名脇役の貴公子   作:カツラ二エース

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 大分間が空いてしまって申し訳ないです。短いですが第4話です。
 一応レース施行日は当時のものに則って描いてます。いまいち未実装のカノープスの人物描写がわかっていませんがお楽しみいただければ幸いです。


第四話 天皇賞秋、菊花賞前日譚

「勝ったのは、なんとびっくりレッツゴーターキン!! そして二着にムービースター! レッツゴーターキン、大外一気に駆け抜けた! 1分58秒6!」

 

 勝ったレッツゴーターキンは、11番人気とまさに穴ウマ娘。東京競バ場は、まさに熱狂から一転どよめき包まれた。私もその一員である。ゴール後撃沈して地面に突っ伏すウマ娘5人を見て呟いた。

 

「どうしてこうなった」

 

 

 

 トウカイテイオーの秋初戦は天皇賞秋。半年ぶりの本番であったが一番人気であった。二番人気は、ナイスネイチャ。テイオーとは同世代の実力ウマ娘として打倒テイオーの対抗に挙げられていた。三番人気には、短距離で実績を挙げているダイタクヘリオスであった。実力は休み明けでもテイオーが抜けている。ファンはそう判断し、テイオーを一番人気に挙げた。しかし天皇賞秋には魔物がいると言われている。昨年も一番人気メジロマックイーンが斜行し失格。あの皇帝すら日本国内で一敗喫したのがこの秋の盾であった。

 

「ウチが」「いや、私が」「ウチが」「私が」

 

 なんとレースは、メジロパーマー、ダイタクヘリオスの逃げコンビがまさかの爆逃げ。二人は競りに競り合い、狂気のハイペースを刻み、なんと1000mは、57.5。60秒で平均ペースと考えるととんでもないペースである。当然そんな逃げをすれば持つわけがなく、パーマーは逆噴射し17着、ヘリオスも粘るが8着と沈む。

 このハイペースの被害者というべきなのが先行グループにいたトウカイテイオー、ナイスネイチャ、イクノディクタスであった。逃げる二人を追走しハイペースに巻き込まれ、スタミナを切らしレッツゴーターキンら後続集団に一気に吞まれていった。テイオーは7着、イクノは、9着、最先着のネイチャでも4着であった。

 こうしてテイオーの秋シニア三冠の夢は儚く砕け散るのであった。

 

 ウイニングライブ終了後にテイオーの控室へと向かった。彼女は、まさに意気消沈といった様子で椅子に腰掛けていた。

 

「一体君は何してたんだ!」

 

 叱咤激励した身としては、口を出さずにはいられなかった。前回は、メジロマックイーンというステイヤーの王者に敗北であった。しかし今回は、テイオーの適正距離のうえ、勝ち目のある勝負といってもよかった。

 

「しょうがないじゃん!風邪ひいて調整が遅れちゃったんだもん!それに前のパーマーたちについていっちゃったんだよ。あれじゃあもたないよ~」

「言い訳するんじゃない! 展開を予想すれば、これくらい想像できるはずだ。私ならこれくらい予想はつくがね」

 

 そうテイオーに咎めるような視線を向ける。口惜しいのか彼女の目は恨めしそうであった。

 

「まだ重賞レースも出たことないのによく言うよ」

 

 そういって小声でぼそりと言う彼女の心のナイフが私の心に突き刺さった。

 

「うぐっ、まっ、まぁ私はこの前のレースで勝ったし、今年中には重賞だって勝利するさ」

「ホントかなぁ」

「重賞レース出たかどうかなんて関係ない。私ならあんな間抜けた負け方はしないと言っているんだ」

「へぇ~、じゃあアイルトンが逃げウマ娘のせいで負けたら土下座して謝ってもらうから」

「いいとも。私が逃げウマ娘に負けるはずがない」

 

 そういって彼女と約束する。いくら負けるにしてもあんな負け方はしないだろう。

 一通り言いたいことをいったおかげかテイオーの表情もすっきりとしていた。彼女の控室を訪れたのは、なにも敗戦を責めにきただけではない。今後について尋ねるためであった。

 

「次のレースは、……変わらずジャパンカップか?」

「うん、そのつもり。もともとジャパンカップを目標に調整してたから」

 

