主人公はジェリド・メサ   作:中津戸バズ

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ムーン・アタック(後)

 

 

「すごいですね、アーガマって」

 カツははしゃいだ。休憩スペースの自動販売機に、彼は目を輝かせている。

「ああ。ホワイトベースとは全然違う」

 アムロは椅子に腰掛け、コーヒーのカップを傾ける。カツは小銭を出して、何を飲むか迷っているようだ。

「……この前、ジェリドと戦ったろう」

 二人の間に沈黙が流れた。自販機が小さく音を立てる。平静を装って、カツがアムロの声に振り返った。

「はい。それが?」

「撃たなかったな」

 アムロの言葉は鋭い。カツは、何を言われているか理解した。

「……すごいな、アムロさんは。何でもお見通しか」

 観念したようにそう言って、カツは自販機の小窓から紙コップを手に取った。

「なぜだ? ティターンズは憎いだろう?」

 カツはストローでジュースを一口飲むと、アムロの向かいに座った。視線を机の上に落として、彼は答えた。

「……女の子が、怯えてたんです。撃たなきゃいけなかったのは、わかってます」

 女。アムロの脳裏に、一年戦争での出来事が蘇る。

「相手は、お前のことを」

「多分、知りません。僕が一方的に感じただけなので」

 アムロの表情が翳った。カツはもう一口、ストローを吸う。

「……地上で言ってましたね、アムロさんも……」

「ニュータイプというのは、いいことばかりじゃない」

 アムロが不安を抱いたのは、カツのニュータイプ能力に対してだ。殺すはずの敵の感情を感じ取ってしまうことは、パイロットとしては負担になる。

 なにより、自分の二の舞を演じさせたくはない。アムロはハヤトからカツを託されているのだ。

 目を閉じて、彼はコーヒーを飲み干した。カップを下ろしたとき、アムロは笑みを浮かべていた。

「しかしカツ、ここではケーキも食べられるらしいぞ」

 カツが意外そうに顔を上げた。アムロの表情を見て、彼も笑う。

「楽しみですね」

「ああ……」

 そう言いつつ、アムロの視線は宙に漂っていた。

 明日には、ティターンズがフォン・ブラウンを攻撃する。大規模な戦闘が始まるのだ。

 

 

 

 月のはるか上空で、艦隊戦の戦端が開かれようとしていた。

 フォン・ブラウン市制圧を狙うティターンズ艦隊と、それを阻止せんとするエゥーゴ艦隊。軍艦はずらりと並び、その内に熱を湛えている。

 全長三百メートル前後の艦が並ぶ様は、一年戦争を思い起こさせた。

 後方のアレキサンドリアのブリッジでジャマイカンはつぶやいた。

「エゥーゴのスポンサーはまた支援を強めたようだな」

 報告では、エゥーゴの戦力は以前以上に増している。ガディがキャプテンシートで相槌を打った。

「地上ではもう上がり目がないと見たんでしょう。このアポロ作戦は双方にとって重大です」

「連邦政府の総会の直前だからな。ここでフォン・ブラウンを叩ければ、ジャミトフ閣下も議会で動きやすくなる」

「しかし、この作戦の指揮を任されているのは……」

「ふん、奴の手並みを見せてもらうさ」

 ジャマイカンは苦々しさを滲ませた。フォン・ブラウン市を制圧するアポロ作戦の指揮を任されているのは、彼ではなかった。

「パプテマス・シロッコ……木星帰りの男か」

 ガディは遠い前方のドゴス・ギアを見て、そう漏らした。

 

 

 

 アポロ作戦を任されたシロッコは、彼の実力を彼自身に示すチャンスに密かに沸いていた。互いの射程の外に広く配置したエゥーゴの艦隊は、フォン・ブラウン市を狙うティターンズ艦隊を待ち構えている。

「艦隊の配置は?」

「戦闘配置、完了しています!」

 オペレーターが答えた。僅かに上ずった声は緊張の証だ。

 シロッコは立ち上がった。艦隊によって一気にフォン・ブラウン市を制圧する。

「フォン・ブラウン市周辺へ威嚇射撃! 続いてドゴス・ギアを除く全艦、モビルスーツ発進させよ!」

 無数のミサイルとビームが月面を抉る。低重力の月面で、砂塵は高く舞い上がった。

 フォン・ブラウン市にも警報が出される。攻撃の遠い振動を受け、住民は恐慌状態だ。

「ドゴス・ギアのモビルスーツは発進させない……。カミーユの情報は確かなようだな」

 ドゴス・ギアのモビルスーツ格納庫で、ジェリドは呟いた。彼はガンダムMk-Ⅱのシートに身を預けている。パイロットは皆コクピット内で待機中だ。ジェリドは自分の隊に通信を繋げた。

