主人公はジェリド・メサ   作:中津戸バズ

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アムロ再び

 

 ケネディ空港を発ってまだ数時間。ロベルトは格納庫のコンテナに腰を下ろし、タオルで汗を拭っていた。彼の目の前に、コーラの瓶が差し出される。

「大尉」

「どうだ、リック・ディアスは」

 百式やリック・ディアスは宇宙へ返す予定の機体だ。カラバのアウドムラでの運用は考えていない。したがって、予備のパーツもないというわけだ。

「いただきます」

 瓶を受け取って、ロベルトは続ける。

「アポリーのリック・ディアスを借りることにしました。ほら、あれ」

 ロベルトは格納庫の隅のリック・ディアスを指した。アポリーの機体だ。損傷は少ない。

「私の機体をパーツ取りに使えば、それなりに戦えるかと。……百式はどうなんです」

 リック・ディアスと違って、自由に使える予備機もない。百式の左腕は、取り返しのつかない傷だ。

「予備のパーツがないからな、片腕でやるしかあるまい」

 自嘲するようにクワトロは笑った。シャトルを打ち上げさせるためとはいえ、無茶をさせた。

「ヒッコリーまで持つでしょうか」

 ヒッコリーというのは地名ではない。アメリカ西海岸にある発着所のコードネームだ。

「やってみるしかないな、これからハヤト艦長と打ち合わせだ」

 クワトロの表情は暗い。エレベーターへ向かうその足取りは確かだが、重くもあった。

「……本当に、どうなるのかねえ」

 ロベルトはコーラの蓋を開けた。

 エレベーターに乗りこんだクワトロが上階のボタンを押すと、通路を走る足音がする。

「大尉! 私も……」

「乗れ」

 ドアを開き、クワトロはその女を迎え入れる。レコア・ロンド少尉だ。

 エレベーターは密室だ。ドアが閉じた鉄の箱の中に、沈黙が流れる。クワトロは一言も発さない。小さな駆動音の中に、唾を飲み込む音が混じった。

「大尉……」

 彼女はクワトロの手を握り、体を押し付ける。剥き出しの二の腕に布地が擦れた。レコアの腕が、クワトロの肩へ回される。

「さっきはごめんなさい、大尉。……私……」

 一度クワトロの顔を見たが、レコアはまた目を落とした。声が震えている。男の体に鼓動が触れた。激しい脈動は性的興奮のためではない。消しがたいトラウマへの恐怖だ。

 クワトロの手が伸びた。肩に回されたレコアの手を優しく取り、体から離す。サングラスの内側でレコアを見据える瞳からは、感情はうかがえない。

 冷たい声で、クワトロは告げた。

「これからハヤト艦長と打ち合わせがある」

 レコアは取られたままの腕を振り、クワトロの手を払った。彼女は声を詰まらせる。

「あなたは……!」

 エレベーターのドアが開いた。レコアはそのまま駆け出していく。クワトロはそれを引き止めることなく見送って、エレベーターから出た。

 背後から、声をかけられる。

「あんた、卑怯なんじゃないかい」

 クワトロが声の主の方へ振り向くと、カイが通路の壁にもたれていた。その目には、確かな失望と怒りの色があった。

「……私は自分がすべきことをやっている。今はアウドムラを落とすわけにはいかん」

「あの人はジャブローで汚された自分の体を、あんたで上書こうとしてるんだよ。それをあんたは!」

「私は彼女の機嫌を取るために軍人になったわけではない」

 クワトロはブリッジへの通路を進む。カイは声を張り上げた。

「卑怯なんだよシャア・アズナブル。そう名乗って戦わないから!」

 足が止まった。振り向かず、クワトロは答える。

「レコア少尉の話はそうだが、今の私はクワトロ・バジーナでしかない」

 カイがクワトロの肩を掴む。強引に振り向かせると、もう一方の手がクワトロの頬を打ち据えた。強烈な一撃に、クワトロは床に倒れ込む。サングラスが床に転がった。

「いつだってそうだ! セイラさんがどんな気持ちで戦ってたかなんて考えもしない!」

 壁に拳が打ち付けられる。クワトロだ。立ち上がり、カイに怒りのこもった目を向ける。

