ウマ娘プリティダービー《Unusual world line》   作:K.T.G.Y

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サラブレッドの短き輝き

二人のウマ娘がいた。

 

 

一人目。名はトウカイテイオー。

皇帝と呼ばれたウマ娘・シンボリルドルフに憧れ、トレセン学園に入学。

その天性の走りの才能から入学間もなく頭角を現す。

オープン戦を全勝し、クラシック戦線に参戦。皐月賞、東京優駿を快勝し、いよいよシンボリルドルフの持つ無敗三冠を目指すも、骨折が判明。

菊花賞は絶望的と言われる中、最後の最後まで出走を目指しリハビリに取り組んでいたが間に合わず、三冠の夢は適わなかった。

同じチームのメジロマックイーンとは親友にして好敵手(ライバル)の間柄であり、チームメイトにその仲を茶化されることも少なくなかったという。

そんなマックイーンとの直接対決となった天皇賞(春)。勝敗の行方は大いに注目されていたが、結果はマックイーンに軍配が上がった。

 

無敗の夢も断たれ、またも骨折が判明すると、その後は調子を落とす。リハビリを行い再びターフに戻ってくるも不調なレースが続き、練習中また骨折。

「走りたい」という気持ちを失い、一時は引退を決意するも、チームのメンバーやファンの応援、そして片思いのライバル・ツインターボの激走を見て引退を撤回。

 

そして迎えた有馬記念。GⅠ馬が7頭も集う豪華メンバーがいる中、親友マックイーンに捧げる執念の走りで見事優勝。

実に丸一年近くを休んでからの復帰戦で最高の結果を残した。

 

だが、それがテイオーにとって最後の輝きとなった。

その後も足の故障に悩まされ、四度目の骨折が判明した時の事である。

 

「……テイオーさん、私もあなたのファンではあるんですがね、正直、これ以上走るのは厳しいかと」

レントゲンの結果などを見比べながら、医師は言いにくそうな表情で言葉を綴った。

「骨折が、完全に癖になっていますね。仮に治っても、またすぐに折れてしまう可能性が高いでしょう」

「そんな……何とかならないんですか!?」

同伴したトレーナーが悲痛な面持ちで医師に尋ねた。

「ウマ娘の脚というのは人間に比べて凄い速度が出ます。だからこそ、負担も大きい。筋肉が癒えても、骨まではどうにもなりません」

「……ガラスの脚ってことですか?」

「ガラスどころじゃない。ローソクですね」

「…………」

脚にテーピングを巻いたテイオーは、終始無言だったという。

 

帰路、トレーナーと松葉杖をついたテイオーは言葉少なだった。

トレーナーとしては元気付ける会話の一つでもしたい。何ならお寒いジョークでもいい。そうしたいのは山々なんだが……、

「あ、あのさ、テイオー、俺は、お前がデビューする時からおまえをずっと見てきた」

「うん……」

「医者はああ言ってたけどさ、俺はこんなところで終わるウマ娘じゃないと信じている」

「…………」

「俺もリハビリ付き合うからさ。頑張ろう! そうだ、景気付けに何か美味いものでも食いに行くか? 俺の奢りでさ」

「……ごめん、トレーナー」

「テイオー……」

「……ぼく、今度こそ引退するよ」

「テイオー……」

「決心がついた。今度こそ、これで終わり。あ、でもチームには居続けるよ。ぼくがいないとみんな何にもできないからさ。トレーナーもね」

涙は見せなかった。

菊花賞のレースを走れない悔しさで大粒の涙を流したことはあった。

引退をしようとしていたファン感謝祭で皆に励まされ、観客の前で泣いたこともあった。

テイオーはいつだって、無邪気で、小生意気で、自信家で、強気の姿勢を崩さないウマ娘であった。

 

泣かなかったのは、テイオーなりの最後の抵抗だったのかもしれない。

 

 

こうして、トウカイテイオーは引退した。

生涯成績12戦9勝。

「皇帝」に憧れ、自身も「帝王」になろうとしたウマ娘は、静かにターフを去った。

 

