ウマ娘プリティダービー《Unusual world line》   作:K.T.G.Y

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釣り針にはでかい飴

「…………」

レースを終えたシンボリエムブレムは苛立ちが募っていた。その走りの後にはただ屍が連なるのみ。やはり半人前のウマ娘では勝負にならない。

そんな彼女を、シンボリルドルフはにこやかに出迎えた。

「どうだった? 初めてのレースの感想は」

「……退屈っスね。これが将来を夢見て頑張ってきたウマ娘だとはね」

「だが、ああいう走りは良くない。フラストレーションは相手にぶつけるのではなく、自分の脚に込め、支える糧としなければな」

「ちっ……」

「コーナーで膨らむ癖もまだ直ってないな。それにスタートの遅さもいけない。君の豪脚なら巻き返せるが、それではいけない」

「……。メイクデビュー戦はいつですか?」

「2週間後だ」

「その次は?」

「そのまた2週間後だ」

「忘れないでくださいね」

シンボリエムブレムは去っていった。

「ふむ……」

シンボリルドルフは笑っていた。素行は最悪、されどその走りの才能は万人が認めるところ。そんな彼女がこの先勝ち続けたら、GⅠに挑んだら、どうなるだろう……?

「天下布武……織田信長はそれを目指していたそうだが、さてさて、私は彼女を布で包み込めるかな?」

 

 

その後、シンボリエムブレムは未勝利戦メイクデビューを20バ身後続を引き離しての圧巻の勝利で飾った。

決して逃げたわけではない。あまりにも速すぎて後続のウマがまるで追いつけなかったのだ。

勝利後のインタビューもウイニングライブも無視して、シンボリエムブレムは早々に競バ場を去っていったらしいが。

 

 

一方、チーム・カノープスの面々は今日もシンザン所有のスポーツセンターのジムで筋トレの真っ最中だった。

「ふぎぎぎ……んおー……!」

「はっ! はっ! くうっ!!」

「ん~~~~! はぁぁぁぁっ!」

「ふんぬーーーーうあーーーー!」

シンザンはスパルタである。だがカノープスのメンバーにとっては丁度いい。

善戦はすれど一着はなし、これが4人の課題だった。それを克服するには「誰よりも練習をやった」という自信を体に沁み込ませるのが一番だと言う。

 

「よーし、そこまで。一旦休憩を取るよ」

「ぷはぁ~、やっとか~」

「きついですね」

「大丈夫! みんなターボみたいに強くなってるぞ! ターボが保証するぞ!」

「ターボに保証されても、といいたいところだけど、あの走りを見せられたら納得するなあ~」

「お疲れ様です。皆さん、どうぞ」

南坂トレーナーが皆に汗拭きタオルとスポーツドリンクを配る。

カノープスのメンバーは毎日上半身と下半身を鍛え上げられ、全体的に筋肉が付き、体が締まってきた。

これならシンザンの提唱する「脚だけでなく体全体で走れ」も熟せるだろう。

 

「明日からは南坂に任せて併走トレーニングを中心に行う。みんな気張るんだよ」

「おっ、ようやく学園でのトレーニングがメインになるわけですか」

「ここ2週間ほどまともに走っていませんでしたからね。結果が楽しみです」

 

「はいはいはーい! ばーちゃん、次のレースでターボたちが活躍したら、なんかご褒美ちょーだい!」

「はあ?」

「あ、それいいかも。いいモチベーションになるだろうし」

「……やれやれ、婆からたかる気かい?」

「ターボ、回らないお寿司がいい!」

「じゃあ私は焼き肉で!」

「うーん、そうだねえ……それじゃあ、こうしよう。次のレース、全員が3着以内だったら……」

「3着以内だったら……?」

 

「ハワイ旅行をプレゼントしようかね」

 

「「「「!!!!????」」」」

 

ハ・・・・・・・ワ・・・・・・・イィィィィィィィ!?

