銀河帝国皇帝ラインハルトの初の行幸啓はキュンメル男爵領と定められていたはずだが、病気の体を押してキュンメル男爵をも呼び込み座乗艦ブリュンヒルトが自由惑星同盟首都星ハイネセンに寄港し、ヤン総督夫妻の結婚式に列席することが決められたのである。
地球教にとってみれば、キュンメル男爵をけしかける皇帝爆殺の舞台をしつらえる目論見が失敗した代わりに、互いに利用する関係のトリューニヒト政権を維持できた形だ。
あ、く、ま、で、舞台が変わっただけである。
高砂席に訪れようとしていたのは自由惑星同盟政府高官も同様であった。最高評議会議長ヨブ・トリューニヒトに退役元帥アレクサンドル・ビュコック。そして同盟新国防委員長ウィリバルト・フォン・メルカッツである。
結婚式は西洋の儀礼の通り行われ、披露宴へと進む。
エルファシルの英雄に
「カイザーラインハルト陛下。ヤン総督のことですが──」
銀河帝国皇帝に対し、肩書きと名と陛下で呼ぶのは民主共和主義者としてのトリューニヒトの自我の現れだった。
先述のように、実際、トリューニヒトなどよりもラインハルトの覇権を臨む声は同盟市民の中にも少なからずあるのである。これは知識人よりも若者などに多かった。
「民衆は王子様とかお姫様が好きなのさ」
と、幼帝が拉致された際のヤン艦隊の幕僚の皮肉は至言だろう。
ラインハルトはそのような世論を知っているからか、
「予がヤン総督の頭越しに卿に直接指示を下すことはあり得ぬ。予はヤン総督を通すし、卿もヤン総督を通せ」
目を閉じ肉を口に運びながらトリューニヒトの言葉を遮るラインハルト。
トリューニヒトは肩をすくめ、円卓を中座した。
会場警備を陣頭指揮していたケスラーに呼び止められ、なにやら話し込む。
「ケスラー憲兵総監、実はお耳に入れたいことが」
「なに……!?」
そしてキュンメル男爵の挨拶となる。
本来の段取りにはなかったが、彼がねじこんだ格好だ。
トリューニヒトの密告を受けたケスラーが制止しようとするが、気の強そうな年配のスタッフに止められ口を歪め舌打ちする。
──次の瞬間、
ヤンがキュンメルに飛びかかった!
「何をするか!」
参列者のどよめきの中、銀河帝国の貴族に飛びかかったヤンにレンネンカンプが怒鳴るが、キュンメル男爵の手からスイッチらしき端末が床に転がっていった。
拳銃を片手にケスラーがフォローする。
「レンネンカンプ大将! ヤン総督を責めるには及ばぬ! 彼は皇帝陛下へのテロを未然に防いだのだ!」
「レンネンカンプよ、しばらく頭を冷やしてこい」
拳を振り上げる直前のレンネンカンプがかつての部下であり今の主君であるラインハルトの前で恥をかかされた格好となり、青くなったり赤くなったりしていた。
今やキュンメルの命は風前の灯火であり、その体はヒルダに抱き抱えられている。あなたは馬鹿よ、と。
ケスラーがヤンに歩みより、警帽を脇に持ちうやうやしく頭を下げた。
「皇帝陛下の玉体が危険に晒されましたのはひとえに憲兵総監たる小官の責任ではございますが、ヤン総督閣下の咄嗟の判断により帝国政府、同盟政府、双方が救われました。厚くお礼を申し上げます」
規律を司るケスラーのこの礼儀を尽くした態度に同盟はケスラーとラインハルトを見直し、帝国はヤンを見直した。
総督閣下は衣装の喉元をゆるめ、セットの崩れてきた黒髪をぼりぼりと気まずそうにかいた。
「……して、皇帝陛下」
ケスラーは話の相手をラインハルトに移した。
「近日中に今回の事件について皇帝陛下、同盟領総督、同盟政府最高評議会議長による合同記者会見を開くべきかと」
「ほう、トリューニヒトの発案か」
「御意。不本意ながら、この発案については私も最高評議会議長と意見をひとしく致します」
「そうですとも! 地球教の暴挙に対し、銀河帝国皇帝と自由惑星同盟最高評議会議長、その二ヶ国を取り持つ総督としてのミラクルヤンが共闘することを宇宙に喧伝するまたとないチャンスですぞ!」
ケスラーの声にかぶせ、トリューニヒトが大げさなジェスチャーでラインハルトに慇懃に歩み寄る。
ケスラーが頭を下げたまま眉間に皺を寄せ、ジト目でトリューニヒトをねめつける。
トリューニヒトの主張はもっともであるが、それは自身を政治家として喧伝するためのパフォーマンスでしかないだろう。
「ヤン、どう思う」
「仕方ないね、やりますか」
銀河帝国自由惑星同盟領総督ヤン・ウェンリーは明日夕方の三者合同記者会見を了承した。
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