Re:ゼロから始まる弾かれた王様の異世界生活 作:アーロニーロ
「ちょっと、どうしたのいきなり。まだ、中で貴方の友達が戦って」
「いいからこの場から離れるぞ!ここでもまだ巻き込まれかねない!」
ロム爺を抱えるエミリアがスバルを必死に止めようとするがそれ以上の必死さでスバルは答える。知っているからだ。前回のループでシガイの脅威を、アーデン・イズニアという男の強大さを。意中の相手にロム爺を背負ってもらっているという段階で既にスバルのメンタルはボロボロだが、それでも死んでほしくない一心でこの場ならなんか引き剥がす。盗品蔵から50メートルほど離れたが未だにスバルは安心しきれなかった。すると、
「此処だ!って、なんでにぃちゃんが盗品蔵の外にいんだよ?」
「君はスバルじゃないか。それに貴方は」
「ラインハルト!」
スバルが顔を上げるとそこにはスバルが知る限り英雄と呼んで差し支えのないほどの存在がそこにはいた。フェルトの連れてきた最高の助っ人に思わず呼ぶ声に喜びが混ざる。
「そうだよスバル。さっきぶりだね、遅れてすまない」
「へへ、走り回ってたらよ。貧民街を調査して回る変わり種の騎士様がいてよ。どーだ、凄いだろ?」
「ああ、フェルト!お前って奴は最高だ!」
スバルがラインハルトの名を呼ぶとラインハルトが申し訳なさそうに薄く微笑む。そんな様子を見ながらフェルトは自慢げに胸を張り、そんなフェルトをスバルは手放しに褒めた。
「ちょっと待て。オッチャンは?アーデンのオッチャンはどこいんだよ?」
「アーデンは盗品蔵の中で俺たちを逃すためにあのサド女を足止め中だ!」
「ちっ、やっぱり、逃すための口実だったんじゃねか。おい!騎士様よ!」
「ああ、わかってる。君に求められた救いの声に答えよう」
そう言うとラインハルトは盗品蔵へと足を進める。すると次の瞬間、すぐにその場から飛び退いた。理由は単純だ。ラインハルトの全身に言葉にできないほど不気味で禍々しい威圧に似た何かが盗品蔵から溢れ、心なしか周りの空間の明るさが一段階失われたように思えたからだ。そして、それを感じたのはラインハルトだけではなかった。
「んだよ……。これっ!」
「周りの…… 大気中のマナがそっぽ向いて…逃げていく。何が起きてるの?」
「ああ、くそ。始まったッ。大丈夫だよなぁ、おい!」
フェルトは貧民街では一度も感じたことない悪寒に恐怖しながらも気丈に振る舞い、エミリアは小刻みに浅い息を繰り返し、苦しげにまるで高熱を発した病人のようになる、スバルは寄りかかってくる銀髪の少女をわたわたと慌てながら支えると同時に前回での戦闘と今回の行きで説明されたシガイの脅威を再確認させられた。そして、ラインハルトは。
「ラインハルト。何してんだ?お前」
腰に差している爪痕の刻まれた龍剣を抜き上段に構えていた。スバルは初め剣の美しさに見惚れていたが剣に纏うただならない雰囲気にすぐに正気に戻りラインハルトに問いかける。それでもラインハルトは答えず張り詰めた表情で剣に自身のオドを収束させる。力を込め始める。それを見たスバルは焦り始める。
「おい!ラインハルト!聞けって!おい!まだ、中にアーデンの奴がいるんだ!頼む聞いてくれ!」
