主人公はジェリド・メサ   作:中津戸バズ

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生命、散って(前)

 コロニーの照準は、アクシズに向いていた。コロニーレーザーに備えて散開していた正統ティターンズの艦隊は、もはや眼中にない。

 放たれた光は宇宙に浮かぶ無数のデブリを飲み込みながら、まっすぐに進んでいく。わずかばかりの艦隊はその広く大きな死の光に包み込まれ、一部は爆発を残し、そして大部分は爆発の光すら残すことなく、宇宙に消えた。

「損耗率は一割から二割といったところか」

 ルナ・ティターンズ旗艦、アレキサンドリアのキャプテンシートでガディが呟く。楽な戦いにはなりそうにない。

「艦長! モビルスーツデッキからです!」

「繋げろ」

「俺だ、ガディ艦長」

 ノーマルスーツを着たジェリドの顔がモニターに映った。

「本当に出ますか、総帥」

「今はパイロットが必要だ。艦隊指揮はあんたの方がよほどうまいだろ」

「この戦いの後、またティターンズの後継者争いを起こしてはならんからな」

 ガディはそう嗜める。かつての部下であり人生の後輩だったジェリドに対しては、親心があった。

「あんたがアレキサンドリアの艦長でよかった」

「死ぬなよ、ジェリド大尉」

「頑張ってみるさ」

 彼らの付き合いは短いものではなかった。ジェリドは最も信頼のおける艦長に艦隊を託した。

 操縦桿の操作に従って、黒い巨人は足を動かす。ハッチが開いた。遠くにアクシズが見える。カタパルトの下に広がる青。地球だ。

 両足をやや曲げ、姿勢は低く。これまで何度もやってきた、出撃時の体勢だ。ガンダムMk-Ⅴのツインアイが光った。

 誘導灯が光る。ジェリドは出撃の決まり文句を口にした。

「ガンダムMk-Ⅴ、ジェリド・メサ! 出る!」

 加速するカタパルト。Gを堪え、操縦桿を引いた。スラスターとツインアイの輝きを残し、Mk-Ⅴは宇宙へと飛び立った。

 

 

 

 映像が次々に切り替わる。アレキサンドリア級からサラミス改、そしてアイリッシュ級。

「ふむ……」

 シロッコはその映像を見て、顎に手をやった。彼はモビルスーツ、ジ・Oに乗り、前線近くへの偵察に出ていた。ボリノーク・サマーンから共有された映像だ。

 配下のサラとシドレも、自分のモビルスーツに乗って随行していた。索敵に長けたボリノーク・サマーンのコクピットから、サラが聞いた。

「何か?」

「ネオ・ジオンから離反した艦もあったはずだろう」

「はあ……合流できなかったのでしょうか」

「違うな。あのエゥーゴの艦隊はおそらくダミーバルーンだ」

 シドレの意見をシロッコは突っぱねた。

「戦艦クラスのですか?」

「アナハイムならばやる。とすれば……別働隊だ。ルナ・ティターンズとグリプス2を囮に使うか」

 シロッコはすぐさま、ドゴス・ギアへ通信を繋いだ。今はドゴス・ギアの艦長がシロッコの正統ティターンズの艦隊指揮をとっている。

「総帥。何か?」

「戦力を核ノズルの方面に振り分けろ」

「しかし、あちらはネオ・ジオンの…‥」

「くれてやると言っている。やれ」

「はっ」

 艦長の敬礼を見ることなく、シロッコは通信を終わらせる。

「存外つまらん手を使う。コロニーレーザーといえど、アクシズの落下を止めるほどの威力はない」

 地球の重力は強力だ。仮に月に自由落下しているとなれば軌道をずらすこと程度は可能だが、核パルスエンジンの誘導を受けているアクシズを止めることは、熱エネルギーに過ぎないコロニーレーザーでは不可能だった。

