地球教徒反乱軍、以下、賊軍というが、賊軍には式典暴動のどさくさに紛れて亡命した帝国同盟双方の将兵が紛れ込んでいる。その数で勝る賊軍だったが、旗艦トリスタンと総帥ロイエンタールの逆亡命により、指揮系統は混乱していた。
漆黒の宇宙空間に、虹色の波紋が何万も狂い咲く。
ハイネセンの守りを固めるメルカッツを除く、フレデリカ、キャゼルヌ、アッテンボロー、パトリチェフ、シェーンコップ、ムライ、フィッシャーらヤン艦隊幕僚陣が同盟艦隊に分乗して地球に到着。ビッテンフェルトはこぶしを突き上げ援軍の到着に歓喜した。
彼らの土産は指向性ゼッフル粒子の生成装置であった。いったい何に使うのだろうか?
時に、宇宙歴800年2月11日。
フレデリカが彼女自身が作り上げた秘匿回線を開き、帝国同盟連合艦隊の識別コードをヤマト艦隊に戻す旨伝えた。今やヤマト艦隊の符牒は帝国同盟連合艦隊のシンボルとなっていた。
『皆さん、ヤン・ウェンリーからの作戦プランです。コードⅭ4を開いてください』
『帝国支艦隊了解』
『同盟支艦隊了解』
『敵味方識別信号の確認を怠るな』
『帝国同盟の連絡調整官をユリアン・ミンツ中尉に指定』
『では作戦を開始します──
フレデリカがマイクを握り、号令した。
同盟軍艦艇二隻が帝国軍戦艦一隻を牽引ビームでY字状に連結し、帝国艦では推進に回すはずだった余剰エネルギーをもフルで指向性ゼッフル粒子の生成と充填に回す。転送フィールドが工作艦によって用意されている。
ゼッフル粒子を溜めて溜めて、ついに点火した!
轟音。
ワープゲートにぶっとい火柱が送り込まれ、次の出現点で火柱が真空を進撃し、賊軍を艦体を棺桶にして火葬する。
地球を背景に宇宙に爆炎が狂い咲く。
転送工作艦が円陣でゲートを形作る。
その奥ではY字状の戦力単位が横並びの砲列になり、横並びの砲列だが微妙に発射タイミングをずらして絶え間なく火力を叩き込めるようにしている。
横並びの砲列は縦数段に重なり、マルチ隊形を構築する。
『艦隊陣形転換。砲列第一陣、後退。第二陣。前へ』
『第二陣、充填を開始せよ』
『第二陣、発射!』
同盟艦によるY字状の曳航と、それら戦力単位を複数用意した上で、交互射撃で、ワープ転送で、充填時間が極めて長い指向性ゼッフル粒子の爆炎を、速射にして、ぶちかます。
シャフト大将の置き土産から練られたミラクルヤンの作戦構想とそれを具現化したカイザーラインハルトの戦闘指揮は大当たりした。
完全なワンサイドゲームののちに賊軍艦隊は殲滅。組織的抵抗は終わった。
大勢を見届けたトリューニヒトは椅子から立ち上がり、静かに自室へと去っていった。
* *
──私は自治大学を首席で卒業し、法秩序官僚を目指した。
全ては市民の権利のために。
だが、法秩序官僚として国家の権力と市民の人権に挟まれ、私は初志を見失った。
権力に絶望したし、愚民にも絶望した。
民主主義の低能さを証明してやる!
政界進出し、政治家になった。
道化師を演じているうちにそれ自体が快楽になった。
若くして国防委員長に登り詰め、丁々発止の権力闘争で最高評議会議長の座を確かなものとした。
この頃の私は幾度か真人間に生まれ変わるチャンスがあったものの羞恥心からそうできずにいた──
あろうことかラインハルトとヤンが枢軸政権を組み、善政を敷こうとしている。
腕に残るのは医療用麻薬の注射痕。打ち始めたのは救国軍事会議事案で地球教に匿ってもらっていた頃からだ。シラフで政治などできるか。
もう、トリューニヒトの親衛隊はいない。
もう、トリューニヒトは後戻りできない。
流星になって落ちていく地球教徒反乱軍の艦艇の残骸を目に焼き付けながら、ヒマラヤの高原で一人寂しくホットドッグをかじってみる。選挙戦の最中業務用冷凍品を購入したのだ。
少しパサついていたが、旨かった。コーヒーで流し込む。
トリューニヒトは泣いた。慟哭した。どうせ誰も聞いていない。
悪役になり損ねた。ジョーカーになり損ねた。
誰かに認めてほしかった。褒められたかった。友達が欲しかった。人の役に立ちたかった。自分だけの国を作りたかった。
ブラスターを抜き、側頭部に押し付ける。
ブリュンヒルトの舳先が高原に突っ込み、トリューニヒトが弾き飛ばされる!
ラングがその衝撃で生き埋めとなる。
そのままの勢いでジェットパックのようなものを付けたラインハルトが少年漫画の不良兄貴分みたいに拳を叩き込む!
「──トリューニヒトお、歯を食いしばれえ!!」
銀河帝国皇帝が、自由惑星同盟最高評議会議長を、殴り飛ばした!
唾液と血を吐き、トリューニヒトがせき込む。
「目が覚めたか、トリューニヒト。死んで取れる責任などないぞ、トリューニヒト」
トリューニヒトが肩を上下させラインハルトの方を向く。
「予は卿を殺す気になれぬ」
トリューニヒトの目がラインハルトに釘図けになった。
「罪を犯したなら、法によって償えばよい。自分で自分を殺す必要などないのだ」
ラインハルトはトリューニヒトの腕を掴み、自らの手で手錠をかけた。
「ヨブ・トリューニヒト、大量殺戮および大逆の罪で逮捕する」
銀河帝国下級裁判所、上級裁判所、そしてゆくゆくはケスラー最高裁長官が裁くのだろう。きっと待つのは極刑判決だ。
だが、トリューニヒトの顔はなぜか穏やかだった。
銀河帝国皇帝が寛容帝ラインハルトと呼ばれるのはこの頃からである。
トリューニヒトの背景を私なりに解釈してみました。ご感想お待ちしております。
次回第八章です。
らいとすたっふルールに準拠しているか
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