アーデンの名を聞き正気を取り戻したラインハルト。だが、遅かった。ラインハルトの掲げた剣は先程の力強さは無くなったが振り下ろされる。そして、剣に内包された膨大なまでの魔力と斬撃は破壊の意思を伴って盗品蔵へと突き進んだ。
◇
白い極光がエルザを包み込むのを見届けると自身が少しはしゃぎすぎたのだと諭される。それと同時に相変わらずなんて威力と思わされた。
実際、あれを食らっていたら割とヤバかったのだ。剣聖の一撃、しかも龍剣には元々いた世界とは別の或いはアーデンの世界と同じ剣神の加護がこれでかと込められていた。アーデンの体質の都合上、他の六神ならばまだしも剣神の攻撃は自身の命までは届かずとも再生にそこそこの時間が掛かるほど十二分に効く攻撃なのだ。内心、冷や汗をかきまくりながら文字通り跡形も無くなったエルザに冥福を祈る。すると、
「アーデンさん!アーデンさん!無事なら返事してください!」
スバルの声が貧民街の夜の空間に響き渡る。声音から相当焦っていることが窺える。
「おーい、生きてんぞぉ!」
それを聞いたアーデンは同じように声を張り上げて叫び生きてることを告げる。
「よかった!無事だったんすね!」
「まぁね、何今の一撃?援軍にしては随分と手荒いけど」
「無事かい!?アーデン!?ああ、本当にすまなかった!」
こちらに駆け寄ったスバルの安堵した呟きの後にラインハルトが心の底から申し訳ないといったような風に謝罪してきた。会って間もない関係ではあるが、ラインハルトは責任感の強い人間であることは前回と今回でよく理解している。それにシガイを感じたのであればアーデンからしてみてもラインハルトのしたことは正しいことであると断言できた。
「いいっていいって」
「だが!」
「でももだってもだがもないの俺がいいって言ってんだからいいんだよ。それに俺がお前ならそうしてたし誰だってそうしてただろうよ」
「アーデン、君の寛大な心に感謝する。ところで気配の主は?」
「さっきの一撃で消し飛んだよ。ヤッベーなアイツ、『腸狩り』っつったか?初めてだぞあんな禍々しい威圧感」
「僕もだ。取り敢えず倒せて何よりだよ」
アーデンの言葉にえっ?と言いたげなスバルを無視しつつ適当に話を進めようとするアーデン。ラインハルトはアーデンの言葉に感謝していると遠くから二つほど足音が聞こえるのがわかる。咄嗟に構えようとするがラインハルトによって止められた。
「オッチャン!」
「フェルト、お前だったのか!なんだよ驚かせんなよ!後、ありがとなぁ助けてくれてよぉ」
「いや、うちの蔵を吹き飛ばすことは助けたとは言わねぇだろ……。それにあんた遠回しに死にかけてただろ」
「終わりよければ全てよしってね。死にかけたのは事実だが、助かったのもまた事実だ。だから、ありがとさん」
そう言うとフェルトは感謝し慣れていないのか顔を赤くしながらそっぽ向いた。その様子を見てアーデンは少しだけ微笑ましくなった。すると、奥から銀髪の少女————エミリアが現れた。
「ほら、行けよスバル」
「ええっ!?」
「行かねぇの?」
アーデンの問いにまごつきながらも駆け寄ろうとするスバル。その様子を見てやはり惚れてるな?と思いながらニヤニヤと笑う。すると、悪寒がした。これは嫌な悪寒だ。これがある時にはいつも不測の事態に陥っていたから。悪寒の元に目を向ける暇もなく叫ぶ。
「「スバルッッ!!」」
ドガッッッッッッッッ!!
