主人公はジェリド・メサ   作:中津戸バズ

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前書き

ガンダムmk-Ⅴにしたらけっこう反響があってびっくりです
・ティターンズ系(ギリギリ)
・ガンダムタイプ
以上の二つを満たしてかつ強いやつだからMk-Ⅴにしました。
原作よろしくジェリドが乗り換えまくる想定もなかった訳ではないのですがMk-IIをカミーユにプレゼントする展開がしたかったのでそれまでMk-Ⅱを壊すわけにもいかず、壊れないのなら乗り換えることもできず……。そのうえ最後に乗り換えるとしたらバウンド・ドックですが私が個人的にバウンド・ドックが好きじゃないのでボツ。
ガブスレイとバイアランは大好きですがどちらにもジェリドを乗せられませんでした。バイアランに至っては登場すらできてません。ほどほどでカクリコンのMk-Ⅱを壊してカクリコンを乗らせる案もあったのですが、キリマンジャロでの戦闘もないしカクリコンの機体乗り換えイベントとか誰も得しないのでお蔵入り。
TR-6は戦闘を面白く書けなさそうなので……諦めました。格好いいんですけどね。
ともあれあと少し「主人公はジェリド・メサ」をよろしくお願いします。



第四部
ジュピトリス潜入


 

「おい、ファ! 何やってるんだよ、そんな格好で!」

 カミーユは叫んだ。彼の視線の先にいるのは、ファ・ユイリィ。ティターンズの制服に身を包んだ、彼の幼馴染の少女だった。

「シロッコは、シロッコはお前を人質にして、俺を戦わせたんだぞ!」

「それがどうしたの? パプテマスさんはあなたのことを思って、こうしているのよ」

 肩をすくめ、ファは言い返した。悪びれる様子もない。カミーユはますます頭に血を上らせた。

「遊びじゃないんだぞ、ファ! 俺が、俺が人を殺したんだ!」

「戦うのが嫌なら軍を抜ければいいでしょう?」

「お前が思ってるような話じゃないんだ!」

「そうよね、カミーユ! ずっと私を見下して!」

「そんな話をしてるんじゃない!」

 とうとうカミーユはファに掴みかかった。以前より細くなった腕が、カミーユを振り払おうともがく。

「ちょっと、痛いじゃない!」

「馬鹿野郎……!」

 ファのそっけない態度に、カミーユは思わず拳を振り上げた。

「ほら! ティターンズの軍人みたいに、殴ってみればいいじゃない!」

「ファ……!」

「どうしたの! なぜ殴らないの!? あなたも結局、暴力に頼ってばかりじゃない!」

「違う、俺は……!」

「そういうから子供なのよ!」

 力を失ったカミーユの腕が振り解かれた。憔悴しきった表情の彼を見て、ファはどこか満足げだった。

「ねえカミーユ、私モビルスーツのシミュレーターもやってるのよ。筋がいいって、パプテマスさんも褒めてくれたわ」

「お前、本気で言ってるのかよ。そんなことやって、戦争って、怖いことなんだぞ!」

 カミーユは怯えていた。彼自身が体験した戦闘の記憶は、死と隣り合わせの恐ろしいものだった。ファがそうした危険を経験するなど、想像もしたくなかった。

「パプテマスさんを私に取られるのが怖いんでしょ?」

「ファ、いい加減にしろよ」

 彼はその不安や恐怖を、口にすることができなかった。それだけのプライドがあった。だからこそ、ファの説得に苛立ちという感情を用いてしまった。

「あなたこそいい加減にしなさいカミーユ。パプテマスさんはいい人よ。私が不安だって言ったら薬だってくれたもの」

「あんなやつ、エゥーゴにでも殺されてしまえばいいんだ」

 カミーユの視界が揺れる。頬に走る痛み。それらは頬の皮膚の各所に散って、じわじわと消えていく。ファが、カミーユの顔を叩いたのだ。

「なんてこと言うのよ! パプテマスさんはね、とっても優しい人なのよ!」

「……勝手にしろ!」

 カミーユは耐えきれなくなって、どこへともなく駆け出した。

「子供なんだから……。パプテマスさんとは大違いね」

 その背中に、ファは呆れたように嫌味をこぼす。グリーンオアシスにいた頃、彼女はカミーユを放っておけなかった。しかし今は、彼がどうにも子供に見えた。彼女の心には、シロッコがいた。