「やめろ! カイ!」

 ハヤトが割り込んだ。ブリッジから口論を聞きつけて走ってきたのだ。

「偉くなったもんだな、ハヤト」

 鋭い目で、カイはハヤトを睨む。低く響く声で、彼は続けた。

「いつから俺にそんな口が聞けるようになった?」

「やめろと言ってる!」

 ハヤトは怯まない。よく通る声でそう言い聞かせる彼には、指導者としての貫禄があった。

 しばしの睨み合いの後、カイは目を閉じて息を吐く。

「負けたよ。ここはお前の顔を立てるさ。小型飛行機を一台借りていきたいが、構わないな?」

「……ああ」

 ハヤトの許可を得ると、カイは身を翻しエレベーターへ歩いていく。見上げていたクワトロは、サングラスに手を伸ばす。

「あばよ、軟弱者」

 肩越しにカイはそう言い残した。クワトロは黙ったままだ。気まずそうに、ハヤトはクワトロに声をかける。

「大尉、打ち合わせです。行きましょう」

 サングラスに伸ばした手は、その横で固く握られていた。

 

 

 

 ジェリドに敬礼をして、その兵士はすれ違った。ジャブローで助けた兵士も、このスードリにはまだ多い。

 ブリッジに入ると、クルーの半分ほどが振り返って敬礼した。反応しないのはブラン隊としてスードリに乗り込んだメンバーだ。

「何の用だ、ジェリド中尉」

「ご立派だな、ベン・ウッダー艦長」

 言葉は静かだが、彼らは密かに火花を散らし合う。ジェリドからすればウッダーに艦を奪われた形だ。わだかまりはある。

「ブラン少佐に話があって来た」

「隊長は今はこれだ」

 ウッダーは立てた二本の指を口元にやる。

「これ?」

「煙草だ。喫煙室だよ」

 地球に帰ってくるのはジェリドにとって数ヶ月ぶりだった。煙草のジェスチャーがぴんと来なかったのも無理はない。宇宙での戦闘を意識している軍人は、その殆どが煙草を吸わないからだ。

「わかった」

「おい、何の話を……」

 ジェリドは問いに答えず、ブリッジを出ていった。ウッダーは小さく、その背中に舌打ちした。

 

 

 

「少佐、こちらでしたか」

「ん、ジェリド中尉か。吸うのか?」

 ジェリドが喫煙室に入った時、ブランは煙草を咥えていた。見たところ火をつけたばかりのようだ。

 輸送機としては規格外なほど大きいスードリだが、その喫煙室は他の軍艦と変わらないサイズだった。

「いえ、お話が」

 ブランは煙草の灰を灰皿に落とした。

「話?」

「少佐のアッシマーの操縦技術は見事なものです。それを教えてもらいたい」

 笑い声が煙の奥から聞こえた。

「私の目から見ても中尉は十分な腕だ。実戦の日は浅いだろうに、よくやる」

「まだ足りないのです。今の実力では」

 ゆっくりと、紫煙が吐き出された。その煙を追ったブランの視線が、ジェリドを不意に見つめた。

「赤い彗星のシャア、か」

「……その通りです。俺は奴を超えないと、前に進めません」

 肺いっぱいに煙草の煙を吸い込み、ブランが喫煙室のベンチに腰を下ろした。開いた口から煙が立ち上り、消えていく。

「間違いだな。個人への復讐などに囚われて戦争をするものじゃない。ましてや前に進めんなど」

「しかし!」

「一年戦争の初期、私は飛行機乗りだった」

 話がつながっていない。ジェリドは怪訝な顔だ。思い出話で煙に巻くつもりなら許さない。

「同僚も部下も上司もたくさん死んだ。宇宙人は嫌いだが、殺すとかは別の話だ」

「だから俺も忘れろと」

「囚われるなと言っている」

 ブランはぎろりと睨んだ。

 ジェリドにとってクワトロは単なる復讐の相手ではない。ライラを殺されたことは確かだが、エマの死はむしろティターンズに責任がある。エゥーゴに正義があることも、内心認めてはいた。

 そういった内心の不満や鬱憤をすべてクワトロに押し付け、その上で彼を殺すことで全てから目を逸らせると考えているのだ。

 煙草を灰皿に押しつけ、ブランは立ち上がった。

「ティターンズになってエゥーゴを叩けば出世ができる。私はそのつもりで戦っている」

 お前はどうだ。そう聞かれた気がして、ジェリドは俯いた。

 

 

 

