人類の半分が死んだ一年戦争が終わって七年。女の名前なのに、なんだ男か。ドッカーン!
てなわけで始まっちまった宇宙の小競り合い、ガンダムの事を話し出すと早口になっちゃうおじさん達が微妙な顔になるグリプス戦役って奴だ。
ちなみに治安維持名目でスペースノイドを弾圧してるのが勝ち組ティターンズ、そんなティターンズにふざけんなって噛み付いた月代表がエゥーゴ。
当初はアポリーロベルトを捕まえたり人質ってイケてる作戦でエゥーゴをキャン言わせてたバスクだが、基本的には金持ちルナリアンとイカれた地球人の取っ組み合い、「なんと破廉恥な!」って当のエゥーゴのお偉いさんも言っていた通り、MkーⅡパイロットのエマが裏切り、MkーⅡは持ち逃げされ、アーガマの行く後をセコセコ尾けるしか能がないアレキサンドリアって図式が出来上がる。どっかで聞いたような話だろ?これ。
それじゃ収まらないってんでジェリドのリベンジは続くよどこまでも! でもエマはうっかり殺しちゃってダメ、ライラお姉さんもシャアに殺されてダメ、カミーユはファを人質にされてシロッコの部下、じゃあってんで連邦軍本拠地のジャブローをエゥーゴが攻めてきたけど、対するジャブローもなんかすげえ事に……おいおいこれ核自爆なんじゃないの!?
ところがどっこい! 実は最初の頃から語られていたバスクアンチのジェリド中尉。エゥーゴからガルダ級を奪って、ジャブローの核爆発から逃げ出そうって案はジャブローの連邦軍の間で大絶賛! おっとそれじゃジャブローに残った兵士も被害がないよってんで地球連邦はこれを全肯定。
しかし皮肉にもその地球の中からもカラバって組織が現れてて、ハヤトも! アムロも! カツも! って事でエゥーゴが地球上で大暴れする事もあるってわかると連邦ももちろん追撃を命令。
ブラン少佐が来たけど決着がつかない? じゃあ頑張ればいいじゃん? ってノリで人工ニュータイプ『強化人間』が登場。ニュータイプとは何なのか、よく分かんないで人間の心や体を弄くり回すもんだからシャアだって墜ちる。ほーら、やっちゃった!
しかもこのシャアを倒してカラバを黙らせてやったジェリド中尉、例のすげー事やらかした張本人だったもんだからシロッコも我らがジャミトフ閣下も俄然注目!
シロッコの部下1号2号はジェリドにも心を開いてるが、カミーユを手に入れればシロッコの弱みが手に入るんじゃね? って事で争奪戦が始まった。
アーガマに投降したサラの目的、それはシロッコのためにジャマイカンのコロニー落としをアーガマに教えて妨害する……っておい! これやっぱサラ裏切ってるんじゃない!? 各方面大丈夫!? と実は気にしいのジェリドがいよいよ撤退! サラ・ザビアロフその真意は……って終わりかい!
「主人公はジェリド・メサ」鋭意更新中! 見逃すなよ、諸君! だいぶ間が空いても絶対完結しちゃうんだな、これが!!