「月面での戦闘は勝手が違う。シミュレーションを忘れるなよ」

 サラもシドレも、表情が硬い。艦隊戦の経験は、彼らにはなかった。

「模擬戦じゃあ俺だって落としただろう。固くなりすぎるな」

 見かねたジェリドが言葉を投げるが、彼女達は押し黙ったままだった。

「それに、俺たちが出撃するのは……」

 ジェリドはその言葉を飲み込んだ。彼は、カミーユからシロッコの狙いを聞いていた。他の艦もジェリド隊も、ドゴス・ギアが単艦でフォン・ブラウンへ降下するための囮だ。それを考えれば、ジェリド達を含むドゴス・ギアのモビルスーツ隊を発進させるのは、フォン・ブラウンに接近してからだろう。

「さて、どう出るシロッコさんよ」

 ジェリドは密かに、そう呟いた。

 

 

 

 百式のビームライフルが、瞬く間にハイザックを落とす。引き連れたマラサイとネモの群れが散開し、艦隊への攻撃を開始した。

「ドゴス・ギアからの報告があった! あの金ピカがアムロ・レイか!」

 ヤザンは舌なめずりをして叫ぶ。敵は一年戦争の英雄、アムロ・レイ。

「バーザムとこいつの力を試すいい機会だ。遅れるなよ!」

 ヤザンは部下に呼びかけた。ハイザックたちはハンドサインを返し、ヤザンのバーザムはフェダーインライフルを構える。

「墜ちろ!」

 続けざまに二発発射したビームは、百式と、その進行方向を狙っている。加速しただけでは逃れられない攻撃だ。

 だが、百式には当たらなかった。フレキシブル・バインダーによるAMBACが機体の向きを変え、さらに加速してビームをよける。

「そこか!」

 アムロの反撃のビームライフル。ヤザンには当たらなかったが、僚機のハイザックに命中した。体勢を崩したところに、さらに二発目。動力部を撃ち抜かれ、ハイザックは爆散する。

「うわあああ!!」

「アドル! くそっ! 腕のいいパイロットだ!」

 ヤザンは舌打ちした。激しくビームを撃ち合う二機に、ネモが強引に割り込んだ。

 ビームライフルを撃ちながら接近したネモはビームサーベルを抜いた。振り下ろされる光刃に、ヤザンはフェダーインライフルを突き出した。ライフルのストックから展開したビーム刃が、ビームサーベルを受け止める。

 そのままヤザンはサーベルをいなし、ライフル後部のビーム刃でネモの胴体を刺し貫く。

「まだあっ!!」

 フェダーインライフルをほとんど前後逆に持ったバーザムは、その砲身を脇に挟み、親指で引き金を押すように絞った。

 近接戦闘から間をおかず、背後への二連射。エゥーゴのマラサイがその餌食になる。

「しまった!」

 ヤザンがつぶやく。マラサイの爆発に紛れて、百式はバーザムの側面に回り込んでいた。撃たれれば当たる。そう確信したヤザンだったが、アムロは引き金を引くことなく急上昇した。その百式を追って、ビームが宇宙を走る。

「Mk-Ⅱ……ジェリドではない?」

 ビームの主へ視線をやり、彼はそう呟いた。アムロがヤザンを仕留めなかったのは、ガンダムMk-Ⅱの接近に気づいたからだった。

 Mk-Ⅱのコクピットからの通信がバーザムに届く。カクリコンだ。

「ヤザン大尉! アムロ・レイはそこらのパイロットじゃない!」

「手を貸せ、カクリコン!」

 ライフルを構え直したヤザンのバーザムが、百式を狙う。威力も精度も有効射程も、フェダーインライフルは百式のライフルを大きく上回っている。運動性を活かして接近しようとする百式を、カクリコンのMk-Ⅱが阻んだ。

 アムロの額を冷や汗が伝う。彼の脳裏に、もう一つ、近づいてくる気配があった。

 見えた機影には覚えがある。地上で戦った可変モビルアーマー、ギャプラン。

「これは……強化人間か!?」

「アムロ・レイ! ロザミアの苦しみ、寸分でも思い知れ!」

 ギャプランの操縦桿を握るのはゲーツ・キャパ。ロザミアの仇を討つため、彼はアムロを狙っていた。

 ギャプランのメガ粒子砲の狙いは正確だ。逃れたところを、カクリコンのMk-Ⅱのビームサーベルが襲う。三機のエースパイロットの攻撃を前に、アムロも次第に追い詰められていく。

 ビームの連射が戦場を通過した。アムロはやや安堵した表情で、そのエゥーゴの可変モビルアーマーを見る。

「アムロさん!」

「カツか!」

 メタスが敵の視界を飛び回る。バーザム、Mk-Ⅱ、ギャプラン。アムロといえど、これほどの敵を相手するのは厳しい。カツのメタスは加速して、ギャプランの後ろを取った。可変モビルアーマーの相手は、やはり可変モビルアーマーがするべきだ。