 夕焼けに染まった暗い空を、輸送機が割っていく。地平の近くは赤く染まり、目的の艦は夕日を目指して飛んでいた。

 後部ハッチが開く。緑の誘導灯に従って、その輸送機は格納庫に着陸した。

 輸送機を出迎えるのは、現状のアウドムラのツートップ。クワトロとハヤトだ。

 輸送機のドアが開き、生意気そうな少年がタラップを飛び降りる。

「来たよ、父さん」

「カツ!」

 ハヤトが駆け寄り、生意気そうな少年の頭を力強く撫でる。まんざらでもないような顔で、カツはそれを受け入れた。

 続いて輸送機から出てきた懐かしいくせ毛に、ハヤトは笑みを浮かべた。

「これからしばらく世話になるな」

「こっちの台詞だ、アムロ」

 久々の旧友との再会だ。ハヤトは分厚い皮の張った手を差し出す。固い握手が交わされた。

「フラウたちは?」

「日本へ行ったよ」

 アムロは少しだけ、目を伏せた。その視線がカツに向いていることを、ハヤトは見抜く。

「カツを連れ出してくれたことはありがたいよ、アムロ」

「僕だって、ずっと家にいるんじゃつまらないからね。母さんは反対してたけどさ」

 カツが付け足した。地球での暮らしは今の彼にとって窮屈だ。カツの母親にあたるフラウは反対していたが、ハヤトは多少強引にでもカツを連れ出す算段をしていた。

「母親だからな」

 アムロはどこか遠い目で言った。同級生が母親をやっていると理解すると、自分が歳をとったように感じるのだ。

「アムロ、カツを鍛えてやってくれ」

 ハヤトはカツの背中に手を置いた。強引に押し出されてカツは少しつんのめった。

「どうかな。俺だって錆びついている」

「大丈夫ですよ。輸送機を奪った時のアムロさん、かっこよかったし」

 カツが屈託なく笑う。その若い眼差しが、アムロには眩しく思えた。

「俺は……」

 アムロは堪えきれず目を逸らした。その視線は、ハヤトたちの後ろで腕を組んでいるある男に止まった。

 金髪の下の整った顔。赤い制服。身のこなし。サングラスをかけていても、その正体はわかる。

「シャア」

「今はクワトロ・バジーナだ」

 表情ひとつ変えずにクワトロは答える。緊張した空気を感じ、ハヤトはカツを連れて下がる。

「なぜ地球圏に戻ってきた?」

 沈黙が流れた。カツが唾を飲み込む。クワトロは天井を見上げた。

「ララァの魂は、火星より向こうにはない。そう思って地球圏に来た」

 答えを聞いて、アムロの表情が沈む。ただでさえ虚勢を張っているような状態だった彼の脳裏に、愛した女性をその手で殺した過去が甦った。

 クワトロは続ける。

「ティターンズは手強い。が、君が戦ってくれるなら心強い」

 元よりカラバに参加するつもりでアムロはここに来た。しかし、心の内に巣食うのは恐怖だった。

 アムロのその表情は怯えている。死に物狂いで戦っていた一年戦争当時と違い、彼の中にトラウマは大きく深く根付いていた。

 アムロは横目でカツを見た。尊敬の眼差しを向けたカツの目が、失望との間で揺れる。

 小さく、アムロは絞り出した。

「宇宙は……無理だ」

「宇宙にもララァはいない。どれほど探そうと、ララァには会えん。それをどこかで認めていないから怖い。違うか?」

 トラウマの根源を見抜かれて、アムロはクワトロを睨んだ。クワトロはサングラスを外した。アムロを見つめ返すクワトロの目は、どこか羨望を含んでいる。

「……生きている者は、生きている間にやるべきことがある。それをやることは、死んだ者への手向けだ」

「喋るな!!」

 戦うことを意識すればするだけ、ララァのことがより鮮明に思い出される。自身の封じておきたい過去を踏み荒らされて、アムロは叫んでいた。

 その言葉の後、また静寂が訪れる。叫び声に注意をひかれて、整備兵たちの注目も集まった。必死だったアムロも、ようやくその周囲の目に気づく。

 あの一年戦争の英雄であるアムロ・レイが戦いに怯えている。失望を含んだ目を向けているのは、カツも同じだった。

「もういいですよ! アムロさん!」

「か……カツ……」

「ホワイトベースの頃のアムロはもっと……!」

 カツをハヤトが張り倒した。これ以上、アムロに重圧をかけるわけにはいかない。本人も戦う必要があることは頭では分かっているのだ。

 カツは立ち上がった。口の端が切れて血が出ている。

「カツ! アムロに謝れ!」

「父さんだってアムロを甘やかして! 知らないよ!」

 ハヤトの訓戒も意に介さず、カツは走って行ってしまった。その背を追って一歩踏み出すが、逃げ足の速さにハヤトはため息をついて首を振った。

「まったく……! あいつは今度きつく叱ってやらんと……」

 ハヤトが振り返ると、すでにクワトロは百式の整備に戻っていた。アムロは力なく、そこに立ち尽くしている。

 ハヤトは、一年戦争の頃のブライトの気持ちが、ほんのわずかだけわかった気がした。

 