「くそっ!!」
ジェリドはコクピットから出るなり、ヘルメットを床へ投げつけた。無重力の格納庫で跳ね返ったそのヘルメットを、今度は壁めがけて蹴り飛ばす。
壁にぶつかったヘルメットには、傷ひとつない。この宇宙世紀の最先端の技術力の下に作られているノーマルスーツのヘルメットは堅牢だ。バイザー部分ならともかく、その他の部分が人間の力で壁にぶつけられたところで、傷つく道理もない。
アーガマに潜入したサラ・ザビアロフは、エゥーゴのモビルスーツを庇った。これはつまり、裏切りだ。
足の甲に残る痛みも、彼の苛立ちを抑えることはできない。ジェリドはロッカールームへ向かった。
「荒れてるな、あいつ」
ジェリドのMk-Ⅱの隣には、Mk-Ⅱの二番機。コクピットで、カクリコンが小さくつぶやいた。彼のMk-Ⅱの両手には、脱出カプセルが握られている。
そのカプセルから男を一人担いで衛生兵が這い出した。担がれている金髪の男はぐったりしている。ゲーツだ。カクリコンはハッチを開け、その二人のそばに近寄る。
「おい、大丈夫そうか?」
「どうでしょう。中尉が拾わなきゃダメだったと思います」
「そりゃそうだろうが……」
カクリコンと衛生兵は男の頭側と足側を持って、担架に男を固定した。
「こんなものか?」
「ええ、ありがとうございます」
手短に言って、衛生兵は担架を持って駆け出した。カクリコンはその背中を見送ることなく、カプセルに視線を戻す。
「ギャプランか……」
ヘルメットを脱ぎ、呟いた。彼がギャプランを初めて見たのは地球でのことだった。そのパイロットのロザミア・バダムは戦いの中で死んでいった。
「強化人間てのは、全く」
カクリコンは頭を掻いた。ギャプランからの脱出カプセルに乗っていたのは、ゲーツ・キャパだ。彼の心配事は、増える一方だった。
ロッカールームでの着替えを終えたジェリドは、自室へ向かっていた。スイッチを押し、ドアを開ける。
ジェリドはそのまま、数秒の間固まった。部屋の眺めが、記憶を呼び起こす。アレキサンドリアの士官用の個室は、どれも似たような構造だ。もう数ヶ月も前のことになる。地上に降りる前の苦い後悔の記憶が、彼の口をついた。
「エマ……」
それは昨日のことのように鮮やかに、同じ構造の部屋の中を躍った。彼女の後ろ姿、声の震え。エゥーゴへの寝返りの意志を固めたエマとの会話。そっくりな内装とサラの離反が、彼の記憶を甦らせる。
ジェリドは呆然としたように、力なくベッドへ腰を下ろす。スプリングがぎしりと鳴いた。
あの時、エマをもっと強く止めていれば。
同期で、同僚で、友人だった女を、ジェリドは殺した。ティターンズに悪の側面がある。それを知ってしまったジェリドは、裏切ろうとするエマを強く引き止められなかった。
あの時エマを止めていたならば、エマを殺さずに済んだのではないか。
エマの決意の固さと生来の正義感の強さを知っていてなお、ジェリドはそう考えてしまう。
彼は二度と、そんな後悔をしたくなかった。膝の間で両手を組み、顔を上げる。
「サラは死なせん。捕虜にしてでも、ドゴス・ギアに連れて帰る」
彼女が生き延びられるチャンスだけは作ってみせる。ジェリド隊の一員を、裏切り者として死なせたくなかった。
何本もの巨大なロボットアームが、アーガマを捉えていた。それは昆虫の脚にも似ていたが、そのアームの主を視野に収めれば、花のおしべたちのようにも見えた。
これはアナハイム・エレクトロニクスの所有する自走ドック艦だ。その薔薇のような外見から、ラビアンローズと名付けられている。アーガマは今、コロニー落としを防ぐための戦いで負った損傷を修理しているのだ。
アーガマの廊下の窓からそれを眺めて、アムロは顎をさする。
「やあ、アムロ大尉」
「ヘンケン艦長」
リフトグリップを握り艦内を移動するヘンケンが、アムロに声をかけた。ファイルの束を抱えた彼は忙しそうに足を動かしていたが、アムロを見て足を止めた。
「大したものだろう、アナハイムの技術力は」
「驚きましたよ。アーガマを整備できるだけのドック艦があるなんて」
昔から、機械いじりはアムロの趣味だった。彼の口ぶりには熱がこもっている。ヘンケンも笑顔を浮かべた。