「パプテマスさん……ジュピトリスで何も起こらなければいいけど」

 彼女はそう言って、ポケットから小瓶を取り出した。錠剤の入ったその瓶は、シロッコから受け取ったものだった。

 

 

 

 ジュピトリスの格納庫は、ジュピトリスそのもののサイズを考慮に入れてもなお、大きい。数機のモビルスーツが置かれているばかりのその格納庫は、いつもはスペースを持て余しているはずだった。

 しかし今日は、その格納庫の隅に、一機のザクⅡが置かれていた。武装はされていないが、軍用機のように見えた。

「宇宙漂流なんてごめんだろ。あの坊主は運がいいよ」

「それにしても、金持ちの息子は考えることがわからんな。ザクで宇宙旅行なんて」

 彼らの視線の先には、十五歳ほどの少年がいる。彼は二人の乗組員に頭を下げていた。

「身元、これで照合してくるからな」

「おう。坊主、お前も親御さんにどう謝るか考えておけよ。修理費も燃料もタダじゃないんだからな」

「はい、ありがとうございます」

 頭を上げた少年は、カツ・コバヤシ。エゥーゴのパイロットだ。

「ほら、こっちだ。修理が済むまでは、こっちの部屋で待機。わかるだろ」

「あっ、はい!」

 若い乗組員に呼び寄せられて、カツは通路に向かう。通路に入って人目がなくなると、その乗組員は朗らかに話しかけてきた。

「あれ、ハイスクールの合格祝いだって?」

「はい、父さんがザクをくれたんです」

 あっけらかんとした様子で話すカツに、乗組員はため息をついた。

「金持ちってのはすごいもんだな、こんなガキに払い下げ品とはいえ軍用のモビルスーツをくれてやるなんて」

「すみません……。それで、どうなんですか、ここの暮らしって」

「うん? なんだ坊主、この艦に興味があるのか」

「木星に興味があるんです。人類の最先端って感じがして」

「そんなもんかねえ」

 乗組員はあごをかいた。悪い気分はしていないはずだ。

「そうでしょう?」

「向こうじゃ、水も酸素も自分たちで作るんだ。食い物もまだ配給制だし、豊かな暮らしはできないぞ」

「地球圏からの援助は?」

「無いでもなかったがな、一年戦争からこっち、ヘリウム3の需要は増えても援助は少なくなっちまった。木星生まれの木星育ちなら、地球のことなんか何とも思ってないかもな」

