ゴーストレイル 戯言遣いと幽霊女   作:角刈りツインテール

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時系列で言うと戯言シリーズ完結後の、いーちゃん(戯言遣い)が請負人になって暫く経った辺りの物語です。よろしくお願いいたしますね。


1 依頼

「なぁお前、恐怖体験をしてみたいと思ったことは無いか?」

どうだろうか。

僕は生まれてこの方、「何かをしたい」と思うような場面は無かったと思う。

そして、「何かをしたい」と思えることを、幸せだとは僕は思わない。

行動の結果。

失敗し。

傷つき。

挫折し。

泣き。

痛み。

悲しみ。

絶望し。

恨み。

怨み。

呪う。

 

そうなってしまうともう取り返しがつかない。

それよりは昔の僕のように、全てを偽って生きている人間のほうが随分と幸せなのではないかと思う。

ところで、だ。

皆様は恐怖体験、というものを経験したことはあるだろうか。

恐怖———例えば。

 トイレの鍵が壊れて閉じ込められた。

 目の前の幼児が車に轢かれかけた。

 自分が乗っている飛行機が墜落しかけた。

といったように大小問わず様々なものがあるはずだ。

代償を問うものから、問わないものまで、本当に多種多様だ。

と、ここでクイズだ。

 

 一般的に最も人気な「恐怖体験」ってなーんだ。

 

答えはまぁ簡単だろう———特に夏は、それメインのテレビ番組さえあるのだから。

もっとも、あの人類最強の赤色ならば「本当は凄いのにまともに生きない人間の自堕落さ」を認識することだ、とでも言うのだろうが...

そう言いながらキレる彼女こそ、生涯真面目に、嘘をつくことなく生きている僕にとっては恐怖体験だ。

まぁそれはともかく、僕の言わんとしていることは理解できただろう。もし理解できていないのであれば、それは僕の日本語力の問題なので猛省しなければならない。

そう、(ゴースト)である。

未だ科学では存在が立証されていない、戯言のような、何者か。

今まで僕が向き合う機会なんて一度たりとも無かった「霊は存在するか?」という古くから議論されている議題について、端的に答えを教えよう。

 

霊は、いる。

 

僕は今でも「あの依頼」を受けてよかったのだろうかと、暇な時に考える事がある。

 

()()()()()()()()()()()()()()()を巡ったあの事件。

 

もし僕が失敗していたら———きっと。

骨董アパートの住民にも。

鴉の濡れ羽島の令嬢とそのメイド、そこを訪れる天才たちにも。

そして———愛する妻である玖渚友(くなぎさとも)と、もう二度と会えなくなっていたのだと思うと、現状がいくら酷くても多少は安堵するものだ。

戯言だけどね。

 

そして、今回僕が語らせていただくのは、その依頼についてだ。

請負人である僕が受けた、最も恐ろしい依頼。

題して『※※※連続自殺人事件』

是非とも聞いていただきたいと思う。

そして、もう二度と、僕にあのような依頼する人間が現れないようにしてほしい。

というわけで。

東西東西、お立ち合い。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

朝9時。

通常の社会人であれば既に遅刻であり、上司から雷を喰らうことは目に見えているこの時間帯。

僕こと戯言遣いは、「フリーランス」という特権を最大限に活かした行動をとっていた。

チラ、と横を見る。

もう既に友は起床しているようで、そこに彼女の姿は見当たらない。

単に僕が寝ぼけているだけかもしれないけど。

その後、二度寝を決め込もうとしていると、ドタタタ、と音がした。

そして続け様にドアを開く音。

「いーちゃん、お客さんだぜぃ」

「ごめん友、今寝てるから」

「りょーかーい」

つまりは、ベッドでゴロゴロしていた。

ぐでーっと寝返ってうつ伏せになり、腕を枕の代わりにする。

「...誰だろう、お客さんって」

しかも、こんな朝から。

哀川さんか...?