「物資も大量に輸送できるから、補給だって受けられる……しかし、いいところでラビアンローズに拾ってもらえた」
「コロニー落としは防げたが、あのままもし追撃を受ければアーガマは沈んでいました」
「そうだ。もっとも、アレキサンドリアの方にも我々を襲うだけの力は残っていなかっただろうがな」
ヘンケンはそう言うと、しばし沈黙した。アムロは首を傾げ、訊いた。
「何か?」
「大尉やクルー達にはすまないことだが、エゥーゴの上層部からはアレキサンドリア追撃の命令が出ている。損傷の激しいアレキサンドリアは、単艦でゼダンの門に戻るつもりだ。それを叩けと」
アムロは呆れたように眉根を寄せる。
「こちらだって、まだ修理は済んでいないでしょう」
「今、他にこの任務ができる艦はエゥーゴにはないんだ。幸い、損傷を負ったアレキサンドリアの足は遅い。アーガマの足なら、修理を早めに切り上げれば追いつけるさ」
「しかし……」
「アレキサンドリアを拿捕できれば、ティターンズのコロニー落とし作戦の決定的な証拠になる。エゥーゴの支持はさらに高まるはずだ」
「……それが出資者の決定ですか」
「……すまん」
ヘンケンは頭を下げた。アムロは苦笑いを浮かべる。
「無理難題なら、一年戦争の頃からこなしてきました」
「そうだろうな」
アムロの言葉に心強さを覚えて、ヘンケンは頷いた。
「どう、サラ」
「んん……これ、ちょっと小さくない?」
扉越しにサラの声が返ってくる。カツは不思議がった。
「そう? 身上書に合わせたはずなんだけど。上のサイズ取ってこようか?」
「ん……カツ、ちょっと見てみて」
「わかった。開けるよ」
カツはドアのスイッチに手を伸ばす。ぷしゅ、と軽い音がして、ドアが開いた。
サラが着ているのは、エゥーゴの女性兵士が着る制服だ。黄色を基調にしたワンピース型の制服で、短い丈とノースリーブからは、ふとももと二の腕が顔を出している。その部分は、顔や手よりもわずかに白い。
「これ……その、変だったり、しない?」
サラは手袋をつけた手で制服の裾を押さえながら訊いた。顔が赤い。カツは微笑んだ。
「似合ってるよ、サラ。ティターンズの制服なんかより、ずっと」
「……そう。ありがとう」
サラは目を逸らし、ドアを閉じる。
「サラ?」
「靴も変えないといけないでしょう?」
ドアの外で声を上げるカツをそうあしらって、サラは部屋の隅のティターンズの制服に向かい合った。
部屋を染め上げてしまいそうな、黒い生地。彼女はそれを、じっと見つめた。確かめるように手を伸ばし、その襟を撫でる。
彼女の喉が震える。罪悪感が胸を締め付ける。自分は裏切り者だ。
ジェリドはサラを撃てず、カツの百式に出し抜かれた。シロッコは、サラの裏切りを知れば悲しむだろう。ジェリド隊の仲間たちとも、戦うことになるかも知れない。エゥーゴとして戦うことがどういう意味を持つのか理解したのは、メガバズーカランチャーが発射された後だった。
皮膚の下がじんわりと熱くなるような不快感。汗が吹き出しているというのに、震えるほどに寒気がした。
大きな目を強くつぶって、サラはしばらく自分の体を抱きしめていた。
「お待たせ、カツ」
部屋から出てきたサラは、笑顔を浮かべていた。カツはそれ以上の笑顔で彼女を迎える。
「よし、行こうか。ラビアンローズのおかげで、今日はケーキだって食べられるんだぜ」
カツが、サラの手を取った。休憩室へ引っ張っていく彼は、めいっぱいの力でサラの手を掴んでいた。
神経質な貧乏ゆすりの音が、アレキサンドリアのブリッジに響いていた。誰もが不快に感じていながら、指摘できるものはいない。
肘掛けに頬杖を突き、ジャマイカンは眉間に皺を寄せていた。彼の片足は貧乏ゆすりの音を刻んでいる。ブリッジクルーは彼の八つ当たりを恐れて、声もかけられない有様だ。
コロニー落としは失敗した。あと一歩まで追い詰めたアーガマを取り逃し、それどころか大打撃まで受けてしまった。
アレキサンドリアは現在、ゼダンの門に進路を取っていた。ジャマイカンは、フォン・ブラウンを預かっているシロッコにはライバル意識を持っている。ゼダンの門までの援軍を借りるつもりもなければ、フォン・ブラウンで応急修理を受ける予定も彼にはない。シロッコに借りを作りたくないのだ。
