名脇役の貴公子   作:カツラ二エース

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第三話 夏合宿・後編

 日は傾き、海へと沈んでいく。広がっていた青空も黒く染まり、星が瞬く。休憩後は、夕方まで休みなくトレーニングを続け、全身の疲労感はぬぐえなかった。夕食後は、風呂に入りしっかりと体を休ませていった。入浴後はその火照った体を冷ましたいと思い、夜風にあたりに近くの砂浜へと訪れた。以前のような怪しい気配も鬼火が浮かびあがることもなく、波音のみが聞こえる静かな夜であった。しかしその静謐を破ったのは、鶴の一声ならぬ帝王の一声であった。

 

「あれっ、アイルトン?」

「ムッ、……テイオーか」

 

 そこに立つのは、トウカイテイオーであった。テイオーも風呂に入った直後であろうか。髪は湿り気を帯びており、近付いてくるとシャンプーの匂いが香った。

 

「何してるのこんなところで?」

「少し湯冷めしようと思ってな。……テイオーこそ何を。チームのメンバーと一緒じゃないのか?」

「みんなよりも先にお風呂出てきちゃったんだ。……そこまで汗もかいてなかったから」

 

 そういうと海へと目を向けた。彼女の足は、天皇賞春のあとに骨折が発覚していた。この夏合宿の間も序盤には、上半身を中心に鍛えており、ようやく最近になって砂浜で足元の負荷の少ない特訓に励んでいるらしかった。

 だが彼女は空虚であった。以前のケガの際には、いつ走るのかとやきもきしていたが、今回は、その走りに覇気が感じられなかった。三冠ウマ娘、無敗ウマ娘、そのどちらも夢破れ、以前のような天真爛漫、唯我独尊といった面は、鳴りを潜めていた。

 

(やはり、以前と全く雰囲気が違う)

 

 そう思うと初めて会ったときの衝撃を思い出すのだった。

 

 

 

 私がトウカイテイオーと出会ったのは、トレセン学園に入学して間もない頃だった。

 

「キミがアイルトンシンボリ?」

 

 学年も違うクラスに堂々と入り、彼女は私の机の前に立つ。まさに堂々たる姿は、クラシックに出場前であっても王者の風格といってよかった。

 

「そういう君は、……トウカイテイオーか」

「へー、ボクのこと知ってるんだ」

 

 知っているもなにもまさに当時テイオーは時の人と言ってよかった。クラシック最有力候補であり、事実テイオーが入ってきた瞬間に教室の雰囲気が一変した。遠巻きにクラスメイトがこちらをうかがう。ブルボンやライスもこちらに目をやっていた。

 そんな皆をよそにテイオーは私を見た。まるで名物を目利きする鑑定士のようにジロジロとへー、ほー、といいながら私を値踏みするのだった。

 

「当然だ。君を知らないとすればトレセン学園ではモグリだ」

「えへへ、そんなにホメないでよ~。……今日はキミにお願いがあってきたんだ。ボクと走ってよ」

 

 自身満々に彼女が言い放った内容に教室内がざわめいた。デビュー前のウマ娘に現役ウマ娘が対戦を指名することは少ない。ましてや相手は、クラシックの最右翼。周りの雰囲気が否が応でもあがった。

 

「……私は、まだデビュー前ですよ。こんな若輩者には――」

 しかし私が言いきる前にテイオーは遮るように言葉を重ねる。

「まさか断られないよね~。同じカイチョーのお墨付きを受けてるんだから!」

 

 彼女はニヤニヤとこちらを挑発するように笑う。そのニヤケ面を見ると自分の中に何か闘志が湧きたってくる。いささか彼女の相手をするには、分が悪いといってよかった。しかしもし彼女をここで倒したらどうだろうか。まさしく来年のクラシック戦線は私が主役だと言っても過言ではない。

 この時点では、テイオーの走りに私は疑念を抱いていた。強い走りではあるが、ここまで重賞を避けたローテーションを組んでいた。ただ相手が弱かっただけのまがい物であれば私にも付け入る隙があるのでは。そんな野心めいた気持ちが私の口を動かした。

 

「……いいだろう。お相手しよう。グラウンドに移動しようじゃないか」

 

 そう言うとテイオーの目を真正面から睨みつける。しかし彼女は全く余裕綽々と言った面持ちを崩さないのであった。

 

「もう、おそいよー! 待ちくたびれちゃった~」

「すいません、すこし着替えに手間取ってしまって」

 

