あのグリーンノア1でのリック・ディアスとの戦闘から数日。ジェリド達は、アレキサンドリアに乗りこみ、エゥーゴの旗艦アーガマを追撃する任務に出ていた。
親ティターンズの連邦軍に連絡をつけてアーガマの足止めをさせることで、アーガマに追いつく計画である。
ティターンズの女性士官、エマ・シーン中尉は、新造重巡洋艦アレキサンドリアの廊下を移動していた。ハンドグリップから手を離し、無重力の廊下の壁を蹴って目的のドアに手をかける。
「エマ・シーン中尉であります。足止めに向かわせていたボスニアのアーガマとの交戦報告を持ってまいりました」
「……うむ、入れ」
ドアの内側からは低く重厚な声が返ってくる。バスクだ。
「失礼します」
電子制御のドアが開き、エマは部屋に入る。
エマの視界に飛び込んだのは、バスクと、彼の部下と、衰弱した一人の捕虜だった。
「これは……」
エマは口元に手をやった。捕虜は体中傷だらけで、何日も寝ていない様子だった。
尋問の域を超えている。間違いなく、拷問。エマはバスクを見た。
「どうした、エマ中尉。さっさと渡さんか」
「は、はっ」
エマはどうにか取り繕い、バスクに書類を渡す。
彼が書類に目を通す間、エマは横目で捕虜を見ていた。大きな鼻の短髪のパイロットだ。顔の殴られた痣が痛々しい。意識があるのかわからない目がエマに向いた。
バスクは資料から目を上げた。
「ふむ……いいだろう」
「大佐。彼は……」
ついにエマはそう切り出した。細い眉を寄せ、不信感をあらわにする。
「見てわからんか、中尉達が捕虜にしたエゥーゴのパイロットだ」
「ええ、わかります。しかしこれは拷問でしょう」
彼女は生来まっすぐな人間だ。融通が効かないところはあるものの、理不尽な暴力を見過ごせない。凛とした澄んだ声が部屋に響く。
バスクの顔がさっと赤くなった。ゴーグルの上までも怒気が滲み出ている。
「貴様!」
バスクは大きな手でエマの顔を殴りつけた。無重力空間ゆえにエマの体が飛び、壁に当たって跳ね返る。帽子が宙を舞った。
「中尉風情が何を言うか!」
「し……しかし、捕虜の扱いは軍規では……」
「黙らんか!!」
バスクはエマの胸ぐらを掴み、さらにもう一発、顔面にパンチを打ち込んだ。鼻血が空間に浮かび、バスクの白い手袋を赤く染める。
「さっさと出て行け!」
無重力空間では鼻血は飛び散ってしまう。顔中に血を貼り付けながら、エマは部屋を追い出された。手にはかろうじて掴んだ帽子が握られている。
ドアのロックが閉じた。
廊下に浮いた彼女はポケットからちり紙を探る。その内心は揺れていた。
「拷問だなんて……」
バスクが苛烈な人格を持っていることはある程度知っていた。しかし、このような非人道的な行為まで行っているなどとは思っていなかった。
巷で流れているティターンズによる民間人への弾圧の噂すらも、あのような人格ならば本当かもしれない。
エマはそこまで考えて、首を振った。そんな馬鹿なことがあるはずがない。きっと今回のあの捕虜の件も、何か重大なわけがあったのだろう。
ポケットから取り出したがちり紙で鼻血を抑えるが、宙を舞う血の雫は、すでに彼女の帽子を汚していた。
「これも使えよ」
宙に浮かんだちり紙がもう一つ。声の主はジェリドだった。
「ジェリド!」
「どうしたんだ、その鼻血は」
ジェリドは呑気にそう訊いた。
エマは迷った。ここで彼に捕虜への拷問のことを話せば、味方になってくれるかもしれない。しかし反対に、バスクへ密告する可能性もある。
何より、彼女はバスクを信じたかった。捕虜への拷問は必要悪でしかなく、民間人への弾圧も全てが嘘っぱち。そんな期待を捨てきれずにいた。
エマは、帽子を握りしめた。
