中華最強のウマ娘   作:ダーク・シリウス

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中華最強赤兎×三冠ウマ娘ナリタブライアン

「というわけでナリタブライアンと模擬レースをしてもらうことになったぞ」

 

翌朝。トレーナーとウマ娘達の個室に集ったスピカメンバーに言う沖澤。ホワイトボードには『祝! 模擬レース決定!』『赤兎VSナリタブライアン』と書かれていて、話を聞かされた面々の一人が有言実行に出た。

 

「よし、昨日の今日に言ったこと覚えてるな。どの骨を折られてほしいか言え」

 

「まてまて!?」

 

指の間接を鳴らして威圧感を纏いながら歩み寄ってくる赤兎と騒動を起こす朝から始まった。辛くもラーメンと餃子を奢る交渉を経て、ポッキーにならずにすんだものの模擬レースをするかどうかは話が別。

 

「なんでそんなことをしなくちゃならない」

 

「相手からの強い要望なんだよ。こっちとしても断る理由がないわけで」

 

「私は断るが? 模擬でなくとも本番のレースの方が楽しいからな」

 

「そこをなんとか、頼むっ。俺の顔を立ててくれ!」

 

「誰彼構わず太腿を無遠慮に触る変態痴漢の顔を立てるとか心底嫌なんだが?」

 

ゴールドシップ達の沖澤を見る目付きが厳しくなった。

 

「変態?」

 

「痴漢?」

 

「どういうことだトレーナー」

 

「いや、それは誤解というか。赤兎のトモの作りが素晴らしいから触りたくなったからで・・・・・」

 

 

ゲシッ!!!×3

 

 

「トレーナー、ウマ娘だろうが人間の女だろうがいきなり脚を触れるのはセクハラであることを覚えておけ。同意の上で触ることだ」

 

「わ、わかった・・・・・」

 

「それと三冠ウマ娘が相手なら貸し一つで模擬レースをしてやってもいい」

 

「なんでもいいから頼む」

 

三人のウマ娘達から蹴られたトレーナーを見下ろしつつ、模擬レースをすることを受け入れ個室を後にした。

 

赤兎とナリタブライアンの模擬レースが行われる。という事実が一人の芦毛バによって瞬く間に知れ渡ってしまい、模擬レースを行う場である実寸大のコースを観覧席には多くのウマ娘達が集まってきた。

 

「スピカ特製焼きそばいらんかねぇ~」

 

そして焼きそばを売り込む商魂のゴールドシップを背に準備運動をしているジャージ姿の赤兎はナリタブライアンから話し掛けられていた。

 

「私はナリタブライアン。こちらの要望に応じて感謝する」

 

「どうして模擬レースを望んだ?」

 

「中華最強のお前と勝負をしたい。それだけのこと」

 

「そうか。今時珍しい挑戦者の望むレースは?」

 

「長距離、2400メートル三本勝負だ。そして、その枷を全て外して貰いたい」

 

「それは私から一本取ってからにしろ」

 

髪型は濃い目の鹿毛のワンレングスボブのウマ娘が発した。

 

「赤兎、ブライアン。始めるぞ」

 

「わかった、エアグルーヴ」

 

スタート位置で並び合図を待つ二人の姿をウマ娘達が見守る静寂な中。

 

「よーい、スタート!」

 

駆け出す。芝を蹴りあげて前へ脚を出す赤兎とナリタブライアンの光景に歓声と応援の声が湧く。脚の長さだけは赤兎が勝っているように見えるが、そんな脚の長さのアドバンテージがあろうと食らいつくナリタブライアンの末脚の色がまったく衰えていない。

 

(枷を着けたままでこの速さとは)

 

感嘆の念を抱くナリタブライアンの存在に赤兎も気にしていた。第3コーナーまで並走する二人はまだ仕掛けない。

 

「トレーナー、赤兎先輩が勝つのよね?」

 

「なに言ってんだよ。勝つに決まってるだろスカーレット」

 

「いや、勝負は常に五分五分だ。どっちが勝ってもおかしくはない。とにかく二人の走りを見てろ」

 

楽観視をせず真剣な眼差しで二人を見てる沖澤の目には、第4コーナーまですぐ目の前のところで赤兎が動いた瞬間を捉えた。それは誰もが驚く光景であった。

 

「なっ」

 

赤兎がカーブのコース前でスピードを落とし、ナリタブライアンに先を譲ったのだ。一見、ナリタブライアンが先越したように見えるが、見識あるトレーナー達からすればわざと越させたように見えたのだ。内側に走るナリタブライアン、大外で走る赤兎。