「グリプス2とルナ・ティターンズ艦隊を囮にし、核パルスエンジンを別働隊が破壊する。安易な策だ」

 シロッコの第六感、いや、ニュータイプの直感が気配を感じ取った。

「む?」

 前方から接近する二機のモビルスーツ。シロッコはその気配の接近に、頬を緩めた。

「カミーユか! 待っていたぞ!」

「シロッコ! ファを利用した貴様を、許しておけるか!」

 ガンダムMk-Ⅱとガブスレイ。かつての僚機との戦いを前に、シドレは身を固くする。だがサラは、カミーユの言葉が気に掛かった。

「ファさんを利用した……?」

 ハイパー・バズーカを構えたMk-Ⅱは、その散弾を発射した。ジ・Oの装甲と機動性では、決定打にならない。左右に素早く動きつつ、ジ・OはMk-Ⅱとの距離を詰めた。

「戻ってこい、カミーユ。お前には才能がある!」

「薬でファを操ったお前が!」

「お前のためだ。その才能を無駄にさせるわけにはいかん!」

「見下すな!」

 手足を狙った銃撃をかわし、Mk-Ⅱはスラスターをふかした。増加装甲とバックパックの加速が、Mk-Ⅱを弾き飛ばす。格闘の間合いまで近づき、ハイパーバズーカを撃った。