「へえ……」

 やはり木星公社は軍隊とは違うとカツは思った。部外者のはずのカツを相手にしても、警戒心が薄い。存外、いい情報が手に入る可能性は高い。

「……っと、あの人も木星生まれだぜ」

 乗組員が敬礼した。二人の少女を連れた男は敬礼を返し、カツに目を留めた。

「ん、君は……」

 ジュピトリスの艦長、そしてつい最近、ティターンズの司令官の座を手に入れた男。パプテマス・シロッコだ。今は昇任して大佐になっている。

「この少年が、例の漂流者です」

「ふむ……」

 シロッコはカツを上から下まで眺める。しかし彼は、シロッコへの警戒を忘れていた。彼の目はシロッコが連れていた少女に釘付けだった。

「あら……久しぶりね」

「あ……」

 因縁の少女。サラ・ザビアロフだった。

 まずい。バレている。カツは総毛立った。なぜ、サラがこのジュピトリスにいるのだ。サラはジェリドの部下だったはずだ。

 サラは、カツの素性を知っている。彼女の次の一言で、カツは死ぬ。

 いや、サラだけではない。彼女の隣のもう一人の少女も、フォン・ブラウンで会ったティターンズの少年たちの一人だった。

 硬直したカツを前に、サラはにっこりと笑みを浮かべて言った。

「パプティマス様。彼は私の古い友人なんです。少しお話をさせていただいてもよろしいでしょうか」

「構わないよ。しかし……」

「では、失礼します」

 サラはシロッコの次の言葉を待たずに、カツの腕を引いた。リフトグリップも使わず、カツを連れて床を強く蹴って去っていく。

 カツとサラの背中が、通路の角を曲がって消えた。

「……パプティマス様、お気づきですか」

 シドレは、彼らが消えた通路の角を見つめたままそう言った。

「言ってみてくれ」

「はっ。もし私の考えが当たっていれば、ですが。あの少年は……」

 彼女は顎に手を当てた。シドレの様子は尋常ではない。シロッコも、彼女の次の言葉を待った。

 小さく唾を飲み込み、ついに、彼女はその考えを口にする。

「サラ曹長のこと好きですよ、きっと!!」

 喜色満面といったその顔に、シロッコは呆れた。

 

 

 

 Zガンダムから伸びたワイヤーが、リック・ディアスに触れた。接触回線が開く。

「敵艦に潜入とは、ずいぶんスポンサーも無理を言ってくれたな」

「大尉、知ってますか? このジュピトリスへの潜入の理由」

 アムロの愚痴混じりの無駄口に、ロベルトはいたずらっぽく笑った。

「理由?」

「ええ。実はもう、アナハイムはエゥーゴを見捨てているって話です」

 ロベルトの発言は、突拍子もなかった。アムロはむっとしたように言い返す。

「じゃあ、俺たちへの支援は全部打ち切られてるだろ」

「そういうわけじゃありませんがね、負けた後を見越して、ジュピトリスのデータを取っておきたいってことですよ。木星公社の技術は魅力的です」

 少し考え込んで、アムロはまた口を開いた。

「……しかし、カツがジュピトリスに入ってから三時間か」

「何もありませんよ、当然ですがね」

 ロベルトが応えるが、アムロは呟くように話し続ける。

「三時間だものな。あのザクの修理が終わって、カツの身元を調べて……」

「八時間経って何もなければ、我々が突入する」

「わかっている。……どうも、俺は浮ついている」

 そう言って、アムロは頭を掻いた。潜入させたカツには、エゥーゴに繋がるものは持たせていない。数時間後にはカツは解放されるか、そうでなければ、偽造した住所の近くまで送られるかのどちらかだ。

「しかたありませんよ、大尉にとってカツはまだホワイトベースの頃と同じなんでしょう」

「何も問題がなければいいが……」

 アムロが見つめる先のモニターには、沈黙を続けるジュピトリスが浮かんでいた。

 

 

 

 サラは通路を進んでいく。人の気配がなくなってから、カツが口を開いた。

「なんで僕を庇った」

「なぜここに潜入したの?」

 サラは振り向くこともなく、聞き返す。埒が開かないと思ったのか、カツはまず、サラの問いに答えた。

「上の命令。それだけさ」

「素っ気ないのね。あんなに抱きしめてくれたのに」

 この期に及んでカツをからかうサラに、彼は苛立った。

「僕の質問にも答えるべきだろ」

「そうね……。あなたが優れたニュータイプだからよ。パプティマス様の元でなら、あなたはさらにその才能を伸ばせるわ」

「パプティマス……。パプテマス・シロッコか」

「私を見出してくださった方よ」

 カツは質問を重ねる。

「シロッコの命令で、アーガマにも潜入したのか」

「鋭いわね。私は一時的にジェリド大尉の部下だっただけ。ずっとパプティマス様の命令で動いているのよ」

「そんな……」

 カツはサラをジェリドの部下だとばかり思っていたが、それはまるっきり見当違いだった。カツの顔を覚えている可能性があるサラとジェリドに気を配って潜入したというのに、これでは台無しだ。

