色竜と少女 作:ルーラララ
「……負ける、訳にはッ、いかんのだ!おおおお――!!」
壮年の男性が斬りかかる。それは気の遠くなるような時間をかけて身にに染み付かせたのであろう、流れるような動作。地面に沈む自分のかつての同僚を踏みつけないように、気をつけながら男は剣を振るい――。
それ軽く避けながらローブを纏った男は鼻を鳴らした。
「はっ――自分の為か?仲間の仇か?それともなんだ……正義の為か?」
「そうだ、と言ったら貴様は笑うのだろうな!だが、私にとっては国に生きる者達全てが大切な民だ!いずれ貴様らはその平穏をも壊そうとするだろう!だからこそ、ここで私は――」
胴斬りから大きく上に剣を振りかぶる。そして叩きつけるように剣が振り下ろされ――そのまま地面へと落ちていった。
ワンステップ。それだけで壮年の男の半生は無に帰した。
「――つまんねぇな」
「ッ……」
心臓を一突き。手元に隠された短剣で貫かれた、年期の入った臓器は、血を噴き出しながら
ゆっくりとその動きを止めた。
男は流れ出る血を避けるように手を離す。そして一息つくと、壊滅した辺りの町並みを見渡した。
「あー……師匠もやりすぎだぜ、こんなチンケな町一つにこんな時間をかけて……――あん?なんだ、お前……」
男はふと後ろに気配を感じ咄嗟に振り向く。そこには、絶世の美少女がいた。
澄んだ銀髪に、煌めく金の瞳。男なら、いや、女であっても思わず振り向いてしまうほどの美貌を持った一人の少女。
だが、男が意識を奪われたのはそこではない。
男は『師匠』から他人の魔力の量と質を感じとる訓練を行わされている。これは集中力を必要とする関係上常に行うことは難しいが、師匠のスパルタにより男は難なくそれを行える領域まで至っていた。
そして、だからこそ目の前に立つ少女の化け物具合が分かる。
「……よく戦いましたね、名も知らぬ老兵。その勇姿を貶す者もいるでしょう……ですが、私はその姿勢を評価します」
「……はん、お優しいこって」
男は少女がうつむき死んだ老人に弔いの声をかけているのを確認すると、こっそりと腰から市販の短剣を取り出し、毒を垂らした。短剣が脆くなる前に勝負を決めなくてはならない。これもケチッた自分のせいだが、そもそも毒があまり在庫のある品ではない。使いたくはないが、恐らくこの少女は自身の手には負えない。
魔力量とその第六感とも言える感覚からそれを悟った男はここから逃げ出す事を考える。
(……貴重とはいえ毒は毒だ。ここまで魔力が多い奴に効くとは思えねえが、警戒させることはできる。隙も作れるはずだ。情もあるようだし人質も効くだろう……生き残りは――)
――ゾクッと背筋が凍った。冷や汗が額から流れ、息が詰まる。ドクドクと心臓の鼓動が早まるのを感じる。
その元凶は明白だった。透き通るような声が辺りに響き渡る。
「――そうですね……今回私達は相当な被害を受けました。町一つ分です」
莫大な魔力が、あふれでる濁流のように渦巻いていた。己のそれと比べて、池と大河を連想するほどに開き開いたその差に、男は思わず冷や汗を流す。
「……そうか。だがこっちもこれが仕事なんでな……謝罪なんてもんするつもりはねえぞ」
「とても心が痛みます。憂いの感情に押し潰されそうです――ですが、ここでその感情のまま動いても、それは永遠と抜け出すことの出来ない輪廻のようなものになってしまいます。そう思いませんか?」
言っていることがおかしい。だが、今男はそれを聞くしかない。逃げ出す隙を少女は与えようとしないのだ。
そこで男は近づいてくる『気配』に目を細めた。
心の中でほくそ笑むと、それを表情にでないよう圧し殺し同意を示す。
「……ああ」
「ええ、ええ。ですよね?恨みの連鎖は途切れぬ物。ですから、私は今回は貴方方を――見逃しましょう」
だが近づいてくる者の事も忘れる程に、少女の放った言葉は強烈だった。
……今、少女はなんといった?
「……は?」
「聞こえなかったのですか?『今回は見逃しましょう』と私が、そう――……え?」
光が上空から照らされる。影が短くなったことでそれを悟った少女は、上から落ちてきた『太陽』に目を見開き――ジュッという音と共に、その中に姿を消した。