 ジ・Oの各部に配されたスラスターは、咄嗟の回避に長けている。未来予知に近い反応速度の操作により、散弾は側面装甲を掠めただけに終わった。

「そんなモビルスーツはバラバラにして連れて帰る!」

 Mk-Ⅱの背後に回ったジ・Oはビームサーベルを抜く。だがガブスレイのメガ粒子砲が、そこに迫った。

「下がって、カミーユ! 力づくでやれる相手じゃない!」

 間一髪、メガ粒子砲をかわしたシロッコの銃撃が、ガブスレイを襲う。放たれた二発のビームに、マウアーはガブスレイの身を捩らせる。一発は命中したが、直撃ではない。

 変形し、ガブスレイはジ・Oの周囲を飛び回る。

「ああも私を誘っておいてよく撃てるものだな」

「貴様ごときに心を動かされたつもりはない!」

「カミーユを奪われた腹いせに、ジェリドから私を奪おうとしたんだろう?」

「俗人が!」

 ジ・Oが加速する。シドレのパラス・アテネのメガ粒子砲が、ガブスレイの逃げ場を奪った。

 接近戦を挑むジ・O。振り上げたビームサーベルを、割り込んだMk-Ⅱのサーベルが受け止める。

「カミーユ!」

「シロッコ! 貴様はっ!」

 二人は叫んだ。その直後だった。

 シロッコとカミーユの意識が明滅する。戦場ではない空間。彼らは今、互いの心に入り込んだ。

 ノーマルスーツ姿のカミーユ。制服姿のシロッコ。彼らはコクピットの中の、その心の中までをニュータイプ能力でさらけだした。

 カミーユが感じたものは、虚無だった。

「貴様、遊びで戦争をやっているのか!」

「これは……そうだ、やはりカミーユ! お前が私には必要なのだ!」

「何を……!」

 彼らは意識をそこに置きながら、つながった通信の中で言葉を交わす。

 思考や精神さえも互いに筒抜けのこの空間を、シロッコは心地よく感じていた。自分の全てを受け止められる人間に、彼はこれまで会ったことがなかった。

「お前は私の世界を広げてくれる! 人の未来であるニュータイプは、やはり私とお前だけだ!」

「ニュータイプの感応をしたサラが妬ましいか!」

「私は天才だ、私にできないことなどない!」

「貴様はっ……その傲慢さが人を遠ざけるんだ!」

 カミーユは叫ぶ。強い拒絶の言葉を最後に、その空間は閉じた。

「うっ!?」

「うおおおお!」

 現実の宇宙を、カミーユは突進する。ハイパーバズーカを投げつけ、その隙にビームサーベルを大上段に振りかぶる。それを受け止めようと、ジ・Oもビームサーベルを構えた。

 振り下ろされる一瞬。ジ・Oの隠し腕が動いた。腕のサーベルで敵の攻撃を受け止め、同時に相手のがら空きの胴体を隠し腕で狙う。

 だが、シロッコの読みは外れた。両手首のわずかな動きでガンダムMk-Ⅱはサーベルの角度を大きく変えた。下段への薙ぎ払い。それは、ジ・Oの隠し腕の一本を両断した。

 接近していく慣性のままMk-Ⅱは自分の胴体へ右足を引きつけ、そしてジ・Oの胸を蹴りつけた。

 激しい衝撃が互いのコクピットを揺らす。蹴りの勢いにスラスターを合わせて、Mk-Ⅱは大きく距離を取った。

「なめるな!」

 シロッコが吠えた。構えたライフルから放たれたビームが、Mk-Ⅱの胴体に直撃した。

「うああっ!」

 増加装甲に溶かされた弾痕が残る。だが、本体は無事なようだ。

「カミーユ! くっ、……退くぞ!」

 フェダーインライフルで牽制しつつ、マウアーはそう指示を下す。Mk-Ⅱも大きく旋回し、二機は撤退していった。

「追わないのですか、パプティマス様!」

 シドレがそう言った。それにシロッコが答えるより早く、サラが訊く。

「総帥は、ファさんを薬で操っていたのですか?」

「それがどうした。俗人には天才のために生きる義務がある」

「アクシズを落として地球の人々を殺すのも、天才のためだというのですか」

 シロッコは答えなかった。戦場でありながら、三人の間を重い沈黙が満たす。

 やがて、シロッコが口を開いた。

「サラ、敵艦隊の数は?」

「……ルナ・ティターンズ艦隊、数が合いません」

 ボリノーク・サマーンの分析能力は高い。サラは平静を装って答えた。

「やはりか。こちらにはダミーバルーンで艦隊を多く偽装し、別働隊でアクシズのノズルを狙う。ジェリドかアムロか……いや、ブライト・ノアか?」

 ジ・Oは頭頂部のライトを点灯させ、発光信号を送る。艦隊を割いて核パルスエンジンの防衛に当たらせるつもりだ。

「サラ、シドレ。二人はノズル防衛に回ってくれ」

「……こちらの方面からはジェリド大尉が来ます」

「私が相手をする。……お前たちではあいつは殺せん」

 カミーユとの戦いを見ていたシロッコはそう告げる。二人は言い返せず、黙り込んだ。彼女たちには躊躇があった。カミーユやマウアーを前にして、攻撃の手は緩んでしまっていた。

「意地悪を言ってしまったようだな。二人にはより重要な仕事を任せたいのだ。……そうだ、あれがあったな」

 シロッコはふと思い出し、ジュピトリスに通信を飛ばした。

「総帥!」

「ゲーツを出すようネオ・ジオンに伝えろ」

「は! ノズル防衛ですか?」

「いや、横腹を食い破られてはノズル防衛もできん。正面のルナ・ティターンズ艦隊……いや、コロニーレーザーの破壊へ回せ」

「了解しました」

 艦長の敬礼を待つことなく、シロッコは通信を切った。

「どうした、早く行け」

 サラとシドレを促す彼の声音には、苛立ちがあった。

「……では、少佐」

「ご無事で、パプティマス様!」

 ボリノーク・サマーンとパラス・アテネ。二機はまた次の戦場へ加速していった。

 

 

 

「アクシズ、距離二七〇〇! ミサイル射程、入ります!」

「よし……ミサイル発射だ! 地上から運ばせたんだ、抜かるなよ!」

 アイリッシュ級ラーディッシュのブリッジでヘンケンが指示を飛ばす。

「モビルスーツ隊を前進させろ! ミサイル、第二波準備!」

「やってます!」

 ラーディッシュを含む艦隊が、一斉にミサイルを撃った。光と煙の尾を引きながら、ミサイルはアクシズの核ノズルへと進んでいった。

「おおおっ!!!」

 視界を無数の光が満たす。リフレクター・ビットにより反射したビームが、圧倒的な密度によって次々にミサイルを落としていく。ミサイルの爆発に混じって、一際大きな爆発が散発的に起きていた。

 サイコ・ガンダムMk-Ⅱ。背後にはガルスJとガザC、ガザDの集団がいた。

「すごい……これが強化人間か」

「はあ……はあ……はあ……!」

 空間認識という負荷をこらえながら、ゲーツは進路を敵艦へ取った。割れそうな頭痛に顔を歪める。

 七年前、彼は家族を全て失った。優しい父親、勝気な母親、人懐っこい妹。孤児になった彼は、自分の生活のため、そして家族の仇を討つために、養護施設にやってきたオーガスタ研究所の誘いに乗った。

 ムサイ級がメガ粒子砲を放つ。モビルスーツとはいえ、大きな体は弱点でもある。

 衝撃。シールドで防いでもなお、威力を感じる一撃だった。接近を防ごうと、エゥーゴのネモやガザCがサイコ・ガンダムを狙う。

「うっ……がああああ!」

 ゲーツの絶叫と共に、サイコ・ガンダムMk-Ⅱの全身からメガ粒子砲が放たれる。ハリネズミじみた攻撃はリフレクター・ビットに反射し、アイリッシュ級とモビルスーツを、あらゆる方位から撃ち貫いた。

