Re:ゼロから始まる弾かれた王様の異世界生活 作:アーロニーロ
意識が覚醒した瞬間、そこには再び見慣れてしまった光景が広がっていた。目の前に広がる全く見慣れた光景にため息を吐きながらも状況を考察する。未だになんで自身が時間の逆行を繰り返しているのか不明だが犯人が誰かは理解できた。
「あのジャージの小僧か」
時間の逆行が行われる間際にアーデンは見ていた。月明かりに照らさているジャージの少年の体から溢れ出ている影でできた『何か』が。その何かは年齢まではわからないが体つきから推測するに女だと思われる。そして何よりも特徴的だったのは体がまるで影で出来ていたことだった。影でできた女は黒い手で少年を撫で、口と思われる所から微笑みを零していた。その微笑みには慈愛に満ちていたが、同時になにか威圧感を感じさせるそんな不思議な気持ちにさせる顔をしていた。
「状況を察するに時間の逆行のトリガーは小僧が死ぬことか?死んで戻る能力。略して『死に戻り』ってか?ハハッ、コンティニュー可能な人生とはなんとも羨ましいもんだ。しかしまぁ、エルザと言い、あの影女と言い、あの小僧はとことん女運がねぇなぁ」
へらへらと笑いながら少年の女運のなさを笑うと同時に少年の体内から現れた影の脅威を悟っていた。脅威だと思えたのは当たり前だった。なぜなら似ていたのだ、シガイと。存在自体が世界の敵であると定義されたシガイとよく似ていた。それはシガイの王であるアーデンがすぐに理解出来たことだった。
能力の悪辣さを考慮すれば剣聖以上に厄介かもしれないと思いながらこれ以上繰り返しをさせないためにも少年を探す。探す理由は少年の身を案じているからでもこれから起こる悪虐に対しての反抗でもない。単純に繰り返す時の感覚が気持ち悪いからだ。すると、
「衛兵さーーーーーーーーん!!!」
「………」
「誰かーーーー! 男の人呼んでーーーーーーーー!!!」
「…………………」
路地裏から女の声に寄せた男の声が響いた。路地裏の静寂を打ち砕き、大通りの喧騒にまで間違いなく割り込んだろう声量。嫌なもん聞いたとゲンナリしながらも助けが入るのでは?と思いながら周りを見渡す。しかし、
「マジで薄情だな、この国の連中は」
一人残らず知らん顔。何もなかったかのように、関係がないと言わんばかりに無視していく。その様子に嘲笑を送りながら声が聞こえた路地裏に向かう。その途中で
「――そこまでだ」
「はぁい、そこまでよん」
ふと、凛とした声色のほうを見ると青い目が合う。その目には欠片も躊躇もなく、一切の容赦も含まれていない。聞く者にただ圧倒的な存在感だけを叩きつけるものがあるはずなのだが、相手にとっても想定外のことが起きたのか目を丸くしながらこちらを見ていた。
しかし、アーデンは目が合った相手を見て冷静にはいられなかった。何故ならば、目が合った相手はアーデンを死の寸前まで追い込んだあのラインハルトだったからだ。外面は変えずにいつでも『武器』を全て展開できるよう構える。すると、
「お、おい!騎士様がなんのようだよ!」
大中小トリオの内、小が声を裏返しながら話しかける。その声にラインハルトが目線を向けたため互いに見つめ合う時間が終わる。興味が移ったことを見ると内心で小の男にナイス、と言いながらアーデンも目線を向ける。
「なんのようかって?どんな事情があろうと、それ以上、彼への狼藉は認めない。そこまでだ」
「ま、騎士様ほど立派な心意気はないけど流石にナイフと鉈を持ったやつらに脅されてるとこ見せられちゃあ、無視できないでしょ?」
言いながら、アーデンとラインハルトは悠々と大中小トリオの隣を抜けて、彼らと少年の間に割って入る。そのあまりに堂々とした行為に、少年もトリオも声を上げられないのか呆気に取られている。
だが、ラインハルトの顔を見て正体に気付いたのか紫色になりつつある唇を震わせて、小の男がラインハルトを指差した。
「燃える赤髪に空色の瞳……それと、鞘に竜爪の刻まれた騎士剣」
確認するように各所を指差し、最後に息を呑んで、
「ラインハルト……『剣聖』ラインハルトか!?」
「自己紹介の必要はなさそうだ。……もっとも、その二つ名は僕にはまだ重すぎる」
