らと肩を並べて合格なんて、到底胸張ってゴシャハギに挑めねぇよ……」
事情を聞いて憐れんだシンが、特徴的な嘴を始め甲殻や翼膜を剥ぎ取られ、大分無惨な姿になったイャンクックの亡骸を指さし提案するが、パーティー変更の条件としては問題なく、多少状況を前後させて誤魔化すことも可能といえ、ドラコとしてはお情けでもそうした他者の尻馬に便乗する形で成果を詐称する様な真似はできないと、彼の気持ちに感謝しながらもやんわりと断る。しかしこのまままた次回ではあまりにも運がなさ過ぎると、何とか力になりたいクリスティアーネが新たに提案する。
「それでしたら、いっそこの4人であのババコンガを狩るのはいかがですか?」
「ババコンガ?あぁ、確かにまだそこで、『どうぞ仕留めてください』って言わんばかりに寝てるな。けどお前らはイャンクック狩って、後は戻るだけだったってのに、わざわざ俺に合わせていいのか?」
言われて再度ババコンガに目線を向けたドラコは、自身も戦いしっかり実力を示せるとあって先程より乗り気ではあったが、それでも申し訳なさが強く、シンとレマに尋ねてしまう。
「まぁこれがアイツみたいな無縁の奴やったらこのまま無視して帰るとこやけど、同期の
「あたしもそれでいいッスよ。ランダムでパーティー組んだからって、あの人と一緒ってのは何かしっくりこなかったッスけど、この4人なら何も問題ないッス!折角だし同期で一緒に合格狙いましょうよ!」
しかし事情を汲んでくれたのもあって、むしろ2人も乗り気でクリスティアーネの提案を推して、すでにシンはバスターソードに砥石をかけている。
「……ハァ、わかったよ。それじゃ、改めて頼むぜ。で、まずアイツどう起こすよ?」
「できれば爆弾で大ダメージを与えておきたいところですが、今は手持ちに有りませんので、代わりに私達各員のため攻撃を叩き込もうかと。配置と致しましては、レマ様は頭、シン様は私と反対の腕で、ドラコ様には起きてからの攪乱をお願いします」
さすがにここまでお膳立てされて好意を無碍にはできず、苦笑しながらも乗ることを決めたドラコが戦法を尋ねると、同じく砥石をかけていた提案者のクリスティアーネが攻め方を決める。
「ええで。ほな起きる前に配置着こか」
「っし!1発叩っ込んでやるッス!」
「意気込むのもいいが、反撃に注意しろよ。コイツ糞投げてくるからな」
そしてババコンガの前に立つレマの左にクリスティアーネ、右にシンが並んで武器を構え、一斉にため攻撃を叩き込む。
『~~~~~!!』
突如叩き起こされたババコンガは、あまりの痛みに顔を真っ赤にしながらもバタバタと顔の前で両手を振り回し、声にならない悲鳴を上げる。そしてパニックのまま両手を腰に回し、腹を突き出す仁王立ちの防御体勢で構えるが、痛みのせいか長続きせず、加えて怒りで消化器官が活性化したのか、放屁と共に4つ足体勢に戻り、眼前の犯人達と向き合うと、再度立ち上がり怒りの咆哮と共に放屁で威嚇し、更にその場で蹲り、3度目の放屁をする。
「オイオイ、どんだけ屁ぇこくんだよコイツ……まぁいいか、踊ろうぜ!ツインダガー!」
「ここからが正念場です!汚物攻撃には警戒してください!」
「アカンアカン、危うく奴の臭い屁ぇ浴びるとこやったわ……さぁて、このままワイの剣のサビと、仕送りの1部になってもらおか!」
「そのトサカ、次はぶっ潰すッス!」