 

「みんな、絶対に頑張ろう!」

「修行の成果を見せるなら、いい結果を出す。当然です」

「ターボがんばるー!」

「えい、えい、むん!」

 

「い、いいんですかシンザンさん、そんな甘やかして……」

「はっはっは。婆に二言はないよ。ただし条件として、全員GⅡ以上を走ってもらう」

 

「ネイチャはアルゼンチン共和国杯2500m」

「はいっ!」

 

「イクノは札幌記念2000m」

「任せてください」

 

「マチタンは阪神大賞典3000m」

「長距離だね。クリアするぞー!」

 

「ターボはセントライト記念2200mだ」

「ターボに任せろ!」

 

「全員指定のレースで3着以上で目標達成だ。なお、キングとウララは勝ったから無条件で連れていく」

「二人とも喜ぶでしょうね」

「この程度の条件クリアできないようじゃGⅠ優勝なんて夢のまた夢だよ。気張りな!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

トレセン学園への帰路の途中。

「しかし、ハワイかあー。私海外なんて初めてだよ」

「ネイチャさん、皮算用は止めましょう。我々は勝たなければいけないのですから」

「大丈夫! ターボ勝つもん! ネイチャもイクノもマチタンも勝つもん! みんなで行こう!」

「スキューバダイビング、トローニング、サーフボード、夢が拡がるなあ……」

 

「やれやれ、皆さんすっかりハワイに行った気分ですね……」

「そりゃ浮かれちゃうってトレーナー。でも気は緩んじゃいないよ。目指すはその先、カノープス初のGⅠ制覇ウマの誕生なんだから」

「そうですね、皆さん、頑張りましょう」

「「「「おーっ!」」」」

 

 

そして翌日、久々のトレセン学園のターフでのトレーニング。

皆、蹄鉄付きシューズに履き替えての模擬レースは久しぶりだ。

 

ナイスネイチャ、イクノディクタスの併走が始まる。

両者とも体がやけに軽い。それに足回りも筋肉が付いたおかげで強く踏み込んでも重心がブレない。これなら荒れたバ場でも容易に対応できるだろう。

「体、めっちゃ軽い!」

「私もです!」

「じゃあイクノ、もう少し速くしてみる?」

「了解です!」

 

ダッダッダッダッダッ……!!

 

「いいですよ、お二人とも、上りのタイムも上々です!」

南坂トレーナーのストップウォッチにも熱がこもる。

「二人ともいい調子だねー」

「ターボも早く走りたいー!」

 

「調子良さそうだね、カノープスは」

 

「あ……」

「テイオー!」

カノープスの練習風景を見に来たのは、久々のトウカイテイオーだった。

 

「なんか最近特訓してて学園空けることが多いって聞いたから、見に来たんだ。みんな強くなってるみたいだね」

「そうだぞテイオー! ターボだって強くなってるぞ! 必ずテイオーに勝つ!」

「ははは……ぼくはもう走れないけどね。でもネイチャ達が元気で安心した」

「うん。シンザンさんが私たちに指導してくれたおかげかな」

横からマチカネタンホイザ。

「シンザン……会長が言ってたお婆ちゃんだね。凄い人らしいね。ぼくを殿堂入りに推してくれた人らしいんだよ。そういう意味では、ぼくの恩人でもあるかな」

「そうなんだ……」

 

「でもさー、今会長忙しいんだよね」

テイオーは不機嫌そうだった。

「どうかしたの?」

「シンザンお婆ちゃんとの対決で強い新人ウマ娘を発掘するってことで色々あったみたいでさー、全然ぼくに構ってくれないの! ふんだ!」

「へえ、それで、お目当ては見つかったの?」

「うん。でもそれがさ、とんでもない不良ウマ娘なんだって! この間の選抜レースで他のウマ娘全員大怪我させて平然としてたってさ!」

「そ、そうなの……?」

マチタンは困り顔で聞いた。

ターボも興味津々という顔で聞いていた。

「しかも「才能だけなら、テイオー、君と同じくらいだと思うぞ」だって! あーもうムカつく! 会長がそんな不良生徒の親代わりになるなんて、会長を取られた気分だよ!」

「ああ、私もその話は聞きました。選抜特待生試験の走力テストで驚異的なタイムを出し、他の過程をすっ飛ばして合格通知を受けたものの、素行最悪で退学寸前だったとか」

南坂トレーナーも噂は聞いているようだ。

「ふーん、名前は?」

「えーと、シンボリ。シンボリエムブレム」

「会長の冠名を貰ったってこと? それはガチの肝いりだね」

「ふんだ! えんぶれむにもそのうちターボが勝つ!」

 