加速していく彼の貧乏ゆすりは、ある報告を受けて、地団駄へと変わった。
「ぐうううっ! アーガマめぇっ!」
「落ち着いてください、少佐」
「これが落ち着いていられるか!」
ガディの諫言にも、ジャマイカンは怒鳴り返した。憤りを隠すことなく、立ち上がり、その報告をしたクルーに確認を取る。
「確かなのだろうな、修理を終えたアーガマが我々を追っているというのは!」
「はい。フォン・ブラウンの観測所からも確認が取れているそうです」
「く……くそっ!」
キャプテンシートを蹴り付けると、ジャマイカンは肩で息をしながら額に手を当てた。
自走ドック艦で修理を済ませたアーガマが、アレキサンドリアを追ってきている。ジャマイカンはぎりぎりと奥歯を噛み締め、顔を歪めた。
「アーガマの追撃はかわしきれんようだな。アレキサンドリアの出力が上がらんそうだ」
食事を載せたトレイを手にしたカクリコンを呼び止めたのは、ヤザンだった。向かいに座るカクリコンを目で追いつつ。ヤザンはカップの水を喉に流し込んだ。
「大人しくフォン・ブラウンに援軍を頼んでおけばこんなことにはならなかった……ジャマイカンめ!」
ヤザンは空のカップを机に叩きつける。彼を宥めるように、カクリコンが言った。
「しかし、もうゼダンの門には増援を要請したんだろう」
「間に合わんさ。ジャマイカンのくだらん面子のために殺されたいか?」
「そりゃごめんだが、今さら言っても始まらんだろ」
カクリコンはシチューをスプーンで掬った。とろけた肉の柔らかさに混じって、筋と玉ねぎの固さが歯を押し返す。
ヤザンが尋ねる。
「ギャプランの脱出カプセルを拾ったのはお前だってな」
「ああ、俺だ」
「あんなのは見捨ててしまえ」
「見捨てるだと?」
カクリコンが眉をひそめて視線を上げる。ヤザンの顔は、冗談を言っているようには見えない。
「あのギャプランを俺が使っていればアーガマに好き勝手にやらせちゃいない。」
「だから見殺しにしろってのかい」
「役立たずにデカい顔をされてちゃ、いい機体が回ってこないんだよ」
ヤザンの言っていることにも一理ある。ゲーツが独断行動をしていなければ、今ほどの損害は受けていなかった可能性は高い。一般兵でも扱えるようにギャプランをデチューンする案も出ていた。だがそれも、ギャプランが破壊された今では絵に描いた餅だ。
「……強化人間か」
カクリコンはそう言って、パンを口に詰め込んだ。地上で会った強化人間達。カクリコンは彼女達を思い出しながら、パンの生地を噛み締めた。
腰掛けた椅子は、固い。拳を置いた机は冷たく、その滑らかな表面に電灯の光を反射させている。
ブリーフィングルームには、すでにパイロットたちが揃っていた。彼らの視線の先に立つガディは、沈黙を続けている。
私語をするものはいない。部屋の中の緊張が高まり続け、ようやくガディが口を開いた。
「ジャマイカン少佐はこの戦いを俺に任せると言った。だから今回は、俺のやり方でやらせてもらう」
正面のモニターが点灯する。月の近くからゼダンの門までの宙域図だ。アレキサンドリアのこれまでの航路が点線で記されている。
その航路は、ある一点で曲がっていた。すでにアレキサンドリアはアーガマの探知能力の網にかかっている。スピードで劣る今のアレキサンドリアでの進路変更は、追いついてくれと言っているようなものだ。
「俺がアレキサンドリアの航路を変えさせたのは、この周辺にスペースデブリが流れついているからだ」
「デブリだと?」
ヤザンが疑わしそうにガディを睨む。
「こちらが先にデブリ帯に入れば、敵は警戒のためにモビルスーツ隊を散らせるはずだ。その隙をついて、デブリに潜ませた全モビルスーツでアーガマを狙う」
全モビルスーツという言葉に、ジェリドは疑問を覚えた。
「アレキサンドリアの護衛は残さないのか?」
間髪を入れずにガディが答える。
「ああ、そうだ。アーガマが補給を済ませているとなれば、戦力的には俺たちが圧倒的に不利だ。全モビルスーツでアーガマに強襲をかけねばアレキサンドリアは沈む」
「危険だな」
「お前たちならばやれる」
帽子の下からガディの目がじろりと二人を睨みつける。視線の先にいるのは、ヤザンとジェリドの二人だった。
ヤザンは肩をすくめる。
「賭けになるな」