ゴール前の直線のコースで赤兎を差し、5バ身も圧倒的な走りで突き放すこのまま誰もが勝つだろうナリタブライアンに注目した。

 

まだ一本。まだ二本も勝負するのだからナリタブライアンが勝っても―――。

 

「!!」

 

当のナリタブライアンに背後から凄まじい威圧感が襲った。今だかつて感じたことがない感覚が、どんどん己に迫ってきているのが嫌でも分かってしまい、あんなにも離した相手が、限界まで前へ傾け身体を小さくした赤兎が跳ぶように走って追い付いてきた。

 

目を見開く彼女を今度は赤兎が差し抜いてゴールした。

 

「あ、あんなに離れていたのに勝っちゃった」

 

「ブライアン先輩を、三冠ウマ娘を・・・・・」

 

驚倒しがちなギャラリーのざわめきなど露にも気にかけない赤兎は、ナリタブライアンに人差し指を立てた。

 

「すぐにもう一本走るか?」

 

「ああ、今度は負けん」

 

クールダウンせず、間も置かずに再度走るつもりの二人はスタート位置にいるエアグルーヴのところへ戻った。

 

「合図を頼む」

 

「休憩はしなくていいのか」

 

「必要ない。それすら惜しい走りをしたいのだ」

 

走る姿勢に構える珍しく気持ちが昂ってるナリタブライアンが、合図待ちしてる姿に制止するのは野暮だと合図を出すエアグルーヴ。

 

「スタート!」

 

二本目を走る赤兎とナリタブライアン。二人がゴールするまで応援の歓声は止まず、今度は赤兎がナリタブライアンを置いてぶっちぎる走りを見せた。

 

「くっ おおおおおおおおおおおおお~~~っ!!!」

 

差を広げられては勝ち目が無い。前に走る赤兎のペースに合わせて本気で走り始めたナリタブライアンを東条ハナは苦い顔を浮かべた。

 

「ペースに呑まれてるわね。まだ第3コーナーも超えていないというのに」

 

「仕方がないです。先に走らせては遅れて負けてしまうのはレースですから」

 

シンボリルドルフも彼女の走りに思うところがあり、いきなり全力で走る行為、大逃げはリスクが高いことは誰もが理解している。ナリタブライアンもそれをわかっていながら赤兎の大逃げに食らいついているのだ。

 

「そうしてしまうほど彼女は、赤兎はスタミナに自信があるのでしょう。このコースでは彼女にとって短距離でしかないのだから」

 

「なら、あの噂は本当だというの? 一日千里走ったっていう根も葉もないことが」

 

「わかりません。ですが、そう思わせる彼女の走りはとても力強い」

 

残り1000メートルを切ってカーブに差し掛かった。終始、ナリタブライアンを圧倒するかと思われた赤兎の内側に差し込んだ。2度目も赤兎がカーブの直前にスピードを落として大外から走ろうとするその瞬間、ナリタブライアンがラストスパートに出て大きく前に出た。そして遅れて赤兎がそんなナリタブライアンを差す勢いで追いかける。

 

(やはりもう迫ってくるか。だが、今回は私が勝つ!)

 

勝利への渇望がナリタブライアンの足を更に力強く急かすように走り出させる。一本目よりもさらに加速した彼女を見た赤兎は深い呼吸をした後、芝を踏む足首に力を込めつつ更に顔面が地面に尽きそうな前に身体を傾けさせる姿勢に入る。

 

「譲らん」

 

爆走。

 

背中を押され前へ前へ走れと何かに駆り立たされて赤い髪と長い布を激しくなびかせながら疾走する。ナリタブライアンを捉え、赤兎から追い越されまいと滾るナリタブライアンの両名の肩が並んだ直後。

 

二人が同時にゴールした。

 

「どちらだ」

 

「・・・・・」

 

判定を待つ二人に対し、ゴールの位置に待機していたウマ娘、褐色肌に長い黒髪、八重歯のヒシアマゾンはこう答えた。

 

「同着!」

 

その判定に対しギャラリーから歓声が沸き上がるに対してナリタブライアンは物静かに受け止め、コースから離れながらポケットから取り出した鍵で全ての枷を外しはじめる赤兎。

 

「引き分けでも敬意を払って最後は望み通りの走りをする。いいな」

 

「その時を待っていた。さぁ、次のレースだ」

 

「悪いが靴を変えさせてもらう。少し待ってくれ」

 

「破れたのか」

 

そうではないと脱いだ靴をナリタブライアンに持たせる。持った瞬間にズシッと重みがある感覚が掌から伝わってきた。思いもしなかった靴までもが枷にしていた事実を驚愕に禁じ得なかったナリタブライアン。

 

「お前、ずっとこの靴で走って・・・・・」

 