アーデンとラインハルトの叫び声と同時に廃材が跳ね上げらる音が響きその下から黒い影が出現する。影は黒髪を躍らせて、血を滴らせながらも力強く足を踏み出し、加速を得る。
ひしゃげたククリナイフを握りしめ、無言で疾走するのは流血するエルザだった。それを見たアーデンとラインハルトは目を見開く。互いに生きてるとは思えなかったからだ。そして同時に両者ともにあることが頭によぎる。
(あ、駄目だこれ。間に合わねぇ)
全力を出せばアーデンもラインハルトも余裕を持って間に合う。だが、それは
「狙いは腹ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
スバルだ。
スバルは叫びながらエミリアを突き飛ばすように庇い、いつのまにか持っていた棍棒を引き上げ、とっさに腹の上をガードする。直撃した瞬間、スバルの体が衝撃で地から足が離れ世界が百八十度回転する感覚を、血を吐きながら味わった。
ぶっ飛んだスバルを見ながら、エルザが悔しげに舌を鳴らす。アーデンとラインハルトはすぐさま仕留めるべくエルザに駆け寄る。すると
「————アーデン。貴方とは必ず」
この場から去る前にエルザはアーデンを見てそう呟くと屋根を踏み、身軽に建物を飛び越える。アーデンは二度と来んなバーカと言うと、これ以上追いかけても意味がないことを理解している二人は別の方向へと駆け寄る。
「ご無事ですか――」
「大丈夫?」
「私のことはどうでもいいでしょう!? それより……」
端正な顔に焦燥感を走らせるラインハルトと少し気の抜けた声で心配するアーデン。二人の言葉を振り払い、エミリアふらつく足を無理矢理動かして壁際に逆さまに倒れているスバルの側へ向かう。
「ちょっと大丈夫!? 無茶しすぎよっ」
「お、おお……ら、楽勝楽勝。あそこってば無茶する場面だろ?動けんの俺しかいねぇし、あいつがとっさに狙う場所もこっそり当てがあったし」
心配そうに顔を寄せてくるエミリアに手を掲げ、スバルは一撃をもらった腹を軽く撫でる。乾口を叩けるあたり無事であることを悟ると全員がホッと息を吐く。それを見たスバルは体を捻り逆さまの体を元に戻すと立ち上がる。
「すまない、スバル。さっきのは僕の油断だ」
「いやマジであれで生きてるとか反則だろ、って言っても言い訳にしかならんよな?」
「二人ともタンマタンマ! そっから先は言及無用だ。こんだけ色々ともったいぶったんだから、そこの部分を他人に委ねちゃ俺が報われん」
謝罪を口にしかけるラインハルトとアーデンを制止して、押し黙る彼にスバルは笑みを向ける。スバルはそう言うがバケモノクラスの人間が二人もいて不覚をとったこと自体が割と恥なのだからアーデンとしてはあまり受け入れがたかった。スバルはそれからゆっくりとした動きで振り向き、自分を見上げる銀髪の少女と視線を合わせた。
「あー、そのなんだ。無事か?」
「それはこちらのセリフなのだけど……。でも、うん。おかげさまで」
「そうか……。いや、マジでよかった〜。……んじゃまあ早速!俺の名前はナツキ・スバル! 色々と言いたいことも聞きたいことも山ほどあるのはわかっちゃいるが、それらはとりあえず置いといて聞こう!」
「な、なによ……」
「命の恩人である俺。それに助けられたお前、そんなら相応の礼があってもいいんじゃないか? ないか!?」
「……わかってるわよ。私にできることなら、って条件付きだけど」
「なぁらぁ、俺の願いはただ一個だけだ」
指を一本だけ立てて突きつけ、鬱陶しいことこの上ないほどそれを強調。そのあとに指をわきわきと動かすアクションを付け加えてエミリアを引かせ喉を鳴らして悲壮な顔をさせてラインハルトを苦笑いさせ、アーデンを爆笑させるほど気持ちが悪かった。気づいてないのか気にしてないのか周りの声を無視してスバルはエミリアに告げる。
