こんにちは岸辺露伴至上主義の生徒よ   作:極丸

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こんにちは岸辺露伴至上主義の生徒よ

 岸辺露伴。

 それはジャンプの大人気漫画、ジョジョの奇妙な冒険第4部に登場する人気キャラクターであり、僕の憧れの人である。

 僕が漫画家の道を目指したのも彼の存在が大きい。彼は偉大な漫画家だ。それは今でもそう思う。

 漫画に対する圧倒的なまでの情熱。真摯な姿勢。命を削り漫画を描いていると言っても過言ではないそのあり方に僕は創作物と分かっていながら感動を禁じ得なかった。

 こうありたいと言う思いは年々強くなっていき、やがて漫画家を続けて十数年が経過した。

 

『すいませんが、今回も最終選考には……』

『そ、そうですか……』

 

 もうすっかり老け、岸辺露伴よりも年上になり、現実を見続けた。辺りはアニメキャラなんかを尊敬するからそんな惨めになるんだよなんてニュアンスのことを言っていたが、それでも僕の中の憧れは消えない。

 漫画が憎いと思ったこともあった。どうして自分はこんなに惨め何だろうと考えたこともあった。

 しかし、それでも僕の中の岸辺露伴という男の名前は消えない。たとえこの身が朽ち始めても、その思いは消えずにいるだろうとどこか他人事のように考えていた。

 

『早く手術の準備を!』

『駄目です!心拍数低下!レッドゾーンに突入します!!』

『輸血パックはまだか!?』

『先生!心拍数がさらに低下!もう一時を争います!』

『分かっている!吉田さん!聞こえますか!!吉田さん!!』

 

 遠くの方から僕を呼ぶ声が聞こえる。

 ああ、これが急患が運ばれてきたときの病院の様子か……これは漫画に落とせそうだ。しかも僕が急患で運ばれるとは、この心境は他に代えがたい経験だ……メモしておかないと、忘れそうだ……。

 

『……………………心肺停止を確認。午前8時54分23秒』

 

 急に静まり返ってどうしたんだい?早く続けてくれ。あの様子はしっかり記憶に残しておかないと……

 あれ?手に力が入らないな……目も霞んで……そうか、これが……

 

 

 

 

 

 死ぬ感覚か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は!」

 

 目を開けると僕はバスの中に居た。通勤ラッシュの時間帯の真っただ中というべきか、見事な込み具合の中、僕は幸運にも席に座れていた。

 

「これは……」

 

 おかしい。僕はついさっきまで腹部に出血をしていたはず……それに、場所は緊急病棟のような場所の筈だ。こんな和やかなバスの車内では断じてない。

 車窓から外を眺めると、僕の顔が反射する。顔も若返っていた。あの時の僕は30代後半だったはず。それが今や10代中盤程度にまで年が若返っている。

 

「どういう事だ……?これは」

 

 疑問が尽きない。訳が分からない。あまりにも()()()。これは……

 

「漫画に使えそうだ…………!!」

 

 自然とその言葉が口から漏れ出た。岸部露伴ならどうする。この状況下、どう行動する?絶対にこんな体験を彼は逃さない。インプットのチャンスに落とし込む。ならば僕もそれに倣う。

 僕は岸部露伴に焦がれているのだから。

 

 僕はカバンからメモ帳を取り出す。早く夢でもいいからこの状況をメモしておかないと。漫画では非常に陳腐な状況だが、実際に体験できたとなれば、その状況は非常にリアリティを持たせることが出来る!逃さない手はない!

 

「交通事故に合って意識を失い、その後目が覚めたと思えば見ず知らずのバスの中にいた……記憶を持ってはいるが、それはあくまで僕が『吉田浩介』だった頃の記憶でしかない。肉体は10代ほどに若返っているが、辺りの状況に覚えはない……乗っているバスの進行ルートに覚えはない。そもそもこの体は『僕』の体なのか?非常に酷似した『誰か』の体の可能性も捨てがたい。『若返り』とも『憑依』とも取れる異常な状況下にいて……」

「ちょっと、あなた!席を譲ってあげようと思わないの!」

「ん?」

 

 今後漫画の参考にするためにメモを取っていたら、そんな声が聞こえてくる。そこにはシルバーシートに堂々と座る僕と同年代くらいの、にしてはかなりふてぶてしい顔をした男子と、少しばかり気難しそうなOLが居た。見た所、ご老人が居るので席を譲ったらどうかという口論になっているようだが、どうにも同世代の男子の方は聞く耳を持っていない様だ。

 

 

 

 ここであの時の僕だったらどうした……確実に知らず存ぜぬで聞き流していただろう。だが、もう死んだと考えていたあの時から僕はどういった訳か生き残った。ならば……

 

 

 

 憧れではなく、目標として生き抜いていこうじゃないか。岸部露伴を目指して。

 第二の人生ならば、第一の人生の書き写しはまっぴらごめんだ。だったら、漫画のような人生にする為にも、行動してみよう。ほんの数分前までの自分が嘘のようだが、変わるのにタイミングは重要じゃない。変わるのは今なんだ。明日は今なんだ。

 そう胸に誓って僕はシルバーシートの方に歩み寄る。

 いつの間にか自動世代の女子も居たが、今はそれどころじゃない。

 

「ちょっといいかね君?」

「おや?まさかボーイも席を譲れなどと戯言を言う気かね?」

「いやそうじゃない……」

 

 漫画のモチーフ探しで忙しいんだ。

 

 

「君はどうしてそこまで席を譲らないのか気になってね?途中から話を聞いていたから君の言い分を聞いていなかったんだ」

「聞いてどうする?そこのレディと何が違うんだい?」

「違うさ。圧倒的にな。僕は漫画の題材が欲しいと思っていたところなんだ。君みたいな異質な考えには興味がある。その『老人にはシルバーシートを譲る』という考えから真っ向に反論する姿勢は非常にマンガらしい」

「漫画?」

「ちょっと!あなた何を……」

 

 丁度いい。ここいらで意思表示と自己暗示のために自己紹介でもしておこう。

 

「僕は吉田浩介。漫画家志望だ」

 

 

 

 

 

 

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