第4話『敵はヒマラヤにあり』
ラインハルトが自らの政治軍事の実力で玉座にたどり着き、自らの手で冠を若さみなぎる金髪に戴いたのは六月二二日。
バーラトの和約ののちに銀河帝国と自由惑星同盟では政権交代が同時進行していた。
帝国では同世代の中で最も大きすぎる肩書きを背負うこととなった乳児からラインハルトに譲位。ここに古く澱んだ王朝の血は入れ替えられ、若く活力に満ちた獅子帝の即位に民衆は熱狂したのである。
マリーンドルフ伯を国務尚書とする機能的でラジカルな組閣人事が公布され、帝国と同盟、特に同盟がおののいた。
同盟の英雄ヤンウェンリーを介して銀河帝国に間接統治されることとなったその自由惑星同盟中央政府の人事だが、ミラクルヤンというサプライズ人事のほかはおおむね留任となった。
すなわち、帝国軍人と同盟市民は今後しばらくはトリューニヒトの高慢不遜な面を拝まねばならぬのである。
同盟の五つ星ホテルを居抜きした自由惑星同盟領総督府においては、帝国側の政治的な補佐職であるレンネンカンプ高等弁務官、そして同盟においての事務的な補佐職であるキャゼルヌ事務局長、加えて私生活では妻である副官フレデリカ・グリーンヒル少佐と被保護者ユリアン・ミンツに挟まれ、文民としてのヤンの第二の人生が幕を開けた──!
《 銀河英雄伝説二次創作 銀河英雄伝説:改新篇 第二章『ミラクルヤン』 》
……そのような新体制にあって、総督府総督執務室の最初の来客は自由惑星同盟アイランズ国防委員長であった。
入るや否や立ち話で押しきろうとする国防相閣下にフレデリカがソファーを進め、ユリアンが濃い目の紅茶を出す。ふたりが同席を遠慮しようとするとアイランズは制し、皆をソファーに座らせた。その中にあってキャゼルヌが逐次メモを取る。
「ヤン元帥。私は国防委員長として制服組をバックアップするつもりが、最後まで最高評議会を統御できなかった。謹んでここにお詫びする」
「そんな、顔を上げてください!」
ヤンの幕僚たちが顔をはねあげ、ユリアンが若者らしく思いを口にする。
「私の目的はただただ、この自由惑星同盟の主権を守ることにあって、まして他意があったわけではない。何卒ご了解願おう」
アイランズは紙袋を差し出した。
「これはかつて地球のスリランカで採れていたオレンジペコを受け継ぐ茶葉らしい。私には紅茶の味がよくわからないので手土産にと思ってな。ところで地球教の連中は紅茶を嗜むのかな?」
何か重要なヒントを与えられたとヤンの戦略眼が見開かれた。
「では私はこれで。最高評議会の閣議があるのでな」
* *
閣議を終えたトリューニヒトはガラス張りの最高評議会ビルから下界を見下ろしていた。たしかに彼に取って同盟市民らは自身に票を献上してくれる愚民でしかないのかも知れない。
のちにユリアンが戦慄する驚愕の事実だが、トリューニヒトはこの時既に『銀河帝国初代首相』となる野心をたぎらせていた。
その票を分散してしまうライバルがとうとう現れた。言うまでもない、ミラクルヤンである。
ヤンはこの先、本人の預かり知らぬところで政局に巻き込まれるのである。
二次創作のこの物語はラインハルトとヤンの友情という分岐点を経て、ヤンとトリューニヒトというふたりの政治家の政局劇への第二章の幕を開ける。
内務警察官僚出身のトリューニヒトはヤンを監視する旨命じた。
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