「コロニー落としの時には引き際を見誤った。浮いているだけ儲け物のこの艦でゼダンの門へ辿り着くにはそれしかない」
母艦同士で撃ち合うとなれば、損傷の激しいアレキサンドリアに勝ち目はない。メガ粒子砲を撃てるかどうかすら危うい状態なのだ。モビルスーツ戦に頼る他ない。
「モビルスーツを密集させれば散らばるよりかえって敵の目には留まりにくい。アーガマを発見して、集中攻撃をかけろ」
「はっ!」
レーダーを見て、ヘンケンが顔を顰めた。
「ミノフスキー粒子が濃いな……。観測班を出しておけ」
「はい!」
アーガマは、アレキサンドリアを追ってデブリ宙域に入った。小惑星だけでなく、一年戦争で破壊されたコロニーの大小様々な残骸が漂っている宙域だ。
当然、スピードは出せない。ましてやミノフスキー粒子が濃いとなれば、敵の狙いは簡単に想像がつく。
「敵は我々を撒くつもりでしょうか」
オペレーターのトーレスが、肩越しに振り返って訊いた。
「そうも考えられるが……遠回りしてまでこのデブリまで逃げたのなら、追いつかれることは想定に入っているはずだ。反撃に出るかもしれん」
ヘンケンの答えに、ブリッジのクルーたちは表情を固くする。追うのも難しければ、逃げるのも難しいのがデブリ宙域だ。
「反撃ですか」
「アレキサンドリアは沈みかけだ。モビルスーツ隊の強襲で勝負に出るだろうな」
「では、それを迎え撃ちますか」
小さく唸り、ヘンケンは眉間に皺を寄せた。彼の脳裏によぎったのは、ある可能性だった。
「いや、こちらのモビルスーツ隊に総攻撃をかけさせる。ミノフスキー粒子の濃度分布からアレキサンドリアのおよその位置を割り出しておけ」
「総攻撃!?」
ブリッジクルーのサエグサが素っ頓狂な声を上げた。他のクルーたちも、ヘンケンを疑いのこもった目で見る。
「ああ。アレキサンドリアがモビルスーツ隊でこちらを足止めし、その隙に逃げることも考えられる」
「そんな馬鹿な……。そしたらアレキサンドリアのモビルスーツ隊はどうなるんです」
その方法ならばたしかにアレキサンドリアは逃げることができる。だが、モビルスーツとパイロットは間違いなく犠牲になる方法だ。
「モビルスーツ隊を見捨てて逃げられるなら、そうする指揮官もいるという話だ。コロニー落としをする指揮官もな」
敵の指揮官はコロニー落としすら実行した男だ。部下を捨て駒にしてもおかしくはない。
「そもそも、敵がこのデブリ帯で我々を撒くつもりだったとしても、総攻撃が正解だ。ここでアレキサンドリアを捕らえられれば、この戦争はエゥーゴに傾くんだぞ」
アレキサンドリアはティターンズのエース艦というだけではなく、今はコロニー落としの決定的な物証を握っているかもしれない艦だ。戦略的価値は高い。
「敵の艦は見つかっていないんですよ」
「こちらが見つかっていなければいい。こちらはアレキサンドリアを見つけさえすれば勝てるが、向こうはそうはいかんだろう」
アレキサンドリアの負っている損傷は並大抵のものではない。モビルスーツ隊の攻撃を受ければひとたまりもないだろう。一方のアーガマはラビアンローズで補給と修理を受けており、攻撃を受けても、捜索に出していたモビルスーツ隊を呼び戻すまでは耐えられる見込みだった。
「では、隠れんぼということですか?」
「ああ。母艦は隠れてモビルスーツ隊が鬼だ」
間抜けな例え話だったが、ヘンケンは否定しなかった。ブリッジクルーも真剣な顔だ。
「エンジン出力を落とせ。少しも敵に気取られるなよ!」
アーガマのカタパルトから、次々にモビルスーツが打ち出されていく。モビルスーツ隊を率いるのはアムロのZガンダムだ。
彼らの行く先は、ミノフスキー粒子の濃度分布からアーガマが割り出したアレキサンドリアの推定位置だ。そのうちもっとも遠いポイントへ、Zガンダムとアムロは単独で向かうつもりだ。
前方へ直進するそのモビルスーツ部隊の流れから離れて、二機のモビルスーツがアーガマの前方で減速する。緑と金。金色の百式が、もう一方のモビルスーツの肩に手を置いた。接触回線以外の通信は禁止されていた。ミノフスキー粒子の中でも、敵に探知される危険性があるからだ。
「そのハイザック、まだ塗り直せてないんだね」
