Re:ゼロから始まる弾かれた王様の異世界生活   作:アーロニーロ

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昨日は投稿できずにすいません。そして、お気に入り1000越えしました!皆さんありがとうございます!後、今回も見ていただいた皆さん本当にありがとうございます。今後もよろしくお願いします。


サービス♡サービスゥ♡(白目)

 スバルの持ち運びをメイドに任して再度自身の部屋へと向かう。すると、

 

「ありゃ?」

 

 パーティ会場に使われそうな程の広い空間に、敷き詰められた大量の書棚、ベアトリスの管轄する『禁書庫』が目の前に広がっていた。部屋を間違えたか運が良いのか悪いのか禁書庫を当たり前のように引いた自身のくじ運の良さに、何故この運が前世界戦で活かせなかったのかと呆れながら扉を閉めようとする。すると、

 

「待つかしら」

 

 ついさっきまで話していたためか聞き覚えのある声がアーデンを止めた。

 

「なに?」

 

「さっきの礼をしに来てやったのよ」

 

「さっきの……って、ああ、あれね」

 

 さっきの、とは恐らくというかほぼ間違いなく先程のシガイを取り除いたことを指しているのだろう。恩は早めに返すのがベアトリス流なのか或いはただ単純に律儀なのかいずれにせよなんにせよもう一度ベアトリスの言う『扉渡り』を破るのはそこそこ至難の技なため言葉を甘えることにした。

 

「んじゃあ、お邪魔しますっと」

 

 そう言うと禁書庫に入りいくつか本を物色する。いずれの本もまるで新品のように新しく見えるがどこか年季を感じさせるような凄みを感じるものばかりだった。中身は絵本だったらしく龍や王様のような挿絵が随所に見受けられた。ぺらぺらと内容を一通り眺めたアーデンは何度か頷いて本を閉じると、

 

「ベアトリス」

 

「何かしら」

 

「実はさぁ、俺、この国の文字が読めないんだわ。だから概要だけ教えてくんね?」

 

「――はぁ!?」

 

 流石に予想外の反応にベアトリスもその言葉に呆れるしかなかった。実はこいつは未開の土地から来たのではと疑わしげな目でこちらを見た後に続けてはぁーっと大きくため息をつく。そして、アーデンの本をテーブルの上に置かせて、ひとつひとつ説明し始めた。

 

 どうやらこの本はこの国の成り立ちやどのような国なのか記されていたらしく、『親竜王国ルグニカ』と呼ばれ、世界のもっとも東に位置する大国。人口30万ぐらいの王都ルグニカを中心に、六茫星を描くように人口20万から30万クラスの大都市が六つ配置されているらしく。ずっと昔から王族と竜に結ばれた盟約によって繁栄を助けられてきたらしい。その後、親切にも本には記されていない半年前に王をはじめとする王族が全て病没したために王不在で、戒厳令が敷かれた状態について説明をしてきた。

 

「なるほどね、この屋敷に到着するまでの道中でエミリアから王選が行われることは聞いてたけどそんなことがあったとはねぇ」

 

「まあ、あの娘が完全に説明しなかったのには恐らくだけどこのタイミングで自身の陣地に来る人間が怪しくないか調べるためという理由があったと考えられるかしら」

 

「まあ、この王選が行われるこの時期に言語も知らない住所も身分も不定な輩が王選関係者の家にあがるんだ。そりゃあ、怪しむわな」

 

 納得するとベアトリスが不思議なものを見るまでこちらを見てくることに気がつく。

 

「なによ?」

 

「……意外かしら」

 

「ん?」

 

「普通、助けておきながら疑うなんて何事か、くらいは言うと思うのよ」

 

 ベアトリスの言い分を聞きアーデンは少しだけ得心がいったような顔をしてすぐに説明した。

 

「寧ろ、怪しんでもらって安心したよ」

 

「何故、かしら」

 

「疑い過ぎんのも良くないけど、『恩ができました。じゃあ、恩返しに何でもします〜』みたいな奴の方がよっぽど裏があるとしか思えない。仮に裏がなかったとしてもそいつじゃあ王様にはなれんわな」

