テイオーとマックイーンが何やら企んでいる頃、ライスシャワーはトレーナーと共にチームの部屋にいた。二人はエキシビジョンカップに出走するウマ娘達のリストを確認していた。
「とんでもないメンバーね。貴方とブルボンさん意外に、ナリタブライアンさん、ヒシアマゾンさん、マヤノトップガンさん、ビワハヤヒデさん、ナリタタイシンさんにウイニングチケットさん、メジロパーマーさんにイクノディクタスさんとマチカネタンホイザさんまで。それ以外にも実力派ウマ娘達が勢ぞろい。こんなのG1でも見掛けないくらいの超豪華メンバーよ」
トレーナーが優しく笑って告げると、ライスは申し訳なさそうにうつむく。
「ごめんなさいお姉さま、勝手に決めちゃって……」
「謝らなくて良いのよ。貴方がずっとブルボンさんと走りたがっていたのは分かっていた事だしね。私は怒ってない。それに何処かで再起するつもりだったから、いいきっかけだった」
トレーナーは静かに微笑み告げる。彼女の胸中ではとっくに覚悟は決まっていたのだ。
必ずライスをレース場に戻して見せる。この子が走りたいと願うなら、それを叶えるのが私の仕事なのだから。
そう心に誓い、あの日も密かに京都レース場にいた。あそこで何をしようとしているかは既に聞いていたから知っていた。後は、ライス自身がどう決断するかだけ。その決意に委ね、その意向にしたがって自分は自分の仕事をするだけだ。
どうやってファン感謝祭までに戦える状態にまで調整するかという課題は残っているが、例え睡眠時間を削ってでもどうにかする手段を見つけるつもりだ。
コンコン
と、そんな決意を胸に抱いていた所に、誰かが部屋の扉を叩いた。
誰かしらと扉を開けると、そこにはメジロマックイーンが立っていた。
「ライスシャワーさんのトレーナーさんですわね。失礼致しますわ」
マックイーンはそう断ってから部屋へと立ち入る。すると、突然の闖入者にライスも目を丸くする。
「マックイーンさん?」
「ライスさんもいらしたのね。では、話が速いですわ。私に、ライスさんと一緒にトレーニングをして調整を手伝わせていただきたいのですわ」
その申し出に二人は驚愕を隠しきれなかった。
ところ変わって、今度はミホノブルボンのいる芝の坂路コース。
ブルボンはトレーナーと共に坂路トレーニングをしていた。
坂路コースの周回はこれで最後の一本。これで今日のトレーニングの最後。
その周回も難なく終えて、ブルボンはトレーナーの元に戻った。
「マスター、終わりました」
「ああ。では、柔軟でクールダウンしてから上がれ。体を冷やすなよ」
「はい」
「ブルボ~~~ン」
と、二人が話している所に、トウカイテイオーが小走りにやってきた。
「テイオーさん?」
「はぁ、良かった。まだここにいた」
テイオーは切れた息を整えて、体を起こす。
「ブルボン。ちょっと、頼みがあって来たんだ」
「頼み?」
「うん。明日から、僕にブルボンと一緒にトレーニングさせて欲しいんだ。例のエキシビジョンカップに向けた調整に、僕も付き合わせて欲しい」
その申し出に、ブルボンも鉄面皮のブルボンのトレーナーも驚いた。
「マックイーンさんが、ライスの調整に付き合うって、どういう事?」
突然の申し出に困惑しつつ、問うライス。
マックイーンは頷き、つかつかと部屋の奥にあったホワイトボードに歩み寄った。
「驚かれるのは無理の無い事です。ですが、これは私とテイオーからのお願いなのです」
「テイオーさんとマックイーンさん?」
「そうです。私達はかねてより二人の手伝いをしたいと考えていたのです。まるでかつての自分達の境遇を見せられているような気がして……だから」
「僕たちはブルボンとライス、それぞれの調整の手伝いにつこうって二人で話て決めたんだ。だから、僕たちに二人の手伝いをさせてよ」
「……でも、二人には何のメリットも無いのでは?」
「ううん。そうでもないよ。だってこれは、僕たちの勝負だから……」
「勝負?」
「はい。私達がそれぞれ手伝った相手のどちらが勝つかで勝負するのです。私はライスさんを、そしてテイオーはブルボンさんをそれぞれ手伝って、手伝った方のどちらが勝つかで私達で勝負するのです。私達は常に勝負をしているので、こういう形での勝負も良いと思いまして。どうでしょう? 私達にお二人の手伝いをさせていただけませんか?」