ラインハルトは自嘲げに呟き、しかし眼光を決してゆるめない。因みにそれを聞いたアーデンは自己評価の低さに絶句していた。
視線に射抜かれた男たちは気圧されるように後ろへ一歩。逃げるタイミングを見計らうようにそれぞれが顔を見合わせる。が、
「逃げるのならこの場は見逃す。そのまま通りへ向かうといい。もしも強硬手段に出るというのなら、相手になる」
「三対三と人数差が変わらない以上、あとは個人個人の能力差によるんだけど、俺たち二人の微力でどの程度抗えるかわからんが抗わせてもらうよ」
そう言うと同時にアーデンは威圧感を込めて目を細める。それを察知したのか三馬鹿は青い顔をさらに青くさせる。
「じょ、冗談っ! わりに合わねーよ!」
うそぶくアーデンとラインハルトに三馬鹿は慌てふためき、獲物を隠す配慮すら忘れて蜘蛛の子を散らすように大通りへと逃げ去っていく。その様子を見ると初めからこうしとけばよかったなぁ、と内心ぼやく。すると、
「お互い無事でよかった。ケガはないかい?それと名も知らない貴方、助力いただき感謝する」
男たちが完全に消えたのを見計らって、ラインハルトが微笑を浮かべて振り返ると同時に感謝をしてきた。
途端、路地裏を席巻していた威圧感が消失。それすらも意識的にラインハルトがやっていたことだと体感して改めて目の前の男の規格外さを理解させられる。そんなことを考えながら苦笑いをして応える。
「いいっていいって、お前が行かなかったら俺は多分行かなかっただろうし褒められたもんじゃあねぇよ」
「それでも『行動を起こした』という結果が重要なのです。それに向こうも三対三になって、優位性を確保できなくなってのことだ。僕がひとりならこうはいかなかった」
「謙虚だなぁ、オイ」
そんな戯言を口にしながら話題を切り替える。
「あ、そうだ、少年。大丈夫かい?」
「ああ、確かにその通りだ。ケガはないかい?皆無事でよかったよ」
そう言いながらアーデンとラインハルトは少年に視線を向ける。それと同時に眉を顰める。なぜなら、ジャージ姿の少年の顔があまりにも真っ青だったからだ。
◇
ナツキスバルは不幸である。
ナツキスバルの人生は十七年、その全てを語り尽くすにはそれこそ十七年の時間を必要とする。
それらを割愛し、彼の現在の立場を簡単に説明するのならば『高校三年生にしてひきこもり』となる。
詳細に説明するなら、『受験を間近に控えた時期なのに、親の期待もなにもかもうっちゃって自分の殻に閉じこもったどうしようもないクズ』といったところだ。しかし、そんな彼に転機が訪れる。それはコンビニ帰りに異世界に転移することになったのである。結果的に無事引きこもりは止めることが出来たがそれと引き換えに比喩表現抜きで二度死ぬと言う体験とともに彼の不幸の始まりとなった。
そんな彼にはこの世界に来て恐れているものが二人いる。
一人目はいい体つきの黒髪のお姉さんことエルザ。(恐らくは)一度目の世界線で自身と偽サテラを切り刻み死に追いやった人物である。ちなみにスバルにわかっていることはサディストであり戦闘狂である、ということぐらいだった。
二人目に関しては恐れているなどと安易な言葉で表現できる相手ではなかった。絶望的な存在であり、もしこの世に魔王がいるならばこのような風格なのだろうと納得させられほどだった。前回の世界線で
二人の戦いが始まった際には戦闘の余波だけで辺り一面が更地になり、アニメやゲームでしか見たことのない戦いが目の前で繰り広げられた。決着はどうだったのかはわからなかった。ラインハルトと黒い男の最高火力の撃ち合いの衝突の際に飛び散った力の残滓に頭を撃ち抜かれ死んだから。
そして『死に戻り』が発動して逆行をした彼が行ったことは偽サテラの徽章を探すことではなくあの時あの男と戦っていたラインハルトと名乗っていた青年を探すことだった。しかし、トンチンカンの三人組に絡まれあえなく計画が頓挫する、かに思えた。最後の足掻きで恥も何もかもかなぐり捨てて叫んだとき、この世界に来て始めて神は微笑んだ。路地裏に現れてトンチンカンの悪行に待ったをかける声が響いたからだ。振り返り見えた赤髪を見てスバルは歓喜した。しかし、その歓喜も長くは続かなかった。勇者の隣には魔王がいたからだ。そして悟った。自身に微笑んだ神は、神は神でも悪神の類であったと。