現在は学園に在籍したまま、トレーナー補佐をやっている。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

二人目。名はメジロマックイーン。

名門メジロ家のお嬢様であり、幼くして生粋のステイヤーとして才能を見出された少女は、入学して間もなく注目の的となる。

お嬢様に恥じない、淑女的な物腰と気品と美しさ。そしてその内に秘めた絶対の自信と芯の強さ。そしてそれを裏付ける走り。

そしてその目標は、祖母、母が獲得した「天皇賞」の3世代獲得だった。

それはメジロ家に生まれたからには必ず成し遂げなければならない悲願であり、マックイーンにとっても最大の目標であった。

トウカイテイオーとは好敵手(ライバル)であり親友。最初は何かと突っかかってくるテイオーを軽くいなしていただけであったが、いつしかそれが友情へと変わった。

もっとも、本人曰く、絶対に諦めないテイオーの事を最初から尊敬していたらしいが。

世紀のTM対決と言われた天皇賞(春)では激闘の末テイオーに勝利。その後はテイオーの走る目標になることを宣言し、もう一度テイオーと走る約束をした。

 

しかし二人はすれ違い続け、最後までその約束は果たされることはなかった。

 

繋靭帯炎の発症。それがメジロ家お抱えの主治医の出した冷酷な検査結果だった。

これ以上走ろうとすれば日常生活にすら支障が出るほどの重症であり、事実上の引退勧告である。

 

それでもマックイーンは諦めきれず、雨の中走り続け倒れる。そこに駆けつけたテイオーの前で泣いた。

あの時交わした約束を自分が反故にするわけにはいかない、あの時交わした約束を果たすまで引退するわけにはいかない、と。

 

だが、テイオーはマックイーンの想いをしかと受け取った。そして有馬記念で勝利し、かつてマックイーンが言った「奇跡」を証明してみせると誓う。

 

そして迎えた有馬記念。トウカイテイオーは最高の結果を残し、観衆の喝采を受ける。マックイーンは涙を流しながらそれを見ていたという。

 

「テイオー……」

「マックイーン……。見ていてくれた? ぼく、勝ったよ」

「ええ……」

「以前マックイーン言ってたよね? 奇跡は起きるって。それを望み奮起する者の元へ、必ず、って」

「はい。言いましたわ……」

「そうだったね。正直、ぼくも信じられない。でも、もう2度と走れなくなってもいいから、ありったけ出すと決めたから、奇跡は起きた」

「……わたくしは、今日のレース、90%はテイオーは負けると思っていました。でも貴方の想いが、残りの10%を手繰り寄せたのですね」

「えー、ぼくは常に100%勝つつもりで挑んだけどなー」

「ふっ……あはは、そうでしたわね。失礼しました」

 

「テイオーはこれからどうなさいますの?」

「うーん……マックイーンがいないターフに未練はないんだけど、走り足りないから、もうちょっとだけ頑張ってみるよ」

「そうですか……」

「でも今日以上のパフォーマンスを出せるレースができるかなあー。そう考えるとほんと会長は凄かったんだなー」

「シンボリルドルフ会長のようなウマ娘なんて、30年待って一人出るかどうかだと思いますが」

「会長より昔のウマ娘かー。どんな人がいたんだろ?」

「有名どころでいうと、やはり……」

 

こうして、メジロマックイーンは引退した。

3世代に渡る天皇賞制覇という偉業を残して。

 

現在は学園に籍を置いたまま、メジロの実家で静かに暮らしているという。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

一つの時代が終わり、一つの時代が始まろうとする競走馬世界。

 

 

これはそんな二人が引退して、少し時が流れた頃のお話……。

 

 

「引退式?」

放課後、チームメンバーがトレーニングに行こうとする矢先、テイオーはトレーナーに呼び止められた。

「ああ。何でもトウカイテイオーとメジロマックイーン引退にあたって、盛大なセレモニーを行うという企画が立ってるんだ」

「……ふーん」

テイオーは複雑だった。正直、自分はひっそりと引退したいと思っていたからだ。

華やかな競走バ世界、しかしどれだけ勝とうが、引退してしまえばただのウマ娘である。

そんな自分がまた観衆の前に立つなんて……。

「マックイーンは何て言ってるの?」

「え? ん、ん~いや、まだ分からない」

「はあ?」

「いや~俺も実は小耳に挟んだだけで……」

「日にちは? 場所は? 勝負服は? マックイーンは出席するの?」

「……すまん、俺もよく分からない」

「もう、トレーナーのバカ! こうなったら会長に直接聞いてくる!」

 

