ウマ娘プリティダービー《Unusual world line》   作:K.T.G.Y

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がんばれ!ウララちゃん!

「うりゃりゃりゃりゃああああ!」

トレセン学園のダートコース。使うものは少ないダートのコースを、一生懸命走るウマ娘がいた。ハルウララだった。

次の目標はいよいよGⅠ。チャンピオンズカップ・マイル1800mである。

しかしウララにとっては初めてのマイル距離挑戦である。今までの短距離とは違い、不安は拭えなかった。

 

タイムを測るのはキングヘイロー。ウララにはトレーナーが付いていないのでキングが仕方なく面倒を見てあげている。

日替わりでシンザンが付く事もあるが、あいにく今日はお休みだ。

 

ピッ

 

キングがストップウォッチを押す。

「うーん……」

タイム自体は悪くない。悪くないのだが……、

「ウララさん、いいわよ。上がってらっしゃい」

「はー……疲れたー……疲れたー……」

ヘロヘロになりながら戻ってきたウララに、タオルとスポーツドリンクを渡す。

 

「ねえねえキングちゃん、わたしのタイムどう? ちゃんと走れてる?」

「そ、そうね……」

タイムそのものは悪くない。だが、ゴール手前200mから途端にスピードが落ちている。それに伴ってフォームも悪くなっている。

レースを走るウマ娘にとって、200mというのは容易に見えて長く険しい距離だ。皆、ここで泣きを見るのである。

練習で良くても本番(レース)でこれでは、他のウマ娘に差し切られる可能性が高い。

 

ここにきて、ハルウララの走りの才能の乏しさが表れてきた。

ウララはかつて、ビリとブービーを繰り返していたウマ娘である。

それがシンザンの指導で見違えるほど速くなった。しかし、基礎体力、筋力という部分は持って生まれた部分によるものだ。ウララにはそれがない。

 

(……ウララさんの才能では、1600m程度が限界なんだわ。あと、200、あと200が限りなく遠い。どうするの、おばあさま……)

 

「どうしたの、キングちゃん?」

「えっ……!? あ、あはは、な、何でもないわよ。タイムは悪くないから、ね」

「ふぇ?」

 

「キングちゃん、わたし、次のレースではぜったい勝つよー!」

「気合十分ね。何か思うところがあるの?」

「ライスちゃんに勝ちをプレゼントするんだあ。勝って、ライスちゃんに元気を分けてあげるの。そうすればライスちゃん、ぜったいふっかつできるよ」

「成程。病床にいる少年のためにホームランを約束するベーブルースみたいな心境なのね」

 

ウララの熱意は本物だ。願わくばその目標を達成してほしい。だが、現実問題としては……、

「そう思うならもう1周走ってきなさい。練習の時点で完璧でなければ本番で力を発揮するなんて無理よ」

「えー? まだ走るのー?」

「GⅠは甘くないのよ。走るのが嫌なら泳ぐ。どちらか選びなさい」

「うー、じゃあ泳ぐ。いっぱい泳ぐから!」

「そうそう。おばあさまが見てないからって手は抜かないものよ」

 

(自分の為ではなく、誰かの為に走る、か……。聞こえはいいのだけれど、ウララさんにはやはり荷が重すぎるように思えるのよね……)

キングの心境は複雑だった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

そしてチャンピオンズカップ当日がやってきた。

前日、ハルウララはライスシャワーに会いに行き、必ず1着を取るからと笑顔で約束した。ライスはただ、頑張って、とだけ答えた。

この日に至るまで、シンザンとキングによるスパルタは続いた。ハルウララはヘロヘロだったが弱音は吐かなかった。

 

中京競バ場までの新幹線の中、ウララは寝ていた。まあ緊張で眠れないよりはマシである。

その対面にはシンザンとキングヘイローの姿がある。

「……おばあさま」

「ん、なんだい」

「……お互い、過保護ですわね」

「そうだねえ」

「それで、ウララさんの状態はいかほど?」

「仕上がりは悪くない。調子もいいね。ただ、結果を出すとなると……ちと難しいかねえ」

「やはり……」

「だが、このレースはウララにとって、かけがえのない一つの節目となる。まずはそれを見守ろうじゃないか」

 

 

日本競バ界において、ダートは今一つマイナーと言わざるを得ない。

有名なレースは殆どが芝のレースである。アメリカやドバイのように歴史と伝統のあるダートレースは少ない。

地方の高知競バ場で育ったハルウララにとって、ダートは当たり前だった。芝のコースを見る事自体珍しかった。

 

