ウマ娘プリティダービー《Unusual world line》 作:K.T.G.Y
中山競馬場のスタンドが大歓声を上げていた。
『勝ったのはツインターボ! この有馬記念を! 2500mを! ただの一度もハナを譲らなかったツインターボが栄冠を勝ち取りました!』
『場内の祝福の拍手が止まりません! 当然です。14番人気、人気順最下位での優勝は史上初の快挙です!』
「はあ……はあ……はあ……はあ……。みんな、ターボやったぞ……!」
ツインターボは芝の上に大の字になりながら観客席に向けてVサインで答えた。
「ターボ!」
スタンドからカノープスのメンバーがやってきた。
「凄いよターボ!」
「有馬記念だよ有馬記念! あんたは偉い! 凄い!」
「うわっぷ! ちょ、ちょっと、もう、やめてよー、あー、もう、ねえ~……」
手荒い祝福を受け、もみくちゃにされるターボ。その中で、ただ一人、冷静で笑顔を見せていたのがイクノディクタスだった。
「お疲れ様です。ターボ。どうぞ、汗拭きタオルとスポーツドリンクです」
「ん、ありがと、イクノ。ふう~~ぐびぐび……ぷはーっ!」
「ターボの諦めない心、しかと見せていただきました。あの時のこと、覚えていてくれたんですね」
「うん。あの時のイクノ言ったでしょ。諦めないことが大事なんだって」
「はい……」
「ツインターボ師匠!」
「うわっ、テイオーか」
我慢できずにテイオーまで抱き着いてきた。
「ターボ、ずっと見てたよ。ボクは君をずっと応援してた。夢が叶って良かったね!」
「何言ってるんだよテイオー、ターボの目標はもっともっと高いんだぞ! まだGⅠいっこ勝っただけだしな!」
「はは……そうだね。目標は高い方がいいよね。何はともあれ、おめでとう!」
「ターボ……」
「ばーちゃん!」
「よくやったね……。年かねえ……思わず目頭が熱くなっちまったよ」
「ばーちゃんでも泣くことがあるんだな!」
「このレースは、日本競バ界の歴史に残る名レースとなるだろう。あんたは今日、一つの伝説を作ったんだよ」
シンザンはターボの頭を優しく撫でた。
「へへっ、始めてばーちゃんに褒められたぞ! 悪い気はしないな!」
「まったく、この子は……」
「……完敗だね。最後、まったく抜ける気がしなかった。こんなのは初めてだ」
テイエムオペラオーは2着だった。しかしその差は歴然としていた。
「おめでとうございます。ツインターボさん」
スペシャルウィークは3着。栄冠を勝ち取ることは出来なかったが、その顔には充実感が溢れていた。
「……11着、か……。やはりもう長距離路線は捨て去るしかないみたいね」
キングヘイローは沈んで終わった。あらゆる距離を走り、勝ちを模索していた彼女は、何も語らず静かに勝者に拍手を送った。
観客席から、そして対戦したライバル達から、惜しみない拍手を受けるツインターボ。
小さな逃亡者が、遂にGⅠという頂点を掴んだことは、日本競バ界史に残る1ページとなるだろう。
なお、場外の違法トトカルチョではツインターボという単勝万馬券によって阿鼻叫喚となったらしいがそれは自業自得であろう。
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ウイニングライブを前に、ツインターボはインタビューを受けた。
有馬記念がニュースで盛り上がってる時は誰も取材に来なかったのに、勝ったらこの扱いである。
複雑だったが、まあ、いいか、と流した。
「さあ、今日のヒロインはこのウマ娘をおいて他にいません。ツインターボ選手です!」
「…………」
ワアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
「改めて、おめでとうございます」
「ありがとー」
「今日のレースは強敵揃いでした。何を考えてレースに臨みましたか?」
「……あー、ちょっと待って。いちもんいっとう、っていうの? ターボ、それ苦手なんだ。だから言いたい事だけ言う」
ツインターボはマイクをひょいと取り上げた。
「えーと……ターボは今日まで、諦めないことを一番に考えてやってきた。テイオーにも言われたし、イクノにも、ばーちゃんにも言われた。
けどね、それだけじゃダメなんだって気付いたんだ。今、このレースを見てる人の中には、つらいこともかなしいこともくるしいことも、とにかくいっぱいあるっていう人もいると思う。
だからね、ターボはね、そんな人たちのために……「諦めないを届ける」ために走ったんだ。
みんな、だからつらいことに負けないで。ターボはいつだって、みんなのため、諦めないを届けるために走るから!」
そう言って、カメラの前でVサインを出すターボ。
そう、ツインターボが辿り着いた境地。それは自身が諦めない事ではなく、自身の諦めの悪さを他人に分け与えるという道だった。
