Re:ゼロから始まる弾かれた王様の異世界生活 作:アーロニーロ
今回は普段よりも短めです。今更ですが評価、お気に入り登録してくださった皆様ありがとうございます。今後ともどうぞよろしくお願いします。
「それで、私は今代の王を選ぶ王戦と呼ばれる参加者に選ばれたの」
「ハハ、スゲェなエミリアは」
眠れませんでした。何度、どうでもいいから寝かせてくれて叫びそうになっただろう。恐らく相手が飽きさせないように気遣っているのだろう。前回と今回のことを考慮すればエミリアという少女の善性を疑うものではないと理解できる。だが、それでも人によっては沈黙が幸せであるということまではこの少女は知らないのだろう。これを機会に学んでほしい。鬱陶しく思いながらも家に泊めてもらう身としてはそんなことも言えず地獄が続く。すると、
「ね、ねぇ」
「…何でしょうか?」
「あ…い、いえ。そのね、さっきの話、聞いてたでしょ?私みたいなハーフエルフが王選に出るって聞いてアーデンは何か思うことは無いのかなって……」
不安そうにそして探るようにそう言ってくるエミリア。先程の戦闘やラインハルトとの会話では見られなかった弱気な態度に少し驚きながらも人種差別という単語が浮かぶ。そして、彼女もそんな風潮という荒波に飲まれて過ごしていたのだろう。アーデンとて迫害させていた身としてはそのような感情は理解できる。だが、
「どうでもいい」
「え?」
「どうでもいいって言ったんだよ」
この答えは一切合切何も隠してはいなかった。実際、どうでもよかった。二重の意味で。
「え、でも、私、ハーフエルフ」
「で?」
「だから…」
「王様を目指すのも悪いってか。お前は俺に害をなしたか?してねぇだろ?別に俺は1悪ければ10悪いなんて考え方してねぇよ。お前が優しい奴なのは知ってる。なら、種族が理由で恐る理由にはならねぇよ」
「でも……」
「でも、じゃねぇ。差別は嫌なんだろう?区別されんのは壁を造られるのは」
アーデンがそう言うと何かを思い出したのか俯いてしまう。普段の明るく銀色の美しい雰囲気は消えて弱々しく蹲る1人の少女がそこにはいた。
「ならお前は王になれ。ハーフエルフでも王になれると証明しろ。抗い続けて戦い続けろ。故に、世界がお前にどけ、と言ったらこう言い返してやれ『お前がどけ』ってな」
昔の俺みたいに。最後の一言は胸の内にしまいながらそう言い切るとエミリアは目を見開き固まる。その様子を見てこの国の差別ってどんだけ激しいんだよとぼやくとエミリアが微笑む。
「ありがとう。アーデン」
「どういたしまして。スバルも同じ意見だろうから聞くだけ無駄だと思うぜ?」
「フフ、そうかもね」
花の様に微笑む少女の願いが、叶うかどうかは分からない。全知でも全能でもないアーデンには知ることは出来ない。でも、少なくともここまで他者を慈しむことの出来る彼女が差別を身をもって味わっている彼女が作る国は、
「さぞかしいい国なのだろうな」
「 ?どうしたの?アーデン」
「んにゃ、なんでも。ところで竜車の速度が落ちてきたけどそろそろ?」
「ええ、到着したわ。ようこそ、ロズワール・L・メイザースが統括する土地、メイザース領へ」
エミリアにそう言われて竜車から降りる。するとそこには隅々まで整えられた庭園や、高い建築技術が施された屋敷が見渡す限りに広がっていた。かつて帝国で過ごしていた身からしても中々の広さに感じられた。
竜車を降りると大きな門がありそこには2人のメイドがいた。1人が桃色の髪でもう1人が青い髪をしていたところ以外を見るに恐らくというかほぼ間違いなく双子であると想定できる。
「「お帰りなさいませ、エミリア様」」
寸分違わぬ程揃えられた礼を見てアーデンは教育の行き届きっぷりに領主の有能さと同時にこの双子のこの職についてからの年季を知らされる。
「ええ、ただいま。早速だけれど、連絡したとおりあの子を運び込んでね」
「「畏まりました」」
肯定の意を示しながら青髪の少女がこちらに近づき、竜車の中で寝かされていたスバルを軽々と持ち上げる。少女の細腕からは考えられない膂力にこの世界の住人の身体能力は総じて高いのか、或いはこの少女がエミリア同様に亜人と呼ばれている種族なのかと考えさせられる。
が、その考えはすぐに中断させられた。
スバルを抱えてその場を去ろうとする時にアーデンとスバルの2人を見据えるその眼は、凍えるような冷たさ、猜疑心や嫌悪、憎悪などを宿していた。一瞬とはいえ帝国や王国の政治関連で悪意に晒され続けたアーデンが理解するには充分すぎた。明らかに人に向けるには大きすぎる負の感情を感じたアーデンはこの屋敷では安寧を得るのは難しいことを悟るとアーデンのテンションは一気に下がった。
「お客様。長旅のところ申し訳ございませんが、領主であるロズワール様がエミリア様を助けていただいた礼がしたいと」
声のした方に目を向けると桃色の髪をした少女がこちらに声をかけてきた。先程の青髪の少女とは違い目には悪感情が見ることが出来なかった。隠すのが上手いのか、それとも青髪の少女だけがわかる自身とスバルにある何かを感じて敵意を覚えてるのか。いずれにせよ面倒であると思わされたアーデンはひとまず警戒しながらも一休みをとるよう決心する。