 

 

 喫煙室から出て、ジェリドは懊悩していた。窓から、赤く染まった西の空を見下ろす。

「ヘレン・ヘレンだったわね」

 ジェリドは振り向いた。後ろにいたのはマウアーだ。髪が少し濡れているところからして、シャワーの後だろうとジェリドは推測した。

「ヘレン・ヘレン?」

「スードリの石鹸よ。気づかなかった?」

 ジャブローを出てから北米に到着するまでにジェリドはシャワーを浴びていたが、ヘレン・ヘレンのことには気づかなかった。

 まずヘレン・ヘレンが何か、というところすらジェリドは知らないが、石鹸のブランドか何かだろうとあたりをつけて話を合わせる。

「ほう。いいものを使ってるんだな。気づかなかったよ」

「そうね。本当は高官が使う予定だったのかしら」

 ジェリドの隣に並んだマウアーは、石鹸の匂いがした。

「オーガスタ研究所から強化人間が来るって話……聞いた?」

「オーガスタの強化人間だって?」

 ジェリドは聞き返した。マウアーが頷く。

「ええ。ロザミア少尉がこのスードリに到着するそうよ」

「強化人間か……詳しくないな」

 ジェリドはコーラの瓶を傾ける。口の中で炭酸が弾けた。アレキサンドリアの酒保にも炭酸飲料はなかったから、久しぶりのコーラだった。

「強化人間はニュータイプを再現したものだけど、オーガスタ研究所では耐G訓練が進んでいるらしいわ」

「よく知ってるんだな」

 素直に感心するジェリドに、マウアーは少しはにかんだ。

「ジャブローのニュータイプ研究所にいたから」

「ニュータイプなのか?」

 コーラの瓶を持った手が下がった。

「どうかしら。適性はあるって研究者は言ってたけど」

 マウアーは窓の外に目をやった。雲の隙間から、一機のモビルスーツが見える。

「来たようね。会いに行く?」

「……行こう」

 強化人間。ジェリドは、ライラにニュータイプだと言われたことを思い出した。

 新型可変モビルアーマー、ギャプラン。両腕部の大型ブースターが特徴的な、オーガスタ研究所で開発された機体だ。

 その青い機体から、ノーマルスーツが顔を出す。ヘルメットを脱ぐと、ボリュームあふれる長髪が揺れるように風になびいた。

「ロザミア・バダム少尉他、六名。オーガスタより参りました。回収していただきありがとうございます」

 敬礼をするその姿には気品がある。見たところ、普通の人間と変わらない。

 ジェリドはギャプランに続いて着艦したモビルスーツに目をやった。アクト・ザクと呼ばれるジオン製モビルスーツだ。一年戦争末期の機体だが、その反応速度はハイザックにも負けていない。

「ああ、よろしく頼む。見たところ、ギャプランには慣れていないようだが」

 出迎えたのはブランだ。減速時の機体のわずかなブレを見てそう言えるのは、彼が同じ可変モビルアーマー乗りというだけでなく、熟練のパイロットだからだろう。

「は……」

「少尉の準備ができたら再出撃だ。アウドムラを落とすぞ」

 そう言ってブランは背を向けた。艦長であるウッダーに連絡するつもりだ。

「あんたがオーガスタのロザミアか」

 ロザミアに、ジェリドが話しかける。まるでレーシングカーのピットインのように整備員がギャプランに集まっている。

「あなたは?」

「そうだったな。俺はジェリド・メサ中尉だ。こっちが……」

「マウアー・ファラオ。少尉だ」

 並んだ二人の自己紹介にも、ロザミアはあまり反応を示さない。

「強化人間というから気を張っていたが、俺たちとあまり変わらんようだな」

 強化人間を人形と揶揄する者もいるが、ジェリドはフラットな感想を述べた。みくびられたと思ったロザミアはむっとして言い返す。

「ギャプランは私のような強化人間でなければGに耐えられません。肺も強化されています」

 スードリの格納庫内はハッチが閉まるまで高空の低気圧に晒されていた。しかし、ロザミアは地上のように話せている。

「いや、大したものだ。強化人間というのは実験段階だと思っていたが」

「私がこうして空を落とす人たちと戦えるのは、強化人間だからです」

「空を落とす……」

 マウアーがおうむ返しした。

「エゥーゴはコロニーを落とすつもりの人たちです。コロニーが落ちてくる……あの光景は……!」

 ジェリドとマウアーの頭に疑問符が浮かぶ。コロニーを地上に落とすのは、エゥーゴの目的とは違う。むしろ、地上の汚染を嫌って人間を宇宙に上げたがっている人間の方が多い。