 

 そう言うと目を見開くベアトリス。アーデンの言い分は辛辣だが実際に的を得ていた。正直なところエミリアは甘すぎるようにアーデンには見える。自身の重要な物をましてや王選の証である徽章を盗まれたなど他の陣営に知られれば痛手どころの騒ぎではない。故にエミリアがすべきは証拠隠滅のために身元を調べた上で存在自体を無かったことにするか或いは黙らせるだけの金を握らせるかのどちらかなのだ。

 

「……お前。思ってた以上に現実主義かしら」

 

「そう?でも、目標の夢を見すぎると前が見えなくなるからさ、俺くらいが丁度いいと思うよ?」

 

「それも道理なのよ」

 

「知ってくれてアリガトウ。ところで、俺個人としてはこの『嫉妬の魔女』だったかな?これが気になるなぁ」

 

 そう言うとベアトリスは再度目を見開く。そして、しばらくして疑わしげにこちらを見てくる。

 

「字が読めないんじゃあなかったかしら?」

 

「まぁ、読めないよ?だけど、字体の形を覚えてその形に沿って読めば解読は可能だよ?」

 

「呆れた……。お前、ここに来る前まで何をやってたのよ」

 

「んーと、わかるかわかんないけどエンジニアだよ」

 

 そう言うとベアトリスは首を傾げた。どうやらこの国にはエンジニアという職業は存在しないか別の用語で呼ばれているかのどちらかなのだろう。そんなことを考えているとベアトリスが説明を開始する。

 

 物語は400年以上も昔の事であることを。

 

 嫉妬の魔女「サテラ」が銀髪で、ハーフエルフだったという事を。

 

 他の6人の魔女を自らの糧にし、世界を敵に回した大罪の事を。

 

 賢者と龍と、剣聖の力を持って、滅することも出来なかった事を。

 

 今も大瀑布という場所に封じられている事を。

 

 アーデンは聞いていくうちにあんまり他人事とは思えない話にサテラと呼ばれたハーフエルフにはどんな裏事情があったのか気になり始めた。

 

「へぇー、とんだ『怪物』だったわけだその『嫉妬の魔女』って奴は」

 

「『怪物』というよりも『厄災』に近いかしら。只人には手も足も出すことができずただ自身に降りかかる災いが起こらぬよう祈り続けることしか許されない『厄災』に」

 

「なるほどね。あの時の2人の反応はそう言うわけだ。でも解せないなぁ。400年も時間が有れば恐怖は薄れてくもんだ。人間誰しも熱いもんも飲みこんでしまえばその熱さを忘れてしまうもんだろ?」

 

「中々的確な例えなのよ。だけど、そう簡単に忘れられないほどの爪痕を残していったのが『嫉妬の魔女』なのよ。それに『嫉妬の魔女』を崇拝する、頭のおかしい集団が彷徨いているのも大きいかしら」

 

「ん?というと?」

 

「魔女教っていうかしら。そいつらがちょくちょく、あの魔女が封印されてる間も人々に壊滅的な程の被害を及ぼしてるのよ。……理解頂けたかしら?」

 

「十分に」

 

 新たに浮かんだ単語を脳内に保管しつつ一旦情報をまとめるアーデン。取り敢えずこの国、というかこの世界は差別感を除けば割と元いた世界とあんまり差がないことがわかった。あとは言葉やこの国に固有の礼儀作法を学ぶだけだと考えた。

 

「ありがとさん、ベアトリス。取り敢えず、歴史の生き証人に教えてもらって光栄だったよ」

 

「……どう言うこと、かしら」

 

「とぼけんなよ、ベアトリス。言葉の節々に実感がこもりすぎだぜ?」

 

 実際にそうだった。ベアトリスの語る『嫉妬の魔女』のあり方はまるで実際にその目で見たかのような実感がこもっていた。他にも六人の魔女について説明しているときに一瞬だけベアトリスの目に哀愁がこもっていたのをアーデンは見逃さなかった。当然、これらはアーデンの主観でしかないが、アーデンからすればほぼ確信めいた主観でもあった。

 

「で?そこんとこどうなのよ?」

 