 そういって今後について語る彼女の姿に以前のような陰を含んだ感じはなかった。また負けたことで無気力に陥っていたらと思ったが、とりあえずは大丈夫であろう。

 

 

 

「あっ、もうこんな時間だ! すまない、つい話し込んでしまった」

「本当だ。だいぶ話しちゃったね」

 

 時計を見ると入室からだいぶ回っていた。早く戻らなければ、そろそろ門限ギリギリになってしまう。そう思っていると急にノック音が聞こえてきた。テイオーがどーぞと声をかけるとドアが開かれた。

 

「やっ、テイオーまだいる?」

 

 そういって顔を見したのはナイスネイチャとカノープスのメンバーだ。タンホイザもいる。

ぞろぞろと部屋に入ってきて、にわかに騒がしくなった。

 

「あっ、アイルトンもいたんだ~。また勝負しようとしてたの?」

「まぁ、そんなところだよ」

 

 テイオーを慮り、また激励しにきたというのも私にとって気恥ずかしく、適当にタンホイザに返した。

 するとツインターボがテイオーの前に出た。

 

「えっと、あっダブルジェット。どうしたの?」

「ダブルジェットじゃなくてツインターボ! ……今日は、カノープスの勝ちだぞテイオー! うちのネイチャの方が上だったからな!」

「あのぉ、勝ったって言っても、4着だからそんな大声で誇れることじゃないんですけど」

 

 声を張りテイオーに言うツインターボに対して、少し恥ずかしそうにナイスネイチャが赤面して止めるが聞く耳を持たない。

 

「来週には、タンホイザの菊花賞もあるし、そのあとこそターボと勝負だ!」

「その前にターボさんは、体調を整えて、11月のOP戦ですよ。長期休養明けなんですからしっかりしてください」

「えぇーー! ターボ、テイオーと走りたいー!!」

 

 駄々こねるターボをイクノが諌める。そんな様子をネイチャとタンホイザは、あははと苦笑をうかべていた。

 

 

 

 この後は、テイオーと私はカノープスのメンバーとともに帰宅の途についた。秋らしく陽が沈むと肌寒い風が吹く。

 

「ううー、寒くなってきたねぇ。寒くなってくるとくしゃみが――ハッ、ハクション!!」

 

 隣のタンホイザがくしゃみをした。そんな情けない姿を見かねて、私はポケットからティッシュを差しだす。タンホイザは勢いよく鼻をかんだ。落ち着いてきたと思えたタイミングで私は彼女に声をかけた。

 

「次は君の番か、タンホイザ」

「うん、そうだよー。だけどブルボンちゃんもライスちゃんもいるからどうなるかなぁ」

「今頃弱気でどうする……まぁ、そういっても君の事だ。何か手はあるんだろう」

「いやぁ、私なんて平凡なウマ娘だから。そんな手なんてこれっぽっちもないよ~」

 

 そういってのほほんと笑うタンホイザを見れば、普通ならば、本番が近くても緊張感がないと感じられる。だが私は知っている。彼女の手帳の中身を。

 

 

 

 いつだったろうか、彼女の手帳を見たのは。いつも肌身離さず持っているそれに何が記されているか気になった私は、中を見せてくれないかと尋ねたことがあった。

 

「別にいいけど……そんな大したものじゃないよぉ。ちょっと気になったことやトレーニングメニューなんかが書いてあるだけだよ」

「ふむ……、なっ、なんだこれは……」

 

 そういって見せてもらった手帳には、びっしりと書き込みがあった。本人は、ぐちゃぐちゃで恥ずかしいといっていたがそんなことはどうでもよかった。『レース前特訓メニュー』『早起きランニング』『イクノおすすめ部位別ジムトレ曜日リスト』などどともに対戦相手の情報や幾度も書かれている「頑張ろう」という文字。どこか一種の狂気を感じるようなメニューがぎっしりと書いてあった。

 

「これ、全てこなしているのか……」

「うん、そうだよ~。だけどまた今度スタミナを強化するメニューを組まなきゃいけないから変えなきゃだけどぉ」

 

