名脇役の貴公子   作:カツラ二エース

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 前話からだいぶ間が空いてしまいました。閲覧してくださった方はありがとうございます。今後も定期的に投稿していきたいと思います。
 今回の話からアイルトンシンボリ視点としました。話の展開次第では変わるかもしれませんがどうぞよろしくお願いいたします。


第二話 夏合宿・前編

 暑い日差しが目に刺さる。喉は水分を求め渇ききっており、体力に自信がある自分でもおぼつかない足取りになりつつあった。

 

「そこまでだ。アイルトン。少し休憩しよう。水分補給してこい」

 

 トレーナーの指示を聞き、日陰となる場所へと移動するとスポーツドリンクを口へと流しこむ。カラカラに渇いた体に水分がいきわたる。ようやく人心地ついた気分であった。

 

 今私は砂浜にいた。トレセン学園恒例の夏合宿に参加するためである。夏の間学園の生徒は基本この合宿所でトレーニングを行う。たまに夏開催の新潟や函館、札幌といったローカルのレースに参加するもの以外は、秋に向けての強化トレーニングにいそしむのである。

 砂浜のトレーニングはなかなかにハードである。砂に足が取られ自由に身動きできず、体力が奪われる。体幹や筋力が鍛えられる良いトレーニングであるが普段の学園の環境に慣れている身としてはなかなかにキツイ。現に周辺で走っていたウマ娘が「むぅり~」と言いながら倒れこんでいた。

 

「あっ、アイルトン! こんなところにいたぁ」

 

 そう言って隣に座ったのはマチカネタンホイザであった。私のルームメイトで同世代。今年のクラシックをにぎわすライバルの一人だ。

 

「タンホイザ。やっぱりここの暑さはたまらないよ」

「そうだねぇ。だけどここでのトレーニングは秋へのスタートダッシュになるからね。頑張らなきゃ!」

 

 そういって気合を入れるためか「えい、えい、むん!」と声をあげた。いまいちえい、えい、むんとは何か疑問に感じるが彼女の可愛らしい姿に和んだのであった。

 

「それに私だけじゃなくてブルボンちゃんにライスちゃんも頑張っているからねぇ。気合いをいれなきゃ!」

「ブルボンにライス……」

 

 その二人の名を聞き私の脳裏に浮かんだのは、合宿で見かけたトレーニング風景であった。

 

 

 

 ミホノブルボンのスパルタトレーニングは、学内でも有名であった。「鍛えて最強ウマ娘をつくる」という方針のトレーナーの下で毎日ハードなトレーニングの日々を送る彼女は、この夏も当然激しい練習を行っていた。長距離レースである菊花賞制覇に向けて、弱点のスタミナ強化に取り組んでいた。毎日のように遠泳を行う姿を見かけたがもはや何キロ泳いだかも見当がつかなかった。みるみるうちに彼女はスタミナをつけ、長い距離でも好タイムをたたき出しつつあった。三冠へ向けて邁進していく姿に死角はないと思われた。

 

 それよりも恐ろしかったのが昨夜のライスシャワーであった。合宿と言えど夜になれば皆休息を取る。私も休んでいたが、満月の夜であったため気晴らしに砂浜へと散歩に出かけた。あいにく雲がかかってしまい月が隠れてしまったが海のさざ波に耳向けるとそれだけでもなかなか乙なものであった。しかし波の音に紛れて何かがザクザクと歩く音がする。後方からだろうか。誰もいないはずではと思ったが自主トレに励んでいてもおかしくはない。そちらの方へと目を向けると目を疑った。

 

 そこには鬼火があった。ゆらゆらと揺れ青白く燃え盛る鬼火である。しかしそれだけではない。何かの圧、まるで猛虎が獲物に狙いさだめるかのような殺気が発せられおり、それが徐々に私の方へと近づいてくる。ウマ娘の自慢の足ならそこいらの者には、追いつくことができるはずがない。

 

(早く逃げなくては)

 そう頭で理解はしていても足がすくんでしまう。鬼火といった奇怪な現象に遭遇したことよりえもいわれぬ圧力に足が動かすことができなかった。

 そうこうしているうちに炎はどんどん近くに来る。それと同時であろうか先程まで雲隠れしていた月が顔を出しはじめ、あたりを照らしだした。

 月明かりがすぐ目の前にまで近づく鬼火をついに照らすとその正体を暴く。

 

「ラッ、……ライスさん?」

「……あっ、アイルトンさん、こんばんは……」

 