 

「この企画の発案者はトレセン学園とも深い関わりがあるところからの提案なんだ」

会長室にて。突然やってきたトウカイテイオーを優しく諫め、シンボリルドルフはテイオーを来客用のソファーに座らせた。

「トレセン学園の運営は、色々な所からの出資で成り立っている。言わばスポンサーだな」

「だから、会長もあまり強く言い返せなかったって言うの?」

「そうじゃないさ。あくまで二人の競走馬界における実績と功績を讃えてのイベントだそうだ。二人を殿堂入りウマ娘に推してくれている人でもある」

「いやー、それほどでもー……じゃなくて、とりあえずスケジュールなんかはもう決まってるの?」

「ああ。引退式は一か月後。場所は東京競馬場。全日程が終わった後、二人は勝負服を着てゲートを出た後、コースを一周してほしい」

テイオーは、あれ、ぼくが思っていたよりなんか本格的だぞ、と思った。

「そして二人は壇上で最後のインタビューを受けてほしい。きっと二人は大観衆に包まれながらの引退式になると思っている」

「マックイーンは何て言ってるの?」

「前向きに検討させてくださいとのことだ。テイオー、君はどうする」

「う~ん……」

(余計な気遣いだと思うけどなあ……)

「そこまでしてもらって、断るというのも失礼かもね。分かったよ。ぼくは参加する方向で」

シンボリルドルフの口元に笑みが零れた

「分かった。向こうにもそう伝えておく。テイオーは、インタビューの内容を考えておいてくれ」

「はーい」

 

「引退式かぁ……そういえばぼく、メディアに対して引退しますとは言ってないんだよね……」

つまり怪我が治ったら現役を続行するかもしれないと思っている人も多いかもしれない。まあレースに出走手続きも全くしてないから半引退ということだが。

(ぼくがやり残したことってなんだろ? ターフにある未練ってなんなんだろ?)

テイオーもマックイーンも怪我で引退レースを行ってない身である。そんな二人が最後にターフに残せるものは何だろうか?

「う~ん……ああもう、考えたって分かる筈ないや! マックイーンに電話してみよ!」

 

「あら、テイオー」

「急にごめんねマックイーン。今、時間いいかな?」

「ええ。大丈夫ですわ」

「引退式のことなんだけど……」

テイオーはマックイーンに不器用なりに自分の気持ちを吐露した。

静かに引退したかったこと、走れなくなって色々考えたこと、自分が最後にやり残したことが分からないこと、等々……。

「……そうですわね」

マックイーンも自分の気持ちを、言葉を選びながらテイオーに伝えた。

本音を言えば自分はまだ走り足りないこと、何よりテイオーとの決着を付けたかったこと、諦めようとしても走りたいという気持ちが胸の中で膨らんでいくこと。

「メジロのウマ娘としては、やれるだけの事はやりましたわ。でも、わたくし個人としては、やはりターフに未練がありますの」

「マックイーンも同じ気持ちだったんだ……」

「今でもターフの夢を見ることがありますわ。一着を取り、大勢の観客から祝福を受ける夢……。そう、それはもう夢になってしまったことが、たまらなく悔しいですわ」

「……そうだね。どれだけいい成績を残したって、引退してしまえば、ぼくもマックイーンもただのウマ娘なんだよね」

「トレーナーの勉強をして後進の指導に当たるという道もありますが……」

 

そこで、互いの言葉は途切れた。

(うう~、こんな話をしたくて電話かけたつもりじゃないのに~、ああもうぼくのバカ!)

