銀河英雄伝説:改新篇   作:松コンテンツ製作委員会

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第13話『ハイネセンの魂は地に堕ちた』

 戦艦ブリュンヒルトは最高評議会ビルの最高評議会執務室に舳先を軽く当てたかと思うと、すぐにそれを引っ込めた。

 蜘蛛の巣状にひび割れたガラスの奥で、トリューニヒトは呆気にとられていた。

 続いてブリュンヒルトはビルの隙間をホバリングしながら地上にアンカーを打ち、搭乗橋を降ろす。

 ハイネセン首都中枢に奇襲ワープされ寝首をかかれた格好の同盟軍艦艇が戸惑うように衛星軌道上を遊弋していた。

 これから、カイザーラインハルトが姿を現す!

 一同が固唾を呑んで事態を見守っていた。

 トリューニヒトが庁舎から出てきて、罪人のように手首を差し出す。

「金髪の坊や、これで満足ですかな?」

「勘違いをするな! 予はルドルフになるがごときを望まぬ。重ねていうが、卿の主張する民主共和制とやらで銀河帝国初代内閣総理大臣となる栄誉を勝ち取ってみせよ」

 ユリアンの構想とトリューニヒトのそれは、銀河帝国に立憲君主制を導入させるという点で奇しくも一致していた。

「金髪の坊やはずいぶんと優しいことで」

「世辞はよせ、交渉に入ろう」

 陽の光が獅子帝をまばゆく照らし上げた。

 

 以下が、帝国と同盟との協定文書である。

 尚、交渉にあたってはラインハルトが寛容さを示し、同盟側が驚いたと言われている。

 

************************************

 

 普通選挙実施に関する銀河帝国と自由惑星同盟との協定

 

 一、自由惑星同盟における普通選挙において銀河帝国による候補者の事前審査、票数操作その他同盟が定める政治的介入の一切を禁ずる。ただし、ハイネセン1区にのみヤン•ウェンリーを擁立する。

 二、自由惑星同盟は一ヶ月以内に総選挙を実施し、その期日と事務は同盟中央選挙管理委員会が預かる。尚、投票立会人として帝国からウルリッヒ•ケスラー、同盟からジョアン・レベロを指定する。両名は選挙結果に対し、署名捺印を行う。

 三、改選後、自由惑星同盟代議員を銀河帝国衆議院議員と呼称する。

 四、貴族院の定数、任期、権限、その他は衆議院でこれを定める。貴族院は銀河帝国貴族でこれを構成する。

 五、改選後、衆議院は銀河帝国最高裁判所長官その他の裁判官を任命する。

 六、衆議院は内閣総理大臣を互選の上指名し、銀河帝国皇帝が内閣総理大臣を任命する。

 七、立法、行政、司法の三権の組織が済み次第、憲法を制定し、銀河帝国は立憲君主政体に移行する。

 

 以上、銀河帝国皇帝と自由惑星同盟最高評議会議長との間で合意し、その証として本書各一通を保管する。

 

 宇宙歴*年*月*日

 

 銀河帝国皇帝ラインハルト•フォン•ローエングラム

 自由惑星同盟最高評議会議長ヨブ•トリューニヒト

 

******************************************

 

 ハードカバーを交換し、ラインハルトとトリューニヒトが力のこもらない握手を交わす。

 情報交通委員会の報道官がカメラのフラッシュを焚いた。官僚が気を利かせて拍手する。

 レベロがラインハルトの玉座に身を寄せ、耳打ちする。

「これで締結は完了した、同盟法制に基づき帝国軍艦の退去をお願いする」

 レベロは帝国に対し毅然とした態度を取っている。

「承った」

 ラインハルトが右手を挙げると、ブリュンヒルトはじめハイネセンカチコミ艦隊が上空へと浮遊した。

 カイザーラインハルトと廷臣たちはハイネセンの高級ホテルが用意され、視察を兼ねた観光を楽しむことになっている。

 ヤンはどうするのか? と問われ、彼らに同行することにした。

 彼らを目を細めて見送りながらレベロはトリューニヒトにささやく。

「カイザーにうまく英雄を人質に取られたな、という状況なのだが」

 ヤンがすでに帝国人になっている。

 トリューニヒト派が勝てばトリューニヒト総理大臣、ヤン派が勝てばヤン総理大臣、その象徴的な選挙区が大将どうしの一騎打ちのハイネセン1区なのだ。

「アフターケアも万全だ。しばし待ちたまえ」

「財務委員長として警告するが。バイパスとマネーロンダリングをしても地球教からの献金はバレるぞ」

「声が大きい」

 ここでレベロは気づいた。

「まさか、ヤマト作戦はそのために!?」

 ヤマト作戦はトリューニヒトが地球教と癒着している証拠を消すために、彼自身が協力を申し出たのだ!

「苦労したよ。カムフラージュのためにアニメから作戦名を引っ張ってくるのは」

 そうして今度は、未遂に終わったが、クーデターで普通選挙の要求を帝国に飲ませようとした。

 いや、未遂ではない。

 ラインハルトはヤンと出会ってから銀河帝国皇帝にしては優しくなりすぎているので、そこに付け込まれた。

 ラインハルトのまっとうな政治をしたい気持ちと、トリューニヒトの策謀が複雑にからみあい、選挙による総理大臣の選出に結実する。

 ヤン・ウェンリーには権力欲などなく、あくまで民主主義を守るための立候補だ。その時、彼はどう動くのか!?

 

 今、最高評議会ビルでは矢継ぎ早に指令が出されている!

『私だ。公安委員長に連絡を取れ。サイオキシン麻薬のガサを中止』

『情報交通委員会は内政干渉の拒否を大義名分に報道統制を敷け』

『憂国騎士団、集結せよ』

『地球教を選挙スタッフとして雇う準備はできている』

『尚これは官邸の意向だ』

 

 ハイネセンの気高き魂は、落日した。

 

 




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