Re:ゼロから始まる弾かれた王様の異世界生活 作:アーロニーロ
飛翔した氷柱は寸分違わず、アーデンの立っている所に着弾する。はずだった。
「ファイア」
アーデンがそう口ずさみ掌を正面に向けると、火が収束し炸裂した。そして炸裂した炎は飛翔した氷柱をいとも容易く解かした。
「ッ、あなた魔法使いだったの?」
「正式には違うけどね」
「なら多少手を抜かなくてもよさそうな」
「話聞けよ。つーか、今の攻撃骨折れるくらいの威力あったぞ、オイ」
「さっきも言ったじゃない『大丈夫』って」
少女はそう言うと二度バックステップをしてそれなりに距離を取り氷柱の本数をさらに増やして射出した。それを見たアーデンは内心で大丈夫に済ませる攻撃が見当たらねえよ、当たりどころが悪けりゃ死ぬぞこれ。と文句を言いながら炎と氷の打ち合いを続ける。しかし、街中である以上一定よりも火力のある攻撃のできない点から状況が一変しないまま千日手に持ち込まれていく。埒が明かないと判断したアーデンは一度炎を放つと同時に距離を詰め始めた。
それに焦ったのか少女は魔法の発現の回転率をあげる。しかし、
「なんでっ、当たらないの?」
路地裏の狭さを利用した
「ちょっと熱いよ。まあ、話聞かなかった自分を恨みな」
「なにを」
「ファイラ」
先ほど以上の威力の炎を伴った炸裂が顕現した。アーデンがやったことは単純明快。自身を巻き込んで魔法を炸裂させたいわゆる自爆。ノクティス・ルシス・チェラム に倒されたとはいえ完全な不老不死であるアーデンだからこそできた自爆特攻技。服についた火を鎮火していると。
「驚いたなぁ。まさかまさかの無傷なんて流石に俺も傷つくよ」
そこには無傷の少女がそこにはいた。アーデンは驚いたと言っているがどう防がれたか見えていた。爆発が炸裂する瞬間、彼女の周りに氷の膜が三重に展開されることで炎を減衰させたのだ。咄嗟の判断能力に舌を巻くと同時にこれ以上やっても頭が冷えずむしろ少女の頭に血が昇っていることに気づいたアーデンは悪手だったかなぁ、と呟く。そして、体制を立て直した少女は再度手のひらを此方に向ける。
「これは少し厳しいかも」
「じゃ、二対一でやるとしよう」
少女の声を引き継ぐようにして、中性的な高い声が新たに路地の空気を震わせた。すわ、伏兵か?と思いながら声のした方ーーつまり、少女の方に注意を向ける。上に向けられた掌、その白い指先の上に『それ』はいた。
「あんまり警戒を込めて見られると、なんだね。照れちゃう」
「勘弁しろよ……」
そう、あの六神に迫るほどの力を持った獣と瓜二つの力の性質をした猫がそこにいた。どういった理屈か知らないが図体も放たれるプレッシャーの大きさはあの時と比にならないほど小さいが微塵たりとも油断ができなかった。そして、理解した。
「なるほど、さっきの防御は君がやったのか」
「大正解」
(同時に三枚連続で氷の防御壁を展開できる魔力操作能力もあり、ね)
さて、どうしたものかと考えるとある事実に気づく。
「なぁ、オイ」
「なに?言っとくけど諦めろって言っても無駄よ。あなたは悪い事をしたんだもの、ちゃんと償う必要があるわ」
「後ろ」
「あ、知ってる。よく悪者がやるやつね、私本で見たことあるもの。そうやって油断させたところを攻撃するんでしょ。私分かってるんだから」
「あー、リア」
「何、パック?」
「後ろ」
「え、パックまで、ダメよ!目の前の戦闘に集中しなきゃただでさえ相手はやり手だってゆうのに」
そう言いながら地味に気になったのか後ろを振り返ると戦闘に巻き込まれて吹き飛んだのかゴミに頭から顔を突っ込んだ大きめの男と現代アートのような感じで倒れている中くらいの男がそこにはいた。
「た」
「た?」
「大変!」
少女は男達の元に急いで駆け寄り、俺もため息を吐きながらソレに追随するのだった。
◇
「あのさ、お嬢さん。確かにあれは俺がやったことだけどさ、事情は聞こうぜ?」
「うぅ、はい、すみません」