 頭の中を掻き回されるような不快感。ゲーツは表情を歪めながら息を整える。

 彼が過ごしたオーガスタ研究所での日々は、楽しかった。訓練や実験は厳しいものだったが、彼は持ち前の精神力と鋭敏な感性で乗り越えた。何より、オーガスタ研究所には仲間がいた。ロザミア・バダム。彼女はゲーツが研究所に来た時からの仲だ。初めは、妹を失った心の穴を埋めるためだったのかもしれない。だがロザミアと心を通わせ、少しずつ、彼女のことを心から愛するようになった。

 電子音が聞こえた。母艦からの通信だ。今の彼の母艦は、ネオ・ジオンのエンドラ級だった。

「ゲーツ・キャパ! 貴様はKフィールドに回れ。こちらには正統ティターンズの艦隊の一部が来る!」

「ルナ・ティターンズか……了解した」

 敵と後退しつつ、ゲーツはサイコ・ガンダムを変形させた。シャトルのようなその形態の方が、高速移動には向いている。

 彼の記憶は、全てまやかしだった。ロザミア・バダムが地上で戦死した後、ごく最近になって植え付けられたものだ。家族の記憶すら、本物かはわからない。

 激戦区を離れ、ゲーツはようやく落ち着きを取り戻す。彼はシートの裏から手のひらよりやや大きなケースを取り出した。

 ゲーツはそれを左手に持ったまま、右手を左の二の腕へ伸ばす。

「ふんっ!」

 ノーマルスーツを、その握力でちぎり取った。筋肉のついた二の腕が露出する。そのまま彼はケースの中から注射器を手に取った。

「くっ……」

 薬品が血液に流れ始めた。わずかな痛みと、その後から湧き出す興奮。血管の脈動が聞こえる錯覚がした。

「フォウ……待っていろよ!」

 彼の記憶に、確かなものはない。ただ、今が全てだった。フォウ・ムラサメを救う。それだけを考えて、強力なGを感じながら、彼は戦場へ急いだ。

 

 

 