「君の名前を教えてほしい」
呆気にとられたような顔で、少女の紫紺の瞳が見開かれた。しばしの無言が周囲を支配し、決め顔を維持するスバルは静寂の中でかすかに震える。少しだけ自身の言葉が気障ったらしかったのではないかと思ったのかスバルの頰が少しだけ赤くなる。アーデンはそれを見てニヤケはしたものの茶々はいれなかった。
「ふふっ」
綺麗な銀鈴のような笑い声が夜の帳に響く。その笑い声には嘲笑は一切含まれておらずただただ、純粋に楽しいから笑った。それだけの微笑みだ。
「――エミリア。ただのエミリアよ、私を助けてくれてありがとう」
「エミリア、ああ、エミリアか。ああ、まったく、わりに合わねぇ」
エミリアの言葉にスバルは目頭を熱くしそう呟く。そして涙から少しだけ不細工な形にだけれども満面の笑顔で笑い返した。
アーデンには1回目のループでスバルとエミリアの間に何があったかなどわからない。全く二人とは関わっていなかったから。そしてそれは1度目の世界線はアーデンとスバルしか知り得ることのできない泡沫の夢なのだろう。名前を聞く。ただ、それだけのために文字通り死ぬほど足掻いたスバルは馬鹿と言われてもおかしくはない。それでも理由なんて単純である程良い「自分がそうしたいから」余計な言い訳なんてモノは後から幾らでも付いて回るのだから。スバルの場合はエミリアの名を聞きたいと言う後に助けたいと願えたのだろう。そんな2人を見てどこか懐かしく思えながらも取り敢えず声をかけることにした。
「にしてもスバル、よく無事だったなぁ?」
多少空気を読めずともこのまま純愛劇を目の前で見せつけられるといい歳したアーデンからするとむず痒くて仕方なかった。
「そいつでとっさにガードしたかんな。それがなきゃ、今頃は胴体真っ二つだ」
「そうかぁ、これがなければ」
そう言いながらスバルはそばに落とした棍棒を持ち上げると、
「あれ」
その手の中で、棍棒は滑らかな切断面を見せながら鈍い音を立てて落ちた。真ん中で二つに切り落とされ、その役目を完全に終えている。ゆっくりと、ラインハルトがスバルの方を切なげな目で見た。アーデンは顔を引き攣らせながらスバルを見た。ここから先の展開は割と簡単に予想がついた。
「凄えなスバル、ギャグ漫画みてぇだ」
「そんなこと言わないで……」
スバルの腹部が横一文字に裂け、大量に鮮血が噴出。
「――ちょ、スバル!?」
すぐ近くで、エミリアの切羽詰まった声が聞こえる。『エルフって焦り顔も可愛いのね』という遺言かなにかと聞き質したくなるような言葉と共にスバルの意識は暗闇に沈んだ。
◇
淡く輝く青い光――癒しを司る、美しい水の波動が夜を照らす。スバルのために懸命にエミリアの治療が今も行われている。そんな傍でラインハルトは憂に満ちた顔で自身の至らなさを嘆いていた。すると、
「あんまり気負うなよラインハルト」
いつの間にかすぐ側に来ていたアーデンがラインハルトに声をかけて慰めた。アーデンにはラインハルトの内心が手に取る様にわかっていた。大方、スバルの負傷は自身の慢心が生んだ隙に乗じられたものでスバルは負うべきではない傷を負い、そしてエミリアにはかけるべきではない負担をかけてしまったと嘆いているのだろう。
「それでもだ、アーデン。僕は騎士だ。皆が見習うべき模範なんだ。守らなければ「守らなければ意味はないって?オイオイ、そいつは傲慢ってもんだぜ?ラインハルト」……なんでだい?」
「いいか?この世界に完璧は存在しねぇんだよラインハルト。当然守れなかったのだって俺も反応できなかったんだから反省している。なら次はこの経験を生かせ。見た、知った、聞いてはいねぇがならば後は次も同じようなミスをしねぇだ」