「邪魔をするか!」

 ゲーツが表情を歪める。宇宙空間でのドッグファイトは、モビルスーツの発明以前の戦闘を思い起こさせる。アムロとヤザン達のすぐそばを、その二機のモビルアーマーは高速で飛び回った。

「ぐぅううう!」

 カツがGにうめいた。メタスの後ろを取っているのはギャプランだ。カツも操縦桿を操作するが、ゲーツは振り切れない。

 フレキシブル・シールド・バインダーによる高速の方向転換は、耐G性能を高めた強化人間だからこそできる芸当だ。

 勝利を確信したゲーツの目前で、メタスがモビルスーツ形態へ変形する。

「何!?」

「それっ!」

 メタスはそのまま両手のビームガンをギャプランに向ける。ギャプランは咄嗟にブースターを下に向け噴射するが、かわしきることはできない。数発のビームが着弾し、ゲーツは表情を歪めた。

「モビルスーツの使い方もわからんのか!」

「黙れ!」

 通信越しに飛び込んだヤザンの野次に反論しつつ、ゲーツはメタスを睨んだ。

 

 

 

 窓の外の宇宙では、激しい戦闘が繰り広げられている。シロッコはにやりと笑った。

 すでに彼の座乗艦ドゴス・ギアは戦闘を抜け出すように、エゥーゴの攻撃を突っ切ってフォン・ブラウンへ向かっていた。

「ジェリド隊を発進させろ。ドゴス・ギアの速度は緩めるな!」

「はっ!」

 クルーが応えた。そのまま、シロッコは通信士の席へ向かう。

「あっ、少佐……」

「借りるぞ」

 彼はヘッドセットの一つを奪い取ると、それを耳に当てる。これは盗聴だ。

「さて……ジェリド。本当に君が邪魔者か、確かめさせてもらおう」

 シロッコはそう笑う。彼のヘッドセットから、ジェリド隊の通信内容が流れ出した。

「出撃命令だ! ジェリド隊、遅れるなよ!」

 ハンドサインと共に、ジェリドのMk-Ⅱが両足をカタパルトにセットする。通信を繋げたが、未だにサラとシドレの表情は、戦場に怯えているようだ。

 わずかに顔を顰めたジェリドは、小声で彼女達に伝える。

「俺たちの任務はフォン・ブラウンの制圧でも敵艦への攻撃でもない」

「えっ?」

 サラとシドレが声を合わせて驚いた。ジェリドは笑顔を作ってみせる。

「フォン・ブラウンへはドゴス・ギアが降下する。俺たちはモビルスーツ隊の足止めをすりゃあいい」

「それって……」

「モビルスーツの相手なら、もう散々やったろ?」

「はっ、はい!」

 二人の少女は顔を緩ませた。彼女達が怯えていたのは大規模な戦場だ。砲火が飛び交う中に飛び出すのは、やはり恐ろしい。しかし、今の目的は降下するドゴス・ギアの防衛。戦場の中心から離れたところでモビルスーツの相手だけをしていればいいことがわかったのだ。

「ジェリド・メサ! ガンダムMk-Ⅱ! 出るぞ!」

 カタパルトでの加速を受けて、ジェリドのMk-Ⅱは宇宙へ飛び出した。ジェリド隊のモビルスーツがそれに続く。シロッコはその音声を聞きながら、冷たい目で戦場を俯瞰していた。

 

 

 

「ドゴス・ギアがフォン・ブラウンへ向かおうとしています!」

「アーガマのモビルスーツ隊を向かわせろ! 市内に降下させるな!」

 ヘンケンが怒鳴った。シートから体を起こしてブレックスが訊く。

「いいのか、艦長。この艦は……」

「僚艦があります。それに、グラナダからの増援も来ることに……」

 アーガマが揺れた。ヤザンのバーザムが、フェダーインライフルを構えている。

「後退はするなよ! 前方のサラミス級に攻撃を集中! メガ粒子砲、チャージまだか!」

 立ち上がって指示を出すヘンケンに、ブレックスが声を張り上げる。

「持つのかね、艦長!」

「フォン・ブラウンが制圧されないためには、アーガマが敵の気を引いてやらなきゃならんのです! メガ粒子砲、撃て!!」

 ヘンケンは険しい表情で戦場を睨む。サラミス改級が真っ二つに破壊される中、メタスと百式が、強引に敵の囲いを突破していった。それを追いかけて、ギャプランが加速する。

 ドゴス・ギアは単艦でフォン・ブラウン市へ降下するつもりだ。もしドゴス・ギアが市内に入り込んでしまっては、エゥーゴは攻撃ができない。間違いなく、フォン・ブラウン市にも少なくない被害が出る。