「……レディに年齢を問い詰めるなんて随分と礼儀知らずなのよ」

 

「クク、確かにな。なら、今の話は無しで」

 

 そう言うとベアトリスは空間が歪んで見えるほどのなにかを消して椅子に座り直す。一瞬だけ見えた黒い本にアーデンは興味を惹かれたが今は文字の読解能力の上昇が先だと考え直す。

 

「んじゃあ、ベアトリス先生?ここからは俺のための勉強のお時間だ。よろしく頼むぜ?」

 

「はぁ、わかったのよ。あのいけすかない小僧の目が覚めたら食事が始まるからそれまでならいいのよ」

 

「相分かった。ところでどれくらいで目を覚ますの?」

 

「そうね、早くて2時間、遅くても3、4時間程度で目を覚ますかしら」

 

「了解。それまでにイ文字はマスターしてやるよ」

 

 そう言いながらアーデンはその辺にあった椅子に腰をかけると本を読み始める。それを見たベアトリスは一度ため息を吐くとアーデンの側により文字を教え始めた。

 

 遠くからその様子は本当の教師と教え子に見えたと言う。

 

 

 あれから3、4時間が経過した。そして、2人は。

 

「まさか、本当にこの短時間でイ文字を完璧に覚えるなんて……しかも、ロ文字まで」

 

「いや、まだダメだな。あくまでも字体を覚えたってだけだ。自然に書くには時間がかかる。それにロ文字に関してはイ文字とあんまり差がなかったからな。覚えるのはだいぶ楽だった」

 

 絶句した顔でこちらを見てくるベアトリスをアーデンは眉間に皺を寄せながら答える。帝国内では「政府首脳部」と「研究機関」を統轄して魔導兵の考案したアーデンにとって平仮名とカタカナであるイ文字とロ文字を覚えるのはそこまで難しい話ではなかった。すると、

 

「――呼んでる」

 

 ふいに、そんな呟きが書庫内に静かに響いた。机に向かっていたアーデンは弾かれたように顔を上げる。側にいたベアトリスが扉の方に顔を向けていた。彼女は脚立から軽やかに下りると、

 

「呼ばれているかしら」

 

 瞬間、空間が歪むような違和感をアーデンの全身は得た。浮遊感に近い感覚が全方位から体に襲いかかり、刹那にも関わらず、振り回されたような感覚に全身に気だるく蔓延する。それを見たベアトリスはバツが悪そうな顔をして謝った。

 

「一声かけるべきだったのよ」

 

「次からはそうしてくれ」

 

 頭を押さえながら立ち上がるアーデン。それを見届けたベアトリスは扉を開く。するとそこには、

 

「ベアトリス様。お食事の……あら、浮浪者のお客様までいたのね」

 

「ぷぷー、なのよ」

 

「おい」

 

「いやぁ〜、珍しいねぇベアトリス。君がだぁれかを『禁書庫』に招き入れるなぁんて」

 

 ピンクメイドのラムが毒舌を交えながらベアトリスの迎えに来ていた。アーデンを浮浪者呼ばわりしたことをベアトリスは笑い、そんな様子を見たアーデンは少しだけムッとした。すると、ピエロメイクと道化師の格好をしたアーデンとほぼ背丈の同じな男、ロズワールその人が話しかけてきたことでラムと一緒にいることに気がつく。それを見たベアトリスは見るからに不機嫌そうな顔をして答えた。

 

「そうかしら。少なくともお前をここに招いた覚えはないのよ」

 

「そぉうかい?だけど、ここは私の屋敷だぁからねぇ。部屋の出入りは私の一存できぃまるんだぁよ」

 

「ぐぬぬ」

 

 ベアトリスの辛辣な物言いにロズワールはやんわりと受け流しながら正論を述べる。それを聞いたベアトリスの悔しそうな姿を見て付き合い長さを感じさせられた。すると、ラムが鼻をつまみながらアーデンに向けて一言。

 

「臭い」

 

「は?」

 

「臭いと言ったのよお客様。流石にあれだけ汚れておきながら風呂に入らないという愚行を犯すとは……ラムですら予想外だったわ」

 