自分の為ではなく、他人の為に走る。皆に奮起してもらいたいから走る。活人の走りこそ、自分の歩む道だと。
シンボリルドルフならば、殺身成仁、敬天愛人とでも言うだろうか。
「おお!」
「素晴らしい答えだ!」
これには報道陣も絶賛。カメラがターボを祝福した。
それを物陰からそっと見ていた者がいる。ビワハヤヒデとナリタブライアンだ。
「……完敗だな」
「ああ……」
「自分の為ではなく、他人の為に走る、か……」
「きっと凄く険しい道なんだろう。だが、彼女はこのレースでそれを体現してみせた」
「ふっ……姉妹対決などと浮かれていた自分が恥ずかしいな」
「わたしもだ。もう一度、自分の走りと向き合わなきゃな……」
ウイニングライブでツインターボは『NEXT FRONTIER』を歌い、踊った。場内は溢れんばかりの喝采が木霊した。
調子に乗ってアンコールを受けたので、その後楽屋で思いっきり怒られたが。
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翌日。
「いやはや、凄い一日だったね。昨日は」
「ええ、本当に……」
「まったくです!」
南坂トレーナーは昨日から泣きっぱなしだった。
「GⅠ……夢のGⅠ……それが一年で3つも……! トレーナーをやってて良かった。まさに盆と正月がいっぺんに来たようです……!」
「ほらほらトレーナー、泣かないの」
「盆も正月も仕事してるように見えるのは私だけでしょうか」
「カノープスは遂に蕾から大輪の華を咲かせたのです。ああ、なんと素晴らしいことか……!」
「だめだこりゃ」
「まあ好きにさせておきましょう」
秋華賞のトロフィーは部室に、秋天の盾はまだネイチャの病室に。そして今日、一日遅れで有馬記念の記念トロフィーも届くことになっている。
「ところで今日のヒロインのはずのターボは?」
「疲れていたのでしょう。帰ってくるなり寝てしまったようです。あれは丸一日起きませんね」
「まあ、そっとしておきましょう。来年もあるわけですし」
「来年かあ……4月には新入生も入ってくるかな?」
「この部室も騒がしくなるかもしれませんね」
「がぁ~~~~~ぐお~~~~~ぅぅん~~~んが~~~~~ごぉ~~~~~ぉぉ~~~~」
トレセン学園はこれから冬休みに入る。
幸い練習場などは人間の部活みたいなものなので休みの期間中でも開放されている。ジム室だって使える。
ただ問題なのがカフェテリアは休みだということだ。たまには食堂のおばちゃんだって休みたいのである。
そのため学園内は閑静としており、寮に住んでいる者も実家に帰ったり、バイトに精を出す娘もいる。
あとはテストで赤点を取って補修を受けているウマ娘とか……。
ツインターボ、おまえだよ。
「どうしてターボさんは来ないんですかああああああっ!?」
「いやー昨日のレースの後じゃ疲れて寝てるんじゃないですかねー?」
進級が危ぶまれるターボなのだった。
では病院はどうか。
さすがに入院患者は簡単には出て行ったりは出来ないので基本ベッドの上である。
看護師も同様である。看護師には正月もGWもお盆もクリスマスもないのである。ブラックそのものである。
ただナイスネイチャは脚の状態が悪くとも、車椅子であれば外出許可が下りた。元旦にはみんなと一緒に神社でお参りに行くつもりだ。
ライスシャワーは残念ながら外出許可は下りなかった。しかしリハビリセンター使い放題ということで表情は明るい。
彼女もまた、ツインターボの走りに勇気を貰った一人だ。必ずレースで走れるようになってやるとやる気満々である。
「がんばるぞ。おー」
「あんまり無茶はしないでね」
それから更に翌日。
「みんな~~~おはよ~~~~~」
部室にツインターボがやってきた。
「おはようではありません。もう昼の2時です」
「というか補修受けたの? ターボ赤点取りまくってるって聞いたけど」
「ぜんっぜんわかんないから受けてない!」
「威張っていうことかあ~!」
「……仕方ない。ターボさん、今度私が教えてあげます」
「イクノが!? やった!」
相変わらずマイペースなターボなのであった。
「おっ、これが有馬記念のトロフィー!?」
部室の中央テーブルに置かれたトロフィーは輝いていた。何より自分の名前があるのが誇らしかった。自然と顔がニヤけてしまう。
「そうですよ。うっかり地面に落として壊さないでくださいね」
「ターボ壊さないもん!」
コンコン。ガチャ
「おや、皆さん揃ってますか」
南坂トレーナーがなにやら段ボールいっぱいの手紙を持ってきた。
「何それ?」
「聞いてください! 全部ターボさん宛てのファンレターですよ」
「ええっ、それ全部!?」
「おおっ、凄いなー。これ全部ターボあてのなんだ!」
