鋼の少女は淀の空に祝福の星を見るか   作:猫又スミス

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勝負は春に

 突然の理事長の宣言は、瞬く間にトレセン学園中に響き渡った。

 

 学園中がその話で持ち切りになり、誰が出走するだろうかや出走するとしたら誰が勝つのかなどの議論がひたすら続いた。

 

 そんな中、出走を考えているウマ娘達がいた。

 

 その一人、ナリタブライアンはいつものように一人、難しい顔をして廊下を一人歩いていた。その胸中は、エキシビジョンカップについての事だった。

 

 ライスとあのブルボンが出走するレース。特にあのライスが出走予定のレース。

 

 ならば私は……。

 

「ブライアン」

 

 と、そこへやってきたのはいつもの通り、ヒシアマゾンとマヤノトップガンだ。

 

 いつもの通り、一緒にブライアンの元にやってきた二人は、難しい顔で張りつめているブライアンにも物怖じせずに声をかける。

 

「どうしたんだい? 難しい顔して」

「ずっとムスっとしてるって、皆怖がってるよ? マヤノに何があったか聞いてこいって」

「別に何でもないし、ムスっともしてない。考え事していただけだ」

「当ててやろうか? いや、回りくどくなっても仕方ないねぇ。エキシビジョンカップの事だろ?」

「……、やはりアマさんに隠し事は出来ないな」

「分かってたよ。アンタはライスの事を気にしてた。当然、レースに出なかったせいで怪我させたと思ってるなら、出場を考えてるんだろうってね」

「ブライアンさんが考えてる事は、マヤやアマゾンさんには筒抜けだよ」

 

 二人が口々に語ると、ブライアンは自分はそんなに分かりやすいか?と思った。

 

「だから、アタシらも参加しようと思ってね。エキシビジョンカップに」

 

 と、少し考えていたブライアンは突然言われて驚いた。

 

「二人も参加するのか…」

「そうそう。マヤ達も、エキシビジョンカップ参加するよ! マヤも、マヤの前に天皇賞春のレコードを持っていたライスさんや二冠ウマ娘のブルボンさんにも興味があるし」

「で、これから参加を理事長に伝えに行こうと思ってたんだよ。アンタも行くんだろ?」

 

 アマゾンはニヤリと笑って告げる。ブライアンはふぅ~と一息吐き、二人と連れ立って理事長室まで歩いて行った。

 

 また学園の違う場所では、ナリタタイシンが一人、ウェイト室で佇んでいた。

 

 タイシンは思いつめたような顔で、電気も着けずにウェイト室のベンチに腰掛けていた。

 

「エキシビジョン、カップ……」

 

 彼女は静かに呟き、拳を握りしめる。

 

「タイシ~~~~~~~ン!」

 

 そこへ、騒がしい声で駆けこんでくるのはウイニングチケットと無言でついてきたビワハヤヒデである。

 

「どうしたの、タイシン。電気もつけずにウェイト室になんて」

「五月蠅いな、チケット。一人で考え事したかったんだよ」

 

 電気をつけながら大声で話しかけるチケットに、タイシンは少しうっとおしそうに冷たく切り捨てる。

 

「エキシビジョンカップの事を考えていたのだろう?」

 

 そんなタイシンに、ハヤヒデが声をかける。驚いて顔を上げるタイシン。

 

「どうしてソレを……」

「あの宝塚記念で怪我をした後、お前は何かを悔いているようだった。あの勝負でお前は、一番の怪我を負ったライスのすぐ前を走っていた。そして、ライスが倒れる瞬間、一瞬不自然んに停止した。それはタイシン、お前に激突しないように配慮した結果ではないかと思ったのだ」

「ハヤヒデ……お前、」

「まぁ、コレはお前の態度がおかしいなと思うようになってから、宝塚記念のレース状況を見返したから分かった事だ。何度も確認して始めて気付いた。もし、その事をお前が悔いているのだとしたら、全て辻褄があう」

「……ッ」

 

 ハヤヒデに言われて、タイシンは黙ってうつむく。その態度に、チケットも顔を曇らせる。

 

「タイシン……そうだったんだ。怪我してからずっと態度がおかしかったのは、そのせいだったんだね」

「チケット…」

 チケットの顔が曇るのを見て、タイシンも顔を曇らせた。

「お前がもし、あの日の事を悔いているのなら、二人の勝負を盛り上げる事で少しでも罪を償おうと考えるのは当然の事だ。きっとお前の事だから、例えライスが許そうと自分を許す事は出来ないだろうし、少しでも罪を償おうとするだろうからな」

 

 そんな二人をハヤヒデは優しく笑って告げる。彼女はそのまま、持っていた紙を二人の前に出す。それは、エキシビジョンカップへの出走届けだった。

 

「だから、その勝負に私も乗ろうと思う。私も、ライスシャワーとミホノブルボンには興味もあるし、ライスシャワーの復帰を盛大に祝う為に私も一口乗らせて貰うよ」

「なら、私も出走するよ! ライスには他人に思えない縁を感じる事もあるし、私も二人の勝負を盛り上げたいから!」

「タイシン、チケット……」

 

 二人の申し出に、タイシンは驚きを隠せなかった。しかし、彼女はすぐに気を取り直し、立ち上がる。

 

「わかった。私は一人でも出走するつもりだったけど、二人が出るならもう迷う理由もない。でも、出走するのなら勝ちに行くからね!」

 

 こうして、BNWの三人はいつもの調子に戻っていた。

 

