「ブルボン。直線で加速する時はこうすると効率よく早く走れるよ」
「ライスさん。長距離で息を入れるタイミングを確認いたしましょう」
ひょんな事からそれぞれブルボンとライスの調整を手伝う事になったテイオーとマックイーン。早速ライスやブルボンのトレーナーの指示の元でトレーニングをする傍ら、己が持つ技術を伝授していく。
ライスの方は基礎トレも混ざるモノだったから、手伝いを申し出た者達も初心を思い出したし、ブルボンの方は坂路中心のトレーニングでスタミナや坂道の走り方などを思い出した。
『分かったよ……。お前らはどうせ言っても聞かないしな。その代わり、他のチームの練習の情報はしっかり教えてもらうぞ。偵察がてら、行ってこい!』
テイオーとマックイーンは二人に協力する許可を貰う際に。違うチームの練習を調べてこいと言われたが、実際にそれを行っているので偵察など一々するまでもなかった。
しかし、二人の単なる思いつきに、わざわざ付き合ってくれるウマ娘がいようなどとはまるで思いもしなかった。
「先頭を走る場合、スタート直後の位置取りがとても重要よ。それを効率よく行う為には…」
「ライスさん。私のラストスパートの方法を教えます。まず足は…」
二人の指導には、スズカやスペも熱心だった。どうやら、二人もお互いに勝負をしようという事になったらしい。スぺの場合は、知り合いのウマ娘が怪我をする事には過剰反応するので協力をする為の方便と思えなくもなかったが……。
「ライスさん。一番人気の動向にはとくに気をつけておかなければなりません。マックイーンさんと倒した時のように真後ろにつくもよし、いつでも捉えられる範囲に相手を置くなども必要があります」
「ミホノブルボン! エルと勝負です! どちらが力自慢か、勝負しましょう!」
グラスとエルもまた、そんなスぺたちに引っ張られて手を貸してくれている。
二人も二人で勝負しているというが、怪我も無い二人がこんな形で勝負などただの方便な気がしてならない。単にライスを放っておけないグラスにエルも話に乗ってきただけな気がする。
「ライスシャワーさん、コーナリングする時はなるべくロスが少ないように内側を、コーナーをなぞるようにして走るとスタミナのロスが少なくて~……」
「コーナーでは大体減速するのが普通だが、私は加速を選ぶ。具体的にどうすればいいかというと……」
その上、大先輩のスーパークリークとオグリキャップまで駆けつけてくれた。マルゼンスキーからの頼みを聞いたとの事だが、二人にはメリットもまるでない。いくら敬愛する先輩からの頼みとは言え、よくも快くやってきてくれたものだ。
「フレ~! フレ~! ライスちゃん! 頑張れ! 頑張れ! ライスちゃん!」
「ブルボンさん、今日のお昼は私がお弁当を……」
また友人達の事を心配して、彼らと親しいハルウララとニシノフラワーまでやってきてくれたのだから驚きだ。
「ライスさん! 学級委員長があなたを応援に来ましたよ!」
「ブルボンさん! 同じスピードを愛する者として、私が貴方と並走をしに来ましたよ!」
更に、ライスたちと近しい間柄のサクラバクシンオーまでやってきてくれた。
「様子を見に来ました。お怪我などしないよう、お願いしますね」
そこへ理事長秘書の駿川たづなまでたまに様子を見に来てくれるのだから、二人は本当に幸せ者だなと感じる。ライスとブルボン。色んな人達が、二人をまたターフで並んで走らせてやりたいんだなと強く感じた。
何だかんだいって、二人には人望があるのだなと、テイオーとマックイーンは思った。
そうして、幾日も幾日も、彼らはライス、ブルボンと共に厳しいトレーニングをこなしながら過ごしていった。