いや、もしかしたらひかりさんかもしれないな。

そんな戯言めいた考察をしていると、ドテテテ、と本日二度目の此方へ向かって裸足で走る音が聞こえた。

聞かないふりをしていると、バァーン!とドアが開いた。

未だ完全に目覚めていない脳に響く、大きな音を立てたのは、先程客が来たことを知らせてくれた、僕の妻。

玖渚友(くなぎさとも)である。

...あ、結婚したから苗字は僕と同じになったんだった。

まぁいいや。井伊友って言いにくいし。

いい友ってなんだかな...

ただの親友みたいだ。

要するに僕の最愛の妻は、まるで子供のような笑顔でこう言ったのだ。

「いーちゃん、仕事だよっ!」

依頼主かよ...

むぅ。

「...なぁ友。どうしても行かなくちゃいけないかな」

「もちのろんだよ、いーちゃん。どうやら急用らしいしさー」

うにー、と言いながら片足を軸にクルクル回る。

グルグル、グルグル。

目が回りそうだ。

どうしてこの人は目覚めた直後に害となり得ることばかりをするのだろう...というか、朝から元気すぎる。

少しで良いからその元気さを分けていただきたいね。

「...戯言だよなぁ」

「うに?なんて?」

「何でもないよ。うん、そうだね、仕事することに決めたよ」

「おー、いーちゃんらしくもない」

「失礼だな、これでも大統合全一学研究所(E R 3)ではかなり真面目な生徒だったんだぜ」

「本当かなー」友が本気で信用していない顔をした。

そんなに信用ないか、僕。

「...あ。ちょっと待って、友」

僕は、仕事に行く前に玖渚友に用事があった。

今日という一日を過ごすために、しなければならないことだ。

 

ぎゅー。

「...いーちゃん?」

「充電中」

「ふぃーん?」なるほどね、と何を納得したのか理解に苦しむがぎゅっと弱い力(恐らく全力)で友の方からもハグし返してくれた。

うーん、幸せ。

そこから1、2分同じ体勢を保ち続け、僕は渋々立ち上がった。

よくよく考えたらどれだけ依頼人待たせれば気が済むんだ、僕。

最悪じゃねぇか。

「じゃ、言ってくるよ」

「りょーかーい。愛してるぜー」何故か僕のベットの上に寝転がり、手をひらひらさせる友。

「うん、僕も」

いつもの返事をして痺れを切らしていなければ恐らく依頼人が待っているであろうリビングに向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ごめんごめん、待たせたかな?ちょっと、娘の身支度で忙しくてね。僕、シングルファザーなんだよね」

堂々と嘘をついた。

「なるほど。お構いなくです」と、今回の依頼主はそんな僕の戯言に答えた。いい子だな、と思った。まぁこの子はこれが嘘だと知らないし、依頼する立場にあるので当たり前と言えば当たり前なのだが。

羊野飼主(ひつじの かいぬし)、というそうだ。

すごい名前だな...もはやキラキラネームとも言い難い。

まぁ、右下るれろ、とかに比べたら普通なんだろうけどね。

彼女は、学校へ行く前なのだろうか。制服を着ていた。

うわぁ。

凄く申し訳ないことしたな...

...て。

この時間なんだから、恐らく遅れることは百も承知で来ているはずだ。

親にも内緒の、サボタージュだ。

どちらかというとそちらが大問題にならないかどうか心配だ。

町中捜索、とかになったらどうしよう。

「で、今回はどのようなご依頼で」営業スマイルすらすることもなく、淡々と聞く。

こんな事をすぐに表に出しているようでは、この仕事はできない。しっかり、いつもの僕だ。

「えっと、その。...私のクラスで不可解な事件が起きまして」

「不可解な、というと」

「———じ、自殺なんです」

おっと。

それは———想像以上に重たい内容だった。

学生の、自殺。

僕の手に追えるだろうか、それは。

「でも、その、あ、笑理(えみり)くんっていう男子なんです、けど。クラスの人気者で。その、ただの、自殺じゃなくて。いや、分からない、ですけど。でもおかしいんですよ。前の日まで普通で。深夜までLINEもずっとしてたのに。いつも通り、だったのに...自分の部屋の、ま、窓から、と、とび、降り、て———」