そんなマイナーな存在がGⅠという晴れ舞台で輝くために、日本中から精鋭が集まってくる。

その中に地方の落ちこぼれだったハルウララが混じるのは称賛に価した。

そんな彼女がこのGⅠでどこまでやれるか……。

 

『ダートレースの晴れ舞台、GⅠチャンピオンズカップ1800m。今年も全国から多くのダートウマ娘が集まりました』

『普段は芝のレースしか見ないという人も、このGⅠという舞台とあって多くの観客が集まっていますね』

スタンドは芝派、ダート派、どっちも派が一同に会し大入り満員。

そして観客席にはハルウララを応援する商店街の皆さまもわざわざ駆けつけてくれた。ウララからすればいいところを見せたいだろう。

 

控室。ハルウララは瞑想していた。本番に向けて集中力を高めるためだ。

GⅠとはいえ、やるべきことは変わらない。まずはスタート、続いてコーナーをしっかり回る。そして直線。以上だ。

だが今回は距離が長い。懸念されるとすればそこだけだ。仕掛け所を誤れば途端に苦しい展開となる。

 

シンザンとすれば、翌年のJBCクラシック・スプリントに挑戦させたかった。これならウララにとって適正距離を走ることができる。

だがウララはこのレースを選んだ。1着を取るために猛練習もした。ウララはこの勝負に勝てるとやる気満々であり、シンザンはその心意気を尊重した。

だが、ウマ娘にとって、適正距離とは人が思う以上に要求されるものが多いのだ。

キングとてあらゆる距離を走った果てに、適正距離を探し当てた。だがウララはそこまで器用なウマ娘ではない。

 

「よーし、ぜっこうちょー!」

ウララが突如立ち上がり、屈伸をする。気合の乗りはいいようだ。

「見ててね、ししょー、キングちゃん、わたしぜーったい1着取ってくるからね!」

「ああ、頑張るんだよ」

「おうえんしてくれるみんなのためにも、ライスちゃんのためにも、かならず勝つんだから!」

「ウララさん……」

「ウララ、一つだけアドバイスをしておこう。スマートファルコンに釣られて早めに仕掛けるのは止めときな」

「うん、わかった!」

 

ガチャ

 

「ハルウララさん、ターフに出てください」

「はーい、いま行きまーす。それじゃししょー、行ってくるねー」

 

「……元気だねえ」

「元気なのがウララさんの取り柄ですから」

「あの娘の笑顔が曇る姿は見たくはないが、はてさて、どうなるか……」

「おばあさま、私たちもスタンドに移動しましょう」

 

 

『さあ各ウマ娘、控室から出てきました』

 

ワアアアアアアアアアアアッ!!

 

「ファルコンちゃーん!」

「ファルコンちゃん、応援しに来たぜー!」

「みんなありがとー! みんなのためにもトキメキ☆ウマドル・ファル子、必ず勝つね☆」

 

今日の一番人気、スマートファルコンが登場した瞬間に歓声が上がれば、

 

ワアアアアアアアアアアアッ!!

 

「ウララちゃーん! 応援しにはるばる来たぜー!」

「頑張るんだよウララちゃーん!」

「商店街のみんなー、わたし、がんばるからねー!」

 

今日の三番人気のハルウララが手を挙げて応援に答える。

 

早くもスタンドは応援合戦だ。

「いやはや華やかでいいねえ」

「ウララさんが掛からないといいけど……」

 

ファンファーレが鳴り響き、16頭のウマ娘がゲートインしていく。

今日の一番人気はスマートファルコン。砂のサイレンススズカの異名を持つダートウマ娘だ。

トレセン学園入学時は芝を走るも結果が出ず伸び悩んでいたがダートに転向すると才能が開花。

ダートというマイナーな世界もなんのそのと砂上を走る自称ウマドルである。そのファンは日本中にいるという。

 

だが全国規模のファンとなればハルウララも負けてはいない。かつては入着が遠かったがシンザンの指導で実力も付いた。

このレースにかける意気込みも高い。

(ファル子が1着を取り、GⅠセンターを手に入れる!)

(ぜーったい、1着になっちゃうもん!)

(あれ、わたし蚊帳の外ですか……? 一応二番人気なんですけど……)

二番人気に推されたチュウワウィザードはゲートの中で一人いじけた。

 

ガコン!