 体操着に着替え、グラウンドに出るとすでにテイオーは待っていた。周りには話を聞きつけたのか観衆ができあがっていた。

 

「じゃあ早く走ろうよ! 距離はどうする?キミが決めていいよ!」

「いいえ。そちらの指定で大丈夫ですよ」

「へぇ……じゃあ2400mでどう?」

「わかりました。ではその条件でいきましょう」

 

 条件を定め、ゴールを用意するとスタート位置につく。適当に近くにいて指名されたスターターが声をあげる。

 

「では位置についてよーい……ドン!」

 

 スタートから約半分が過ぎた。どちらも並んだスタートから現在テイオーが先行し、少し離れて私がついていくといった状態であった。さすがに最初から全くついてこれないわけではないがやはり上級生との対決は流れが速く感じた。だが自分には、ルドルフさんも認めたスタミナがある。そうして第三コーナーから第四コーナーに入った時に勝負をかけた。一気に差を縮めるとテイオーの外から追い抜こうと試みた。ずっと背中を追いかけていたがついにその顔を拝んでやろう。そんな思いでちらと彼女の顔を見た。

 

 テイオーは笑っていた。まるでまだまだこれからといったようにこちらに向かって不敵な笑みを浮かべるのであった。そこから彼女は加速した。土がえぐれるように強く踏みこみ、スピードを上げる。まさに一陣の風といわんばかりの勢いである。私は必死に彼女に食いつこうとするが全く歯が立たなかった。第四コーナーを回って直線に入るともうそこは、もうテイオーの独壇場であった。

 

 自分の才には、自身があった。あのルドルフさんにも認められるほどだ。いずれはウマ娘の頂点だって目指してやると意気込んでいたが、テイオーの走りの前にそんな思いは、崩れ去った。一歩一歩踏みしめていくごとに差が広がっていく。そんな状況に私の胸中に去来したのは、絶望であった。しかしそれとは別の感情が生まれつつあった。

 たしかに圧倒的才能の前にやぶれさる。これほど屈辱的なことはなかった。だがそれ以上に彼女の走りをもっと見たいとおもった。これほど楽しそう走るウマ娘を今まで見たことはない。横に並んだ時間は一瞬であった。だがその瞬時のうち私は彼女に魅了されていたのだろう。

 生まれもった柔軟性、ストライドを活かした走り、自らの才を存分に発揮する姿に私は、彼女の走りを見たい、その一心で彼女の背を追っていた。

 

(――もっと近くで。もっとそばで!)

 

 その思いとは裏腹にテイオーの姿は遠ざかっていく。そして彼女は見事大差をつけてヒシアマゾンのゴール板を駆け抜けた。

 

「いえーい! ホップ、ステップ、大勝利!」

 

 あらん限りの観客の拍手を身に受けてテイオーは、喜色満面といった笑みを浮かべ、勝利を噛みしめていた。

 一方で私は肩で息するのがやっとであった。走っている間は夢中であったがレースが終わってからそのツケがきていた。自らの限界を超える走りで追いすがろうとしていたことに気付かされたのであった。

 

「ふふーん、ボクの勝ちだね」

「はぁはぁ……あぁ、さすがトウカイテイオー。完敗だ」

 

 そう私が漏らすとテイオーは誇らしげに胸をはった。

 

「えっへん、カイチョーから君の話を聞いたときは、どんな子かと思ったけど。やっぱりボクが勝っちゃうよね~」

 

 その言葉が私の自尊心を刺激したがそれ以上にルドルフさんからの期待を裏切ってしまったことに申し訳なさがたった。それとともに観衆から聞こえた会話が追い打ちをかけた。

 

「やっぱり今年のクラシックはテイオーで決まりかなぁ」

「だねぇ。相手はデビュー前だけどタイムも凄いしこれは決まりだね」

「ねぇ~。このアイルトンって子もテイオー相手によく頑張ってたけど、思った以上じゃなかったね。わざわざテイオーが挑戦するからどれだけ強いのかと思ったから拍子抜けしちゃった」

 

 たしかに勝負中は、テイオーに呑まれ圧倒された。彼女の走りに対して憧れに近い感情を覚えてしまっていた。だがレースを終えて改めて生じたのは悔しさが一番であった。どんな素晴らしい走りでも、どんなに圧倒的な才能を前にしても、勝負を挑み走った以上は、やはり勝利したいというのが常であろう。

 一瞬でも勝負を忘れてしまった己を恥じるとともに、テイオーの喜ぶ姿を見るとふつふつと湧きたつものがあった。

 