 それを止めるために、ヘンケンはアムロ達をドゴス・ギアへの攻撃に向かわせたのだった。

 カクリコンがMk-Ⅱのコクピットで尋ねる。

「追わないのか、ヤザン大尉!」

「アーガマを叩けば戻ってくる!」

「ゲーツ大尉が行った!」

「ならアーガマを沈める手柄をもらうまでだ。どうせヤツにはアムロ・レイは落とせん」

 ヤザンはゲーツを軽んじていた。アーガマの攻撃をやすやすとかわし、さらに反撃のビームを浴びせる。

「向こうにはジェリドもいる。……シロッコめ、手柄を独り占めする気か」

 小さくカクリコンがつぶやく。彼はアーガマとつかず離れずの位置で、確実にダメージを与えていた。

「おっと!」

 背後からネモが接近していた。カクリコンは減速しつつ、振り向き様にネモの片腕を蹴り上げた。がら空きになったその胴体に銃口を押し当てるようにして、Mk-Ⅱはライフルを撃つ。

 爆発の光が、カクリコンのバイザーに反射した。

 

 

 

「今さらジムⅡなど!」

 引き金を引いた数だけ、敵のモビルスーツが火の玉になって落ちた。ジェリドはそのあっけなさに罪悪感を覚える。

 フォン・ブラウンから直接発進したわずかばかりのジムⅡ隊は、ジェリド隊と接触すると同時に全滅した。

「ジェリド隊長!」

「わかっている!」

 ジェリドはカミーユの呼びかけに応える。ドゴス・ギアがフォン・ブラウン市への単独降下に出た以上、その阻止のために敵が来ることはわかっていた。Mk-Ⅱは肩越しに振り返って、その敵をモニターに収める。

 メタスと百式。アムロとカツだ。

 ジェリドのMk-Ⅱが集合のハンドサインを出した。バーザムたちは、Mk-Ⅱの背に手を置く。接触回線を使うつもりだ。

「金色のは俺が引きつける。あの戦闘機は任せるぞ」

「この前の復讐戦というわけですね」

 シドレの威勢のいい返事が聞こえた。緊張は取れてはいないが、雰囲気に呑まれているわけではないようだ。

「ふん、足手まといがいちゃあアムロとは闘えんだけさ。行け!」

 憎まれ口を叩くと同時に、敵のメタスが動いた。

 メタスは百式と別れ、モビルアーマー形態のままドゴス・ギアへ向かうようだ。バーザムたちもそれを追う。

「ご無事で、ジェリド大尉」

 別れ際のカミーユの一言に、ジェリドは短く返事を返した。

「貴様達もな」

 カミーユが頷く。バーザムの三機編隊が、メタスの背を追いかけていった。

 ジェリドはもう、動くわけにはなかった。アムロの百式との睨み合いだ。迂闊な動きをすれば落とされる。

「汚名挽回の機会をやったんだ……。死ぬなよ」

 ジェリドは百式を睨みつけながらつぶやく。互いが射程に収まると同時に、Mk-Ⅱと百式は弾かれるように加速した。

「よくよく縁があるな、アムロ!」

「どけ!」

 アムロが吠えた。ドゴス・ギアがフォン・ブラウンに降下すれば、街を盾に取られてしまう。その結果エゥーゴ艦隊が撤退する流れも、ジェリドには見えていた。

 ビームが宇宙の漆黒に奔った。

「私たちの役目はパプティマス様のための足止め……!」

「この前のようには行かないってところを見せてやりましょうよ、曹長!」

 気負った様子のサラに、シドレはさらに発破をかける。三機のバーザムは、メタスを前にして優勢だった。

「この前より動きがいい……? くっ!」

 バーザムのビームが機体を掠め、カツは舌打ちした。モビルスーツ本体とライフルをケーブルで繋げるバーザムは、出力調整も柔軟だ。薙ぎ払うようにビームを撃つこともできる。

 寄せては引き、引いては寄せる。相手の呼吸を読み取って、敵の望まないことをする。単純なことだが、カミーユ達は戦闘のやり方を身につけていた。

「ぐおおっ!」

 一方で、ビームがジェリドのMk-Ⅱの左腕を吹き飛ばした。ジェリドはその射手を睨む。アーガマのモビルスーツは、百式とメタスだけではない。アムロの側に援軍が来たのだ。

「アムロ大尉! 加勢します!」

 ネモが二機と、マラサイが一機。三機編成の小隊がアムロに加勢した。ジェリドは包囲されないよう距離を取るが、それを予測したアムロのビームライフルが的確に逃げ道を塞ぐ。ネモの放ったビームが、Mk-Ⅱのシールドに突き刺さった。

「きついぞ……これは!」

 

 

 