 そういっていつものようにのほほんとした様子で事もなげに言った。自らを平凡と語る姿が恐ろしく感じられた。常人では到底こなせないメニュー、これを平然とした様子で行っていたとは思いもみなかった。

 だがより一層恐ろしいのは、このマチカネタンホイザですら凡人と感じるほどのトレセン学園の層の厚さであった。これをルドルフさんやテイオーといったトップのウマ娘が行っていれば理解もできる。これが強さの源かと納得がいく部分がある。だがこれだけ努力をしてもいまだタンホイザはG1勝利には手が届かない。その事実に戦慄を覚えるのだった。

 

「えへへ、やっぱり私は、平凡なウマ娘だから」

 

 いつも言っていった言葉が急に重苦しいものに感じられた。

 

 だが菊花賞は、タンホイザにとっても絶好の舞台であった。彼女のルームメイトとして併走したこともある身としては、彼女の走りは長距離向きと見た。まさに3000mはうってつけと言って違いなかった。今こそ努力が実を結ぶのでは。そんな思いを抱いていた。

 

「……そういいながら体調はよさそうじゃないか。それならいい線いくんじゃないのか」

「いやぁ、どうだろうねぇ~」

 

 普段のように頼りなさそうな返事を返しているが、彼女から一回も勝てない、無理だといった言葉を口をしたことがなかった。

 

「タンホイザ、私はすでに菊花賞を諦めた身だ。だから勝ちようがない。だが出場する身である、君なら、いや君の実力ならブルボンにもライスにも負けないはずだ」

 

 そう言った私を見て、彼女は、意外そうな表情を浮かべた。

 

「アイルトン……大丈夫?風邪でもひいちゃった?」

「そんなことはない!全く人がせっかく励ましてやろうと思ったのに」

 

 タンホイザは、少し申し訳なさそうにごめんとこちらに手を合わせて謝る。

 

「あはは、ごめんねぇ。珍しいから、ついからかっちゃった。……だけどありがとう、励ましてくれて。みんなもうブルボンちゃんの三冠は間違いない! っていってせめて善戦しようとか、二着を目指そうって応援が多かったからとっても嬉しかったんだぁ」

 

 そう言いながら、タンホイザは、前方にいるターボたちに暖かい目を向けていた。またはしゃぐターボとそれに振りまわされるテイオー、それをなだめているネイチャ、イクノ。騒いでいるうちにどんどん前の方に行って、少し私たちは,前列と距離が離れてしまっていた。

 

「勝利のために応援してくれたのは、カノープスのみんなとファンの人ぐらいだったから。だからとっても、とっっても、とっっっても! うれしいんだ!」

 

 そういいながら「自分はこんなにうれしいんだ!」といわんばかりに手をあげ、大きく体を広げる。

 

「……だから勝つよ。アイルトン。応援してくれる皆のためにも、絶対!」

 

 私は、彼女を目を見た。普段では考えられない闘志にあふれた目。誰かが言っていた。

 

「勝ちたいという本能に逆らえるウマ娘はいない」

 

(やはり彼女もウマ娘なのだ。貪欲に勝利を求めて努力する。そんなウマ娘の一人なのだ)

 

 やはりG1に出るウマ娘だけはある。その風格は、やはりブルボンにも、ライスにも劣らない一流の物であった。

 

「タンホイザー! アイルトーン! 遅いよー! なにしてるのー!!」

 前からターボが青いツインテールをせわしなく動かして呼んでくる。見ればターボたちから大分離れてしまっていた。テイオーも隣から声を上げている。

 

「もぉー! はやくしないと置いてっちゃうよー!」

「ごめん、ごめんすぐにそっちに行くよ!」

 

 タンホイザとともにテイオーたちの下へとかけていく。もう日はとうに沈み、彼女たちの顔は、街頭が照らしていた。ひんやりとした夜風が迫りくる菊の舞台を感じさせた。




 前回には、ジャパンカップ、菊花賞を描いていきたいと書きましたが無理でした。小説って難しいなと思います。物書きって大変だなと痛感するばかりです。
 次回こそ菊花賞を書いていきたいと思います。マチカネタンホイザや大逃げを見せたあの馬についても書いていけたらと思っています。

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