「息も注がずに毒舌の嵐だ。凄えなぁ、おい。お客様相手に怖いもん無しだな。後、笑ってんじゃねぇぞベアトリス」

 

「お客様だから、よ。本当に関係ない人間だったら指摘もせずにゴミを見る目で見送ってたわ」

 

 そう言いながら軽蔑を込めた目でこちらを見てくるラムとそれを聞き爆笑しているベアトリスを見てアーデンは自身の匂いを嗅ぐ。すると、自身でも臭いと感じる程度には匂いがした。確かに昨日は服を変えただけで風呂には入ってなかったことに気がつくと同時にこの状態で食事の場に入るのは気が引けたアーデン。

 

「風呂場どこだ?」

 

「でぇしたら。ラム、案内してあぁげなさい」

 

「いやです、ロズワール様。なんだか身の危険を感じ「お礼はぁ弾むからさぁ」かしこまりました。ほら来なさい浮浪者様」

 

 あまりの見事な手首が捩じ切れんばかりの手のひら返しに流石のアーデンも呆れるしかなかった。ため息を吐き、1、2冊ほど本を持つとラムの案内に従い風呂場に到着する。

 

「浮浪者様、こちら貴方のボロ切れであった御洋服になります」

 

「あんがとさん。後、俺の名前アーデン・イズニアだから。浮浪者じゃないから」

 

チッ、かしこまりました。アーデン様」

 

「舌打ちしやがったなぁ、今」

 

 そう言うとどこ吹く風といった様子ですっとボケた顔しながらその場を去るラムを見送ったアーデンはこの屋敷に来て何度目になるかわからないため息を吐く。そして、風呂場に入ると。

 

「おお、久々に見たな、この規模の風呂場は」

 

 大理石の床。広い天井。何十人が入っても狭いと感じそうにない巨大な浴槽。湯けむりに包まれた浴室は壁に取り付けられた明かりでぼんやりと、しかし決して暗さを感じさせずに照らされて、湯気の立つ温水で満たされた湯船には白い花弁が散りばめられていた。ライオンを模した石像からは絶えずお湯が継ぎ足されていた。

 

「早速失礼させてもらうか」

 

 そう言うとアーデンは寝巻きを脱いだ後に渡された服を置き、体を何度かお湯で流したのちに湯船に浸かった。熱すぎず温すぎないお湯は、あの騒動と長時間の移動で蓄積した疲労を溶かしていく。故に、

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛、いい湯だなぁ、オイ」

 

 この世界に来てはじめて気を抜ける瞬間に思わず気の抜けた声を出すのは何も悪くないだろう。湯船に浸かりながら至福のひと時に浸っていると後ろから扉が開く音が聞こえる。後ろに振り返るとそこには、

 

「やぁ、ご一緒していいぃかい?」

 

 腰に手を当てた全裸の貴族が無駄に御立派なモノをぶら下げて目の前にいた。天国が一瞬にして地獄に変貌を遂げた事実にアーデンは本気で切実に目を背けたかったが、目の前に映る事実こそ他ならない現実であることに失望を隠せなかった。それが顔にも出ていたのかロズワールはいやらしい笑みを浮かべながらこちらに近づいてきた。

 

「別にいいが隠せよ、ソレ」

 

「ええぇ?何をだぁい?」

 

「ナニをだよ」

 

 へらへらとニヤつきながら隣に座り込んできたロズワールを見て今すぐに風呂を出ようと考えたが、もう少しだけゆっくりしたい気持ちが勝ったのかその場を去ろうとするのをやめるアーデン。すると、

 

「アーデンくんはさぁ。ぶっちゃけ、どこ出身なぁんだい?」

 

「あ?大瀑布の向こう側ぁ」

 

「———へぇ」

 

 突拍子な答えに、もしくは馬鹿正直に答えたことに驚いたのか一瞬だけ固まりすぐに立て直すロズワール。

 

「大瀑布の向こうとは大きくできたぁね。そぉうゆうその大瀑布の向こぉう側からきたと人は極々たまに現れるよ?でぇも、大概は大言で衆目を集めようという人間ばかりだぁからね」