 

『スタートです。各ウマ娘、綺麗なスタート』

『おーっと、先行争いを嫌って、一気に抜け出したのはやはりこの娘、スマートファルコンだ』

 

「あら、いいスタートだったのに」

「いや、0.8秒出遅れたね。その証拠に見な。普段なら6~7番辺りなのに、今日は9~10番辺りだ」

「ええっ!?」

シンザンがハルウララを指導した際、嫌というほど練習させたのがスタートの練習だった。

ウララは短距離。少々の出遅れでも命取りになる。実際、教える前のウララのスタートは呆れるほど下手くそだった。

タイミング良し、と思ったら勢いが付きすぎてそのまま転んだことすらあった。

何千と体に刻み込ませ、ようやく矯正できるまでかなりの時間が掛かった。

 

なのに、この大一番の出遅れ。やはりウララと言えど緊張していたのか。

 

「よし、ファル子、動いちゃうよ☆」

歓声を浴びながら、どんどん加速し、逃げを打つスマートファルコン。ここまではいつものペースだ。幸い今日の面子に同じく逃げを打つウマ娘はいない。傍から見たら独走状態である。

他のウマ娘からすれば、楽に逃げさせていいものか、迷いどころだろう。

(うーん、どうしようかな)

(わたしは控えよう。マイルだろうが何だろうが、芝だろうがダートだろうが、勝負はあくまで最後の直線だ)

 

しかしここで我慢しきれず中団からするするっと前に出ていくウマ娘がいた。

ハルウララだった。

『おっと、ここで三番人気のハルウララ、前に出ます』

『少し仕掛けが早いですよ。掛かっているのかもしれません』

 

「今日はぜったい勝たなきゃいけないんだ。むりしてでも前に出なきゃ」

 

「ウララさん!」

「あのおバカ! あれほど釣られて仕掛けるなと言ったのに!」

そんな二人の心配をよそに、ハルウララ応援団は歓声を上げる。この声が、ウララを狂わせたのかもしれない。

 

ハルウララの追撃は止まらない。どんどん前に出て、気が付けば2着の位置まで来た。

しかしその場所はコーナーのど真ん中。当然外に膨らむ。それをしまいとウララは脚を使って内に張り付こうとする。

本来ならコーナーは減速し直線に備えるのがセオリーだ。なのに……。

「駄目だわ。完全に自分を見失ってる。まるで以前のウララさんみたい」

「……勝負あったね。もう見るべきところはない」

 

『さあコーナーを回り切ってスマートファルコン、加速を始める。それを追いかけるのはハルウララ、この2頭の争いか? それとも後ろの娘たちが間に合うのか?』

『勝負どころです。さあ、夢のGⅠ、栄光を掴むのは誰なのか!?』

 

「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、ふぁ、ファル子、まだまだ行けるよー☆。ど根性☆」

先頭は依然スマートファルコン。しかし逃げとて体力を使う戦術には違いない。疲れはある。それに気付かないのはハルウララだけだった。

「はぁー……はぁー……はぁー……な、なんだろ、体が重い。息が苦しい。で、でも追いかけなきゃ。わたしが一番にならなきゃいけないんだ……いっちゃえー!」

ここでウララが火事場のど根性を出して加速する。

 

「ファル子! ファル子! ファル子! ファル子!」

「ウララちゃーん、頑張れー! もう一息だー!」

 

「ウララさん。その根性。素晴らしいものだわ。でも……」

「マイルじゃあ、届かないし、追い付けても先がないんだよ。残念ながらね……」

 

逃げるスマートファルコン、追いかけるハルウララ。しかしその距離が縮まったのはほんの一瞬だった。

そして後続のバ群が物凄い勢いでやってくる。

「きゃあ! 痛っ! わぁっ!」

右へ、左へ、体をぶつけられ、小柄なウララは途端に減速してしまう。着順はどんどん下の方へ落ちていく。

(そんな……わ、わたし、勝つんだ。勝たなきゃ、いけないんだ。それなのに、それなのに……)

 

 

『ゴーーーーーーール!! 勝ったのはクビ差でスマートファルコン! 苦しい戦いではありましたが、見事逃げ切り一番人気の使命を果たしました!』

『スマートファルコン、チャンピオンズカップを制しました!』

 

「みんなー、やったよー☆ ファル子を応援してくれて、ありがとー☆」

 

ワアアアアアアアアアアアアアッ!!!!