 現れたのは先ほどまでイメージした恐ろし気な化け物とは、程遠い色白の可憐な顔つき、ジャージこそ泥まみれになってしまっているが愛らしい見た目はライスシャワーに違いなかった。気づけば、見えていた鬼火も消えてしまっている。疲れたたまったがためにみた幻か、それとも……。怪訝な表情が出ていたのか、ライスシャワーはすぐに頭を下げる。

 

「ごっ、ごめんなさい! ライス、トレーニングで夢中で……、ぶつかりそうなっちゃった……、本当にごめんなさい」

「いやっ、いいんだ。……こんな時間までトレーニング?精が出るね」

 

 そう彼女の後ろを見ると延々と足跡が続いている。朝練習に出る姿を見かけたが、もしやそれからずっとトレーニングに励んでいたのだろうか。

 

「うん……、ライス、ダメな子だから……、もっと頑張らなくちゃ。……頑張って……ブルボンさんにおいつくためにも」

 

 そう語る彼女の顔は普段の可愛らしい小動物のような印象とは裏腹にまるで獲物を食いちぎらんとする気配を醸しだしていた。その気配は間違いなくさっきまで受けていた圧力に違いなく、背筋が凍る不気味さすら感じた。

 後々に聞いた話であるがライスは、ブルボンと同様かそれ以上のトレーニングに励んでいるらしい。その姿を見た他のトレーナーの中には、「レースの前にライスシャワーが潰れてしまう」と忠告するものもいたという。

 

 

 

「タンホイザは……、今年のクラシックはブルボンが三冠を達成すると思うか?」

 

 口に出してハッとした。彼女自身は未だクラシック戦線で戦い続けているのだ。その気持ちも考えず決めつけることを言ってしまった自分に嫌悪感を持った。

 

「あっ、すまない……失礼な質問だったな」

「ううん、いいんだよ。気にしないで。……確かにブルボンちゃんは凄くトレーニングを積んでるし、ライスちゃんもそれに負けないくらい追いこんでる。2人とも強い! ……すーっごく強い!」

「普通に頑張るだけじゃ、ぜんぜん勝てないだよねぇ。けど奇跡は起こるかもしれないし! 神さまなむなむ~!」

「そんな今の時点で神頼みなんて……」

 

 そう言った瞬間気づく。自分は、ライスとブルボンという圧倒的な敵に諦念を抱いていた。一方でタンホイザは、勝利を諦めていない。レースでは何が起こるかはわからない。もしかしたらということもある。気のせいだろうか彼女の顔はたしかにあの二人には、劣らない意志が感じられたのであった。

 

「よーし!秋に向けて頑張るぞ――ぶはっっっ! ……りっ、力んだら鼻血が……」

 

 ……やはり私の気のせいかもしれない。

 

 急いでティッシュを持ってくるとタンホイザは鼻をおさえた。幸い軽度だったのかすぐに治まった。

 

「うう~~、ありがと~。アイルトン~。すんすん。もう大丈夫! ……だいぶ時間が経っちゃった。早く戻らなきゃ……」

 

 そう言ってるとどこからか彼女を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「タンホイザーー! ――あーっタンホイザいたー!」

「タンホイザさん、ここにいましたか。アイルトンさんも一緒でしたか」

 

 見ると彼女のチームメイトのツインターボとイクノディクタスであった。どうやら休憩が終わってもタンホイザが戻ってこないので探していたらしい。

 

「もう! 遅いよー! タンホイザ!」

「また鼻血ですかタンホイザさん」

「えへへ、ごめんね~。止まったからもう大丈夫。練習に戻ろう!」

「よーし! タンホイザも戻ったし、打倒スピカに向けてがんばるぞー!!」

「「おぉーー!!」」

「じゃあ、トレーナーのところまで競争だぁー!」

 

 そう言い放つやツインターボが勢いよく飛びだした。

 

「なっ、抜け駆けはずるいですよ。ターボさん!」

「あっ、まっ、待ってー二人ともー! じゃあねアイルトン、ティッシュありがとー!」

 

 ツインターボに続き、タンホイザもイクノディクタスも追いかける。あとには、アイルトン一人だけ。遠くからトレーニングするウマ娘の掛け声が聞こえてくるが近くの波音が大きく、先ほどまでの喧騒が嘘のようであった。どこかに一人残されてしまった。そんな錯覚を覚える。

 

(いや……私は歩みを止めたわけではない。いずれ彼女たちにも……)

 

 もう休憩も十分であった。秋への飛躍に向けて自分もトレーニングへと戻っていくのであった。




 今回も閲読ありがとうございます。執筆自体慣れないのでなかなか話が進みません。今回でアイルトンシンボリを描きたかったですが、同世代のライバルについて書くとそっちにばかり比重が寄ってしまいました。
 次回は、あの帝王とともにアイルトンについて描写できればと思います。
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