銀河英雄伝説:改新篇   作:松コンテンツ製作委員会

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第26話『激突!ブリュンヒルト対トリスタン』

 銀河帝国皇帝直卒艦隊による地球の包囲!

 この期に及んではトリューニヒト派の企業群のうち良識がいくらか残っている者たちはラインハルト陣営に逆亡命をせざるを得なかった。彼らの民間宇宙船が艦隊に合流し、ラインハルトも寛容をもって逆亡命を許した。但し地球教徒であるかどうかは背後関係が徹底的に洗われた。

 ロイエンタールを生け捕りにし、アンネローゼを救出し、トリューニヒトを討伐するこの最終決戦は三重の困難をきわめた。ラインハルトはどう臨むのか!?

 

 ブリュンヒルトに相対するはロイエンタール艦隊。が、誇り高きロイエンタールは乱戦を好まなかった。

 

『こちらはオスカー・フォン・ロイエンタール。マインカイザーよ、聞こえていますかな』

『こちらブリュンヒルト。よく聞こえる。このような形で卿とは戦いたくなかったものだ』

 おや、とロイエンタールは意外に思う。ラインハルトのアイスブルーの瞳に覇気が感じられなかったからだ。

『マインカイザーよ、ブリュンヒルトとトリスタンでの一騎討ちを所望する』

『分かった』

 

 宇宙空間、星々を背景に互いの艦隊陣形からブリュンヒルトとトリスタンが歩み出て、一騎打ちの様相を呈する。バーニアをふかし、加速していく。

 

 ブリュンヒルトの艦首中性子ビーム砲とトリスタンのそれが一斉に火を噴いた!

 

 が、バレルロールでお互いかわす。

 突進し、砲撃し、バレルし、入れ違い、反転し、また繰り返す。それがブリュンヒルトとトリスタンの殺陣だった。さながら宇宙艦艇でドッグファイトをやっているようなものだ。

 

 ドッグファイトののち同航戦になり、被弾面積の大きいトリスタンにビームがあたり、破孔から煙が尾を引く。速力が低下し、機関部を狙い撃ちにされる。

 

 やがて混戦状態となった。ビッテンフェルト艦隊か地球へ降下していく。すかさずユリアンは叫んだ!

 ロイエンタールもすかさず叫ぶ。

 

『今です! 突入隊を!!』

『武器を持て! 早く!』

 

 ローゼンリッター連隊の強襲揚陸艇が突入し、装甲服姿の薔薇の騎士連隊が斧でロイエンタールの私兵を倒していく。

 ポプランは同行する親衛隊を挑発する。

「こらあ! ノイエサンスーシーイの(表記不可能)野郎ども! お前らの銃は貴婦人のスカートを捲り上げるためのものか!」

 親衛隊が顔を歪ませ、キスリングが「そんな訳あるか!」と敵兵を蹴り飛ばし八つ当たりする。

 通路でロイエンタールの私兵に挟まれ、背中合わせになるユリアンにシェーンコップは言った。

「ことの軽重を見誤るなよユリアン。カイザーとお前さんはトリューニヒトに会うのが仕事、俺たちはその舞台を整えるのが仕事だ。処刑するなり逮捕するなりお前さんの手で歴史を作るんだ!」

 ラインハルトとユリアンが立ちすくむ。

「そうさ、ローゼンリッターの占領地によそ者がいられちゃ迷惑なんだよ!」

 優しさを秘めた暴言だった。

 

     *     *

 

 艦橋へ辿り着いたラインハルトとユリアン。ポプランとキスリングは艦橋入り口にあって邪魔者か入ってこないよう通路を固めている。

 

 ロイエンタールは指揮官席に腰を沈め、頬杖をついていた。

 

「マインカイザーでいらっしゃいますね」

「そうだ」

 しばしの沈黙。ロイエンタールはやおら立ち上がった。

「マインカイザーよ、あなたは強くあるべきだった。民主共和制に妥協せず、ヤンを討伐し、銀河を武断政治で征服なさるべきだった。今のあなたは仕えるに値しない、優しいだけのカイザーだ」

 ラインハルトの目元が震え、眉間に皺を寄せる。

「だが卿はトリューニヒトと手を組んだではないか。そこまで誇り高い卿がなぜ変節したのか!?」

「あくまで政治的に互いに利用しあっているだけのこと。全てはカイザーを倒すため。カイザーを倒し、次はトリューニヒトを倒す」

 ロイエンタールは酔っている。血の色をした夢に酔っている。

「姉上はどうしている!?」

「艦内の安全な区画におられる」

「トリューニヒトは?」

 ロイエンタールは顎で地球をしゃくった。トリューニヒトは地球にいる。

 

「姉君のこと、お責めにならぬのですね」

 

 ラインハルトは瞑目し、沈黙を貫く。何か考えがあるようだ。

 

 ラインハルトとロイエンタールが床を蹴り、駆け出した!、

 

 双方がサーベルを持ち、火花と甲高い金属音を散らしてせめぎ合う。

 

 艦橋要員が気を利かせて銃で助太刀しようとするが、

「よせ! 閣下に当たる!」 

 上官が制した。

 

 切り結び、華麗に舞い、また切り結ぶ。

 ラインハルトが身をかがめ、一太刀を躱すと、ロイエンタールの左の鎖骨のあたりにサーベルを突き刺した!

 

 その時、ラインハルトは予想だにしない行動に出た。サーベルを投げ捨てたのである。

 ……ラインハルトはとどめを刺さなかった。いや、刺せなかった。

 

「ロイエンタールがどういう価値観を持っているか知らない。けど普通の家庭では、自分の姉を愛してくれた人は家族になるんだ。姉さんを愛してくれたのなら、ロイエンタールは俺の兄ということになる」

 

 そうだ。ずっとこれを言いたかった。

 主従関係で照れ臭さを隠していた。

 

「もう俺は家族を失いたくない、一緒にフェザーンに来てください──兄さん!」

 

「ラインハルト……」

 

 物陰からおずおずと現れた清楚な女性は、目に涙をためて弟の成長を嬉しく思った。

 

「!? 姉さん」

 

 互いに向き直り、歩み寄り、駆け出し、抱き合った!

 

「姉さんも一緒にフェザーンに来てください」

「でも、私」

 アンネローゼはロイエンタールに抱かれた身。ラインハルトに遠慮していた。

 

 ユリアンがここで金髪の姉弟に歩み寄る。

 

「あなたが脱出しないと、カイザーラインハルト陛下もここを離れられないんだ! 馬鹿みたいでしょう。馬鹿なんです、人間って。家族のためなら平気でこんなことをやれちゃうんです。アンネローゼさん、あなたも人間なら馬鹿になってください。ロイエンタール元帥と共に、弟さんと一緒に暮らす勇気を!!」

 

 ラインハルトはヒルダという恋人、ヤンという友人、ロイエンタールという家族を得ていた。

 もうかわいそうなラインハルトはどこにもいない。

 

「ロイエンタール兄さん、家族になろう」

 

 ラインハルトは傷の手当てを受けるロイエンタールの手を両手で握った。

 

「ラインハルト、立派な大人になりましたね」

 

 この日、ラインハルトに新しい家族ができた。

 

 




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