「だが「だが、じゃねぇよ。ようは嘆いてる暇あったら次に生かすように思考を回せってこった」…わかった。確かに君の言う通りだ」
そう言うとラインハルトは前を向く。未だに憂は晴れないがそれでも先程よりはマシになったようにアーデンには写った。すると、青い光が止む。
「――よし、これで大丈夫」
ラインハルトとアーデンの鼓膜に銀鈴のような声が届く。
「お!終わったっぽいな」
「そのようだね」
額を拭うような仕草をして、壁に寄りかからせたスバルの前髪を軽く払い、その顔に赤みが差しているのを確認。立ち上がるエミリアは「うん」と納得の頷きで振り返り、
「治療は完了。――どうにか、峠は越えたでしょ」
「それはなによりです。申し訳ありませんエミリア様。此度の一件、全ては私の不徳のなすところ罰はなんなりと」
満足げなエミリアに足早に歩み寄り、ラインハルトはその足下に膝をついて頭を垂れ立てた膝の前には腰に預けていた剣を置き、ラインハルトは己の失態を謝罪する。所作ひとつひとつによどみのない、完璧に礼式に則った姿勢にアーデンは口笛を吹く。
しかし、そんな彼の謝罪に対して、それを向けられたエミリアは、
「そういうところ、よくわからないのよね」
「は?」
「危ういところに助けにきてくれて、こうしてどうにか全員が無事に片付けられた。それなのに、その間の苦労や痛みの責任まで全部抱え込もうとするんだもの」
立てた指を振って、どこか少し不満げに銀髪の少女は唇を尖らせる。それから立てた指をふと、安らかな寝顔を浮かべているスバルの方に向けて、
「あの子の方がよっぽど素直じゃない。助けてやったんだからお礼を寄こせ、って言ってきたぐらいなんだから」
「それは確かに」
名前を教えてほしい、なんて本人は自覚してないが完全に口説き文句だよなぁ、と思いながらくつくつとアーデン笑う。それに釣られるようにラインハルトも唇も綻びかける。エミリアはふっとその紫紺の瞳を細めて、
「助けてくれてありがとう。――私があなたに言うのはそれだけよ」
「――わかりました。そのお言葉、ありがたく」
さらに深く頭を垂れ、敬意を表してからラインハルトは立ち上がる。
「くく、一本取られたなぁ。ラインハルト」
「ああ、全くだよ。アーデン」
立ち上がるラインハルトにアーデンは笑いながらそう言うと苦笑いしながらラインハルトは答えた。アーデンはふとあることを思い出す。
「おら、フェルト出てこい」
その声と共におずおずと気まずそうにフェルトがでてきた。それを見てエミリアは「あ」と声を出すと思い出したかのようにフェルトに詰め寄る。
「怪我はない?」
「は?」
「だから、あそこにいるお爺さんもあなたも怪我はないって聞いたの?」
予想外の一言にフェルトは呆気に取られる。実際、アーデンも呆気に取られた。少ししてフェルトがため息を吐くと手に握っていたものをエミリアに差し出す。
「これって……」
「すげーきつくくるかと思ってたのに心配されちゃあ盗人としても人としても完敗だよ、ねぇちゃん。それに命を助けてもらったんだ。恩知らずな真似はできねー。盗ったもんは返す」
そう言うフェルトのことを見た後にエミリアはラインハルトに視線を向ける。
「ここはどういう扱いになるの?」
「付近はしばらく立入禁止にして、しばらくは『腸狩り』の手配書を出します。後ろ暗い噂の絶えない人物なので、無駄骨になる可能性の方が高いですが」
「あの女の子や、お爺さんは?」
「……事情はわかりかねますが、彼女やあのご老体のやっていたことは自分の職務上、見逃すことはできない部類であるかと。ですが」
間を開けて息継ぎ、ラインハルトは小さく肩をすくめて、
「自分は今日は非番でして。付け加えて、被害者が被害を訴えない場合、証拠不十分でこれも難しい。はは。いえまったく、事情はわかりかねますが」
「ふふっ。悪い騎士様ね」