羊野は、言い終わることなく、幼く泣きじゃくり始めた。

生憎僕には号泣している子供を慰めるスキルなんてこれっぽっちも持ち合わせていない。

だから非人道的と言われようとこの間にするべきことは要点整理だ。

 

死亡者は笑理くん、という男の子。

憶測だが、羊野ちゃんと恋仲である可能性が高い。

そして前日までは普通だったのに、突然自分の部屋の窓から飛び降りた。

クラスの人気者であるため、恨まれている可能性は低い。———なるほど。

 

かなりの難問だ。

大学入試だったら悪問と呼ばれるレヴェルの情報量の少なさだ。

 

だが、僕はそんなことはお首にも出さずに、彼女の頭を撫でながら言った。

 

「大丈夫だよ、羊野ちゃん」

「...あ、貴方、は。探偵さんなんです、よね?」

「正しくは()()()という」と、少しカッコつけながら———羊野ちゃんが少しでも頼もしいと思ってくれるように言う。

「僕が、必ず笑理くんの仇を打つから」

僕が、というか...まぁ、僕ひとりじゃないんだけどね。

今回ばかりは、あの人に頼らせてもらうこととしよう。

 

人類最強の請負人こと「赤き制裁」———哀川潤さんに。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「お前最近、ことあるごとに私頼みにしてくるようになったよな」

「できる限り楽して生きたい性分でして」

「はっはっは、私の苦労はどうでもいいってか」

嫌いじゃねーぜ、そういう図々しさ。———そう言いながら哀川さんは僕の背中を叩いた。

それもかなりの力で。

一瞬呼吸が止まった。

今、僕たちはある有名チェーン店のカフェでお茶をしていた。

僕はカフェオレ、哀川さんはいちごラテだ。

飲み物まで赤いとは、徹底している。

流石哀川さ...おっと。

うっかりしていた。

彼女を知らない人もいるだろうに、つい当たり前のように話してしまっていた。

語り部としてあるまじき行為だ。

天才児として名高い僕にしては随分と珍しいことである。

というわけで、知らない方もいると思うのでここで哀川潤という女性について説明をしておこう。

 

深呼吸。

スタイルおよびプロポーション抜群の絶世の美女。だが、目つきは悪い。性格はワイルドかつ、感情的。自由奔放。豪放磊落。放蕩無頼。アンチ癒し系筆頭。トラブルと人をからかうのが大好き。しかし人を馬鹿にするようなことはなく、むしろ過大評価しがちである。

赤い髪や、ワインレッド色のスーツを含め、赤を好む。愛車は真っ赤なコブラ、バイクは直輸入のドゥカティを愛用。考えるよりも先に行動するタイプな為、人類最強でありながら失敗したり敵に倒されたりすることも少なからずあるが、その典型的な主人公体質から、一度戦ったことがある相手には決して負けない。

呼吸。

全ての世界を股にかける「人類最強の請負人」。推定24歳。合法・非合法問わず、お金さえ積まれれば、どんな仕事でも引き受ける。万能家。典型的主人公体質。変装・声帯模写および声帯同化・ピッキング(その技術は指紋認証までにも及ぶ)・読心術及び口唇術の達人。「人類最強の請負人」、「赤き制裁(オーバーキルドレッド)」、「死色の真紅」、「砂漠の鷹(デザート・イーグル)」、「一騎当千」、「仙人殺し」、「嵐前の暴風雨」、「相棒殺し」など、数々の異名を持つ。

呼吸。

ちなみに彼女は「炎上するビルの40階から飛び降りても無傷だった」「ソウドオフ・ショットガンの零距離射撃を腹筋に食らっても生き残った」「千人の仙人相手に勝った」「哀川潤の踏み込んだ建物は例外なく崩壊する」などの数々の武勇伝・伝説を持っている。

要するに赤色の化け物。

それが哀川潤。

以上、解説終了。

 