「ジェリド……!!」

 ドゴス・ギアの格納庫で、マウアーはうめく。彼女のガブスレイには、出撃許可は出ていない。コクピットの中で、彼女は焦らされている。

「出撃許可はまだか!」

 彼女は管制官に通信越しに怒鳴りつけた。

「少佐がマウアー隊はまだ出撃させるなと……」

 舌打ちして、マウアーは通信を切り替える。

「少佐! マウアー少尉が出撃許可を求めています!」

 ブリッジの通信士が、シロッコに呼びかけた。シロッコはその通信士の席へ向かう。

「代われ。私が話そう」

 インカムを受け取り、彼は微笑んだ。

「出撃許可は出せんよ、マウアー」

「ドゴス・ギアに敵が向かってきている!」

 マウアーは怒鳴るように言った。彼女の言う通り、すでにジェリド隊は敵モビルスーツに対して劣勢だ。

「君たちの力はフォン・ブラウン市へ降下したあと、市内の制圧に振るってもらいたい」

「艦が墜とされては!」

「ジェリドがそんなに好きかね」

 シロッコに遮られ、マウアーは言葉を失った。彼女は、モニターに映るヘアバンドの男を睨みつける。

「シロッコ……!」

「ふふふ、そう怒るな。ジェリドが私以上の男なら、この程度のことで死にはせんよ」

 マウアーの反論を、シロッコは通信を切って遮断した。

「よろしいのですか?」

 通信士がシロッコに訊く。

「フォン・ブラウンに降下はできても制圧に失敗すれば私の顔が立たん。ジェリドならば最悪の結果は避けてくれるはずだ」

 シロッコは戦闘の様子を見てほくそ笑んだ。やはりジェリドは部下達に負担をかけないよう、敵モビルスーツの注意を引きつけようとしている。

 訓練中に敵のモビルスーツと接触した時、ジェリドは部下を庇って戦い負傷した。この戦いにおいても、部下を死なせることはないだろう。もしジェリドが落とされても、その時になってからマウアー隊を発進させればカミーユたちは無事なはずだ。

「せいぜい利用させてもらおうか、ジェリド・メサ」

 シロッコはその言葉を、胸の内で呟いた。

 

 

 

「おおお!!」

 ジェリドの反撃のビームライフルがネモの右脚を撃ち抜いた。推力のバランスを崩し揺れるネモの胴体に、もう一発。

 しかし、残ったマラサイとネモがMk-Ⅱを挟み討ちの形に捉えた。強引に加速して逃れたジェリドを、アムロの百式の射撃が襲う。

「ぐおあっ!!」

 胴体にビームが当たり、Mk-Ⅱは大きく揺れる。だが、射角が浅かったのか爆発はしていない。歯を食いしばり、ジェリドはすぐさまビームライフルを撃つ。そのビームはマラサイの動力部を深く貫き、爆発させる。

 ネモとマラサイを一機ずつ落としたジェリドだったが、その代償は大きかった。

「く……パワーが上がらない!?」

 操縦桿を何度も動かしながら、ジェリドは眉根を寄せる。Mk-Ⅱの動力系に何か支障が出たのだろうか、機体の動きが不安定だ。

 アムロはネモに命令を下す。

「ドゴス・ギアに行け! Mk-Ⅱは俺が!」

「了解!」

 加速していくネモ。ジェリドはコクピットで悪態を吐いた。

「く……くそおっ!!」

「墜ちろ!」

 回避運動を取るMk-Ⅱは、精彩を欠いている。アムロはビームライフルの狙いを定める。

「うおおおお!!」

 突然のビームの連射が、メタスの方面へ加速していたネモを撃ち抜いた。ネモの残骸越しにアムロが見たものは、モビルスーツの影。

 アムロはビームライフルを撃つが、咄嗟ゆえの狙いの甘さが出たか、ネモを撃墜したそのモビルスーツは身を沈めるようにしてかわす。流れるように接近し、モビルスーツはサーベルで斬りかかった。

 アムロもビームサーベルを抜いた。モビルスーツのパイロットは雄叫びをあげる。サーベルの光刃が激突した。

「おおおお!!」

「このバーザム……子供が乗っているのか!」

 バーザムのパイロットは、カミーユ。アムロとカミーユの鍔迫り合いは、ジェリドの援護射撃によって中断される。

 勢いに気圧されて、アムロの百式がわずかに後退する。その隙に加速したMk-Ⅱが、カミーユのバーザムの肩を掴む。ジェリドはカミーユに怒鳴った。

「カミーユ! 俺はあのモビルアーマーの相手を命令したはずだ!」

「僕のおかげで助かったんでしょ!」

「生意気を言うな。相手はアムロ・レイだぞ!」

「知ってますよ! ガンダムのパイロットで最強のニュータイプ!」

 百式の射撃を、二機はかわした。幸いMk-Ⅱのパワーダウンも一時的なものだったようで、出力は安定してきていた。

「じゃあなぜ来た!? サラ曹長達の方にいれば!」

「あなたを死なせたくないって言ってんですよ!」

 ジェリドは舌打ちしつつ、内心では少し嬉しかった。カミーユを叱りつける時にちらりと見やった限りでは、サラとシドレはメタスを相手にして優勢だった。しかし、相手の方が足が速いため、逃げに徹されては決定打を与えるのは難しい。その意味では、カミーユのバーザムがジェリドの援護に来たのは合理的な判断と言えた。