「……いえ、まだ無重力帯に慣れてないから。ほら、ここの壁」
「ぶつけたのか」
「ええ」
ジェリドは眉を上げた。苦笑するエマ。きつく握られた彼女の帽子は、皺だらけになっていた。
「アーガマに乗っているのはエゥーゴの指導者ブレックス准将だ! なんとしてもあの艦を落とせ!」
「はっ!」
アレキサンドリアのブリッジではジャマイカン少佐がパイロット達へがなりたてていた。アレキサンドリアを含むこの艦隊を指揮するバスクの腹心である。
ジャマイカンの後ろでは、バスクがその光景を眺めている。彼と目があって、エマは目を逸らした。
「ジェリド中尉には特命を与える。お前達は先に配置についておけ」
「はっ!」
カクリコンとエマは揃って敬礼し、ブリッジを出て行く。エマは不思議と、後ろ髪を引かれる思いだった。
二人がブリッジから出たことを確認してから、ジャマイカンは口を開いた。
「戦闘中、後続のカプセルが射出されるはずだ。おい!」
ジャマイカンが呼びかけると、ブリッジのモニターの一つに今回の戦闘の模式図が映し出される。
「これがそのカプセルのコースだ。お前は戦闘には参加せず後方で待機しろ。敵がこのカプセルを回収するようなら、撃て」
「そのカプセルというのは、爆弾でしょうか」
ジェリドは表情を変えず、ただ聞き返した。ジャマイカンもまた、仏頂面のままだ。
「まあ、そんなものだ」
「了解しました」
「よし、なら貴様も配置につけ! 準備が出来次第すぐに出撃だ!」
「はっ!」
ブリッジを後にするジェリドの背中を見て、バスクはほくそ笑んだ。これで、見せしめの用意はできた。
格納庫までの道中、ジェリドの内心はこの命令に懐疑的であった。人払をしてまで伝える必要があるのだろうか。間違いなく後ろ暗いところがあるからだろう。
彼はノーマルスーツのヘルメットを被り、バイザーを下ろした。
たとえこの命令が何であろうと、俺は必ずやり遂げてみせる。ティターンズでのし上がるためには、それしかない。むしろ俺にこの命令が下ったことを光栄に思え。
決意を固めた彼は、Mk-Ⅱのコクピットに乗り込んだ。
「聞こえるか、アーガマ。こちらはティターンズのバスク・オム大佐である」
アーガマのブリッジは騒然としていた。先日のグリーンノア1での作戦の失敗、それに続く連邦軍の追撃。貴重なパイロットを二人と、新型モビルスーツを二機失い、いわば出鼻をくじかれたアーガマの士気と結束は落ち込んでいる。
そこに飛び込んだある通信は、彼らの心情を揺さぶった。
「貴様らエゥーゴのパイロットを二人、我々は預かっている。無事に返して欲しければ、二時間以内にブレックス・フォーラ准将の身柄を引き渡せ」
グリーンノア1での戦闘で捕虜にされたリック・ディアスのパイロット、アポリーとロベルトのことだ。彼らを人質に、バスクはエゥーゴの指導者の身柄を要求している。
「バスクめ……! なんと恥知らずな!」
ブレックス・フォーラ准将は壁を殴りつけた。
その彼に、キャプテンシートから大男がその野太い声をかける。
「どうしましょう、准将」
アーガマの艦長、ヘンケン・ベッケナー中佐だ。エゥーゴの旗艦を任されるほどの優秀な船乗りである。
「私が行くことはできん……! しかし、バスクの本当の狙いはそこではないのだ」
「そうでしょうな、要求に応えればエゥーゴが死ぬ。しかし無視すれば、エゥーゴからの離反者も出るかも知れません」
クワトロが准将の弁を継いだ。サングラスの奥の青い瞳は、モニターのバスクを睨んでいる。
バスクのやり口は悪どかった。
無論、この要求には無理があった。たかがパイロット二人と組織の長では、全く釣り合いが取れない。エゥーゴの構成員もブレックスが出て行くわけにはいかないことは理解するだろう。