「この短い間にスバルとアーデンに毒されたかもしれませんね」
エミリアとアーデンのやりとりを見ながらアーデンはこの2人のお人好し具合に苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「2人がお人好しなのはよくわかったから。おら、早く受け取れよ。大事なら二度と盗まれんじゃねぇぞ」
「オッチャンの言う通りだぜ、ねぇちゃん」
「盗人にそう言われるのってすごーく納得できないのだけど……。盗みはやめらんない?」
「無理だろ。最悪、フェルトの貧相な体を売るしかねぇぞ」
「貧相は余計だ!」
フェルトの怒鳴り声を無視してた後に、もう一度貧民街を見渡すアーデン。貧民街と1度目のループで三馬鹿から聞いた貴族街といい光と闇の差が激しい国であることを再確認させられる。痛ましげな顔で見てくるエミリアにバツが悪そうな顔しながらフェルトは徽章を返す。すると、
「――え」
「ラインハルト……?」
ラインハルトが徽章を握る少女の手を、横合いから掴み取っていた。突然の出来事に当事者2人だけでなくアーデンまでも目を見開き驚く。
「オイオイ、ラインハルト。フェルトは確かに美形だ。それでもせめて後10年、いや8年は待て。そうすりゃあさらに美人になるぞ」
「すまない、アーデンはしばらく黙っていてくれ。……君の名前は」
アーデンのジョークも受け流せないほどラインハルトはまるで余裕がなくなったかのように焦り始める。そんな様子を見てエミリアとアーデンは困惑し、その間にラインハルトはフェルトから名前を聞きただす。
「ふぇ、フェルト……だ」
「家名は? 年齢はいくつだい?」
「こ、孤児だぜ? 家名なんて大層なもんは持っちゃいねーよ。年は……たぶん、十五ぐらいって話だ。誕生日がわかんねーから。っつか、放せよ!」
話している間にいくらか調子を取り戻し、乱暴な口調で少女は暴れる。が、ふいにフェルトの体勢が崩れる。言葉尻も怪しく肩の力が抜け、少女は最後に恨めしげにラインハルトを睨みつけながら意識を飛ばした。
「———アーデン。すまないが武器をおろしてくれないか?」
「無理だね。今まさに誘拐が起きかけてるんだから」
アーデンは至極当たり前な正論を展開しながらなまくら剣をラインハルトに向けていつでも攻撃できるように準備する。最悪、『武器』全部を披露することを視野に入れながら構えているとラインハルトと目が合う。その目には一切の不純な動機はなくただ使命感に似た何かを感じた。これを見たアーデンはラインハルトの意思が梃子でも動かないことを悟るとため息を吐いて剣を下ろした。
「すまない」
「早く行けよ。俺の気が変わらないうちに」
「ありがとう我が友よ信じてくれて。エミリア様もまた近いうちに呼び出しがあるかと思われます。ご理解を」
ラインハルトは気障ったらしく礼を言うと意識のない少女の手から徽章を優しく奪い、エミリアに対して差し出さと同時にその場を後にする。エミリアに反応するかのように徽章が輝くのを見てアーデンはこの代物の厄介度であるという認識を思い出す。すると、
「ねぇ、アーデン」
「ん?」
「良ければだけど私と一緒に来ない?」
エミリアからお誘いを受けた。初めは何を言ってるのか理解できなかったがエミリアがお嬢様であることをアーデンは思い出した。
「ああ、お願いできる?生憎と宿無しの文無しでね」
「絶体絶命じゃない……」
スバルを担ぎながら飛んできたアーデンの一言に戦々恐々するエミリア。そして、誘われるがままついていくと、
「なにこれ?」
「竜車よ?知らない?」
「知ってるよ?え?まさか、そこそこ遠い?」
「えっと、急いでまる半日くらいかな」
それを聞くとアーデンはため息を吐き竜車と呼ばれる乗り物で寝ることを決意した。
次の話は早く書けそうです。