 片方の口角を上げ、ジェリドは言う。

「へらず口を叩くだけの腕はある! 行くぞ!」

「はい!」

 会話を交わしながら、二人は百式にビームライフルを撃った。

「ニュータイプか……!」

 アムロはつぶやいた。子供でありながら、あれだけの強さ。感じるプレッシャーも、それを裏付けている。

 カツも苦戦しているようだ。メタスの機動性を活かして時折ドゴス・ギアに攻撃を加えてはいるが、弾幕とバーザム二機の連携に押されて有効打は与えられていない。

 ジェリドのMk-Ⅱが突撃する。ライフルをかわし、サーベルをサーベルで受け止める。

「今だ、カミーユ!」

「はいっ!」

 Mk-Ⅱが百式の胴体に回し蹴りを打ち込んだ。体勢を立て直すために振られた百式の左足が、バーザムのビームライフルに撃ち抜かれる。

「いいぞ、カミーユ!」

 ジェリドが賞賛した。

 その時、エゥーゴカラーのジムⅡ達が視界に入る。月面から上昇してくる二機を見て、アムロは笑う。

「第二波か!」

 フォン・ブラウンからの第二波。つまりは、エゥーゴへの増援。ジムⅡ達はドゴス・ギアへ直進している。

 ジェリドは冷や汗を垂らし、サラ達に目をやる。メタス一機を相手にして優勢のようだが、増援を前にしてその優位性を保てるかわからない。

 しかし援軍は、エゥーゴ側だけのものではなかった。百式がMk-Ⅱと距離を取る。彼は、新たに接近してきた気配に備えたのだ。

「逃がさんぞ! アムロ・レイ!」

 可変モビルアーマー、ギャプラン。パイロットはゲーツ・キャパだ。ほぼ全てのスラスターを真後ろへ向けたモビルアーマー形態で、高速で突進する。

「ギャプランか! 誰が?」

 ロザミアは死んだはずだ。ジェリドの疑問に答えることなく、ゲーツはアムロを追撃する。

 メガ粒子砲を撃ちつつ接近し、ゲーツはギャプランを変形させてビームサーベルを抜いた。アムロもビームサーベルを構える。

「くっ!?」

「俺とロザミアのギャプランをなめるな!!」

 ギャプランの大推力で、百式は一気に月面へと落とされる。ジェリド達への警戒のために、ビームライフルを手放せなかったことも響いた。

「ぐああっ!!」

 月面との衝突にアムロがうめく。ギャプランは百式が舞い上げた砂の上空でメガ粒子砲を構えた。

「死ね! アムロ・レイ!」

 月の低重力で高く舞い上がった砂埃の中へ、メガ粒子が雨霰と撃ち込まれた。有視界戦闘が基本であるモビルスーツ戦闘では、視界を封じられることは死に直結する。

 ギャプランは位置を変えながら砲撃を続ける。しかし、ゲーツの顔に笑みは生まれなかった。

「爆発がない……? バカな!」

 攻撃が命中していれば、百式は爆発しているはずだ。彼が警戒を強めたその時、ドゴス・ギアの広域通信が、この宙域全てのモビルスーツのスピーカーを揺らした。

「ティターンズ旗艦ドゴス・ギアは、フォン・ブラウン市内に着陸した。エゥーゴは停戦せよ。もしこれを受け入れないのであれば、フォン・ブラウン市を攻撃、全面破壊する」

 シロッコは繰り返した。ドゴス・ギアはフォン・ブラウン市への強行着陸に成功したのだ。エゥーゴのモビルスーツ達の足が鈍る。

 アーガマのブリッジも、その通信に歯噛みした。

「間に合わなかったか!」

 ブレックスが悔しげに吐き捨てる。キャプテンシートのヘンケンは、窓の外のティターンズを睨んでいる。またアーガマが大きく揺れた。

「第七ブロック被弾! このままではアーガマは持ちません!」

「艦長! フォン・ブラウン市が港を開放したと……」

 通信士の席からトーレスが振り返った。ヘンケンは小さく頷き、立ち上がった。

「モビルスーツ隊を引き上げさせろ! エゥーゴ艦隊は後退する!」

「撤退するのかね、ヘンケン艦長!」

「裏をかかれました。撤退します!」

 ビームがまたアーガマに撃ち込まれる。その主は、フェダーインライフルを構えたバーザム。コクピットでヤザンが笑った。

「はーっはっはっはっは! 墜ちろっ!!」

 高出力のビームは装甲を深々と撃ち抜く。カクリコンのMk-Ⅱからの通信が、バーザムに届いた。

「大尉! アムロ・レイが戻ってきたぞ!」

「ふっふっふ、待っていたぞ!」

 ヤザンのバーザムが振り向く。彼の視界の先には、メタスに曳かれた百式がいた。

 百式はライフルを構える。アムロが顔をしかめた。

「く……アーガマに当たるか!」

「突っ込みます! 掴まって!」

 カツがフットペダルを踏み込むと、さらにメタスは加速する。

 紙一重でフェダーインライフルの射撃をかわす百式とメタス。カツがどう動くか、アムロにはわかっている。百式はメタスと呼吸を合わせて加速した。

