内閣危機管理センターの官僚たちは目の前の仕事に向き合いながらも、険しい面持ち、あるいは心配そうな面持ちで銃を取り出したユリアンを横目で見る。この期に及んではもはや銃騒ぎも止めるべくもない。
ユリアンは拳銃を突きつけながらも切ない顔になって懇願した。
「お願いします、全員を救う方法があるんです!」
「しかし、今ここを離れる訳には……」
ユリアンは大人の喧嘩に割って入った形だ。
その時、危機管理センターの防護扉が開いて、アドリアン・ルビンスキーが車椅子で現れた。
「策ならある!」
「自治領主」
「地球教の催眠を解除する特殊な周波数帯がある。それを使えば地球教徒は無力化されるはずだ」
それはかつてフェザーンが地球教を制御するための技術だった。
「そうです、その電波に乗せてメッセージを送って、地球教の戦意を失くさせるんです!」
皆が静かに対峙する中、くぐもった爆発音が響いた。
ユリアンは拳銃を下ろした。
「こんな拳銃なんか、大砲やミサイルやビームなんか、何も生み出さない。壊すだけだ。それはカイザーラインハルト陛下もわかっているんじゃないですか。だから戦争をやめてヤン総理大臣のもとで平和を目指そうとしたんじゃないんですか!? なのにヤン総理に対する態度はなんだ!」
年下のユリアンに諭され、ラインハルトは目を見開いて後づさる。
「ヤン総理もそうです。政治と現場に挟まれて判断をしなくちゃいけない。でもそれはどんどん悪い方に向かっていく気がしてならないんです。理想と現実の間で妥協し、苦渋の決断を重ねて、諦める──それじゃいけないんです!」
ヤンはユリアンの成長を嬉しく思い、目頭を赤くしながら聞く。
最年少のユリアンの熱弁に、官僚らも立ち上がり真摯に聞く。
「武力と平和、政治と軍事、国と市民、バラバラじゃだめなんです! ここにいる全員が力を合わせて、団結しなければ乗り越えられないんだ!!」
ラインハルトとヤンが視線を合わせ、ため息をつく。
「……それでも、おふたりがわかってくれないと言うのなら、僕ひとりでやります」
「おいユリアン!」
「待て! ユリアン・ミンツ」
カイザーラインハルトとヤン首相の静止を同時に振り切る。
「さよなら」
* *
ユリアン・ミンツが次に現れたのはブリュンヒルトのもとだった。
地上でアンカーと搭乗橋を降ろし武勲艦が羽根を休めている。
マシェンゴらが敬礼で迎える。
「戻られましたか。ミンツ中尉……カイザーとヤン総理の説得はうまくいかなかったようですね」
「はい……」
ユリアンはベレー帽を取り、俯く。
「とはいえ、フェザーン自治領主の協力は得られているんです、作戦を決行しましょう」
「誰が協力しないと言った?」
風が吹き、背後から神々しい光が照らした。
そこに現れた人物こそ、まさに、銀河帝国皇帝、ラインハルト・フォン・ローエングラムその人であった!
「早く乗れ、すぐに出すぞ」
「「カイザー!?」」
* *
「どういうつもりです!? 作戦を許可する代わりに、自分も連れてけだなんて。僕はあなたに銃を……」
搭乗橋を登りながら、ユリアンはラインハルトの背中に問いかけた。
「もっと早くこうするべきだった、お前は正しい。宇宙は複雑で残酷だ。皆がそれぞれの信念から群雄割拠し、奪い、殺しあう。だから予は皇帝の地位を欲した」
ラインハルトは上だけ向いて階段を一歩一歩上がっていく。
気高き声色でユリアンに正しき人間のあり方を説いていく。
この階段か未来へのステップのような演出に思えた。
ラインハルトのマントが格好良く翻る。
「忘れていた。予は姉上とキルヒアイスのために、ささやかな愛のために銀河に戦いに乗り出したのに、時流で皇帝となり、民衆を、いや、市民のみんなを支配する対象と思い込み、暴君となりかけていた」
ラインハルトは自分に言い聞かせるように語る。
「俺は愚かだった。ヤンにだけ責任を負わそうとしていた。今からは姉上とみんなを守るために戦う! ロイエンタールをぶん殴って連れ戻す! 俺はもう家族を失いたくない!」
搭乗橋の最上部に差し掛かると、ラインハルトはナチュラルな笑顔でユリアンに平手を差し出した。
「ユリアン、夢を壊すな、夢を追うんだ! 光の橋を越えて!!」
同時に、ヤンからラインハルトに通信が入る。
「君の悲しみは君だけのものか、君が背負う孤独は君の命限りか!」
ヤンはひとりで戦おうとするラインハルトを叱咤する。
「確かに産み落とされた命、なら、銀河帝国内閣総理大臣として最後まであらがう! 最後までラインハルトを補佐し、最後まで同盟市民を守る!」
ラインハルトもまた、ひとりではなかったのだ。
ノーネクタイのヤンはどこへやら、危機管理センターで、スーツを着込みネクタイをびしっと締めたヤン・ウェンリー内閣総理大臣が決然と最高指揮官席に座った。
「全艦反転せよ、ユリアンの作戦を決行する! 志ある者はカイザーに続け! 残る者はヤン総理大臣に従え! フェザーンの秘匿兵器で地球教を無力化し、トリューニヒトを倒す!」
宇宙艦隊司令長官ミッターマイヤー元帥の号令のもと、ハイネセン衛星軌道上で銀河帝国宇宙艦隊の大集結が繰り広げられた。
次回第七章です
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