「……」
「二人の勝負、ですか……なるほど」
「うん。そう。だから、遠慮はしなくていいよ。僕らも二人の勝負を最高のモノにしたいんだ。是非二人を手伝わせてよ」
テイオーがブルボンに言うと、トレーナーにもお願いしますと頭を下げる。
そのままの状態で止まるテイオーの姿をブルボンとトレーナーは同じく見詰めていた。
「……なるほど。ブルボンとライスの勝負を最高のモノにしたいか……」
不意に、トレーナーが呟く。彼はそのまま顔を少し上げたテイオーに真直ぐ視線を送る。
「良いだろう。他のチームのウマ娘、しかも二冠ウマ娘がトレーニングを一緒にしてくれるというなら、ブルボンにも良い刺激にもなる」
「あ、ありがとうございます!」
トレーナーの言葉に、テイオーは礼を言う。が、次の瞬間にトレーナーはぐっと顔を寄せてくる。
「ただし、一緒にトレーニングをする以上、ブルボンと同じトレーニングをしてもらう事になる」
「私のトレーニングは、ウマ娘界隈でも特に厳しいトレーニングであるらしいと言われています。テイオーさん、ついて来れますか?」
「も、勿論さ。僕はトウカイテイオー、絶対無敵のテイオー様だよ! 必ずついて言って見せるさ!」
少し狼狽えながらもテイオーはいつも通り強がり混じりに宣言した。
「ライスの調整に付き合う以上、マックイーンさんにも私のトレーニングを受けていただきますよ」
「望むところです。私を倒した事もあるウマ娘のトレーニング、大いに盗ませていただきますわ」
一方、マックイーンは不敵に笑って告げた。
「マックイーンさん!」
と、そこで開けっ放しの扉から顔を出したのはチームメイトのスペシャルウィークだった。
「あら、スペシャルウィークさん。どうかしましたの?」
「あの。私もライスさんのトレーニングに付き合わせて欲しいんです!」
「あら? 貴方もですの? でも、私とテイオー、一人ずつでの勝負ですから、二人になってしまってはフェアでは無くなってしまいますし」
「大丈夫です。ブルボンさんの方にも、凄い助っ人さんが行ってますから」
「テイオー。それにブルボンさん、私にもお手伝いをさせてくれないかしら」
「スズカ? いつ帰ってきたの?」
「ついさっきついたばかりでね。海外の方でレースが混んて来たから少し休養をって日本に帰ってきたのよ。だけど、走り足りなくて。それでトレーナーさんに会いに行ったらテイオーとマックイーンが面白い事をしてるって聞いて、スぺちゃんと手分けして来ちゃった」
「スズカさんが? では、二対二になったわけですわね」
「いいえ。三対三ですよ」
「えッ?」
「グラスちゃん、どうしてここに?」
「エル、参上で~す!」
「エルまで……どうしたのさ?」
「さっきスぺちゃんとスズカさんに会って、ここでテイオーとマックイーンが面白い事をしようとしてるって聞きまして。だから、エル達もお手伝いに来ました~」
「これで三対三という事ですか。でも、リギルの貴方まで手伝って下さるとは」
「私も、ライスちゃんには運命的な何かを感じていまして。怪我の経験もありますし、スズカさんの時もテイオーの時も何も出来ませんでしたから、今回は少しでも力になれたらと」
「なるほど。そうですか」
「いいえ。四対四ですよ~」
「えっ!? クリーク先輩?」
「マルゼンスキーに頼まれてやってきた。ブルボンを手伝ってやって欲しいって。ライスシャワーの方にはクリークが行ってるから、人数は四対四だ」
「そうですか。マルゼンスキーさんが」
「なるほど。急にオグリ先輩が来たからどうしたのかと思ったけど。マルゼン先輩に頼まれたんだね。じゃあ、これで四対四だ」
「あの~……」
「ニシノフラワーさん!」
「ライスちゃん! ウララも手伝うよ~」
「ウララちゃん!」
「ウララもスぺちゃんに聞いてきたんだ。ウララも力を貸すよ」
「あらま。これで五対五ですの。随分大所帯になってしまったモノですわね」
こうして、ライスとブルボンの元にそれぞれ五人のウマ娘達が集い、春に向けての調整を手伝う事になった。