「いや~。やっぱりボクが一番なんだよねぇ。ウマ娘の一番も、カイチョーの一番もボクがなっちゃうもんね~」

 

 そういって有頂天になる彼女に私の闘争心に火がついた。

 

「…00mだ」

「えっ、なに? なにか言った? あっ、もしかして再戦したい? いいよ~! でも次もボクが一着とっちゃうけどね。次は何で走る? 今度こそ君が決めていいよ」

「4000mだ……」

「えっ」

「次は、4000mで勝負してくれ。まさか無敵のテイオー様だ。断りはしないよな」

 

 そう言って彼女をにらみつけるのであった。

 

 日本で最も長い距離で施行されるのが3600mのステイヤーズステークスである。かつては、日本最長距離ステークスという凖オープンクラスの4000mのレースもあったがいまや廃止されてしまっている。海外には、4000mでG1のカドラン賞、それをわずかに超える世界最長の4014mのイギリスのゴールドカップというものもある。

 4000mは、日本のウマ娘であれば絶対走ることもない距離である。ましてやテイオーといえどクラシック級。超長距離を走る機会などあるわけがない。

 

「もうむぅりぃ~!!」

 

 当然走ってもスタミナが持つわけがない。

 前に先行し、スタミナが切れてヘロヘロになった彼女を私は、差し切り勝利した。テイオーは、ゴール後倒れ大の字となっていた。

 

「はぁはぁ……私の勝利だ。トウカイテイオー」

「うぐぅ……ボクが負けるなんて~! それに4000mなんてズルいじゃん! そんな距離のレースなんてないもん」

 

 意地をはり、負け惜しみを言う彼女の顔には、先ほどのドヤ顔はなく、苦しそうに息を整える。そんな彼女に追い打ちをかけるべく、できる限りの嫌味ったらしい笑みを浮かべる。

 

「無敵のテイオー様が挑まれたレースに言い訳をするなんて! ……ルドルフさんならそんなことは言わないだろうな」

 

 痛いところを突かれたと言わんばかりに彼女は、苦々しい表情を浮かべる。今だ体力が戻らないのかテイオーは、小鹿のようにプルプルと起き上がる。

 

「くぅぅ……こっ、今回は負けたけど次は、ボクが勝つもんね! 絶対負けないから!」

 

 そう言いながら彼女はこの場を立ち去って行った。

 

「アイルトン! またボクと勝負だ!!」

 

 数日後また私の前に来たかと思うと開口一番に勝負を持ち掛けてきた。

 

「勝負って……この前受けたではないか」

「だって負けたままだもん! そんなのボクが納得できないし!」

「だが――」

「それともまた負けるのが怖いの~? やっぱりこの前のはキミのまぐれ

だったってことかな」

「……いいだろう。何回だって相手しよう」

 

 ……我ながらずいぶんと煽り耐性がないものである。だが我が物顔でいるテイオーを見るとその顔に吠え面をかかせてやりたいという思いが湧き上がってくるのだ。

 

「よーし! じゃあこの前と同じ4000mね! 今度こそボクが勝つから!」

「いいだろう。……だがこの競争が終わったら、また中距離でも走ってくれないか?」

「えー、この前勝てなかったのにー? ……まあいいよ。何回やってもボクが勝っちゃうから!」

「その言葉、長距離であればそっくり返そう。何度やっても勝つのは私だ」

「言ったなー! じゃあ早く勝負しようよ! 今度こそ無敵のテイオー様の実力見せてあげる!」

 

 この一件以来テイオーと私は、お互い長距離と中距離で挑みあった。中距離では、私は全く歯が立たなかった。しかし長距離であれば五分五分と言ったところであろうか。彼女がケガを負った時期を除き、幾度も走りあったのだった。

 

 

 

 最後に勝負したのは、天皇賞春の直前であったか。この頃になると彼女は、自身のスタミナを補うために持久力を高めるトレーニングを集中的に行っていた。長距離であってもここ数戦は、私が負け越していた。彼女の状態は、仕上がってきていると言ってよかった。無敗のウマ娘目指して、まさに飛躍を見せると私も信じてやまなかった。だがその思いもむなしく一敗地に塗れた彼女は、変わってしまった。敗北を経験して精神面が大人しくなったと言えば聞こえがいいが、以前のような感情をむき出しに明るかった彼女はいなくなってしまった。

 

「そういえばテイオー……菊花賞は回避することにしたよ」

 

 私がそう言うと彼女は驚きの表情を浮かべた。

 