 しかしそれ以上に、カツのショックは大きかった。サラのシロッコへの心酔は、彼女に好意を持っているカツには厳しい現実だった。

「パプティマス様はティターンズすらも手に入れた。あなたも潰れかけのエゥーゴにしがみつくより、パプティマス様の部下になった方が賢いと思うけど?」

「アーガマへの潜入は脱走のことを何も考えてないじゃないか。そんな任務に君を使ったシロッコを、信用なんてできるもんか」

 むきになって言い返したカツに、サラは笑った。

「あなたのこのジュピトリスへの潜入だって危険でしょう?」

「そうでもないよ。僕は民間人にしか見えないはずだ」

「でも、私にはお見通しだった」

 一本取ってやった、と言わんばかりに、サラは得意げだ。カツは話題を変えた。

「……君は、なんでシロッコのところにいるんだい?」

「言ったでしょ、孤児だって」

「そうだよ、だからってなんで」

「ニュータイプ研究所に目をつけられて、被験者になって……そのときだったわ、パプティマス様と会ったのは」

 サラが部屋に入り、カツを手招きする。カツに割り当てられた待機室は、艦内の独房だった。

「私は一人だったのよ。孤児の頃も、バーガーショップの頃も、ニタ研の頃も。でも、パプティマス様は私を認めてくださった。才能があるって、時代を導く力があるって!」

「だからなんだっていうんだ。君はシロッコ一人に心酔して戦争を、人殺しをするっていうのかい。君のような子供を、戦争に利用する男のために!」

「あなただって、アムロ・レイのために戦っているのではなくて?」

「違うよ、ティターンズがスペースノイドを弾圧しているから」

「パプティマス様はそんなことしないわ。だからバスクを追い出した」

 サラの言葉には、それなりの筋が通っていた。言い淀んだカツに、彼女は追撃を加える。

「本当はお父さんの復讐?」

「違う」

「復讐がしたいなら、あなたはティターンズに来るべきでしょう。あなたの本当のご両親を殺したのはジオンなんだから」

「復讐のためなんかじゃない。ティターンズが地球の特権階級の独裁を助長して、スペースノイドの権利を奪っているからだ!」

「ブレックス・フォーラの受け売りね。今のあなたはアナハイムの私兵よ」

「でも、アムロや父さんを窓際に追いやって、自分たちだけでぬくぬくと独裁をしてるんだぞ」

「じゃあやっぱりアムロ・レイのためじゃないの」

 カツは、何も言えなかった。サラは、部屋の入り口で固まっているカツの肩に手をやった。

「カツ、私はあなたが欲しいの。あなたの力はきっとパプティマス様の助けになる」

 答えはすぐに返ってこなかった。カツはサラに好意を持っていたし、彼女の発言にも筋は通っている。しかし、首を縦に振ることはできない。この申し出を断ればエゥーゴの工作員であることを明かされてしまうからだ。なにより、彼はエゥーゴが好きだった。

 長い沈黙の末、ようやくカツは口を開いた。

「……少し、時間が欲しい。……この艦の中を見てまわって、考えたいんだ」

 今、カツは揺らいでいる。うまくすれば引き入れられる。サラにその確信が芽生えた。

「……そう。なら、私からパプティマス様にかけあってみるわ。あなたが納得してティターンズに着いてくれるなら、私はうれしい」

 サラはそう言って部屋を出た。部屋の鍵は開いている。サラがシロッコを説得できれば、カツには艦内である程度自由に行動できる。偵察の任務も達成できる。

 だがカツは、サラを待たずに独房のドアを開けた。うちのめされた彼は、ほとんど無意識に通路に出る。

 何かがある。そんな予感が、彼の足を進ませた。

 ふと、彼は隣の独房を覗いてみた。他の空っぽの房と違って、その独房は誰かが入れられているようだ。

 ベッドの上に寝そべっている人影。よく見ようと、カツは独房の格子窓に顔を近づけた。

「あっ!」

 思わず声を上げていた。その人影が、声に気づいて体を起こした。

「……カツ? カツなのか!?」

 その人物は、扉に飛びつくようにして声を上げる。鼻筋の通った面長の顔立ちに、黒目がちな目。

「ブライト……!?」

「なぜお前がここにいるんだ、カツ……」

 少しやつれてこそいたが、幼少期にカツも乗っていたホワイトベースの艦長、ブライト・ノアだった。カミーユやファを含めたティターンズに反感を持つ市民を連れて脱出したが失敗し、シロッコに囚われていたのだ。