 

「あっそ、でも俺は本当だ。証拠はないけどなぁ」

 

「まぁったく面白い人間だぁね、君は」

 

「それはこっちのセリフだぜ?」

 

 互いに顔を合わせて笑い合う。しかし、一見微笑ましい絵面には微笑ましい雰囲気など一切無くただただ互いの黒い腹の中を探り続けている。そして、

 

「まあ、話はこの辺にしよぉうか。そろそろ、朝ごはんの時間だぁからね」

 

 手を叩き場の雰囲気を変えたのはロズワールだった。その提案にアーデンは「確かにな」と言いながら風呂場を出ようとする。

 

「ああ、そうだ、ロズワール」

 

「ん?何だぁい?」

 

「何年待った?100か?200か?それとも…400年か?」

 

「………」

 

「いずれにせよ何にせよ、せいぜい頑張れよぉ?似た物同士のよしみだ。応援してるぜ?」

 

 ケラケラと笑いながらそう言うと今度こそアーデンは着替えてその場を離れた。

 

 

 風呂場から上がり着替えたアーデンは風呂場の出入り口にいたラムから食堂の場所を聞き、向かった。するとそこにはすでにベアトリスが座っておりまだ幾つか聞きたいことがあったため隣に座ることにした。幾つか質問攻めをしながら待機してると、

 

「おお!ここが食堂かぁ!なんかテンション上がるなぁ!」

 

 元気溌溂と間の抜けた性質を両立させた声と共にナツキ・スバルとエミリア、そして双子メイドが入ってきた。その声を聞いたベアトリスは明らかに嫌そうな顔をしながらスバルを一瞥するとすぐにアーデンの勉強に向き合った。

 

「へいへいへいへい、何つー、態度取るのよこのロリは」

 

「……」

 

「おーい、無視すんなぁ。ベア子」

 

「ッ。……」

 

「大丈夫か、ベア子?いけるって、ベア子!がんばれ、ベア子!なぁ、一緒にどうだ、ベア子?おーい、ベ「鬱陶しいことこの上ないのよ!」ヘブッ!」

 

 あまりの鬱陶しさに流石のベアトリスも根負けして手のひらから放たれた不可視の衝撃波を放ち機嫌を損ねた下手人に向けて放つ。哀れ、下手人は吹き飛ばされていった。

 

「おーい、スバル病み上がりだから。ウザイのはわかるけど加減してやってよ、ベア子先生」

 

「お前はアイツに甘いのよ。……って、今お前までベティーのことベア子って言わなかったかしら!?」

 

「気のせいですよベア子先生」

 

「言ってるのよ!」

 

 うがー、と言いかねないほど腹を立てたベアトリスを見て少し微笑ましい気持ちになっていると。

 

『ベティーをあんまりいじめないであげて。スバルにアーデン』

 

 どこか中性的な声が食事場に響く。声がした方、すなわちエミリアの方を見ると灰色の猫が宙を舞っていた。日頃であれば正気を疑いたくなるような光景だったが、アーデンはこの猫型精霊を知っていた。

 

「パッ「にーちゃ!」

 

 アーデンが名前を言い切る前に弾むように席を立ち、ぱたぱたと長いスカートを揺らしながら少女が走る。その表情には花の咲いたような笑みが浮かび、これまでの少女の生意気で高飛車評価を忘れさせるほどの愛嬌が満ちていた。流石の反応にアーデンもスバルも驚きを隠さなかった。すると、苦笑を浮かべながらエミリアが隣に並んできて、

 

「ビックリしたでしょ。ベアトリスがパックにべったりだから」

 

「いや、猫の前で猫被るってあり得ねぇよ」

 

「ごめん何言ってるかわかんない」

 

「悪りぃけど、今回はスバルに賛成だわ。いや、キャラ変わりすぎだろ」

 

 ベアトリスの変貌にスバルとアーデン共々絶句していると、

 

「あはぁ、まぁさかベアトリスまで食卓に並んでくれるとはねぇ。久々に私と食卓を囲む気ぃになってくれたのかなん?」

 