彼の言葉通り、そのハイザックはティターンズのグリーンの塗装のままだ。サラが投降してきた時から一週間近く経っていたが、ティターンズのエンブレムを消し、代わりにエゥーゴのエンブレムに塗り替えた他は、変わっていない。
「ええ。でもよかったの? 私をまたモビルスーツに乗せて」
「ヘンケン艦長が許可を出してくれてる。この前の戦闘じゃ、君がいなかったらアーガマは沈んでたんだから」
「……そう」
サラはヘルメットのバイザーを下げた。ハイザックの全天周囲モニターの右側には、接触回線を開いた百式が映っている。
「僕たちに割り当てられたエリアはこっちだ。行こう」
金色の機体が暗闇の宇宙を舞う。少し遅れて、サラのハイザックがその後を追った。
アーガマはそのモビルスーツ隊のほとんどをアレキサンドリア捜索へと送り出した。デブリ帯とミノフスキー粒子を利用して逃げるアレキサンドリアを捕らえるために、追跡と攻撃にリソースをつぎ込むつもりだ。
モビルスーツの姿も、アレキサンドリアの姿もない。コロニーの残骸は多い。ジオンの傷跡だ。カツもサラも、一年戦争で被害を受けたスペースノイドだ。
突如、カツの表情が厳しくなった。
「……サラ、ハイザックのスラスターを切って、こっちへ」
カツは低く呼びかける。何かがあった。サラはそれに従い、二機は揃ってデブリに隠れた。
「なに?」
「ジェリドだ」
「え……」
「本当だよ、わかるんだ」
真剣な目でモニターを睨んだまま、カツは続けた。もしジェリドが来れば、カツとサラの二人で対処しなければならない。
彼のその口ぶりに、サラは疑問を口にする。
「会ったことがあるの?」
「地球で一度顔を合わせた時は出し抜かれた。……上司だったんだろ、あいつ」
「……ええ」
「なら、あいつは僕がやる」
「勝てるというの?」
サラが訊いた。ジェリドの腕前は、二人ともわかっている。カツ一人では、なかなかに苦戦する相手だ。しかも、ジェリドが単独である確証もない。
「この前やっつけたのは、サラだって見てるだろ」
言葉とは裏腹に、カツの声は震えていた。
「サラを利用していた奴に、負けたりなんかするもんか」
いくつものスラスターの光がデブリの隙間を走っていく。その先頭にいるのは二機の黒のガンダム。サラも見慣れたガンダムMk-Ⅱと、それらが率いる数機のバーザムだ。
ジェリドのガンダムMk-Ⅱがハンドサインを出すと、彼らのスラスターの噴射が激しくなった。
ヤザンのバーザムが、ジェリドのMk-Ⅱの肩にワイヤーを飛ばした。接触回線用のワイヤーだ。
「ジェリド! なぜ速度を上げた! この加速じゃ、このミノフスキー粒子の中でも場所を掴まれる!」
「敵のニュータイプに気づかれた! もたもたしていればアーガマの位置を掴む前に敵のモビルスーツの総攻撃を受ける!」
「またニュータイプか、気に入らん!」
毒づいたヤザンに構わず、ジェリドは自分の感覚を研ぎ澄ます。ニュータイプとしての勘は、二つの気配を感じていた。エゥーゴの少年パイロットと、サラ。
サラを見捨てる選択肢はジェリドにはない。なんとしても、説得によって連れ戻すつもりだ。エマと同じ結末は、なんとしても避けたかった。
「見えた!」
サラの通信機に、カツの声が届いた。デブリの隙間から見えるスラスターの光は、一機や二機のものではなかった。カツとサラの直感は、その集団を率いているパイロットがジェリドだと告げている。
ミノフスキー粒子散布下においても、近距離ならばレーダーは反応する。あとわずかで、ジェリド達のモビルスーツがカツ達を感知するだろう。
アレキサンドリアのモビルスーツ隊が凄腕だということは、サラもカツも理解していた。ジェリドに加えて、もう一機のガンダムMk-Ⅱ。さらには、月とコロニー落としの戦いでアムロを苦しめた手練れのバーザム乗り。
スラスターの光は近づいてくる。カツはそれを睨みながら、静かに告げた。
「サラ。君は急いでここを離れるんだ。アムロさんたちと合流して、アーガマを守ってくれ」
「……どういうこと?」
サラは眉根を寄せて聞いた。
「ジェリドもニュータイプだから、僕たちの気配を感じているはずだ。だったら、ここに隠れていたってすぐに見つけられてしまう」
「だから囮になって、私を逃そうというの!?」