 カツは目を白黒させるブライトを落ち着かせるよう、声を落とした。

「僕は今、エゥーゴの命令でこのジュピトリスに潜入してます。……今から二時間後に、アムロさんたちが攻撃をかけるので、それに合わせて逃げるつもりです」

 ブライトも、ある程度の事情が飲み込めたようだ。彼の目に、強い決意の色が宿る。

「……わかった。俺はお前のことは黙っておく」

「違うでしょ、二人で逃げるんですよ」

「二人で?」

 ブライトは聞き返す。カツはともかく、捕虜として扱われているブライトを連れて逃げるなど簡単なことではないはずだ。

「やっぱり。開けるのに鍵はいらないみたいだ」

「カツ、お前」

「大丈夫です。僕に任せてください」

 カツはそう言って親指を立てた。

 

 

 

「なんだ、坊主? お前、拾われたって漂流者か?」

「ええ、そうです。僕のモビルスーツの整備が終わるまでは、お手伝いさせていただいてて」

 サラのおかげで、カツは艦内での自由行動が許されていた。

「ほー、あのシロッコが許したとはねえ」

「へへへ。優しいんですね、シロッコさんって」

「どうだかねえ。俺はあいつと同い年で昔から知ってるが、どうにも腹の底が読めないやつだよ」

「ふうん。あ、そうだ。ノーマルスーツってどこにしまってあるんですか? デッキの人に頼まれて……」

「ああ、あそこの角曲がった先のロッカーだよ」

 乗組員の男はそう言って、引き出しを開ける。

「ほら、カギ……っと。俺もついていってやる」

 座っていた椅子から立ち上がり、男が歩き出す。やはり、とカツは思った。軍人ならば、もっと警戒心を持つはずだ。

「職場見学ってか?」

「皆さんには迷惑かけてしまってますけど。ジュピトリス級ってすごいんですね」

「まあな。サイズは?」

「ああ、これです」

 カツがロッカーの中のノーマルスーツを指差した。男は警戒する様子もなく、それを取り出す。

「ほれ、持っていけ」

「ありがとうございます。ティターンズなんですよね、この艦」

 驚いたように、男はカツを見た。

「なんだ、お前。誰から聞いたんだ?」

「僕、木星に興味があって。それで勝手に調べてたんです。ティターンズの司令官でしょ、ここの艦長の、パプテマス・シロッコさんって」

 男は笑って答えた。

「ティターンズじゃないさ。俺たちだって一応はスペースノイドだから、思うところはないでもないが、ま、所詮地球圏の話さ」

「僕もスペースノイドですけど、そんな感じです」

「木星の人間は地球圏からすれば世捨て人にも見えるだろうが、そりゃ対岸の火事だからだよ。俺たちは地球圏とは別なんだから」

「なるほど。あっ、僕もう行きますね」

「おう、道は」

「わかります!」

 カツは駆け出した。ジュピトリスの情報は、少しでもほしい。ただ、彼の目的はこの艦に来た時よりも一つ増えていた。

 

 

 

「ロベルト」

「わかってます。時間でしょう」

 ジュピトリスの周辺宙域のデブリに隠れ、ロベルトは焦っていた。本来カツが解放されるはずの時刻はとうに過ぎた。カツがまだジュピトリスを出ていない事実は、なんらかの緊急事態の発生を意味している。

「カツが無事ならいいですが、救出となるとこの戦力では」

「ああ、難しいだろうな」

「落ち着いている場合じゃないでしょうが」

「カツなら無事だ」

 アムロには不思議な確信があった。このところ、ニュータイプ的な勘が鋭敏になっている自覚があった。その勘は、カツの身に危険は迫っていないと言っている。

「出るぞ」

 ダミーバルーンを使ったデブリへの擬装が解かれる。リック・ディアスが一機、マラサイとネモが二機ずつ。先陣を切るモビルスーツは、アムロのZガンダムだ。同時に、ジュピトリスの後方でも擬装が解かれる。こちらもアーガマのモビルスーツ部隊だ。