「いやでも、今回は私のとこに来て当たりだぜ、いーたん。実を言うとなぁ、こっちにも同じような依頼が...えっと...三つ、四つ、五つ...。うん、五つ来てるんだよ」腕を折りながら、哀川さんは言った。

同じような依頼が同時期に複数、か。

やはり、これはおかしい。

謎の自殺の時点で怪しい匂いがしていたものの、ここにきて更に悪臭が漂ってきた。

そして、今朝から考えていた推理を哀川さんにぶつけてみる。

「あの、『呪い名』が関わっている可能性ってどれくらいですかね」

 

呪い名(まじないな)

「裏の社会」で有名な六つのあらゆる戦闘を拒絶する非戦闘集団の総称。「殺し名」の対極の対極の対極に位置する。

しかし、殺さないというのは、あくまで直接手を下さないだけに過ぎず、実際には敵どころか味方を含めて欺き通す、殺し名より忌むべき呪われた存在。

 

時宮 呪い名第一位。別名『時宮病院』。《操想術師》。

罪口 呪い名第二位。別名『罪口商会』。《武器職人》。

奇野 呪い名第三位。別名『感染血統奇野師団』。《病毒遣い》。

拭森 呪い名第四位。別名『拭森動物園』。《飼育員》。

死吹 呪い名第五位。別名『死吹製作所』。《死配人》。

咎凪 呪い名第六位。別名『咎凪党』。《予言者》。

 

彼らであれば、このような事件を起こすことなど容易いだろう。

精神関与は彼らの得意分野だ。———だが、哀川さんは。

「0%だ」と一切の否定を跳ね返すような鋭い声で言った。

「そう言い切れる理由は?」

「まず、()()()()()()()()()()()()()()()()。もちろん依頼なんだからこの辺りの事件だっていうのはあるが、他県の探偵事務所でも同じような依頼が来るらしいんだ。四十路のサラリーマン、ちゃらんぽらんのYouTuber、主婦———そして、高校生だ。そもそも「表の社会」の人間を殺す動機だってなぁ。もし理由があるんだったらもっと上手くやるだろ、プロなんだから」

なるほど。理にかなっている。

「でも哀川さん」

「あたしのことを苗字で呼ぶな、苗字で呼ぶのは敵だけだぶっ殺すぞ」

「潤さん。だったらこの連続自殺人事件は一体なんだっていうんですか?」

「はっ、連続自殺人事件ねぇ。マスメディアみたいなネーミングセンスだな、いーたんは。まだ何も分かっちゃいねーよ。だがな、いーたん。私はすでにある噂を掴んでいるぜっ!」ビシッと、まるで無罪を主張する弁護士かのように僕を指差してきた。

「なるほど。噂、ですか」

噂ほど信憑性が無いものはないと思うのだけれど。

かの弁護士でなくとも、異議は大いに唱えられる。

「あぁ、確かに信憑性は薄い。だから私たちが調べ上げるんだろ?」

「久しぶりに使いましたね、読心術。まぁそうですね。そのための請負人です。で、その噂っていうのはどういうものなんですか、あいか...潤さん」

あっぶねー。

「それがだな、ちょー面白くてさぁ!」と哀川さんが子供のようにカラカラと笑う。

突然キレたり笑い出したり、やっぱりこの人は情緒がおかしい。

が、その対応はこの数年ですでに慣れてしまっている。

無視すれば良い。

「へぇ、そうですか。で、どんな?」

「やーん、いーたんつれないなー。まいっか。それでよー、その噂がな」

 

———ある動画を見ると、呪われて死ぬらしいんだ。

 

哀川さんが「どうだ、面白いだろう?」というニヤニヤ顔でこちらを見てくる。

 

ほう。

そりゃまた、随分と近代的な呪いでいらっしゃる。

なかなか面白いじゃないか。

戯言だけどね。

 

 




本当にどうなるんだろうか...あ、貞子に関しては設定曖昧なのでwikiなどを元にして自作設定も作っていきますが何卒。
評価、感想等よろしければお願いします。
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