 

シンザンは久々にデスクワークに励んでいた。あっちで社長、こっちで会長、そっちで取締役と非常に忙しい。

カノープスや他の面々にかまっていたおかげですっかり仕事が溜まってしまった。

「ふう……やれやれ、私なんかいつ死んでも構わないつもりだったけど、みんなを見てたらもう少し長生きしようかなって思う様になっちまったねえ……」

とはいえもしこれでトレセン学園のトレーナーに就任という事になったら、幾つかの社長職を降り、株も渡し、その座を降りざるを得なくなる。

気付けば背中に随分苦労を背負ったもんだと自虐した。

「……みんな、頑張りなよ」

 

 

「ふあ~疲れた~」

「調子に乗って走り過ぎましたかね?」

「皆さん、お疲れ様です。レースも近いですし、今日はこの辺にしておきましょう」

「今日はもう終わりー?」

ターボが南坂に問うた。

「はい、ターボさん。終わりですよ」

「ふーん。じゃあターボ、ジム室で筋トレしてくる!」

「え、ちょ、ちょっと、ターボ?」

「はっきりいって、トレーナーの指示だけじゃ、体がなまっちゃうもん。ターボ、絶対テイオーみたいなGⅠウマ娘になるんだから!」

「……んもう、しょうがないなあ」

ネイチャは止めなかった。今やターボのやる気はチーム一だ。テイオーという目標があるからだろう。

「ああまで言われたら黙っていられませんね。トレーナー、もう一周いいですか?」

イクノも汗を拭き、立ち上がる。

「はは……しょうがないですね。でも一回きりですよ」

「了解です」

困り顔の南坂だが、どこか嬉しそうだった。

 

その後、ターボはジムでダンベルを持ち上げていた。

「この一回は、パーマーとヘリオスに勝つため……この一回は、BNWに勝つため……そしてこの一回は、テイオーに勝つため……ん~~~ぐぇ!」

汗を流すためシャワー室へ。

「ん~~いちいち髪ほどくのめんどくさいなー。このままでいいか」

その後はカフェテリアへ。今日はもう店じまい寸前だったが、余りものでいいからちょうだい、と言って、残り物を皿に盛ってもらった。

「もぐ……もぐもぐ……もぐ……ずずー」

ターボは体が小さい。当然食も細い。そこでシンザンに言われたのが、『一日三食を、一日五食に分けて少しずつ食べつつ、食べる量も増やしていく』というものだった。

おかげで学食に行く回数も増えた。周りの食べ盛りのウマ娘がどどんと特盛りにする中、ターボは地道に食べて体力をつけようとした。

夜は消灯時間ギリギリまで外をランニング。星が見える晴れの日も、曇り空の日も、雨の日も、ターボのランニングは休むことなく続いた。

そして消灯時間、布団に潜り込み、爆睡。

これが学園における、ターボのルーティンだった。

(待ってろテイオー、ターボは絶対テイオーの所まで追い付いてやるからな!)

 

 

それから数週間後。

シンザンはシンボリルドルフに呼ばれ、東京競バ場に来ていた。

「探し物は、見つかったのかい」

「ええ、紛れもない本物が。といっても、頭を抱えるくらい気性難の暴れん坊ですがね」

シンザンも噂は聞いていた。トレセン学園会長・シンボリルドルフが自らの冠名をあげたウマ娘がいると。

 

当人は相変わらず授業には出ないし、ウイニングライブの練習にも来ない。練習場に顔を出しても、怖くて他のウマ娘達が逃げていく。

「才能だけで、ウマを判断するのはよくないと思うがねえ」

「同感です。しかしあなたに勝つためにはこうするしかなかった」

「…………。む」

シンザンは咄嗟にシンボリルドルフの体を取り、物陰に隠れた。

「どうしたというのです?」

「あれを見てみな」

 

二人の視線の先、そこにはシンボリエムブレムと、二人のガラの悪そうな男がいた。

 

 

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