 無数のビームが飛び交う戦場を、三機の青いモビルアーマーが駆けていた。変幻自在のその機動で互いの位置を目まぐるしく変えながら、背部ビームライフルの照準を合わせる。

 ルナ・ティターンズのバーザムがその餌食となった。一発目を左肩に掠めさせながらもかわしたそのバーザムは、二機目と三機目のビームを喰らい爆散する。

「大尉、あれを!」

 青いモビルアーマー、ハンブラビのコクピットで、ラムサス・ハサが声を上げた。彼のモニターには、白いモビルスーツが映っている。

 ヤザンがにんまりと笑った。ようやく、このハンブラビの性能を活かし切る時が来た。

「よし、仕掛けるぞ! ラムサス、ダンケル! 遅れるなよ!」

「はいっ!」

 彼の部下、ラムサスとダンケルが目を輝かせる。ヤザンが強敵と認めた相手だ。面白い戦いになる。

「来る? あのマシーンは!」

 アムロはハンブラビの接近に気づく。Zガンダムがビームライフルを構えた。三機のハンブラビは不規則な渦を描くようにして、Zガンダムを取り囲む。

 変形して包囲を抜けようとするアムロを、ハンブラビ達の背部ビームライフルが襲う。素早い回避運動が命中を避けた。

「こいつ、やりますよ!」

「だから面白い!」

 ラムサスの言葉にそう言い返し、ヤザンはハンブラビに海ヘビを構えさせる。

「くらえっ!」

 投げつけるように放たれたそのワイヤーは、ビームによる点の攻撃と異なり、線での攻撃ができる。三次元的な戦闘を強いられる宇宙において、このメリットは大きかった。

 だが、アムロには通じない。変形によってスラスターの位置を大きく変え、減速と方向転換でその海ヘビから逃れると、反撃のビームライフルを撃つ。

「うおっ!?」

 ビームがハンブラビに掠め、ヤザンは舌打ちした。部下達の追撃がない。彼らは今、エゥーゴのモビルスーツの攻撃を受けていた。

 マラサイとリック・ディアス。彼らの銃撃を避けた結果、ラムサスとダンケルはアムロへの攻撃を遅らせた。

「アムロさん!」

「大尉! 援護します!」

 マラサイのパイロットとロベルトはなかなかの強者だ。背中を預けるに足る相手だ。

 一方のヤザン隊も、フォーメーションを組み直す。アムロたちの間を飛び回り、隙を探る。

「ふん……遊びは終わりだ! Zに蜘蛛の巣をしかける、抜かるなよ!」

「はい!」

 三機のハンブラビは一斉に背部のビーム砲を撃つ。それをめくらましに、彼らは一瞬で合流を果たす。

 フェダーインライフルを持つダンケル機を中心に集合し、海ヘビとライフルでアムロ達を散開させた。さらにハンブラビ隊は、密集隊形でZガンダムを追い立てる。

「三機が固まって飛ぶ……?」

 Zガンダムに接近して、彼らは散開した。その三機の中心に、Zガンダムを導く。

「電流流せ!」

「そうか!」

 アムロはその閃きとともに、ビームライフルを振った。銃口から刃を形成したロング・ビームサーベルは、虚空のはずの空間を切りつける。ワイヤーが切断された。

 ダンケルが悲鳴を上げた。

「この蜘蛛の巣を見切っただと!?」

「そうでなくちゃつまらん!」

 電流が流れるワイヤーがZガンダムの装甲表面を撫でる。一瞬の電流に怯むことなく、アムロは引き金を引いた。

 ビームが命中し、ラムサスのハンブラビが体勢を崩す。その背後から、クレイバズーカが連続して撃ち込まれた。ロベルトのリック・ディアスだ。

「うっ!?」

 彼の悲鳴を最後に、ラムサス機の上半身が爆発を起こす。

「ラムサス! よくも……!」

 ヤザンが振り返った時には、すでにラムサス機は撃墜されていた。ダンケルのハンブラビも、マラサイのビームライフルの連射が攻め立てている。

「ダンケル、距離を取れ!」

 部下の援護に回ったヤザンは、マラサイにビームを放ち後退させた。

「大尉! ラムサスがやられました!」

「わかっている!」

 ヤザンの目標はあくまでZガンダムだった。ラムサスの撃墜もアムロ・レイが起点になっている。

「アムロ・レイをやってやる!」

 変形し、ハンブラビはZガンダムを追走した。変形したハンブラビのスピードはZガンダムを凌駕する。

「ちっ!」

 後退しつつ、アムロは狙いを定める。モニターに浮かぶ円がハンブラビと重なったが、アムロはあえてその照準をずらす。

「もらった!」

 かわせるはずのない一撃。必中の偏差射撃が空を切る。突然減速したハンブラビ。その右手の海ヘビが、上方のリック・ディアスに巻き付いていた。

「こいつ! ワイヤーで減速を!」

「ふはははっ! 甘いんだよ!」

 アムロのZへビームを撃ちつつ、ヤザンは海ヘビのスイッチを入れた。

「がああああっ!!」

 リック・ディアスのコクピットに流れる電流。ロベルトが悲鳴を上げた。ハンブラビは海ヘビをさらに引っ張り向きを変え、リック・ディアスへ加速していく。

 ヤザンのハンブラビはリック・ディアスの胴体に、深々とビームサーベルを突き刺した。

「ロベルト!! くそぉっ!」

「次は貴様だ、アムロ・レイ!」