「ええ。有馬でのターボさんの言葉に感動した人たちからの応援の言葉でしょう」
「うっわー。ターボ、一日で人気者だねえ」
「タンホイザさんやネイチャさんにも多少届いていましたが、ここまでの量とは……」
「えーと、どれどれ?」
ターボはひとつずつ手紙を開けていく。
中身はどれもターボを激励するものだった。
「ターボさんの言葉に感動しましたこれからも頑張ってください。ツインターボのファンになりました来年は競バ場に行って応援します。ふむふむ」
中には絵を描いてくれた人もいた。年齢層は小学生から中年まで幅広かった。
ターボの顔も自然とニヤけてしまう。
「ん……」
しかしある一通の手紙の中身を見た時、ターボの手が止まった。
「どうしたの、ターボ?」
「これ……」
「見てもいいんですか?」
ターボがその手紙をテーブルに広げる。書体からして少女が書いたと思われるもののようだが……。
『ツインターボさんへ。わたしは都内のびょういんににゅういんしている小学4年生です。わたしはこどものころから体が弱く、まんぞくに外を歩くこともできませんでした。
そしてこれから数日後、わたしはおおきな手術を受けます。もしかしたら帰ってこれないかもしれません。
いつもふあんで夜もねむれませんでした。でもテレビでターボさんの走りをみてとてもかんどうしました。いっぱいなきました。
わたしもゆうきをもって、あきらめないで手術を受けてみたいとおもいます。もし生きて帰ってこれたらレースをみにいっておうえんします。ターボさんもがんばってください』
「素晴らしいね~!」
「ターボさんの勇気を与える希望の走りに励まされた子のようですね」
「…………ねえ、トレーナー、この子の入院してる病院分かる?」
「え、えーと……これは都内の国立病院の様ですね。名前は……」
「ターボ、この子に会いに行く!」
「ええっ!」
「諦めなければ、手術も成功するって励ましてくるんだ!」
「そ、それは……」
「それじゃあ私が車を出しますよ。ターボさんはその手紙を持って付いて来てください」
「うん! ありがと、トレーナー!」
「……なんか一日で急成長しちゃったねえターボ」
「男子三日会わざれば刮目して見よ、というやつですか。まあこの場合は男子ではなくウマ娘ですが」
一つの経験が、少女を大人にしたのである。ツインターボという、無垢な少女を。
それから数日が経ち、年が明けた。
カノープスの面々も神社にお参りに行くことになったのだが、去年のカノープスの活躍を記事にしたいということで、急遽カメラが入ることになった。
「どうしよー。年明けからいきなり緊張するのはやだなー」
「仕方ありません。まあ簡単なものらしいですから、気楽に受けましょう。
場所は学園からおよそ3km。歩くのは厳しいが、車で行ったら停めるところがなく、付近の道も渋滞しており、とても帰っては来れないだろう。
病院から外出してきたネイチャと合流し、神社へ。午前9時だというのに境内は大入り満員状態で、出店に目を引かれると、あっさり迷子になりかねない状態だった。
他のテレビ局は神社の境内を取材している。このカメラは自分たちが独占だ。悪い気はしない。
ネイチャ、イクノ、タンホイザ、ターボは10円玉を投げ込み、鈴を鳴らして、パンパンと手を鳴らして、拝む。
みなそれぞれ思い思いの願いを。
カメラに、何をお願いしたんですか? と聞かれたが、それぞれは、
「怪我が早く治りますように、と。それからメンバーの無病息災かな」
「わたしはGⅠを取ってませんからね。今年はとりあえずそれを目標に」
「一年無事に過ごせますように、ですね。やっぱりウマ娘は体が資本なんで」
「ターボ今年はとにかく走るぞ! GⅠでもGⅡでもGⅢでも!」
そして四人とカメラは移動。おみくじを引く。ネイチャとターボは小吉、イクノは中吉、タンホイザはなんと大吉。本人は木に結ばずに持って帰ると言っていた。
絵馬も書く。ターボ絵馬は得意なんだ! と言っていたが、一日一全と見事に誤字っていた。
そして四人は商店街の方に移動し、ハルウララとキングヘイローと合流。餅つき大会に参加し、餅をこねた。
雑煮とぜんざいを平らげ、お茶を飲み、小休憩。ここで取材は終わった。ありがとうございました、と礼を言って。
「さあさあ、今年はどんな年になりますかねー」
「いい年にしましょう」
「勿論ですよ。えい、えい、むん!」
「ターボも頑張るぞ!」
「わたしもりべんじするー。めざすはダートGⅠだあ!」
「わたしは、やはり年明けの高松宮記念の二連覇かしらね」
充実した年になるといいな、と願う面々であった。
次回からちょっと時間が飛ぶ予定です。
何をやるかはまだ未定ですが、おそらくシンボリエムブレムを中心とした話になるかもしれません。