その中で、ライスは徐々に普通に走れるようになっていき、医師の診断も良好、このまま何事も無ければレースに出走する事ができそうだった。
「ブルボンさん。まだ前にウマ娘がいると、少し焦りが出ているようよ」
「昔からの癖です。少しは矯正出来たと思ったのですが」
「マルゼン先輩からも聞いていたけど、大分癖は直ってきたと思うから、春までに何とか落ち着けるようにしましょう」
またブルボンも、自分自身が抱えている弱点、菊花賞の敗因である自分の前に誰かがいると落ち着きを失ってしまうという癖の矯正も着々と進んでいった。
そうして、徐々に期日が近づいてくると、レースでの作戦会議なども激しくなっていき、どうすればあのウマ娘達の中で勝利を掴めるかが喧々諤々に話し会われた。
その作戦もある程度纏まって来ると、実戦的な練習が始まり、コースは違うがなるべくレース本番と同じくなるように皆で本番さながらの勝負を何度も重ね、準備は着々と進んでいった。
そうしてある日、練習を終えたブルボンは一人難しい顔でトレーナー室へと向っていた。
その様子を見てとったサイレンススズカは首を傾げてブルボンの元へ歩み寄る。
「どうしたの、ブルボンさん? 難しい顔をして……」
「あ、スズカさん……いえ。少し考え事をしていて……」
スズカの方を見て告げるブルボン。スズカは更に深く首を傾げる。
「考え事?」
「はい。とても大事な事です」
そこまで言って、ブルボンは真直ぐスズカを見詰める。
「どうすれば、これだけのウマ娘を相手に、ライスと一対一に持ち込めるか。スズカさんは何か知りませんか?」
「え? 一対一?」
驚くスズカ。ただ、二人が戦う事になった経緯を考えれば、それも当然か。
スズカは少し考えながら告げる。
「そうね……上手くいくかは分からないけど一つだけ教えられる事があるわ……」
スズカはゆっくりと、ブルボンに語り始めた。その話は、ブルボンにとって大いに役に立つ話だった。
そうして、遂にファンフェスティバル開催の前日夜となった。
ミホノブルボンはトレーニングを終え、一人着替えてチームの部屋に佇んでいた。
いよいよ明日、ライスとの勝負だ。
この日を、どれだけ待ちわびた事か。
菊花賞のあの日、クラシック戦線を連戦連勝無敗で駆け抜けながらも、菊花賞で遂に追いつかれ、敗北したあの日からもう数年の時を経ている。
その時間がどれだけ長かったか、想像を絶するモノだった。
ライスの勇姿を客席で見ながら、ブルボンは心の何処かで自分がそこにいない事を悔いてもいた。
どうしてあそこに自分はいない。
そんな思いを抱えながら、やっとここまで来れた。
だから、明日はライスと全力で勝負し、必ず勝利する。
そう心に強く誓っていた。
「ブルボン。まだこんなところにいたのか」
と、不意に部屋の扉が開き、トレーナーがやって来る。
「マスター」
「明日は待望のレースだ。早く休め」
「はい。もう上がろうと思っていました」
そう言ってブルボンは立ち上がる。そのまま部屋を出ようと扉の方に向かう。
「ブルボン」
そこに、トレーナーから声が掛かる。
「明日の勝負。お前はライスシャワーとの勝負を望んでいる。だが、あれだけのウマ娘がいる中で一対一の勝負には持ち込みようもない。拘るのは仕方ないが、明日は彼女だけでなく勝負に勝つ事に集中しろ。それが、ライスシャワーに勝利する事、帰ってきた彼女を迎える事にもなる」
「マスター。私は、ライスとの勝負を何年も待ち続けました。だから、明日は必ず彼女との勝負に決着を付けます。その勝負の邪魔は誰にもさせません。必ず、私は一騎打ちでライスに勝利して見せます」
それだけ言い残し、ブルボンは部屋を後にする。
そうだ。
明日は必ず、ライスと一対一で決着を付ける。その為の手段も、自分にはあるから。
誰にも邪魔はさせない。絶対に。