「ああ。足のバネを鍛える為にな。よし・・・・・走るか」

 

別の靴に履き替えてストレッチして終えた赤兎は―――圧倒的な強者の風格を覚えるオーラを身に纏う程究極の状態になった。

 

「今までは本気ではなかったのか」

 

「強者相手に手を抜くレースなど勝てると思うな。本気であろうがなかろうが勝つため全て真剣にレースに挑んでいる。今はお前に対して敬意を払って私の本当の走りを見せるだけだ」

 

拳を握るだけで指の関節が鳴り、赤兎の本当の走りというものを間近で見ることができるナリタブライアンは興奮を覚える。三度目のレースを臨みスタート位置に戻ってエアグルーヴの合図を待った。

 

「よーい・・・・・スタート!」

 

(最初から全力で―――!)

 

 

ダッダッダッ・・・・・・!

 

 

「・・・・・?―――――な」

 

脚を力んで全力疾走を決めかけていたナリタブライアンの視界には、背中に翼が生えて飛んでいるかのような速度を見せつけ既に10バ身も差を離す赤兎の姿が飛び込んだ。遅れて走るがそれ以上にぐんぐんと赤兎が最初から一人で走っているかのような速さと走りを窺わせ、ナリタブライアンと切磋琢磨をするまでもなく完全な独走の末に一分三十九秒というタイムを叩き出した後―――。

 

 

「お待たせいたしました。特上大盛りチャーシュ麺と特盛餃子です」

 

ラーメンと餃子を奢る約束を履行してもらうため、沖澤とラーメン屋を訪れた。二人が座るテーブル席にはナリタブライアンと東条トレーナーもいて、赤兎が誘った。赤兎の目の前には巨大過ぎる湯気を立ち昇らせる器と大皿がドンと置かれ、沖澤の頬が引き攣った。

 

「・・・・・それ一人で食べるのかよ」

 

「これの十倍以上は、中国でよく食べていたぞ」

 

「・・・・・」

 

これだけで満足はしないからまたおかわりするぞ。そう言外された彼女のトレーナーの顏は死んでいる様子を、呆れた風に息を吐きながら赤兎はテーブルに日本円の札束を置いた。

 

「自分で食う物は自分で払うから安心しろ。それと今日だけは奢ってやる」

 

「・・・・・正直、助かった」

 

「あなたね・・・・・」

 

因みに赤兎と同じラーメンを頼んでいたナリタブライアン。彼女が肉食である事を初めて知った東条トレーナーであった。チャーシューを重ねて丸ごと豪快に齧るように食べた際に溢れる肉汁は赤兎の舌を喜ばせ自然と笑みを浮かばせる。特製のスープによく染み込んでいるからひとしお美味であった。

 

「本場の中国のラーメン屋と劣らない美味だ。トレーナーにいいところを教えてもらったな。今度からここに通いつめよう」

 

ご満悦な赤兎はスープに絡みついている麺を啜る最中にナリタブライアンから話しかけられた。

 

「赤兎。中国ではどのようなトレーニングをしていたのか教えてくれないか」

 

「・・・・・? (ごくん)トレーナー自身がこの自称放任主義のように碌なトレーニングなんて指導してくれなかったぞ」

 

「なんですって? じゃああなた達はどんなトレーニングをしているの?」

 

「自然相手に自主的トレーニングだな。先輩から走り方を教わりながら門限なんて気にせずただひたすら駆けるだけ。野営をするのだって当たり前なぐらいトレーニングにのめり込むウマ娘もいるし」

 

東条トレーナーも話に加わってきた。

 

「トレセン学園のような育成施設に通っているのよね」

 

「一応はな。だが、私を含めレースに勝って優勝賞金を得られるならば一般的教養を施す授業なぞ出ず、その日一日中ずっと己を鍛えることに時間を費やすことウマ娘も珍しくないのさ。卒業するために出席だけはするがな」

 

「金目当てが多いのかよ」

 

「明日を生きるためには必要な物だろ? 金欠トレーナー」

 

グサッ! と沖澤のハートに渾身の言葉の一撃が突き刺さって、身に以て金銭の大切さを染みているためにぐうの音も出ず、担当ウマ娘から奢られている現実に沈黙を貫いてラーメンを食べる。

 

「具体的なトレーニングは?」

 

「一日中山を駆け登ったり、激流の川を一日中泳いだり、ゴールのない場所を延々と走り続けたり―――とにかく一日中体力が続く限りウマ娘の本能に従っている。特に周囲の景色を見て走るのが私の一番の楽しみだ。気付いたら数日間見知らぬ場所まで走ってしまって帰るのに苦労したな」

 