「悪りぃが嬢ちゃん。本当の意味で助けようとしたのはあそこの小僧だ。礼なら2人揃ってからじゃあダメか?」
「いいえ。主人はせめて意識のある方にだけでも礼が言いたいとのことです。どうか御同行を」
アーデンは遠回しに断わるために提案したが、桃色メイドはその提案をやんわりと断った。鈍いのか或いは従順なのか、恐らくは後者であるのだろうがいずれにせよ面倒くさいと思いながらも渋々桃色メイドの提案を受け入れた。
「こちらです」
そう言うと桃色メイドは両開きの扉を数度ノックした。すると、扉の向こうから間伸びした声が聞こえてくる。まるで道化のような喋り方にアーデンは少し疑問を覚えたがすぐに思考を切り替えた。
なぜなら、桃色メイドに開けられた扉の向こうからエルザの比にならないほどのドス黒い感情が解き放たれたからだ。
あまりのドス黒さにアーデンは咄嗟に『夜叉王の刀剣』を展開しそうになるほどだった。そして疑問に覚える。ドス黒い感情の中には明らかに歓喜や切望など長年待ち続けて漸く見つけたかのような、それ程までに強く暗い内に秘めた思いだったからだ。これはかつて王国に復讐すべく奮闘し続けたアーデンだからこそ瞬時に見抜けた。そして、その感情の濃さは100年や200年では効かないほど濃かった。表面に表さずにある扉をくぐり室内に入る。
そこには文字通り道化がいた。
容姿は髪は長めで藍色。左目が黄色、右目が青のオッドアイだった。そしておおよそ190近い身長と恵まれた体格を持った男はピエロメイクで台無しにしていた。
「遠路はるばるよぉこそ、我がロズワール家へ。まぁずはエミリア様を救っていただき感謝の念しかございません」
変わらず紡がれる間伸びする口調。一見すれば軽薄な笑みを浮かべているだけの道化だが、アーデンの目には古い鏡を見せつけられている気分だった。たった一つのことに執着して足掻き続ける妄執の怪物。かつてな自身のような人間、それがアーデンにとってのロズワールに対する第一印象だった。
「いえいえ、領主様が頭を下げるようなこと俺はしてねぇよ。むしろ、エミリア殿が危機に陥るまで何もしなかったくちで」
「いぃや、それでも貴方と今は寝ている彼が助けたぁという事実には変わらないでしょう?そぉれとも、自身を貶めて他者を持ち上げる。それが貴方の美徳とぉでも?」
「クク、ご冗談を」
対話が続く。ドス黒く、場を支配しそうなおぞましい対話が。
「ああ、安心せずとも俺は間者じゃあねぇよ。最も出会って間もない貴方にそう言っても信じらないだろうけどなぁ?」
「疑うなんてとぉでもない。私は純粋に気になっただぁけですよ」
「そいつは恐れ多いなぁ。かの宮廷魔術師であると同時に此度の王戦候補者の1人であるエミリア様の後見人たるロズワール殿にそう言っていただけるとは」
「……知っていたとぉは、エミリア様は随分と不用心なお方だ」
「そう責めないでやってくれロズワール殿。なにせ
「あはぁ、そうですか。でしたらこちらにもまた責任がありまぁすねぇ。護衛をつけていたのですがぁ、まさか逸れてしまったとぉのことなので」
そう言うとロズワールはアーデンの後ろに目線を送る。そこには桃色メイドがおりだから何か?とでも言いたげな傲岸不遜な態度をとっていた。
「そうかそうか。だったら次は気をつけなきゃなぁ」
「はぁい。勿論そのつもりでぇすよ。ところで、我が陣営にとって返しきれない、多大なぁる功績を齎してくださった貴殿は──何をお望みでぇすかな?」
「あー、その件なんだが。エミリアと話し合ってあの小僧が目覚めてからってことにしたんだわ。それでいいかい?」
「もぉちろん。エミリア様がお決めになったのであれば文句の言いようがぁありませんよう」
当然アーデンにとってエミリアと決めた取り決めは建前でしかない。力のないスバルという少年を放っておいても『死に戻り』をされては困るからだ。そのためにも成長を促すために信頼関係を築き上げる必要があった。そしてこれにはもう一つ理由が存在しており仮にスバルが力をつけて『死に戻り』を使いこなせるようになれば剣聖クラスの面倒な相手に育つことはほぼ間違いないためある程度、自身との距離感を詰める必要があったからだ。
「悪りぃがここまででいいかい?流石に眠ぃんだわ」
「それもそぉですね。じゃあ、ラム。客人の個室までの案内たぁのんだよ」
「わかりましたロズワール様。では、こちらです浮浪者じみたお客様」
「君、だんだん気安くなってきたね?まあいいけどさ」
桃色メイドに案内されるまま多岐にわたる部屋の中の内の一室にたどり着く。扉を開けるとそこそこの広さの部屋にベッドと机と時計、そしていくつかの装飾品が飾られていた。
「では、お客様。そのボロ布をおとりになってベッドの上にある寝巻きに着替えてください」
「隠す気ないならタメ口でいいよ?後、割と貴重な布地で出来てるから丁寧にね?」
「ハッ、ラムに汚いボロ布持たせて言うセリフとは思えないわね」
「わぁ、変わり身早ーい」
着替えながら扉越しの会話の最中で一瞬で見下した口調に変わった桃色メイド——ラムの声を聴きながら着替え終わった服を渡す。すると、嫌な顔しながらアーデンの服を持つとすぐさまその場から離れた。アーデンはそれを見送ると前途多難な異世界ライフを想像してため息をついた後にすぐに眠りについた。
次回から原作で言うとこの2巻のスタートです。