しかし、パイロットを見殺しにしたとあれば、エゥーゴの士気に影響が出る。
思想的な結束は、心情によって揺らぐ。これから全面戦争に突入して行くにあたって、どれだけの人間が今の考えを貫けるのか。
「むう……大尉ならばどうする」
「……私はパイロットですよ、准将」
クワトロは助け舟を出さなかった。この状況において、逃げ道はない。大人しくアポリーとロベルトを見殺しにする他ない。
「……仕方あるまい。あの二人には悪いことをした」
ブレックスはうつむいた。アレキサンドリアに追いつかれている今でさえ窮地には変わりない。重々しく、その口を開く。
「艦長、アレキサンドリアを振り切れるな?」
「モビルスーツ隊を撃退できれば、おそらくは」
ブレックスとヘンケンの目がクワトロに向いた。
「やってみましょう。ただ、敵は手強いですよ」
「例のガンダムのパイロットか」
「はい」
あっさりとそう言い切ったクワトロに、ブレックスは肩を落とした。嘘でもいいから、「私が全て叩き落として、ついでにアポリーとロベルトを救出してきます」とでも言ってはくれないものだった。
アーガマには僚艦のサラミス改級モンブランが付いている。しかしそのモビルスーツはジムⅡのみであり、ティターンズのアレキサンドリアとがっぷり四つに組んで戦うにはアーガマの戦力を含めても心許なかった。
加えて、アレキサンドリアには二隻のサラミス改級が同行している。ジムⅡだけでなく、ハイザックもある。
すでに戦闘は始まっている。モビルスーツ隊が発進した。
「モビルスーツには構うな! アーガマをやれ!」
ジャマイカンの指示がコクピット内に流れる。
「構うなと言われて、構わずにいられるものかよ」
カクリコンは通信を繋げず、そう言い返す。ジャマイカンは嫌われ者だ。撃ってくる敵を前にして、ただ横っ腹を晒すことなど出来はしない。
「各機! 赤い新型は相当の手練れだ! 必ず複数人で当たれ!」
クワトロが駆るリック・ディアスのビームピストルがジムⅡを撃ち抜いた。自分の指示がまるで通じず、カクリコンは舌打ちをする。
「ちっ! ジェリドの野郎は特命かよ!」
背中を預ける親友は、今はいない。あの赤い新型相手に俺は戦えるのか。カクリコンは自問する。しかし、答えは出ない。
「ええい……! 数も質も段違いとはな……!」
一方のリック・ディアスの中のクワトロも苦い顔を浮かべていた。
一年戦争の頃、連邦のモビルスーツ「ガンダム」に辛酸を舐めさせられた思い出が蘇る。その舞台はちょうどサイド7、先日の戦いが行われたグリーンノアの前身である。
同じサイド7で、ガンダムの手で部下を二人失った。
クワトロはがむしゃらに戦っている。その戦いぶりは、だんだんと、七年のブランクを取り戻しているように見えた。
「ジムⅡ隊は散開! ハイザック隊は敵艦に攻撃を集中させよ!」
モビルスーツ隊の指揮官はエマだ。命令に従い、ハイザック達のビームライフルが繰り返し光条を放つ。
エゥーゴのジムⅡが内側から光り爆ぜる。命が消える光は、不自然なほど美しかった。
ライトを点滅させながら、カプセルが一台、その戦場を横断していた。人が入れるほどの大きさだ。
ジェリドはようやく訪れた自らの出番の到来を喜び、そのビームライフルをカプセルに向ける。
気配。
カプセルの中からだ。宇宙で感じるはずがない気配。それは一般にニュータイプと呼ばれる人種が感じられるものだ。
「馬鹿な……」
妙な感覚を、頭を振って追い払う。自分がニュータイプだと感じた事は、今まで一度もなかった。しかし、そのべっとりと張り付く不快感は、彼の脳裏から離れない。
カプセルに狙いを定めた彼は、その表情を険しくする。あれは爆弾だ。そう自分に言い聞かせる。