サラはコクピットのシートから身を乗り出した、彼女のハイザックのモニターには、目を逸らすカツの顔が映っている。
「この前だってあなたは、自分一人だけ犠牲になろうとして!」
「アーガマやグラナダの人たちが助かるなら安いもんだろ!」
「じゃあなぜ今も死ぬつもりなの!?」
「二人とも死ぬよりはいい!」
「バカよあなたは、死にたがって!」
「君に死んで欲しくないんだよ!」
そのまっすぐな言葉に、サラは怯んだ。カツもトーンダウンして続ける。
「……残念だけど、あいつらを相手に僕たちだけじゃ分が悪すぎる。だったら僕が囮になって敵を一人でも減らして、その隙に君はアーガマに戻るんだ。アーガマと一緒ならそう簡単には墜とされないし、アムロさん達もすぐに戻ってくる」
「そうしたら、あなたは?」
「これが一番のやり方なんだ。二人とも死ぬよりは、僕だけが死ぬ方が」
カツがそう言った後、二人は無言だった。何か言うでもなく、カツは唾を飲み込み、操縦桿を動かす。彼の百式はビームライフルを構え、デブリの陰からゆっくりと顔を出す。正確な位置までは気づかれていないはずだ。奇襲をかければ、敵のモビルスーツ隊の何機かを道連れにできるかもしれない。
「サラ、行って」
サラのハイザックが、様子を伺う百式の背に抱きついた。
「さっ、サラ!?」
振り向いた彼は、背後の全天周囲モニターに光るものを見た。横へ一文字に伸びた光。ビームサーベルだ。
「えっ……」
百式の両足が切り落とされる。ハイザックが握っていたのは、百式が腰の後ろにマウントしていたビームサーベルだった。
カツの反応は完全に遅れていた。ハイザックは続けてビームサーベルを振り上げ、百式の片腕も切り落とす。
「……ごめんね、カツ」
振り向こうとした百式だが、両足と片腕を落とされた百式ではAMBACもほとんど作用しない。ハイザックはもたつく百式を蹴り飛ばした。その反動に合わせて、スラスターを噴射する。
「そ……そんな! 嘘だ! サラ! サラーっ!」
カツの視界のサラのハイザックはどんどん小さくなっていく。ハイザックは白旗を手に、ティターンズのモビルスーツ隊を追っていった。
ヤザンは、モニターに映った光に注目する。後方から追いかけるモビルスーツ。見たところティターンズのハイザックのようだが、白旗を上げている。
高濃度のミノフスキー粒子の中で、サラは通信を飛ばす。
「ジェリド大尉! ジェリド大尉ですね!?」
「サラ曹長!」
白旗を上げたサラのハイザックは、バーザムとハイザックの群れに並走する。ヤザンが眉を動かした。
「なぜガキがティターンズのハイザックに乗っている?」
「俺の部下だ」
「識別信号はエゥーゴだぞ!」
「アーガマに囚われていたはずだが……」
ジェリドも半信半疑だ。そう簡単に、モビルスーツを奪取して逃げることはできない。
「はい、隙を見て脱走して参りました。ですから私はアーガマの位置を掴んでおります」
それを聞いて、カクリコンは喜んだ。
「そりゃあいい! おいジェリド、さっさとアーガマを叩きに行こう!」
「もちろんだ。……だが、俺が感じた気配はお前のものだけじゃない。わかるか、サラ」
ジェリドの目は、モニター越しにサラを鋭く見つめる。嘘をついてもすぐにわかる、彼の目はそう言っている。
サラはジェリドと視線を合わせるより先に、声を張り上げた。
「アーガマのモビルスーツ隊もアレキサンドリアを捜索しています。すぐにアーガマを叩かなければ、アレキサンドリアが沈められるかも知れません!」
パイロット達に緊張が走る。母艦が撃沈されれば、モビルスーツも長くは持たない。ジェリドはサラへの詰問を諦めた。
「わかった。急いでアーガマを叩きに行く!」
「信じるのか?」
ヤザンが水を差す。サラがアーガマのために偽情報を流してジェリド達を誘導している可能性もある。
「どの道敵のモビルスーツ隊にうろちょろされてちゃ、アレキサンドリアが沈められるんだ。敵のモビルスーツが待ち伏せをしているのなら、艦同士の戦いよりもまだ勝ち目はある」
ジェリドの号令に従って、モビルスーツ隊はスラスターを噴射させた。サラの報告はアレキサンドリアのためなのか、それとも、もう一つの気配を庇うためなのか。不安を抱えた彼のMk-Ⅱは、無機質に加速していた。