 

見事一着を取り、ファンの声援に答えるファルコン。観客席からは大きな歓声が上がった。

対してハルウララはブービーに転落。観客席からはため息が漏れた。

 

「し、仕方ないな、こういう事もあるさ! ウララちゃーん、よくやったぞー!」

「次は勝てるさ、ウララちゃん!」

「ウララ、ちゃん……?」

スタンドのハルウララ応援団はウララの様子がおかしいことに気付いた。普段ならどんな着順だろうと手を振って声援に答えていたのに、ウララは何も答えない。

「…………」

俯き、尻尾をひょろ~んと垂らし、何も言わず、ターフを後にしていった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

コツ……コツ……コツ……。

廊下に蹄鉄が付いたシューズの音が響き渡る。ウララは何も言わず前も向かず歩いていた。

「ウララ」

「ウララさん」

シンザンとキングヘイローが裏から追いつき、話しかけると、ハルウララは止まった。

「……ししょー……キングちゃん……」

ウララが顔を上げる。ウララは泣いていた。そういえば、ウララの泣き顔は初めて見たな、とシンザンは思った。

「うぅ……ぐすっ……うぅぅ……ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」

ウララは大泣きした。もし周りに誰もいなかったら一人で泣いてたかもしれない。

「ほらほら、泣かないの、ウララさん。ティッシュあげるから、鼻ずびーしなさい。ずびー」

キングがティッシュを渡し、頭を優しく撫でてあげる。ウララはまだ泣き止まなかった。

「うぅぅ……あ゛り゛が ど う゛キングちゃん。……ずびー!」

ウララが鼻をかむ。まるで母親と子供である。

「……ししょー、わたし、負けちゃった……」

「そうだね。負けるべくしてまけたね。いいところが一つもなかったから当然だね」

「うぅ~……」

 

<<お父さーん 黄泉路の国でお達者でしょうかー>>

 

「おや、電話だ。……ライスシャワーからだね」

「ライスちゃんから!?」

 

「はい。おやライスシャワーかい。元気にしてたかい? あんまり見舞いに行けなくて申し訳ないね。……見てたのかい、レース。ふーん。今、ウララに代わるからね」

「ひっ……!!」

ウララは合わせる顔がないのか、逃げようとする。

「こらっ、ウララ! 逃げるんじゃない! 出るんだ。けじめはちゃんと付けるんだよ!」

怒鳴られてビクッとするウララ。しかしシンザンに諭されて、渋々電話に出ようとする。

 

「もしもし……」

『お疲れ様、ウララちゃん』

「うん……」

『見てたよ。残念だったね』

「うん。ごめんね……」

『どうして謝るの?』

「わたし、わたし……ライスちゃんにがんばってほしかったんだ。わたしががんばれば、ライスちゃんもがんばれるって。そう思ったんだ」

『そうだね。昨日いっぱい聞いたよ。大丈夫。ライス、ウララちゃんの想いは充分伝わってるから』

「ちがうんだ! それだけじゃないんだ! わたし、わたし……勝ちたかったの」

『そう、勝ちたかったんだ』

「今までいろんな人に支えられて、はげまされて、がんばるぞって気合が入って、それで、それで、みんなのきたいに応えたいなって思うようになったんだ」

『立派だね。ウララちゃんも成長したんだね。それ他の人に言ってごらん。みんな喜ぶと思うよ』

「うん。だからね。このGⅠ、ぜったいに勝ちたかったんだ。でも勝てなくて、なんかね、なんかね……くやしいの」

『悔しかったの?』

「うん……くやしくてくやしくて、泣いちゃった。勝ちたかった。勝ちたかったのぉぉ……。うぇぇぇぇぇん」

『もう、泣かないで。ウララちゃんは強い娘なんだから、泣いちゃだめだよ』

 

 

「もう、また泣いて。ティッシュがいくらあっても足りないわ」

「負けて悔しい、か……」

「ウララさんがそう思うようになるなんて。……成長したのね」

「そうだね。誰でも勝てば嬉しいし、負ければ悔しいもんだ。でも、あの娘はそういうことに疎かった。……これ以上の成長は頭打ちになるかと不安だったんだがね」

「強くなりますよ。ウララさんは」

「そうだね。勝ちの味と負けの味の違いを知る。それはとても重要なことだ。あの娘はまだまだ強くなるよ」

「来年、リベンジさせてやってくださいね」

「勿論だとも」

二人は微笑ましく、やり取りを聞いていたのだった。




ようやく尼に頼んでいたウマ箱2が届きました。これでコンプです。
引換券何に使おう。本能の赴くままに使いたいけど曲線のソムリエ持ってるキャラが一人もいないのでオグリかなあとか考えてます。

そうなんですよ!そこで止まってるんですよ!トレーナーの道が!
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