 モビルスーツ隊の挟み撃ちが、ジュピトリスに迫る。Zガンダムのメガ・ビーム・ランチャーの発砲を皮切りに、モビルスーツ隊はジュピトリスめがけて一斉に攻めかかった。

 ジュピトリスの中では、乗組員たちの悲鳴がこだましていた。

「なんだあ、こりゃあ!」

「攻撃だ! エゥーゴのモビルスーツ隊の待ち伏せだって!」

 サラは奥歯を噛み、走り出した。

「カツの解放が遅ければ、エゥーゴからのフォローがあるとは思っていたけれど……」

 規模こそ想定外だったが、サラはモビルスーツデッキへ走る。カツは敵だ。エゥーゴの攻撃に合わせて船外へ出るつもりだろう。

 モビルスーツデッキへ出ると、天地がひっくり返ったような騒ぎだった。モビルスーツ戦の経験など、軍用艦でないジュピトリスの乗組員たちにあるはずもない。慌てた人々の中に、シロッコがジュピトリスに連れてきたティターンズのパイロットがモビルスーツを目指す姿が見える。

 制服のままやってきたサラに、乗組員が気づいた。

「サラ曹長、ノーマルスーツも着ないでいては……」

「その子供をモビルスーツに近づけないで!!」

 サラが叫んだ。彼女の指の先には、今まさにハイザックのコクピットの前に辿り着こうとする、ノーマルスーツを着た小柄な人影があった。カツだ。

「しまった、サラ!?」

「甘いわよ、カツ!」

 サラの命令に従って、カツに男が飛びかかった。背後から襲いかかった男はカツの腕を取り、首へ力強く腕を回した。揉み合いのまま、彼らはコクピットへ雪崩れ込む。

「やった!」

 サラは一人喜んでいた。カツをこれで逃さずに済む。しかし、その表情は凍りついた。ハイザックが動き出したのだ。

「そんな、なんで!?」

「曹長! ハッチが開きますよ!」

 サラは乗組員に抱えられ、エアロックの向こうへ押し込められる。

「ちょ、ちょっと、やめなさい! あれは、あの機体がなんで!」

 ハイザックは動き出した。カツはあちこちのスイッチを操作し、操縦桿を握る。カツと先ほどまで揉み合っていたはずの男が、ヘルメットを脱いだ。カツは笑った。

「いい機転でしたね、危なかった」

「まったく……まだ脱出はできていないぞ、カツ」

 ヘルメットを脱いだ男は、ブライト・ノアだ。

「わかってますよ、でも!」

 ペダルを踏み込むと、ハイザックは一気に加速して、格納庫からジュピトリスの外へ飛び出した。

「ほら、あれ! アムロさんのガンダムですよ!」

「アムロが……そうか、アムロが」

「おっと!」

 ハイザックが突如急制動をとった。背後からは、ジュピトリスの対空機銃だけでなく、彼を追いかけるモビルスーツ隊が迫っている。

「カツ、いけるか!」

「当たり前です!」

 加速するハイザックを後ろに隠すように、アムロたちが陣を敷く。カツのハイザックに続いてジュピトリスから発進するモビルスーツたちに、もぐら叩きの要領で次々にビームを浴びせた。

 ジュピトリスほどの規模の艦となれば、対空機銃の数も相当なものだ。艦体に取りつこうとするエゥーゴのモビルスーツへの迎撃を最低限にし、ジュピトリスのモビルスーツ発進を妨害するアムロたちへと攻撃を集中させた。機銃を避け、攻勢が弱まったところで、モビルスーツ隊が発進する。

「サラ・ザビアロフ! ボリノーク・サマーン!出ます!」

 何機かのハイザックの後ろに続いて、緑色の装甲が特徴的な、大きなスラスターを背負った機体がカタパルトから射出された。ボリノーク・サマーン。シロッコが開発した、格闘戦に長けた偵察用モビルスーツだ。