「おかしくないか? エゥーゴは地球の汚染を嫌っている。コロニーを落とすつもりなんてないはずだ」

「コロニーが落ちてくる夢を見るんです、今でも」

「夢だって?」

「夢です。エゥーゴに毎晩、うなされてるんです」

 話が噛み合わない。ジェリドはロザミアからぞっとするものを感じた。隣のマウアーもそれは感じたようで、ジェリドと目を見合わせた。

 強化人間の不安定さだけが理由なのか。それとも、強化人間を戦わせるためか。あるいは、こうして精神操作をしなければ強化人間は作れないのか。

 オーガスタのアクト・ザクのパイロットがロザミアに駆け寄ってきた。

「ギャプランの整備が完了したそうです」

「そうか。お前たちは?」

「アクト・ザクはいつでも出られます」

 満足そうにロザミアは頷いた。

「少佐に準備ができたとお伝えしろ。エゥーゴを叩く」

 ロザミアはまともではない。ジェリドたちは、部下に指示を下すロザミアから、異常さを感じていた。

 

 

 

 白い雲を眼下に眺め、モビルスーツの編隊が飛んでいた。空は黒い。夜の闇の中、彼らは標的を追う。

 アクト・ザク、ハイザックはそれぞれ二機ずつ、一つのベースジャバーに乗っている。ジェリドたち三人が一機ずつベースジャバーを与えられていた。

 スードリの乗組員もその半数以上がジャブローから脱出してきたいわばジェリド派であることに加えて、ブラン隊やオーガスタ研からの人員はそれぞれのベースジャバーがある。

 スードリのベースジャバーを半ば独り占めできる権利がジェリドたちにはあった。

「出てきたな、宇宙人どもめ」

 ブランが言った。ドダイ改に乗ったモビルスーツが数機。リック・ディアスを先頭に百式、その後ろに数機のマラサイが後に続く。

 よく見ると、百式には片腕がない。ケネディ空港でシャトルを打ち上げるために行った無茶が、まだ響いているのだ。

「ジムもどきがいないな……」

 カクリコンが小さくつぶやく。カラバの空戦力は十機にも満たない。対するスードリ側は、同じようにSFSに載っているモビルスーツだけでもオーガスタ研、オークランド研、ジェリドたち三機を合わせて十四機。さらに空中戦に特化した可変モビルアーマーまで存在する。

 戦力差は圧倒的だ。まともに戦えば、スードリの圧勝だろう。

 ブランが命令を下す。

「各機、油断するなよ! あの金色は私とジェリド中尉のMk-Ⅱで仕留める!」

 先行して、アッシマーとギャプランが敵の射程内に入った。カラバのモビルスーツたちが二機を狙うが、その運動性能の前に次々とかわされていく。

「了解だ、ブラン少佐!!」

 編隊から一機が飛び出る。ジェリドのMk-Ⅱだ。アッシマーの大型ビームライフルを援護射撃に、夜空に浮かぶ金のモビルスーツを狙う。

「墜ちろ! シャア!」

 二機からの射撃。ド・ダイ改の上では百式の動きも限られるものの、どうにか第一射を凌ぎ、ビームライフルを撃ち返す。

 一機のマラサイが頭部を吹き飛ばされた。撃ったのは、ハイザックか、アクト・ザクか。ティターンズのペースで戦闘が進んでいる。先頭を飛ぶリック・ディアスに火砲が集中した。

 その瞬間だった。宵闇を切り裂き、二つのビームがアクト・ザクを撃ち抜いた。ちょうど胴体と頭部の正中線に一発ずつ。撃たれたアクト・ザクは、力なくベースジャバーから崩れ落ち、爆発する。

 雲の中だ。アウドムラが逃げ込んだ雲から、ジェリドはプレッシャーを感じた。

「二機目のリック・ディアス!」

 雲を破って、片腕のリック・ディアスが姿を表す。左前腕にビームピストルを二挺取り付け、さらにクレイバズーカを手に持ったその隻腕のリック・ディアスは、その戦場を見下ろし、ド・ダイ改を加速させた。

 

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