あの戦闘の余波で傷つき凍りついていた二人と遠くの方で伸びている一人を少女が傷を癒やしていき、ーーその際、若干一名の顔が陥没していたことに少女は戦々恐々としていたがーー気絶から回復した三人に事情を聞いて、何とか誤解を解くことが出来た。
「まあ、いいよ?俺怪我してねぇし。だけど、一般人だったら確実に骨の一本や二本は折れてたであろう一撃が何発かあったのは良くなかったな。ていうか、氷の魔法が使えるんだったら足元凍らせればよかったんじゃね?」
「わ、私実は狙った所に魔法を発現させるのが苦手で」
「あー、そうなの?じゃあ、今日みたいなことが起きても対処できるよう練習しておきな?」
「はい……」
見てわかるほど落ち込み消え入りそうな声で反省する少女を見て始めは説教の一つでもしてやろうと息巻いてたアーデンも流石に気まずく思い始めたのか、どうしたものかと悩み保護者らしき灰色の猫に声をかける。
「おい、どうにかしろよ。見たとこ親代わりだろ?俺は気にしてねぇんだから」
「えー、それぐらい自分でなんとかすればいいじゃないか」
「この年頃の女を相手にしたことはまずねぇんだよ」
「と、言われてもねぇ。リアは今罪悪感の真っ只中だね、人の話を聞かずに悪い人認定したのが相当応えてるみたい。だから、なんとかしろと言われても自分で立ち直るのを待つのが正解なのさ」
言われずともわかることをペラペラと喋る猫もどきに内心で使えねぇなぁとボヤきながら舌打ちをして少女に向き直る。絵に描いたような凹みっぷりに少々呆れながら話題を変えて場の雰囲気を変えることを決める。
「なあ、嬢ちゃん。こんなとこで凹んでも何も起きねぇぞ?ほら、探しもんがあんだろ?」
「あ!そうだった!私、大切なものを盗まれたんだった!」
「そぉーだ!それを探さなきゃ大変なんだろ?」
「う、うん。でも、貴方にあんなに迷惑を……」
「だー!もういいっての!オイ、嬢ちゃん!謝罪も釈明ももういい。気にすんなとは言わないが、今後はちゃんと人の事情も聞くようにする!これを学べただけでもよかったじゃねぇか。しかも、今回は俺も大分勘違いを生みやすい状況にあった。故に勘違いを生んだ俺にも非があった。それでいいだろう?だから、この話はこれで終わり!わかった?」
「で、でも!」
「わ か っ た か?」
「うぅ、はい……」
さらに罪悪感が湧いたのか言い訳をしようとする少女に凄むと少女は更に申し訳なさそうな顔をした。そんな様子を見てどこまでお人好しなのだろうか、ここまでいけば病気だなと呆れ返り、その場を去ろうとする。が、
「あっ!ね、ねぇ待って!」
呼び止められた。『善意も過ぎれば嫌がらせ』そんな言葉が頭によぎると同時に苛立ちがピークに達した。怒鳴れば関わらなくなるだろうと思い少し息を吸ってから振り返る。すると、
「なにこれ?」
紙を持ってこちらに頭を下げる少女がそこにはいた。
「あの、もしも何かあったら、この場所に来て。今の私にはこれくらいしかできないけど、きっといつか頼りになれると思うの」
この国の文字がイ文字、ロ文字、ハ文字であるという事実しか知らないアーデンには何が書いてあるか理解できないが、話の文脈を察するにどうやらこのメモ用紙には住所が書かれてあるらしい。
「やっぱ、嬢ちゃんはお嬢様だったわけだ」
「少し違うけどその認識で……うん、あってると思う」
「その『あってると思う』に少し疑問があるが、まぁ、わかった。そこまで言うんだったら甘んじて受け入れるよ」
恐らく断ればとてつもなく面倒なことが起きると察したアーデンはすぐさま受け取る。その様子を見て安心したのかホッとした態度を見せる少女を見てこの行動の正しいのだと理解した。
「じゃあ、今度こそさようなら。探しもん見つけんのに専念しろよぉ、嬢ちゃん」
アーデンはそう言うと今度こそその場を去ろうとする。その際、これからの方針を立てながら割と絶望的な状況を察してゲンナリとしそうになりながら進む。しかし、
「……おい、嬢ちゃん」
「え、何?」
「なんで着いてくんの?」
「えっと、この先に用があるからだけど……」
◇