しかし、ジャマイカンは言葉を濁していた。ならばあれは捕虜なのか。ジェリドの頭の中で、その疑問が回り続ける。
「くそっ!」
ジェリドは悪態をつき、通信のスイッチに手を伸ばした。
「クワトロ大尉!! 聞こえますか、大尉!!」
リック・ディアスの中に、アーガマからの通信が飛び込む。トーレスだ。
「トーレスか、どうした」
「あ……アポリー中尉とロベルト中尉です!」
トーレスの報告は要領を得ない。ビームピストルで眼前の敵を追い払って、クワトロは聞き返す。
「何がだ」
「二人が乗ったカプセルがそこを飛んでるんですよ!」
ライトを明滅させその宙域を漂うカプセル。その窓を叩くのは、アポリーとロベルトだ。
「バスクめ……!」
ブレックスはアーガマのブリッジシートから立ち上がった。
「准将、座っていてください!」
「これが落ち着いていられるものか! 殺すための人質なのだぞ!」
ヘンケンの指示にも、ブレックスは怒鳴り返す。とはいえ、自分のシートに座り直すだけの冷静さはあったようだ。
「おのれ……こうまでして見せしめを作るつもりか!」
はらわたが煮えくり返っているのはヘンケンも同じだ。こんな人質紛いの方法まで取るバスクを許すことはできない。
モニターに映った望遠カメラの映像からは、アポリー達の身体も見える。拷問の後だ。パイロットスーツも着せていない。カプセルに穴でも開けばあっという間に死んでしまうだろう。
何より許せないのはこうして戦場に放ったことだ。流れ弾が掠めただけで宇宙のチリになる恐怖を彼らは味わっているはずだ。残酷で非人道的な処刑を、エゥーゴの旗艦の目の前で行おうというのだ。
アーガマのブリッジが揺れる中、真っ先にカプセル保護に動いたのはクワトロだった。優秀な部下を失うわけにはいかない。だがそうして隙を作らせることも、バスクの考えのうちだった。
「あの敵、何をするつもり?」
エマがそれを察知する。やや突出していた彼女だが、そのクワトロの不可解な動きを見過ごすはずがない。グリーン・ノアでも、この赤い新型のパイロットの動きは手練れであろう他の二機をはるかに超えていた。常に赤い新型に注視するようになるのも当然と言える。
ビームライフルで牽制し、彼女はクワトロの行き先を捕捉する。
「カプセル……?」
赤いリック・ディアスの目指す先にあったのは、小さなカプセルだ。この乱戦の中では、彼女が気づかなかったのも無理はない。
クワトロ機とカプセルの間に彼女はMk-Ⅱを割り込ませた。
「ええい!」
クワトロはビームピストルを捨て、サーベルを抜く。対するエマはシールドを構え、その後ろでビームサーベルを握りしめた。
「エマ! 聞こえるか、エマ!」
その緊張の一瞬を破ったのはジェリドの通信だ。エマは驚き、咄嗟に身を退く。
「戦闘中よ! 個人通信なんて……!」
「カプセルの中身を確認しろ! エマ! 俺の位置からでは遠くて見えん!」
クワトロはすでにエマを捨て置き、カプセルへと突き進んでいる。
ジェリドの指示を不可解に思いながらも、彼女自身、赤いリック・ディアスが目指すカプセルの中身は知りたいと思っていた。エマはその指示に従ってカメラの望遠を入れ、モニターに映るカプセルを拡大する。先程のバスクへの不信感が、彼女のなかにあったからだ。
「嘘よ……そんな……!」
「パイロットだろう、この間の!」
エマが答えるまでもなく、ジェリドはその中身を言い当てた。
「ジェリド! 撃つのはやめなさい!」
あの時拷問を受けていたパイロットもカプセルの中にいる。エマは叫んだ。しかしジェリドには届かない。彼はもう個人通信を切っていた。
