宿命のライバルと言われるこの二頭が、菊花賞の後、再び戦う姿が見たいと思い執筆しました。
夢の六度目の対戦。宝塚の悲劇をいかに越えるか、二人が同じターフを駆け抜ける姿を楽しんでいただけたらと思います。
ライスシャワー。
淀に咲き、淀に散った、漆黒のステイヤー。
数々の記録を破り、最後は己だけの力で栄光を掴み、最後は得意の淀に散った名馬。
ミホノブルボン。
類稀なる努力によって栄光を掴んだ、販路の申し子。
無敗で大記録を目前にまで迫り、すんでのところで宿敵に記録を阻まれた名馬。
二人は五度の激戦を越えたが、六度目の戦いを迎える事は無かった。
両者は死後、新たなる蹄跡を刻む為に、ウマ娘として異世界へと転生を果たす。
これは、五度の戦いを経た後、再戦する事なく生涯を終えた二頭が、姿を変えて
新たなる一歩を刻む物語である。
「さぁ、今年もこの季節がやってきました。天皇賞春」
レース場に響く実況アナウンサーの声を、観客席に立つミホノブルボンは聞いた。
彼女の目には、オーロラビジョンに映る天皇賞春の文字。
「いよいよ始まるね!」
その横で、ワクワクした様子の声が聞こえる。言うまでもなく、トウカイテイオーだ。
彼女は、緊張した面持ちで、ワクワク半分、ドキドキ半分と行った様子でターフを見詰めている。
「それは実況の方がいいましたわ。テイオー、緊張してますの? わたくし達は今回はただの観客ですのに」
その横では少し引き攣った笑顔のメジロマックイーン。彼女もまた、テイオーと同じように緊張した様子。
「だってだって! 天皇賞春だよ? 僕とマックイーンが競って、それからマックイーンがライスに負けた天皇賞春だよ! 誰が勝つか、気になるじゃん!」
「ちょっと! そういう言い方は止めて下さいませ! 恥ずかしいですから。それに、だからってわたくし達が緊張しても仕方ありませんわ。今回は、敵情視察の為の観戦なのですから、ちゃんと見なくては」
テイオーが子供のように騒ぐと、マックイーンはぴくっと頬を引き攣らせて答えた。
その後も二人がやいのやいの言う間、ブルボンは真直ぐとターフを見詰めていた。
彼女が見たいのは、ライスの勝利。ブルボンのライバルであり、ヒーローでもあるウマ娘の。
「さぁ、続いてパドックに登場したのは、あのメジロマックイーンを破り、前々回の天皇賞春を制したライスシャワー!」
と、ブルボンの視線がパドックへと注がれる。
左右に跳ねた黒い長髪と何処か頼りなさげな雰囲気の瞳を纏う小柄な少女。彼女は髪色と同じ黒いドレスに身を包み、青いバラがあしらわれた帽子を被る少女。
その名はライスシャワー。祝福の名を持つ、ウマ娘。そして、ブルボンにとっては最大の宿敵であり、現在の目標でもある少女である。ブルボンとは幾度も同じレースを戦い、クラシック最終レースである菊花賞で彼女を破ったウマ娘。そして、隣にいる絶好調のメジロマックイーンをも倒したウマ娘だ。
彼女は小柄な体躯に似合わず、無尽蔵とも言えるスタミナと強靭な精神力の持ち主であり、執拗なマークやこちらが仕掛けたところで並び、抜き去るという恐るべき実力者である。
だが、彼女からは一見自分を負かした時の気迫は感じられない。ただ、ブルボンには瞳の奥に勝利への渇望がくすぶっているのが見えた。
彼女はマックイーンに勝利した後、長い事勝ちが遠のいたが、この勝負に賭ける想いは並々ならぬモノを感じる。
(勝って下さい、ライス。私ももうじき、そこへ戻ります! 私は、再び貴方とターフで
競い合いたい。私が認めた強いウマ娘の貴方と。だから……)
ライスシャワーを見詰め、ブルボンは心の中で呟く。ブルボンもまた調整をする度、怪我や不調にあい、同じように長い間は中々完全な復帰には至っていなかった。
それが、ようやく怪我も完治し、完全な形でも復帰が目前となった。
その事を彼女に伝え、今回の天皇賞春をとって欲しいと伝えたのが先日。
ブルボンの復帰を聞いたライスは、今回こそ勝って見せると意気込み、今日を迎えた。
そこで彼女は、他のウマ娘の調整で来られないトレーナーの代わりに一緒に行く約束をしたトウカイテイオー、メジロマックイーンと共に京都、淀のレース場へと足を運んだ。
因みにテイオーとマックイーンは他のウマ娘達の偵察という事らしい。
特にマックイーンは現在怪我の療養から開けたばかりで無理が出来ないから、チームの為に偵察を買って出たとの事。
それに付き添いとしてテイオーが名乗りを上げたそうだ。彼らの様子から見ると、本当に偵察かと疑いたくなるくらいソワソワ落ち着いていないが。
わざわざチームメイトの古傷を抉ってまで話題に出した辺り、今回出てきたライスの事も、もしかしたら気にしているのかもしれない。
わざわざ怪我からやっと復帰したブルボンを一行に加えたわけだから。
と、そうこうしている間に、ライスシャワーはパドックから去り、他のウマ娘が立っていた。
が、ブルボン含め他二人も、ライス意外はそんなに気にもしておらず、他のウマ娘に関してはレースをよく観察して偵察するくらいなつもりだ。
そうして、全てのウマ娘がパドックに立った後、遂にレースが開始する運びとなった。