「頭が幸せなのはそこの奴だけで十分なのよ。ベティーはにーちゃと食事しに顔を出しただけかしら」

 

 そう言うとベアトリスは再度パックの腹を撫で始める。それを見たロズワールは気にせずに上座に座る。すると、

 

「ヘイ、ピエロさん。そこお偉いさんの席でアンタの席じゃないっぽいよ?」

 

「おやおや、どぉやら私の威厳ってば案外見えないもんなのかぁもね」

 

「はいぃ?」

 

 スバルの何言ってるんだコイツ、とでも言いたげな目線をまるで気持ち良さそうに受けながら笑いかけるロズワールを見てアーデンはエミリアに助け舟をよこすよう目線を向ける。

 

「えーっと、ね?スバル。その人が領主なの」

 

「またまた、エミリアたんてば冗談がお上手なんだから!あれが領主だったら俺の国はホームレスでさえ総理大臣だよ?」

 

「まぁた、その例えの意味はよぉく分からなぃけぇどもぉ。私は領主でまぁちがいなぁいよぉ」

 

「今の口調で益々あり得なくなったわ!?」

 

 はっはっはっと高らかに笑うロズワールは「まぁまずは席に座りたまーぇよ」と二人を席へと促す。疑いの目をロズワールに向けて送るスバルを見てアーデンは話が停滞しているのを悟るとスバルに告げる。

 

「スバルよ。目の前にいんのは紛れもなくメイザース領の領主、ロズワール・L・メイザースだよ。一応、こっち着いたから説明受けて矛盾点もなかったから間違いないと思うぞ」

 

「うっそだろ」

 

 そう言いながらスバルは戦々恐々としながらロズワールに目線を向ける。そんなスバルの目線に対してウィンクで答えるロズワール。それを見たスバルは嫌なものを見たとでも言いたげな顔をしながら顔を背けた。

 

「あはぁ、いつ見てもこの反応はいいねぇ。だから、この服装はやめられないんだぁよ」

 

「趣味悪ぃよ、ロズっち」

 

「ロズっち!いいねぇ!その呼び方ぁ!今後とぉも、それでたぁのむよ」

 

 そう言いながらクスクスと笑うロズワールを見てスバルとあんまり相性が良くないこととこのままでは話が進まないことを悟るアーデン。話の話題を逸らすことに決めた。

 

「んじゃあ、少なくとも客人である俺たちのことを知らない連中も多いだろうから自己紹介といこうや。まずは、スバル!お前が先陣をきれ」

 

「オッス!わかりました!アーデンさん!」

 

 そう言うと床であぐらかいていたスバルはいきなり立ち上がり自己紹介を始める。

 

「俺の名前はナツキ・スバル!偶然出会ったエミリアたんに対して運命を感じ、アーデンさんとの協力の果てに盗難劇を八面六臂の活躍で解決した、世紀の凡人だ!ぶっちゃけここじゃ一文無しで、身よりもなくて、右も左も分からない状態!だけど、それを補う有り余る主人公力を持ってるぜ!以後よろしくぅ!」

 

 その自己紹介ならぬ自己アピールに、空気が凍りついた。ウケを狙ってやったのだろうが普通に失敗に終わっている。ベアトリスに関しては初めから興味なしといった感じでパックを撫で続けていた。

 

「俺はアーデン。アーデン・イズニアだ。地元ではエンジニアをしてた」

 

「え、エンジニア?なにそれ?」

 

「わかりやすく言えばミーティアとか日用品とかを考案して図面を引く役職だな」

 

「へぇー、なぁかなか、興味深いねぇ。何作ってたんだい?」

 

「無視しないでぇ!その対処は一番俺に効くからぁ!」

 

「だ、大丈夫よ、スバル!少なくとも私は聞いてたから!」

 

「え、エミリアたんっ!」

 

 ガン無視を決め込まれて流石のスバルも涙を流した。そんな様子を見て不憫に思ったエミリアはなんとかスバルのフォローに回ることでスバルがいじけることはなくなった。

 




しばらくの間、免許取得のため投稿が遅くなりますのでどうかご了承ください。
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