 ヤザンは海ヘビを巻き取りつつ、リック・ディアスをZガンダムへ蹴り飛ばす。後退したZの眼前で、物言わぬリック・ディアスが爆発した。

 アムロの視界が封じられたその一瞬だった。Zの左腕に巻き付く海ヘビ。ダンケルのハンブラビだ。

「わあああっ!」

 流れた電撃がコクピットのアムロを襲う。ダンケルは勝ち誇った。

「やりましたよ、大尉!!」

「後ろだダンケル!!」

「え……」

 振り返ったハンブラビを、ビームサーベルが刺し貫く。ビームサーベルを握るマラサイの中で、パイロットが荒々しく咆哮する。

「アムロさんをやらせるか!」

 ビームサーベルは、ダンケルのハンブラビの胴体を傷つけてはいなかった。バインダーを貫いた格好のマラサイは、サーベルを握る腕に力を込める。

 即座にハンブラビは両腕のクローでマラサイを捉えた。背部ビームライフルを前へ倒し、マラサイを狙う。

「貴様なんかに!!」

「うおおおおっ!!」

 ほとんど同時に、光の粒子がほとばしった。ビームライフルはマラサイの頭を吹き飛ばし、ビームサーベルはハンブラビの胴体を逆袈裟に両断していた。

 爆発するハンブラビ。その衝撃を受け、頭部を失ったマラサイが宇宙を舞う。

 僚機を二機とも失って、二人のエースパイロットは対峙する。ヤザンが先手を取った。電流のダメージが残るアムロとZガンダムに、高速で接近する。

「楽しませてくれる!」

 放たれた海ヘビは牽制だ。潜るようにかわしたZガンダムを、ハンブラビはビームサーベルで切りつける。シールドで防ぐZガンダム。その下から胴体めがけて、テールランスが突き上げられた。

「ぐっ!」

 体を反らせてアムロは直撃を避ける。ヤザンはその勢いのままハンブラビを加速させた。ハンブラビの真髄は一撃離脱。距離を取ったハンブラビは反転し、もう一度アムロに襲いかかる。

「このパイロット……強い!」

「勝負だ、Zァ!」

 加速するハンブラビ。同時にヤザンは海ヘビを伸ばす。その狙いは、メインカメラを失ったマラサイだった。ワイヤーによる減速、方向転換という手札を加え、Zガンダムとハンブラビの距離は縮まっていく。

 ビームライフルの応酬。高速で接近する彼らは、導かれるようにビームをかわす。すれ違うその一瞬、アムロのライフルの銃口がハンブラビを捉えた。

 ヤザンはその時、笑っていた。ハンブラビの右手は海ヘビを強く握り、方向転換のために引っ張った。

「させるかっ!」

 マラサイはパイロットのその気合いと共に、海ヘビの巻き付く右腕を、ビームサーベルで切り落とす。

「なにっ!? あいつ……自分で腕を!」

「そこっ!」

 ハンブラビは支えを失った。減速しそこなったその機体を、アムロのビームライフルが撃ち抜く。煙を吹き出しバランスを崩したハンブラビは死に体だ。

「おおおおっ!」

 ビームライフルの銃口から伸びる刃。ロング・ビームサーベルがハンブラビを切り裂いた。

 

 

 

 ハイザックとハイザックが、バーザムとバーザムが撃ち合う。かつての友軍を相手に、ティターンズ同士の戦いは続く。

「主砲発射用意! 目標、前方のドゴス・ギア! まだ撃つなよ!」

 ガディのアレキサンドリアの行く手を阻む艦は、正統ティターンズの旗艦、ドゴス・ギアだった。

 アレキサンドリア級の三倍近い大きさがあるドゴス・ギア級は、有効射程、センサー範囲共にアレキサンドリアを上回っているはずだ。だからこそ、先手の取り合いは諦めた。

 ドゴス・ギアの艦体左右に設置された砲塔が動いた。アレキサンドリアの全長に比肩するほどの長大なメガ粒子砲だ。

「ふん……。グリプス2への攻撃は捨てて、艦隊攻撃に出てくれるか。上げ舵五! 面舵十! 全速!」

「はっ!」

 アレキサンドリアに接近するハイザックの識別信号は正統ティターンズのものだ。だがアレキサンドリアに有効打を与えることなく、ルナ・ティターンズのバーザムに撃ち落とされる。

「弾幕薄いぞ! こちらのモビルスーツ隊を自由にしてやれ!」

「はっ!」

 アレキサンドリアが揺れる。ドゴス・ギアの砲撃だ。冷静に、しかし威圧的にガディが命令する。

「下げ舵! ドゴス・ギアに正面を向けろ!」

「ブルネイより通信! 敵大型モビルアーマー接近とのことです!」

 切羽詰まった様子で通信士が叫んだ。キャプテンシートからガディが立ち上がる。

「モビルアーマー?」

 通信士はヘッドセットを押さえ、連絡を聞く。

「もとい! サイコ・ガンダムです!」

「なんだと!?」

 ルナ・ティターンズ艦隊の右翼に現れた紫紺の可変モビルスーツ。それはモビルスーツを圧倒する質量とパワー、そして無数のメガ粒子砲を武器に攻撃を開始した。

 火を吹き、光に包まれサラミス改が墜とされる。サイコ・ガンダムMk-Ⅱは、反撃の艦砲射撃を嫌って後退した。宇宙空間にリフレクター・ビットが飛び交う。命中率は、強化人間の感知能力とオールレンジ攻撃でカバーできる。遠距離からの攻撃こそが、ニュータイプ、強化人間の強みだった。