 押し寄せるビームの波を掻い潜って、サラは一機のモビルスーツに接近する。武器を持たないその機体は、カツの乗ったハイザック。

「しまった!」

「どうした、カツ!」

「サラが来ます!」

「サラ?」

 ブライトがおうむ返しした次の瞬間、ハイザックの足がボリノーク・サマーンのクローに捉えられた。

「逃げられない!?」

 サラはそのまま操縦桿を操って、カツのハイザックに背後から組みついた。

「怖いのね」

「怖いだって?」

「そうでしょう。パプティマス様が怖い。安心なさい。私がとりなしてあげる」

「君だって、シロッコに怯えてるだろ」

「怯えてなんか!」

「見ればわかるさ。シロッコが何を考えてるかわからないから、君は怯えてるんだ」

「残念だったわね、カツ」

 サラはビームサーベルを抜いた。刀身の輝きが、ハイザックの装甲に反射する。

「私はいつでもあなたを殺せるのよ」

「無理だね、君にはできない」

「何を!」

「君がアーガマから脱走したとき、動けなくなった僕にとどめを刺せただろ」

「それは……!」

 言い淀んだサラの隙を見逃すほど、カツは経験の浅いパイロットではなかった。スラスターを噴かし、体を捻ってボリノーク・サマーンを振り払う。

「ほら!」

「カツ! よくも!」

 サラは構えたビームサーベルを、横薙ぎに振るった。ハイザックのシールドに阻まれるが、そのままサラはコクピット内のボタンを叩く。跳ね返された反動でビームサーベルを逆手に持ち替えたかと思うと、その柄部分から大きく強力なビームの刃が生み出される。ビームトマホークだ。

 もう一度、そのビームトマホークを横に薙ぐと、バターを熱したナイフで切るように、ハイザックのシールドは腕ごと溶断される。

「ううっ!」

 脱出のどさくさで、ハイザックは武装を持っていない。シールドを失った今、ボリノーク・サマーンの攻撃を防ぐ術はカツにはない。

 ボリノーク・サマーンは振り抜いたビームトマホークを、そのまま半回転させて左手で掴む。リーチのあるビームサーベルで、カツにとどめを刺すつもりだ。

「殺せるわ、あなただって……!」

 ビームサーベルの刃が届く直前、射撃がボリノーク・サマーンの肩に命中した。見れば、Zガンダムがビームライフルを構えていた。

「カツ! 無事か!」

「アムロ!」

 そうブライトが声を上げる。

「乗れ! 離脱するぞ!」

「はい!」

 ウェイブライダーに変形したZガンダムに掴まって、カツとブライトを乗せたハイザックはジュピトリスを離れていく。

 すでに大勢は決していた。エゥーゴのモビルスーツ隊は、波が引くように速やかに後退していく。ボリノーク・サマーンの機動性も目を見張るものがあるが、やはり、可変モビルスーツには敵わない。負け惜しみのように連射されるビームガンの光が宇宙に消えていった。

「やったようだな、カツ」

「はい! まさか、ブライトがいるなんて思いませんでしたけど」

「俺だって、お前がエゥーゴのパイロットだなんて思わなかった」

 ブライトはようやく、安堵のため息を吐いた。この数ヶ月で、ようやく彼は落ち着ける場所に辿り着いたのだ。

 

 

 

 サラの頬を、平手打ちが襲った。赤い痕を残しながら、サラは目の前の男を見た。

「サラ。君はあの少年と知り合いだったそうだな」

「……はい。ですが、まさかエゥーゴの工作員とは」

 もう一度、頬を叩かれる。叩いた右手を下ろして、シロッコは問いただした。

「嘘をつくな。お前をアーガマにやったことがあったな」

 図星だった。サラは怯えた目で、答えた。

「……はい。その時の、アーガマのパイロットです」

 三度、シロッコはサラに手を上げた。頬に残る熱い衝撃。サラの大きな目には涙が浮かんでいた。

「私を裏切ったのか」

「……カツはニュータイプで、優秀なパイロットでした。こちらに引き込めると思ったのです」

「何の報告も受けていない」

「……申し訳ありません」

「お前もそのままエゥーゴへ行けばよかっただろう」

「それは……! パプティマス様の、おそばを離れたくありません!」

 シロッコの右手が上がった。もう一度平手打ちが来る。そう思い、サラは目をつぶった。

 しかし、その右手は彼女の頬にそっと触れただけだった。

「その言葉が聞けて嬉しいよ、サラ」

 叩かれた痕を慈しむように、右手が頬を撫でる。サラが目を開くと、シロッコはいつものように微笑んでいた。

「お前はエゥーゴやあの少年ではなく私を選んだ。私のことを大切に思っている証拠だ。そして私も、お前を大切に思っている」

「パプティマス様……」

「私も心苦しいが、軍隊とは窮屈なものだ……愛しているよ、サラ」

 シロッコは、優しくささやいた。

 

 

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