「おおおお!!」

「ぐおおっ! 貴様っ!!」

 百式か、メタスか。どちらかのビームがバーザムの脇腹を掠める。

「アムロさん!」

「ああ!」

 突如メタスが変形し、ブースターを使って減速する。慣性に乗って、百式は前方へ投げ出されるようにバーザムと距離を詰めた。

 変形によって向きを反転させたメタスとカツ。彼が正面に捉えたのは、追撃してきたギャプランだ。

「よくよく逃げ足の早いアムロ・レイ!」

「来るなら来い! 僕はアーガマを助けなきゃならないんだ!!」

「邪魔をするなよ! 出来損ないのモビルスーツが!」

 変形した両者はサーベルを打ちつけ合う。カツは歯を食いしばった。

 百式のサーベルが、フェダーインライフルの砲身を叩き切る。ヤザンが舌打ちした。

「ええい! こんな物!」

 肩から懸架されたビームライフルを構えつつ、バーザムはサーベルを抜いた。刃を振り回して百式を後退させると、すかさずライフルで追撃する。

 アムロの百式はライフルを構えながら、反撃する様子はない。

「弾切れだろうなあ、金色!」

 ヤザンは叫び、ビームサーベルを振りかぶらせる。百式もサーベルを構えて突っ込んだ。

 あとわずかで間合いに入る。その瞬間、ヤザンはバーザムにライフルを構えさせる。

「くそっ!」

 悪態をつきながら、アムロはライフルを投げつける。バーザムはかわすことなく直進した。ライフルを構えたヤザンは叫ぶ。

「目眩しを!」

 投げられた百式のビームライフルが、二本のビームに貫かれた。

 バーザムのライフルから放たれたビームは、宙に舞う百式のライフルを撃ち抜く。だが百式のビームサーベルは、ライフル越しにバーザムのビームライフルを深々と貫いていた。

 火花を散らし、二つのビームライフルが煙を吐く。

 互いにライフルはない。だが、バーザムの左腕はすでにビームサーベルを握っていた。

 横薙ぎの一撃が、百式の右腕を切り落とした。

「ふっふっふ……。いいぞ、アムロ・レイ! そうこなくちゃつまらん!」

「戦いを楽しんでいるのか……!」

 アムロは左腕で握ったサーベルを、より強く握り直した。

 カクリコンのMk-Ⅱは、未だにアーガマを攻め立てている。頭部のバルカンポッドが機銃を潰した。

「アーガマを落としたとなりゃ、俺だって英雄だろうが!」

 Mk-Ⅱは対空攻撃をかいくぐると、アーガマに次々とビームを浴びせた。

「カクリコン隊! 大戦果を上げるぞ!」

 カクリコンの号令に、隊員たちが応える。ハイザックの銃撃が、アーガマに直撃した。

「艦長! このままでは……!」

「ラーディッシュを盾にしろ! アーガマが無事ならそれでいい!」

 アーガマのダメージは甚大だ。頼みの綱のアムロやカツも、敵のエース機に足止めされている。

「ブレックス准将は脱出の準備を」

「何をたわけたことを!」

「万が一です。対空砲火! ラーディッシュと連携しろ!」

 アーガマは必死で抵抗するが、カクリコンは一流のパイロットに成長していた。流れるように射撃をかわし、返す刀でアーガマにビームを撃つ。

「アムロ・レイを殺す俺が、貴様に手間取っていられん!」

 一方で、ゲーツはビームサーベルを二刀流に構えた。シールドバインダーの加速を利した連続攻撃が、メタスを防御の上から傷付ける。

「くそっ!! 早く……アーガマに行かないと!!」

 カツが悲痛な声を上げた。アムロもヤザンに手こずっている。このままでは、アウドムラと同じように、アーガマまで落とされてしまう。カクリコンのMk-Ⅱの射撃を受け、アーガマは黒煙を吐いていた。

 何も守れない。レコアやハヤトやロベルトを失ったあの戦いのように。カツは自分の無力さを恥じた。

 その時、カクリコンの視界の隅に、モビルスーツでも軍艦でもない何かが映った。それは高速で、月の地平線からこちらに飛来してくる。

「何だ、あの戦闘機は! うおっ!!」

 ビームをシールドで受け止めたカクリコンは驚愕の声を上げる。

 その戦闘機は、変形した。黒と赤を基調にした宇宙戦闘機から、白いモビルスーツへ変形する。機首をシールドに、後部は両足に。

 特徴的なデュアルカメラと、V字アンテナ。カクリコンは思わず、その名を呼んでしまった。

「が……ガンダム! エゥーゴのガンダムか!」

 前腕部からグレネードが発射される。シールドで受け止めたカクリコンのMk-Ⅱを、そのガンダムはシールドごとビームサーベルで切りつける。続け様にビームライフルを構え直し、Mk-Ⅱのシールドの内側へ撃ち込んだ。