 だが、サイコ・ガンダムがリフ・ビットに拡散メガ粒子砲を放つより早く、サイコ・ガンダムの腕に左右からのビームが着弾した。出力は低く、決定打にはならない。

「着弾位置確認……射角修正よし!」

 ゲーツは、気配を感じてコンソールを操作する。黒い機影が、モニターにアップになった。

「落ちてもらうぞ、ゲーツ!」

 銃口、いや、砲口が向けられていた。二十メートル近いその巨大な砲は、今やジェネレータを含めれば三十メートル級の超大型兵装だ。

 メガ・ランチャー。それを単機で軽々扱えるモビルスーツは、他にない。

「黒いガンダムMk-Ⅴはジェリド・メサ!」

 ゲーツが敵の名を呼んだ時、その敵は引き金を引いていた。

 他を圧倒する高火力の一撃。だがサイコ・ガンダムは、咄嗟に並べた眼前のリフ・ビットと両腕のシールドで、ダメージを軽減していた。

「ゲーツだな! 投降すれば、悪いようにはしない!」

「うっ……ぐうううっ!」

 接近してくるニュータイプ。薬物とサイコ・ガンダムのサイコミュで鋭敏になった感覚が、そのプレッシャーを苦痛へ変える。ゲーツはコクピットの中でのたうつ。

 荒い呼吸。ウエストポーチからばら撒いた注射器を、乱暴に三本ほど引っ掴んだ。

 それらの位置を整えることもなく、剥き出しの二の腕にその注射器を突き立てる。

 針の痛みは、サイコミュの痛みには遠く及ばない。薬品を注入し終わると、止血もせずに注射器を放り出す。わずかに薬品の混ざった血の滴が無重力に浮いていた。

「ゲーツ!」

「があああああっ!」

 興奮作用。全身で鼓動を感じる。痛みはない。溢れ出る多幸感と万能感がゲーツの恐れを消し去った。鋭敏になった感覚が、遠く先の光景すらも見通している。

 ジェリドは舌打ちした。

「インコムっ!」

 Mk-Ⅴのインコムは、ビットやファンネルには一歩劣るものの、事実上のオールレンジ攻撃を可能にした高性能兵装である。

 ビームキャノンと二つのインコム。三方向からの攻撃を、サイコ・ガンダムはかわしてみせた。

「何!?」

「見えるんだよ!」

 急加速と急停止を繰り返すリフレクター・ビットの反射板がきらめいた。サイコ・ガンダムの全身の砲門から、メガ粒子が怒涛の勢いで吐き出される。

 宇宙を染めるその光が、モビルスーツを焼き尽くす。

 増設されたシールドのブースターを利用して、ジェリドはなんとかビームの密集するキルゾーンから逃れた。だが、リフレクター・ビットはまだ生きている。人間を乗せる必要のないその装置は、モビルスーツをはるかに超えるスピードで動き、標的を追い詰める。