この間のパイロットだろうと、軍人ならば死ぬことは覚悟の上だろう。こうして戦場を飛ばしたのだって、言ってみれば普段の戦闘と変わらない。違いは一度捕虜にしたかどうかだけだ。ジェリドは口の中で呟く。
「恨むなら、こんな人質紛いの手を打ったバスクを呪うんだな!」
指が引き金にかかる。跳ねる呼吸。ジェリドはその指に力を込めた。
噛み締めた歯が、軋む。
ビームライフルの銃口から飛び出した光は、そのカプセルを掠めることなく、赤いリック・ディアスめがけて飛んでいった。
「ぬおお!?」
直撃を喰らい、揺れるリック・ディアス。だが、追撃はない。機体も動く。すぐさま体勢を立て直し、カプセルを回収する。
「ジェリド……!」
エマは、そのカプセルを抱えたクワトロ機を追いかけようとして、やめた。
二機の距離はぐんぐんと離れていく。
「……見逃した、というのか……」
赤いリック・ディアスの中でクワトロは呟いた。エゥーゴに身を投じたものは、そのほとんどがティターンズの非道に憤りを感じている。そしてそれはティターンズの構成員であったとしても、あり得ない話ではない。
コクピットの中で、ジェリドはじっとりと背中を濡らす汗に気づいた。指先の小さな震え。荒い呼吸。
こんな人質じみた真似をする必要はない。俺たちはティターンズだ。あの程度の敵なら、もう一度戦ったって墜とせる。
流れ弾が当たれば即死の恐怖の中でアーガマの連中への見せしめになるなど、戦士への仕打ちとは思えない。
ジェリドはこの戦闘中、引き金を二度と引かなかった。
「何をやっておる!」
ジャマイカンの怒鳴り声が響く。
「ジェリド貴様、こんな簡単な任務もこなせんのか! 訓練生からやり直すか! ええ!?」
「申し訳ありません」
ただジェリドは頭を下げる。鼻息荒いジャマイカンはまだ収まらない。息を吸ってまた声を張り上げる。
「グリーンノアでの戦闘でいい気になりおって! この役立たずめが!!」
ジャマイカンは怒鳴り疲れたのか、肩で息をしている。
「申し訳ありません、少佐」
ジャマイカンは、ちらりと背後のバスクに目をやった。バスクは小さく顎をしゃくる。
「……もういい、下がれ。二度はないぞ」
手を払ってジャマイカンはジェリドをブリッジから追い出した。
ジェリドの表情は、固い。
ブリッジ前の廊下でジェリドを待っていたのは、エマだった。手を後ろで組んで壁に寄りかかる彼女は、ジェリドを見てさっと顔を背けた。
「……私の部屋に来なさい」
それだけ言うと、エマはグリップを掴んで廊下を進んでいく。ジェリドは黙って、その後を追った。
「通信記録は、ちゃんと処分しただろうな」
エマの部屋に入って一番、ジェリドはそう切り出した。
「ええ」
エマは帽子を脱いだ。殺風景ではあるが、女の匂いがする部屋だ。
ジェリドが密命を受けたあの戦闘では、結局アーガマを取り逃した。損害は与えたものの、追撃任務はまだ続く。
再び二人の間に沈黙が流れる。お互いに、言いたいことはある。しかし、切り出すつもりになれなかった。
「ジェリド……あなた」
「外したんじゃない、外れたんだ」
ジェリドは問われるまでもなく、答える。あのカプセルへの銃撃の話だ。
「嘘をつかないで。コースもわかっていたのなら、あなたが外すはずないわ」
「誰にだってミスはある。それとも、俺が情に絆されたって?」
「ええ、そうよ」
エマは臆面もなくそう言い返す。ジェリドは調子が狂ってしまって、声を荒げた。
「馬鹿を言うな! あれはミスだ、次に機会があればいつだってあのカプセルを撃ち抜いてやる」
「ジェリド、よく聞いて」
エマはいつになく真剣な面持ちだ。声も低い。
目を閉じて、軽く深呼吸をする。再び目を開けた彼女は、その大きな瞳でジェリドを見つめた。
「私、エゥーゴに行こうと思ってるの」