「どっ、どうしてさ。ずっと菊花賞を目指してたじゃん。この前だって、皐月とダービーに間に合わなかったから菊花賞こそは言ってたのに……」

 

 極力本音をださないようにしつつ、自慢話をするかのようにとうとうと話す。

 

「無理すれば行けないことはないんだがな。ルドルフさんに止められたんだ。君の才能は無駄にするもんじゃないってね」

「そっか……」

「だから秋は、とりあえず重賞を目指すという感じだ。目標としては、12月のステイヤーズステークスかな。そういうテイオーは秋はどうするんだ」

 

 そう聞くと彼女は、今気づいたというように考えこんでしまった。

 

「えっ、ボクはどうだろう……」

「どうだろうって、秋の目標とかないのかG1を取るとかそういうものは――」

「そういうのは……今はないかな」

 

 その言葉にやっぱりと思ってしまう。以前であれば、常にカイチョーを超えると高みを目指していた彼女の姿勢からそんな言葉がでることが考えられなかった。

 

「テイオー……君は変わったな。前なら絶対そんなことはなかったのに」

「……急にどうしたのさ」

 

 私の言葉に怪訝そうな様子でこちらを見る。その目線にはどこか不快そうな雰囲気が漂っている。

 

「どうしたもなにも……以前の君なら目標に向かって全力を尽くしていただろう。それが今はどうだ。何が目標かも答えられない」

 

 彼女はうつむき、押し黙ってしまった。そのまま私は言葉をつづける。

 

「夢破れたのがそんなに悔しいか。負けたのがそんなに悔しいか。まったく情けない! 今まで幾度も勝負してきたやつがそんなことでへこたれるなんて!」

「そんなこと……、キミに何がわかるっていうのさ!」

 

 今までだんまりを決め込んでいたテイオーは、面を上げ、こちらをにらみつけた。それは、ここ最近の彼女からは、感じられなかった激情の混じったものであった。

 

「ボクはね、カイチョーを超えるウマ娘になりたかった! その夢に向かって全力を尽くしてきた! だけど三冠ウマ娘にも、無敗のウマ娘にもなれなかった。……もうボクの夢はかなわないんだ。それじゃあボクは何で走るのさ。一体何のために走ればいいのさ!」

 

 そう言い切るとこちらに強いまなざしを向けた。その眼には涙が混じりつつあった。

 

「……たしかに君の三冠も無敗も潰えた。だがルドルフさんを超えるという夢はまだ不可能じゃない」

「……えっ、どういうこと」

「シンボリ軍団が何を目標にしているか知っているか」

 

 テイオーは首を振る。

 

「それはな、海外に通用するウマ娘を目指すことだ」

 

 言い切ると私は彼女の目をしっかりと見つめる。

 

「今だに海外では、日本のウマ娘の評価は低い。本場の欧州では、まだまだお遊びレベルだと言いたいんだろう。その評価を打破することがシンボリ軍団の夢であり、ルドルフさんの目標でもあった」

「カイチョーの目標……?」

「ああ、ルドルフさんだけじゃない。スピードシンボリさんに、シリウスだってそうだ」

「だが現実はそう甘くない。いずれも海外遠征で敗れた。あのルドルフさんだってそうだ。テイオーだって知っているだろう。サンルイレイステークスの走りを」

「うん……知らないわけないよ。だってカイチョーの最後の走りだったんだもん」

 

 ルドルフさんの最後のレースとなったのがサンルイレイステークスであった。アメリカのG1であり当時日本最強であった彼女がどこまで通用するか大きな期待を寄せられていた。しかし結果は、6着。その上、競走中に故障を発生していたのだった。しばらく治療に専念することもあり、彼女はこのレースを最後にトゥインクルシリーズからドリームトロフィーリーグへと移籍することになった。

 

「ああ、あの人は、そこで引退することになった。史上最強の七冠ウマ娘であろうと歩みを止めてしまえば、そこからは進めない。ルドルフさんのトゥインクルシリーズはそこで終わってしまったんだ」

 

 脳裏にあの時のルドルフさんの表情が目に浮かぶ。その忸怩たる思いは、如何ほどであるか私には想像もつかなかった。テイオーもあの時のことを思い出しているのか、どこか遠いところに思いはせるように、空へと目を向けていた。おそらく私よりテイオーの方がよりルドルフさんのことが理解できるだろう。一度は、同世代の頂点、そして現役ウマ娘の頂点とマックイーンと並び称された彼女なら、どこか通じるものがあるのではと思う。しかしテイオーとあの人は、決定的に違う。

 