「ちっ……!」

 舌打ちするジェリドの目の前で、リフレクター・ビットが撃ち落とされた。攻撃範囲の広い散弾が、リフレクター・ビットを叩き落とす。

「ゲーツ・キャパが好き勝手に!」

 もう一機、黒いガンダムが飛来した。Mk-Ⅴよりも小柄だが、高い運動性と機動力を持つガンダム。ガンダムMk-Ⅱだ。

「カクリコン!」

「サイコ・ガンダム狩りは二度目だな、ジェリド!」

 高速で動けるとしても、リフレクター・ビットの耐久性は低い。散弾ならば、破壊することはたやすかった。

「ビットは任せる!」

「やってみせればいいんだろ!」

 ゲーツとの距離を保つカクリコン。一方でジェリドは加速して、サイコ・ガンダムの背後を狙う。

「カクリコン中尉だと?」

 一瞬だけ、ゲーツの思考に雑念が混じる。だが、彼はそれを頭を振って追い出した。さらに集中を深めたゲーツの脳裏に、一人の女の姿が浮かんだ。

「……フォウ? フォウなのか!? ここにいたのか、お前は!」

 コクピットの中でゲーツが立ち上がった。彼の目は、存在しない女を見つめている。彼はサイコ・ガンダムの中に、フォウ・ムラサメを感じていた。

 ビットが以前以上に素早く小刻みに方向転換を繰り返す。警戒して、ジェリドたちはサイコ・ガンダムに近寄れない。

「なんだ!? ビットの動きが!」

「焦るな! 攻撃の前は反射板が角度を変える!」

「わかるかよ!」

 ジェリドの助言にならない助言にカクリコンがそう言い返した瞬間だった。宇宙を踊るリフレクター・ビットに、拡散メガ粒子砲が反射した。

 無数のビームが空間そのものを埋め尽くす。その場にいるもの全てを消し去ろうとするその密度から逃れることは、不可能だった。

 胴体に直撃したメガ粒子砲。Mk-Ⅱのコクピットで、カクリコンが叫んだ。

「アメリア!」

 ジェリドはMk-Ⅱを目で追う。そしてその視線の先で起きた爆発を見て、奥歯を噛み締めた。

「カクリコン! くそっ!!」

 ガンダムMk-Ⅴは、両腕と背中に装着したシールド・ブースターを稼働させた。高い機動性を持つMk-Ⅴがさらに加速する。

 数百キロのGに、ジェリドの体が軋む。メガ粒子砲の二発目が来る前にけりを付ける。Mk-Ⅴはメガ・ランチャーを構えつつ、両肩のミサイルポッドの砲門を開いた。

 発射されたミサイルが、不規則な軌道を描いてサイコ・ガンダムへ着弾する。頭部への攻撃。完全に視界を塞ぎ、コクピットへも激しい衝撃が伝わった。

「なぜ裏切った、ゲーツ!」

「偽物の記憶のために戦えるか!」

 サイコ・ガンダムが右腕の手首を折り曲げた。手首の断面からビームソードが伸びる。そのまま、両腕をMk-Ⅴめがけて射出した。

 有線サイコミュで制御された両腕はMk-Ⅴとすれ違い、背後から蛇のように追いかけた。サイコ・ガンダムの左手からのメガ粒子砲をかわしつつ、Mk-Ⅴはメガ・ランチャーを軸にし、回転の勢いをつけビームサーベルを抜く。

 迫る右手のビームソードに、Mk-Ⅴのビームサーベルがかち合った。加速を続けるスラスターが唸り、腕の関節が軋む。その隙を逃すまいと、サイコ・ガンダムの左腕が迫る。

 だがその左腕が、弾丸を受けて吹き飛んだ。強力な散弾。ガンダムMk-Ⅱのハイパー・バズーカだ。

「嫁さんとガキが待ってるんだよ!」

 黒いガンダムMk-Ⅱは、片足を失い増加装甲を傷だらけにしながらも、パイロットのカクリコンに応えた。もう一発のハイパー・バズーカを、今度はサイコ・ガンダムの右腕に打ち込む。

 力比べは、Mk-Ⅴが打ち勝った。弾き飛ばされるサイコ・ガンダムの右腕。即座にメガ・ランチャーの砲身がサイコ・ガンダムの頭部へと照準を合わせた。

 サイコ・ガンダムが頭部の小型ビーム砲を発射する。だがそれは悪あがきにすぎない。そのビームすらも飲み込み、メガ・ランチャーの光がゲーツの視界を覆った。

「ロザミア……」

 彼は最期に、偽りの記憶に縋った。

 頭部を吹き飛ばされたサイコ・ガンダムはコントロールを失っていた。攻撃が止んだ好機を逃さず、ルナ・ティターンズの艦隊が砲撃する。爆発を繰り返しながら、サイコ・ガンダムは木っ端微塵に弾けて消えた。

「強化人間ってやつは……」

 ぼそりとカクリコンがつぶやく。ロザミアの死とフォウの苦しみを間近で見た彼は、やるせない気持ちだった。ジェリドが頷く。

「今のニタ研のやり方じゃあ、こういう被害者が生まれるんだ」

 変えてみせる。その強い意志がジェリドの瞳にはあった。

「カクリコン、お前は一度帰投しろ」

 Mk-Ⅱの状況を考えると、戦闘の続行は困難だった。カクリコンは軽口を叩く。

「言われんでもそうするさ。お前はまだやる気か」

「シロッコを落とすまでは死ねないんでな」

 ジェリドはそう言い残し、最前線へ、アクシズへと向かう。正統ティターンズの総大将、シロッコの首を取るつもりだった。

 




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