◇
「ききき貴殿のおおおお心遣いに感謝つかまつりまつる!!」
恐怖に引き攣りながら出た声が路地裏に響く。その様子にラインハルトは疑問を覚えるがアーデンはすぐに少年が怯えている理由に当たりをつけた。
(小僧。俺とラインハルトの戦闘を近くで見てやがったな)
考えてみれば前回の世界線ではラインハルトと本気で殺し合いをしていたのだ。しかも、全出力のシガイを出しながら。時間の逆行の大元の原因である彼ならば逆行前の世界の記憶ぐらいあっても不思議ではないのでは?その答えを導き出すともに自身の軽率さに内心で頭を抱える。いくら戦闘に夢中になっていたとは言え、自身の手札を全て見せるという愚行に及んだのだから。そんなことを考えながら怯える少年のフォローにまわる。
「あー、ラインハルト。あの少年もしかして、刃物向けられた衝撃がまだ抜けてねぇんじゃねぇの?」
「そ、そうなのかい?だ、大丈夫かい?尋常じゃない怯えっぷりだが」
「だ、大丈夫だ!なんせ俺は元気だけは一丁前だともっぱら有名で!ラインハルト……さんが来てくれただけで嬉しいです」
慌てて礼を言うスバル。少し落ち着いた様子を見て少し納得がいかないが大丈夫であることを悟ったラインハルトは少し安心した顔をする。
「ラインハルトでいいよ、ところで君の名前は?」
「さらっと距離縮めて来るなこのイケメン……。って、ああ!そういや、そうだな。んじゃ、俺の方から」
こほんと咳払いして、少年はその場で一回転、指を天に向けてポーズを決める。
「俺の名前はナツキ・スバル! 右も左もわからない上に天衣無縫の無一文! ヨロシク!」
「だ、大丈夫なのかい!?聞いた限り絶対絶命なのだが!?」
「大丈夫だって!大袈裟だぜ?ところで、ラインハルトの名前はわかったけど、—————お隣さんの名前はなんて言うので?」
少し目を細めながら探るようにアーデンの名を聞こうとするナツキスバル。アーデンから見れば稚拙なその探りにため息をしたくなったが、すぐに返答する。
「俺の名はアーデン・イズニア。
「き、君も、君もなのかい!?君も無一文!?」
慌てふためくラインハルトを見てくつくつと笑いながら、スバルの方に目をやる。すると、そこには遠回しに自身も異世界人であることを告げたのが理解したのか目を見開き凍りつくスバルがそこにはいた。その様子を見て、道化であっても馬鹿ではないとアーデンの中でのスバルに対する評価が決まる。
「い、一応聞くけど二人はどこから来たんだい?特にスバルは珍しい髪と服装、それに名前だと思ったけど……スバルはどこから? 王都ルグニカにはどんな理由できたんだい?」
「どこからかって言われると答えづらいんだよな。東の小国って設定はダメ出し食らったから……も、もっと東とかってのはどうだー」
スバルの安直な答えに少し呆れるアーデン。が、それに対するラインハルトの反応は意外にも顕著なものだった。
「ルグニカより東……まさか、大瀑布の向こうって冗談かい?」
「大瀑布?」
聞き慣れない単語に首をひねるスバル。そして、新しく出た単語に頭を悩ませるアーデン。瀑布、というと滝か何かだったと思うが、このあたりの地理情報にはかなり疎い。そもそも王都の広さすらまだ把握していない状況だ。アーデンにとってこのルグニカという王都の活動範囲は、商い通りと路地裏と貧民街で完結している。まるで、引きこもりだな。と内心で自嘲する。
「誤魔化してるってわけでもなさそうだけど、そこはいいか。とにかく、王都の人間じゃないのは確かみたいだけど、何か理由があってきたんだろう? 今のルグニカは平時よりややこしい状態にある。僕でよければ手伝うけど」
「いやいや、休日なんだろ? それ返上してまで俺の手伝いなんてすることねぇよ」
「そうかい?ならば、アーデンはどこから来たんだい?」
「俺?俺は帝国の方から」
「帝国?と言うとヴォラキア帝国の方からかい?」
「ま、そんなとこ」