「だがな、テイオー。君は違うだろう。君のトゥインクルシリーズはまだ終わっていない。走っているんだ。たしかに三冠ウマ娘にも、無敗のウマ娘にもなれなかった。だが別の事であの皇帝を超えることはまだできるだろう」

「……別のこと?」

「そうだ。例えば海外への挑戦だ。あの人が叶わなかった海外G1制覇、凱旋門賞やBCクラシックでも制覇すれば、間違いなく皆が認めるだろう。あの帝王が皇帝を超えたと!」

「海外なんてそんな……」

「無謀か。ルドルフさんができなかったから。……それじゃあいつまでもあの人を超えることはできない」

 

 テイオーが空からこちらに目を向けた。今だ何処か空虚に感じられた双眸からなにかギラつくものが感じられた。

 

「そんなことはないもん。ボクは無敵のテイオーだよ。海外G1だってどんとこいさ」

 

 弱弱しかった語気であったが、彼女が強がりを言ってきたことを嬉しく感じた。

 

「なら手始めにジャパンカップを目標にすればいい」

 

 ジャパンカップは、国際招待競走で日本初の国際G1である。世界のウマ娘が出場するレースであり、世界に挑戦する足掛かりにふさわしい舞台である。

 

「ジャパンカップは、ルドルフさんが勝って以来日本ウマ娘は勝てていないからな。その実力を試すには、ちょうどいい」

 

 ジャパンカップを、創設から10年の間で勝ったウマ娘は2人だけである。1人は、ルドルフさんとミスターシービーの三冠ウマ娘の二人を同時に破った三冠ウマ娘キラー・カツラギエース、そしてその次年に雪辱を期して挑んだルドルフさんのみである。それ以外はすべて海外ウマ娘が勝利し、それ以来は日本ウマ娘は、一人も勝っていない状態が続いていた。

 

「それにクラシック三冠は無理でも秋シニア三冠であれば、まだ目指せるだろう」

「ジャパンカップに、秋シニア三冠か……」

 

 そうポツリと漏らすテイオーは、少し気が晴れたのか先ほどの思い悩んでいた表情が和らいだように見えた。

 

「後は、ルドルフさん以外に目標にする人物を持て。他に目標する奴がいれば少しは揺らぐことがなくなるだろう」

 

 夜も更け、月も散歩始めより高くなっていた。裏の山からであろうか、梟の声が聞こえてくる。

 

「だいぶ、話し込んでしまったな。そろそろ合宿所に戻ろう。なあテイオー。道は一つじゃない。ルドルフさん超えるって言ったって他にも色々ある。それを君は選ぶことができる。だからこんなところで立ち止まらないでくれ」

「アイルトン……。ありがとう。君のおかげでボクが走る理由が少し見えて気がするよ」

 

 そういうと彼女は、こちらに手を差し伸べてきた。その手をしっかりとつかんだ。どこかその手は熱く感じられる。風呂上がりとは違う、熱がそこにあった。

 だんだんと気恥ずかしくなってきて、手をはなす。赤くなった顔を見せないようにテイオーに背を向ける。

 

「早く戻ろう。明日も朝早いんだから」

「そうだね。あっ、そういえばさぁ」

 

 チラとテイオーを見るとニヤニヤとした笑顔を浮かべている。

 

「アイルトンが目標にしている人ってだれ? ボクに教えてほしいなぁ~」

 

 彼女を無視して、合宿所へと帰っていった。後ろから「待ってよぉ」と声をあげている。目の前にいて、言えるほど私は素直じゃなかった。




 閲読ありがとうございます。今回も投稿が遅くなって申し訳ないです。やはり技量が足りないと痛感するばかりです。
 今回トウカイテイオーとアイルトンシンボリが共に走る場面がありますが実際には、一度も一緒のレースを走ったことはないです。だから結果は、ウイポの適正距離から考え、一番アイルトンが勝利できそうな4000mに指定しました。一概には言えませんが、天皇賞春ではアイルトンがテイオーより早い走破タイムを出しているので長距離であればチャンスがあるのではと思います。またアイルトンのキャラ付けとしてシンボリルドルフとエアグルーヴを足して2で割った感じで書いています。同じルドルフ産駒のテイオーと比べ、堅実でかつ少し気取った性格を想定してますがイメージとしては、逆転裁判の御剣に似た感じでしょうか。
 ストーリーとしては、今後は菊花賞、ジャパンカップと重点を置いていこうと思います。特にジャパンカップは、アニメではカットされているので独自設定ではありますが描いていきたいです。
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