「ぐおおっ!? こっ、これがガンダムのパワーってやつなのか!?」

 右肩が爆発し、Mk-Ⅱは後方へ回転する。ビームライフルを失ったMk-Ⅱに戦闘能力はほとんどない。そのエゥーゴのガンダムはまた変形した。狙いはゲーツのギャプランだ。

「ギャプランがそんなものに!!」

 ゲーツは叫んだ。ギャプランをモビルアーマー形態に変形させ、その新型ガンダムへと突き進む。

 交差した一瞬の後、ギャプランが煙を吹いた。新型ガンダムのビームガンを連続して撃ち込まれたのだ。

「が……ガンダム! ガンダムだ!」

 カツはその名を呼んだ。目を丸くする彼に、その新型ガンダムから通信がつながった。

「頑張ったな、カツ」

「え……」

 その髭面は、かつて死んだはずの男の顔だった。カツは目を点にして、口をぱくぱくと開閉させる。

「ろ……ロベルト中尉!!」

「ああ……。それでこいつが、エゥーゴの新型ガンダム」

 ロベルトは、カツに笑ってみせた。

「Zガンダムだ」

 戦闘は収まってきていた。エゥーゴ艦隊は後退し、モビルスーツの回収も進んでいる。

「ちっ……潮時か!」

 後退するカクリコンとゲーツを見て、ヤザンは顔を顰める。バーザムが身を翻した。

「あばよ、アムロ・レイ!」

 届いた通信に、アムロは奥歯を噛んだ。ヤザンのバーザムを撃墜することは叶わなかったからだ。

 フォン・ブラウン市上空で行われたこの戦闘は、ティターンズの艦隊にダメージを与えながらも、エゥーゴの敗北に終わった。

「フォン・ブラウン市を制するものは、地球圏を制する……」

 カツはつぶやいた。

 Zガンダムと、ロベルト。その新戦力を加えてもなお、エゥーゴの見通しは暗かった。

 

 

 

「大佐! ご報告いたします!」

「……何だ」

 士官は、机に向かい合っている男の雰囲気に威圧されていた。大柄な体と、重厚な声。何より苛烈な人格。ゴーグルの下の視線は、書類仕事を進めているようにも、士官を睨みつけているようにも見える。

「ドゴス・ギアが、フォン・ブラウン市を制圧……。アポロ作戦に成功したとのことです」

 バスクは立ち上がった。士官は怯えて、一歩後ずさってしまった。

「……シロッコか」

「は……アポロ作戦の指揮はパプテマス・シロッコ少佐がとっていたそうです」

「ドゴス・ギアが奴の艦だ」

「はっ、はいっ!」

 ジャミトフに突然重用されたシロッコは、バスクにとってライバルと言っていい。しかし、バスクは落ち着いているようにも見えた。

 バスクの雷といえば、ティターンズ内でも有名だ。諫言した将校が殴り飛ばされることも少なくない。少なくとも不機嫌になった彼に八つ当たりされることは避けられたようで、士官はほっと息を吐いた。

「あの青二才が!!」

 その雷鳴のような野太い怒鳴り声に、士官は飛び上がった。続いて、バスクは拳をガラス窓に叩きつける。窓の向こうには、円柱状のスペースコロニーの底面が見えた。

 手袋はガラスの破片で引き裂かれ、拳の傷口からは血が滴っている。士官は唾を飲み込んだ。遠く離れている士官にまで歯軋りが聞こえそうなバスクの形相も、その怒りを表現するには足りない。

「ジャマイカンを呼び出せ!! グラナダまでシロッコごとき若造の思うようにやらせるか!」

「は……はっ!!」

 士官は敬礼し、逃げるように部屋を後にした。

「ジャミトフ閣下は何を考えているのだ。シロッコのようなスペースノイドに力を持たせようなどと……!」

 狭苦しい密閉型コロニーには空はない。その窓に背を向けたバスクは椅子に座り、拳を握りしめる。傷口からぼたぼたと血液が垂れた。

 血の滴が、机の上の書類に赤い足跡を残す。グリプス2の改装計画書だ。バスクは、再びそれを睨む。

「シロッコめ……貴様の天下など来ると思うな!」

 計画書には、コロニーレーザーの字が記されている。スペースコロニーや月面都市を標的とした、強力な大量破壊兵器だ。バスクはその計画書を、怒りに任せて握りつぶした。

「もうグリプス2の改装など待ってはおれん……私自らが、グラナダを攻め滅ぼしてくれる!」

 

 


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