適当に受け答えるアーデンに少しだけ悩む素振りを見せるラインハルト。実際、アーデンは嘘をついていない。ヴォラキア帝国と言う単語に聞き覚えはないが、かつてはニフルハイム帝国で宰相を務めていたアーデンは確かに帝国から来たと言って差し支えないのだ。
「二人の事情はよくわかった。本当に困ったら僕の名前を出して詰所に相談するといい」
「うっす」
「悪りぃ、ラインハルト」
「大丈夫さ」
そう言うとにこりと笑うラインハルト。あまりの爽やかさに妬みすら浮かばなかった。スバルを見ると眩しすぎたのか少し目を窄めていた。
「また会えることを楽しみにしてるよ、スバルにアーデン」
そう言うとその場を後にしようとするラインハルト。すると、
「待ってくれ、ラインハルト」
「なんだい?スバル」
スバルがラインハルトを呼び止めた。
「聞きたいことってのは人探しだから平気平気。ってなわけで聞きたいんだけど、このあたりで白いローブ着た銀髪の女の子って見てない?」
そう言うとわずかにだがラインハルトはスバルの質問に一瞬顔を強張らせた。しかしすぐに笑顔を取り戻し別れを言う。
「白いローブに、銀髪……」
「付け加えると超絶美少女。で、猫……は別に見せびらかしてるわけじゃないか。情報的にはそんなもんなんだけど、心当たりとかってない?」
実際、エミリアを見つけるのは難しい話ではない。エミリアの格好はかなり目立つ類のものだ。頭髪の色はスバルの黒髪同様に見かけないし、鷹っぽい刺繍の入ったローブも同じく。白いローブはそれなりに高価そうでもあった。宝石の入った徽章を持っていたことや、困ったら家に相談して欲しいというセリフを考慮するととその素姓も自然と高い位にあるのだろうと察することができる。
あの人見知りのエミリアと知り合いであったことに少し驚かされたが、頭を悩ませる。そこまでしてエミリアを助けようとするのかが分からなかったからだ。
「……その子を見つけて、どうするんだい?」
「落し物、この場合は探し物か? それを届けてあげたいだけだよ」
スバルの答えにラインハルトはその空色の瞳を細め、しばし黙考してから、
「ううん、すまない。ちょっと心当たりはないな。もしよければ探すのを手伝うけど」
「そこまで面倒はかけられねぇよ。大丈夫、あとはどうとでも探すさ」
これまでのラインハルトの様子を見て少なからず悪手であることを悟るアーデンはそれと同時にエミリアの地位の高さを思いながらため息を吐き、
「あー、お二人さん。俺はここでいいかい?」
「ん?ああ、いいとも。では良い一日を」
「おう、良い一日を!まあ、なんか困ったらなんか言えよ。借りっぱなしは癪に触るからな」
その言葉を聞き、ラインハルトは目を見開き驚愕をあらわにした。まるで、聞くはずもない言葉を聞いたと言わんばかりに。それに続きスバルも別れを告げる。
「んじゃあ、俺もこの辺でじゃあな、ラインハルト。お前、あんまり人に頼らなさそうだからな。周りに少しは頼って気をつけろよ」
軽口で応じてシュタッと手を掲げると、ラインハルトは「あ、ああ、気をつけて」と最後は少し戸惑いを混ぜた言葉とともに見送りの言葉を向けてきた。
「あの」
「ん?なに?」
「なんで着いて来るんで?」
「え?いや、進行方向が一緒だからだけど?」
◇
「『困ったら何か言え』『周りに少しは頼って気をつけろ』か」
スバル達が去ったあと、ラインハルトは腰に手を当てた。そして、先程言われた言葉を復唱しながら幸せそうに微笑む。
「まったく、長らく衛兵をやってきたけどこんなお願いは初めてだ。……それに、僕を助けるなんておかしなことを言うものだ」
ラインハルトの人生は心配とは無縁のものだった。強すぎたが故に誰からも頼られて当たり前だと思われるのが当たり前だった。そんな彼にとって心配されるという万人とっての当たり前は当たり前足り得なかったのだ。そして、二人の言葉には蔑視の意味はなく純粋な心配が詰まっていたのはすぐにわかった。
「誰かに頼っていい……なんてね。フフ、今日はとんでもない日だな」
一文なしと出くわしたりね、っと呟き、再度フフと笑うとラインハルトは2人の背中を見送った。
因みに完全に余談ですが、アーデンとラインハルトの最高火力の打ち合いで生じた余波でルグニカ王国の国土の八割が壊滅しました。