またまたところ変わって、今度はトレーニング用の芝コース。

 

 そこには、トレーニング中のカノープスの面々。

 

 ナイスネイチャは鉄アレイで腕のトレーニング、ツインターボはいつも通り開幕全力ダッシュのスタート練習、イクノディクタスとマチカネタンホイザは柔軟体操でクールダウン中だった。のだが、イクノとタンホイザは、何処か心ここにあらずと言った風だ。

 

「ちょっとイクノにマチタン、ちゃんと柔軟しないとクールダウン出来ないよぉ~」

 

 そんな二人にネイチャがいつもの風で声をかける。

 

 二人はネイチャを見上げ、苦笑する。自分達も身が入っていないのは分かっていたようだ。

 

「いや~。ちょっと気になる事があって」

「どうしたものかと」

「どうせエキシビジョンカップの事でしょ? 二人は参加したいんじゃないの? ライスとは因縁浅からぬ相手だし、マチタンはブルボンともクラシック戦線で戦ってる間柄なんだし」

 

 呆れ気味に溜息をつくネイチャ。図星を刺されてギクッとなる二人。

 

「参加したいなら参加したら良いんじゃない? 二人とも天皇賞春は回避の予定でしょ? レースローテーションはトレーナーと相談したら良いじゃん。メンドクサイからさっさと参加表明してきなよ」

 

 ネイチャに背中を押され、結局二人は参戦手続きをした。

 

「ライスとブルボンが出るならあたしも行く! ライスとはあの春天の続きもしたいし、何かあってもすぐ対処出来るからね!」

「流石パーマー! パーマーしか勝たん!」

 

 別の場所ではメジロパーマーが、ダイタクヘリオスに力強く宣言する。他にも、何名かのウマ娘が名乗りを上げ、ブルボンとライス含め、総勢十七名のウマ娘達がエキシビジョンカップに参戦する事になった。

 

 参加の受付が終わってからは、どのウマ娘が勝利するかの予想でトレセン学園の話題は持ちきりになった。

 

 今回は自力でナリタブライアンではないか、いやいやここはマヤノトップガンが、いいえ今回はヒシアマゾンがブライアンとマヤノを抑えて勝つ、ここはビワハヤヒデだろ、いやいや私はウイニングチケットが勝つと思う、何を言うナリタタイシンこそ勝者だ、いやいやここは大穴、あのメジロマックイーンにも食らいついたメジロパーマーが淀の3200を制するのではないかなどなど、割と好き勝手に予想がされ、ブルボンが逆襲勝利を決めるかも、もしくはライスが復活の勝利を決める!と力強く言うモノもいた。

 

 そんな中、トウカイテイオーとメジロマックイーンはエキシビジョンマッチがどうなるのかの話が出ていた。

 

「来年のファン感謝祭って話だけど、本当にライスは出走できるのかな? 仮に出来たとしても勝負になるかな?」

 

「わかりませんわ。ライスさんの経過を見なければならないのですから。本当に開催できるのかも怪しいかもしれませんし」

 

 テイオーが疑問を問いかけると、マックイーンが答える。二人も結局勝負が出来るのかさえまるで分からなかった。

 

「そうだよね~。いくら退院して今経過が良いとは言え、足がライスの全力疾走に耐えられる状態になるかも分からないんだから」

 

「結局、二人が勝負する場を整えようという事で理事長が人肌脱いだだけですわ。現実には確実に勝負が出来るかもまだ未知数ですもの」

 

 結局、蓋を開けてみないと互いに戦えるのかさえ分からない。それでも二人はもう一度共に走りたいという願いを言い合ったのだ。

 

 それは、かつて自分達がかわした約束に似ていた。

 

「ねぇ、僕たちに出来る事は無いかな」

 

 テイオーは不意に呟いた。それは心からの思い出あった。彼らが自分達のように再びあのターフを駆け抜けられる日が来てほしいという心からの願い。

 

「放っておけないよ。あの二人はまるで、かつての僕たちにそっくりなんだ。あの二人がもう一度ターフで再会出来るように、僕も何か手伝いたいんだ」

「そうですわね。確かに二人は、かつての私達そっくり。励まし続けたライスさんが大怪我を負い、ブルボンさんはそれを励ます為に戦ってきた。出来る事があるのなら、私もお二人の為に何かしたいですわ」

 

 マックイーンもまた心は同じだった。

 

 あの二人はまさにかつての、テイオーがデビューから有馬記念に復活勝利するまでの期間に起きた事の鑑写しのようだ。

 

 寧ろ、二人が戦ってから、もう随分と時間が経っていた。あの菊花賞からしたら、途方もなく長い時間が。

 

 その間、二人はどのような思いでいたのか、考えるだけで辛い。

 

「ねぇ、今思いついたんだけどさ。僕らで二人のトレーニングを手伝えないかな?」

「私達でブルボンさんとライスさんを? でも、お二人どちらもというのは難しい気がします。条件的にはライスさんの方が遥かに厳しい状況ですし、かと言って片方にだけ肩入れするというのは……」

「だからね、こんなのはどう?」

 

 テイオーはマックイーンに耳打ちする。

 

 その案は、マックイーンを大いに驚かせた。が、同時に少しワクワクするような案だった。

 

「ええ。構いませんわ。では、トレーナーさんの許可を頂きにまいりましょうか」

「そう来なくっちゃ。じゃあ、急いでトレーナーの所に行こう」

 

 こうして二人はトレーナーの元へ急いだ。その顔に、不敵な笑みを浮かべて。

 

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