改新党ハイネセン1区選挙支部とヤン・ウェンリー後援会の二つの政治団体の事務長はオーベルシュタイン、会計責任者はキャゼルヌがそれぞれ兼務していた。
大型商業施設のテナントを借りたヤン・ウェンリ―選挙事務所。
公設第一秘書のオイゲンリヒターと公設第二秘書カールブラッケのおもな役目は政策立案の方面であり、選挙の実務はパウル・フォン・オーベルシュタインが一手にまかなっていた。
無論、キャリア官僚と冷徹なマキャベリストだけでは摩擦を生むし、民主主義の選挙の実像に疎いので、エドワーズ委員会の選挙プランナーが事務所に詰めていた。
ちょうど昼飯時、事務机にて無表情でパソコンを叩くオーベルシュタインの傍ら、ソファーには両公設秘書が腰を沈め、選挙プランナーがポスティングの印刷物の手配について報告し、印刷会社の営業部長が同席する。
「……ではそういうことで」
営業部長が席を立ったところで、後援会長のビュコックが呼び止め、チュン・ウー・チェン特製のサンドイッチを勧める。
営業部長が手を伸ばしたところでオーベルシュタインが立ち上がった。
「受饗応になる。それは駄目だ」
「オーベルシュタイン君、それはいかんじゃろ」
……という一幕があった。結局オーベルシュタインが引き下がった。
* *
「ふー」
指示されたエリアのポスティングを終えた青年部長のポプランがホットドッグのキッチンカーに立ち寄り、ドリンクと合わせて注文する。
ドリンクが先に出てきてポプランがひとくち口に含むと、店員の女の子が彼の正体に気づいた。
「ポプランさんですよね、選挙どうですか?」
「我らがミラクルヤンの魔術にかかれば、お茶の子さいさいさ」
「期日前投票でもう入れておきました!」
「ありがとさん」
「ほう? 余裕そうだね」
そこにいたのは──40代で国防委員長から最高評議会議長に上り詰めた扇動政治家だった。
「辛口で頼むよ」
「は、はい」
トリューニヒトは目を閉じ、余裕の笑みで静かにホットドッグを嚙んでいく。
「ふむ。旨い」
包み紙をぐしゃぐしゃに丸めて、片手でダストボックスに放り込む。
ピン札を渡し、トリューニヒトは黒塗りの高級車に乗って去っていった。
……というちょっとした事件をポプランはやけに印象的に感じていた。
* *
そうして迎えた投開票日。
ハイネセン1区は非常に広大なので集計に時間がかかる。
選挙事務所のフロアではテレビモニターや電子端末とにらめっこして、あるいは番組をつけっぱなしにして開票速報を見守っていた。
ヤン・ウェンリーはソファーに寝っ転がり、レジュメに目を通している。
『この時間は、予定を変更して衆議院選挙開票速報の模様をお送りします』
司会者と若い女子アナ。それと中年の政治部デスクに女性の元新聞社社長がスタジオに立つ。
『今回の選挙戦、争点は何でしょう?』
『はい。今回の選挙では、ヤンウェンリーの政界進出というビッグイベントがあったものの、究極的にはトリューニヒト議長率いる民自党による現政権を支持するか否かを問う政権選択選挙であるといえます』
『経済外交安保の強化を唄うトリューニヒトドクトリンに対する街の声を聞きました』
ここで街頭インタビューのVTRが流される。
『資源開発公社に務めているんですよ私。地球開拓で事業と雇用を確保するトリューニヒトドクトリンを支持します』
『ヨブさんが頑張ってくれるでしょう』
『ここで銀河帝国皇帝陛下と中継がつながっております』
ラインハルトは選挙事務所の別室で同盟マスコミの取材に応じていた。
『よく聞こえる』
『カイザーラインハルト陛下、今回の受け止めをお願いいたします』
『私は同盟市民の賢明な判断を信じている。それしか言えないが、今回並行して実施された最高裁判所裁判官国民審査でウルリッヒ・ケスラーを長官に信任していただいた。彼の公明正大な人柄は私が保証する』
『カイザーラインハルト陛下、お忙しいところありがとうございました』
アシスタントディレクターが原稿を差し出す。
『ここで大勢が判明しました──』
『改新党、エドワーズ委員会、合わせて過半数獲得です!』
ピロリン、とニュース速報のテロップが鳴る。
【 BREAKING NEWS 改新党とエドワーズ委員会の革新勢力、過半数獲得。政権交代確実へ 】
歓声が爆発し、パイプ椅子をガタガタと蹴り飛ばして皆が一目散にヤンに群がった。
ローゼンリッター連隊がヤン衆議院議員を胴上げし、フレデリカが抱き着いた!
宇宙歴799年の冬。
銀河帝国皇帝ラインハルト・フォン・ローエングラムの寛大な御心のもとに玉座からの革命が実行された。
民主共和制の聖地はイゼルローン要塞やバーラト星系のみならず、自由惑星同盟という広大無辺な領土にてあまねく保障され、アーレ・ハイネセンの自由を渇望する心は銀河帝国自由惑星同盟のみならず全人類の歴史を塗り替えたのである。
全人類の統治者たる銀河帝国皇帝と、全人類の民主主義の擁護者たる内閣総理大臣の枢軸政権が、銀河を変える!
頂いたご感想からホットドッグのシーン入れさせていただきました。
次回から第六章です。お楽しみください。
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