「あ、ああ、そうだ、ね、ねえ、マックイーン」

「はい、どうしました?」

 

「今度のオフ、会えない?」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

予定はないけど街に繰り出そう、テイオーは、そう言って、マックイーンを誘った。

(二人で遊ぶなんて、ハロウィン以来だなあ……)

誘った手前、自分がリードしないと。などと考えていると、待ち合わせ場所にマックイーンが現れた。

「待ちました、テイオー」

「いや、今来たところ。なんて」

久々に会う気がしていたが、マックイーンは変わらず……変わらず……、

「どうかしましたか、テイオー?」

「……ね、ねえ、マックイーン」

「はい……」

「ひょっとして……太った?」

「!!!!????」

マックイーンは顔もウマ耳も真っ赤にしてテイオーをぽかぽかと優しく叩いた。

「だって、走れませんからー! 筋トレも禁止されてますからー!」

「は、ははは、ごめんごめん、それじゃ、あてもなく行こうか」

 

二人はショッピングモールをあてもなくぶらついた。

はちみつドリンクを飲んだり、ドーナツを食べたり、服を見たり、アクセサリーを見たり、花嫁衣裳を見たり、

「綺麗ですわね……」

「うーん、ぼくも将来いい人が出来たら、着ることになるのかな」

「やはり結婚はジューンプライドですわね。ああ、そう言えばエアグルーヴさんやマヤノトップガンさんが雑誌の衣装で着ていましたわね」

「そうそう! エアグルーヴさんは素敵だからいいけど、なんでマヤなのさ!? ぼくだって綺麗な衣装ぐらい着たいやい!」

「でもあの衣装で芝2000mを走るというのは、中々珍妙なイベントでしたわね」

 

二人がそう話してると、道行く人がテイオーとマックイーンに気付いた。

 

「すいませーん、トウカイテイオーさんとメジロマックイーンさんですよね?」

「うん、そうだけど」

「私、二人のファンなんです! サインお願いしてもよろしいでしょうか!?」

「ええ、構いませんわ」

 

「あ、トウカイテイオーだ」

「メジロマックイーンもいる!」

「俺、握手してもらおうっと!」

 

ワイワイガヤガヤ……。

 

「わわ、集まってきた」

「仕方ありませんわね。これも一流のウマ娘の責務ですわ」

「引退式やるって聞きました。絶対見に行きます!」

 

そう、二人の引退式の開催は一昨日メディアを通じて告知されたのだ。

きっとキタちゃんとサトちゃんも来るだろうな、とテイオーは思った。

 

 

結局、一時間近くもみくちゃにされて、二人はようやく解放された。

「もう、せっかくマックイーンを誘ったのに、これじゃ台無しだよ」

「そう言いませんのテイオー、わたくしは楽しかったですわ」

 

日も暮れてきた。そろそろマックイーンは帰らなければならない。

楽しかった時間も、あっという間に終わってしまう。

「……でも、わたくし達が今でも現役だったら、皆さんももっと楽しんでくれたかもしれませんわね……」

「え……」

マックイーンが素直な気持ちをポロリと出した。

だがテイオーは全く違う事を考えていた。

(ぼく達は引退したウマ娘。それなのに、か……)

 

「マックイーン、それは違うよ」

「え……?」

「ぼく、やっと分かったんだ。ぼく達が何のために走ってたか、僕たちが最後に何を残せるのかを……」

「テイオー……」

 

 

『続いてのニュースです。ここ数日お知らせしておりますが、トウカイテイオーとメジロマックイーンの引退式が11月21日、東京競馬場で行われます。

引退式を間近に控え、お二人にインタビューをと思いましたが、当日までそれは我慢してほしいとの意向でコメントは取れませんでした。

今日は道行く人にコメントをいただきましたので、それを放送します』

 

「私はテイオー派なんですけど、あの有馬記念優勝は痺れましたね。一年近く休んでてもう引退してもおかしくないウマ娘が復活ですよ。感動して涙が止まりませんでした」

 

「マックイーンの突然の引退には驚きました。怪我がなければどれだけ走ってたか。彼女の走りを記録したDVDは俺の宝物です」

 

「二人の引退式には女房を質に入れてでも行きます!」

 

「二人がもう一度競い合うレースが見たかったですね」

 

「この前トレセン学園のプールの残り水ってのをオークションで出したんだけどよ、これがもうバカ売れ! 供給追いつかないってくらい。また売りたいぜ」

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