なんでこうなったのだろう。隣にいるやる気に満ちている同伴した美少女を見てアーデンはどうしたものかと頭を悩ませる。別にアーデンはこの少女が苦手な部類の人間に入るか、と言われればそうではないと断言できる。
実際、この少女は人間性もよく、わずかな期間ではあるが話をしてもうまく、と言うには少し人に慣れていない箱入り娘のようなイメージが湧くような一面があるがそれでもアーデンのような見た目が黒ずくめな上に中年なおっさん相手でも嫌な顔一つせずにいる優しさが見ることができる。ちなみにその反面、この少女は騙されやすく一度でもホストに担がれた日には一生貢いでそうなイメージが湧く程度にはチョロそうな女だとアーデンには思えていた。しかし、そんなわずかな期間でチョロそうだと思わせるほどチョロそうな彼女が今の今まで騙されなかった理由は、
「お前が理由だったわけだ」
「まぁね、だけどそのリアの純粋さはボクが一番好きなところでもあるんだ」
「親バカだねぇ」
「も、もう、パックったら!そんなに私のこと話さないでよ!恥ずかしいでしょ!」
自身のことを自慢気に語っているパックという名の猫型精霊に顔を赤くしながら必死で止める少女に少しだけ微笑ましく思っていると猫型精霊はある事実に気づく。
「そういえば、まだ名前も聞いてないね。自己紹介とかしてないんじゃないかな」
「そういや、そうだな。んじゃ、俺の方から」
こほんと咳払いして、帽子を整えて少し口端を上げると名乗りを上げた。
「俺の名前はアーデン・イズニア。現在進行形で右も左も分からん流浪人。今んとこ金銭までもがないから割と絶賛絶体絶命の真っ只中。ついでに言うと文字もわかんねぇ」
「それだけ聞くと本当に絶体絶命だよね。リアがさっきボクの名前を言ってたから分かると思うけど一応は自己紹介。ボクはパック。よろしく」
そう言うと猫型精霊はこちらに飛び込んできた。いきなりなことで咄嗟に避けたが、猫型精霊を見るとぶーたれながらノリが悪いなぁと言ってるあたりあれが握手のつもりだったのだろう。
悪りぃ悪りぃと謝りながら今度は少女に顔を向けて自己紹介を促す。が、口をまごつかせ自身の名前を言うのを躊躇っていた。どうかしたのかと思い首を傾げていると、
「サテラ」
「ん?」
彼女は不意にそう呟く。そして、その言葉にアーデンは驚いていた。なにせ、あれほど明るげな彼女の口から出た言葉があまりにも無感情だったからだ。
「サテラとでも呼ぶといいわ」
もう一度名乗ったが、名乗っておきながら、そうと呼ぶのを拒絶するような態度だった。それを見た俺は、
「ダウト」
「ん?」
「あー、ダウトってのはな、嘘だなって意味」
「……証拠は」
「さっきからそこの猫型精霊がお前のことリアリアって言ってただろうが、愛称ってのは基本的に名前の一部から取るもんさ」
ノクティスの場合はノクトってね。と、内心でそう言うとあっさりと見破られた嘘に少しだけ顔を顰める。まあ、もっとも。
「喋りたくなきゃ、それでいいよ」
「え、でも」
「だって、俺のも偽名だし」
「え」
呆気に取られたような顔をする少女を見てアーデンはくつくつと笑う。実際、アーデン・イズニアはアーデンにとってニフルハイム帝国で活動していたときに使っている名前であって本名ではないからだ。そもそも、人には語れない過去の一つや二つは存在しうるものだというのは幾年もの年月を生きてきたアーデンにとってわかりきったことだったからだ。故に、
「おめーにも何があんのかわかんねぇよ?だが、隠したいことがあるのは分かる。だから、問い詰めない」
「いいの?」
「別に?俺の人生に関わるもんでもないからね」
「……ごめん、アーデン」
「馬っ鹿、感謝してんなら『ありがとう』でしょ?」
そう言うと、サテラを名乗る少女はキョトンとした顔をしてしばらくもしない内にすぐに笑った。
「ふふ、そうね。ありがとう、アーデン」
「クク、どういたしまして、お嬢さん」
その後、何故か猫型精霊に殴られた。痛くはないしついでに言うとモフモフしていたから少し気持ち良かった。念のため本人に聞くと本人曰く、笑いながら「少しムズムズしたから」とのことだった。