「何十km走っていたんだよお前」

 

「さぁ? 千里以上は走っていたと思う。一日でどれだけ走っていたのかはわからないぐらい夢中だったよ。だからナリタブライアン」

 

ナリタブライアンへ話を振る。

 

「中国だからこそできることが日本でもできるとは限らない、とは言わないが私のようなトレーニングをしたいなら山を幾つもどこまでも駆け登ってみろ」

 

「お前はその枷を付けた状態でしているのか」

 

「ああ。今の重さの枷を付けるまでは10年も掛かったがな」

 

「それはお前自身が?」

 

「いや、数少ないトレーナーからの指示で着けている。所属していたチームの先輩や後輩、同期の皆もな」

 

そんなトレーニングをさせている中国の赤兎のトレーナーに驚倒一色な東条トレーナー。

 

「じゃあ、あなたみたいに枷を着けてるウマ娘達は外したら速いのね」

 

「身体に合わせて重さは千差万別だがな」

 

首肯しながら嚙めば肉汁溢れる餃子を一気に五ヶも頬張った。それ以降は話は終わりだとばかり豪快に食べ始める赤兎を、沖澤達も言葉少なく食べ始める。

 

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

ラーメン屋から出た帰り道。満腹そうに深い息を吐く赤兎の隣に歩くナリタブライアンも、肉が美味だったと心中で吐露するほど満足していた。

 

「赤兎。また私と走ってくれ」

 

「何度負ける結果になろうとやる気だけは無くさなければいい」

 

「ああ、勿論だ。必ずお前を超える」

 

「なんならチームスピカに入るか? いつでも私と並走できるぞ。私についてこられるようになれば自ずと楽しくなれそうだしな」

 

「・・・・・一応、考慮しよう」

 

ちょっ! と一瞬本気で焦る東条トレーナーと、彼女の担当ウマ娘を引き抜こうとする自分の担当ウマ娘に話しかける沖澤。

 

「赤兎。お前はこれからデビュー戦を臨んでもらうが構わないか?」

 

「それを出ないとダメなのか?」

 

「やってもらわないとな。そもそもお前は夢とか目指しているものとかないのか?」

 

指摘を受けた赤兎は細やかな願いを口にした。

 

「・・・・・願望はある」

 

「お、なんだ?」

 

「この私を超えるウマ娘と会うことだ。いつか私は大敗を経験してみたいのさトレーナー。中国では無敗で最強の称号を欲しいままに走り続けたから、私の後ろには誰もいないつまらなさしか残らなかった。だから誰でもいいから負けてみたい」

 

ナリタブライアンが食いついた。

 

「ならば、お前の願望を私が叶えてみせる」

 

「はっ、枷というハンデを背負った私を圧倒してから言え。今はまだ役不足だナリタブライアン」

 

「・・・・・待っていろよ。お前を最初に勝つのはこの私だからな」

 

「期待しないで待っている。お前ならその可能性があるから当然だ」

 

戦意の炎を燃やすナリタブライアンの背後に虎が、上から見下ろす龍を背負う赤兎の図が出来上がった光景を見せつけられるトレーナー達。

 

「ライバルの誕生だな」

 

「一方的な、という意味でね。それよりも大丈夫なのレースに出させて」

 

「どういうことかなおハナさん」

 

赤兎へ目を配らせる東条トレーナー。声を殺しつつ沖澤に告白する。

 

「記録で見た限り他のウマ娘達を体当たりしながら走る力強さと豪快さをウリにしているけれど、赤兎が出る中国のレースはたまに負傷者が出てるわ」

 

「ウマ娘同士が身体をぶつけ合う、ぶつかることは他意だろうが故意だろうがレースでよくある事だ。レース中に明らかな敵意での暴力、妨害をしなければ問題はないし赤兎がそんなウマ娘ではないだろうさ」

 

「随分と楽観的ね。放任主義なあなただから彼女のようなウマ娘に目を付けられたんじゃない? 完全に舐められないよう気を付けなさいよ」

 

「ご忠告どうもありがとうおハナさん」

 

「それとたまに彼女を模擬レースに借りさせてもらうわ。次は短距離でタイキシャトルと、いいわね」

 

抜け目がない相手に肩を竦めるだけで何も言わない沖澤。百害もなければ一理もないが、合否は赤兎に任せるだけだから。

 

「赤兎、一つ聞いていいか」

 

「なんだ」

 

「模擬レースの最後の走りは本気だったか?」

 

鳥のように飛んで走る赤兎の後ろ姿を見た時は目を疑ったナリタブライアン。密かに気になっていたことを聞くと意味深な笑みを浮かばれた。

 

「真剣に走った」

 

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