ウマ娘プリティダービー《Unusual world line》   作:K.T.G.Y

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決着

 

波乱の幕開けだった今年の凱旋門賞。

しかしここにきて更なる波乱が待っていた。

 

フランス代表のウマ娘がレース中に他国の代表ウマ娘をナイフで刺そうとしたのだから。

その光景はテレビカメラによって世界中に伝えられる。

 

やった本人は茫然自失。そのまま自殺しようとして、ゴールドシップに止められた。

 

『まさか、まさか、こんな事態が起きるとは誰が予想したでしょうか。レース中に起きたあまりに大きなハプニングです』

『まともにやって止められる相手ではないことは分かります。しかし、これは……』

 

実況と解説も言葉に詰まるというか、反応に困る。当然だ。迷惑系動画配信者でもここまでしない。

だが単独犯とも思えない。誰かの差し金だ。それは推察できる。

しかしそれを言葉にできる程自分の立場に権威はない。

 

そしてレースは中止になることなく続いている。先頭は依然ツインターボ。10バ身近い差は未だ縮まってはいない。

「はっ……はっ……はっ……はっ……」

体への負担が大きいことで知られるロンシャン競バ場の約10mと言われる勾配の下り坂を何とか駆け抜け、第4コーナーを回る。

そこから最後の直線までは通称フォルスストレートと呼ばれる角度が緩やかな直線もどきが待っている。

芝2400mといえば日本では、日本ダービーだが、それとは比較にならない競バ場のコースだ。

 

だが、ツインターボは決して諦めない。そう、諦めないことがターボの走りなのだ。彼女はその走りで、いくつもの奇跡を起こしてきた。

「見てろよみんな、ターボは世界でも絶対諦めないからな……」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「ふふふ……ははは……そうだ! こうでなくちゃな!」

一方、あわや大惨事となりかねなかったシンボリエムブレムはナイフで刺されそうになった恐怖心など何処吹く風、2番手の位置でターボを追いかける。

ブーイングを浴びるたび、前を塞がれるたび、ラフプレーを受けるたび、エムブレムの漆黒のモチベーションは増大し、力を発揮する。

今や彼女の調子は絶好調だった。

「ククク……コノ、イカレガ」

そのエムブレムを追走するのは、イタリア代表チャンピオンバッジ。

かつてジャパンカップでエムブレムに走行中脚を踏まれ重傷を負い、再起不能、自殺を選んだ幻の伝説ウマ娘、カデンツァの弔い合戦にと参加したが、そんな事はどうでもよかった。

エムブレムに勝ち、自分の名を世界に轟かせることだけが目的であり、妨害をしろと命令されて、はいそうですかと聞く耳は持っていない。

 

大体世界戦だというのにたった一人のウマ娘をマークすること自体がナンセンスだった。

それが証拠に、見ろ、各国代表のウマ娘はもう誰も観客の視界に入っていないし、力を使いすぎている。もはや完走ができるかどうかすら微妙だ。

「見テイロ、最後ニ勝ツノハ、私ダ……!」

 

 

だが、悪夢は2度起きる。

またしても観客席に潜んでいた、フランスのウマ娘を取り仕切る組織の重鎮が「殺れ」の合図を送ってきたのだ。

ウマ娘達は走りながら怯えた。これ以上何をどうすればいいと言うんだ? もう勘弁してくれ。私たちを真面目に走らせてくれ。

だが所詮自分たちは一介のウマ娘に過ぎない。上からの命令は絶対である。

 

殺るしかない。本気で。そう覚悟した時、一人のウマ娘が、懐から小銃を取り出した。

走りながら狙いを定めて、当てる。殆ど博打である。当たらないでくれ。せめて外れてくれ。ウマ娘は祈った。

みんなは何食わぬ顔でレースを楽しんでくれ。さようなら……。

 

(……何かやってくる?)

後ろの気配に、シンボリエムブレムも気付いた。

少しだけ、後ろを振り向く。目に入ったものは、小銃だった。そしてそこから凶弾が放たれるまで、時間は掛からなかった。

銃声が、響いた。

実況が、解説が、観客席が、テレビカメラが、その光景をありありと捉えていた。

 

弾丸は、シンボリエムブレムの肩に直撃した。衝撃で、真紅の肩当が外れた。

「……!!??……っ!?」

エムブレムは肩を抑えた。じわりと服に開かれた穴から、血が滲み出てくる。痛覚が乱舞を踊り、脳髄を支配しようと暴れ狂う。

 

ウオオオオオオオオオオオオッッ!!!!

 

観客席からはブーイングと怒号が響き渡った。

 

「ふざけるな! いい加減にしろ!」

「レースを、凱旋門賞を何だと思ってやがる!」

「俺たちは殺し合いを見に来たわけじゃないんだぞ!!」

 

おそらくこのレースは歴史上最低の凱旋門賞として長く人の心に刻まれるだろう。

だが、そんなことはどうでもいいと思った者がいる。チャンピオンバッジだ。

 

「クックック……アハハハハハハ!! ザマアナイナエムブレム。ソシテフランスノ諸君、引キ立テ役ゴ苦労! 後ハエムブレムと前ニイルチビッコヲ蹴散ラシ、私ガ一着ニナルダケダ!」

そしてバッジはエムブレムを抜き、2着に上がり、前のツインターボを猛追する。

 

 

この時、観客席にいたフランスの(ry は苛立っていた。

命令はシンボリエムブレムを殺せ、だ。まだ生きてるじゃないか。重症じゃダメなんだ。もう一度だ。もう一度指示を……、

 

ゴガァッ!!

 

と思った瞬間、顔面を思いっきり観客席の地面にぶつけられ、抑えつけられた自分がいた。

「……遅かったみたいだね」

「ええ……このルドルフ、一生の不覚です。エムブレムに生涯残る傷を負わせてしまった」

「だ、誰だ……? おまえ達は誰だ……!?」

「名乗る程のものじゃないさ。でもまあ、神聖なレースを汚した罪は、償ってもらうよ」

「やってはならないことの判断も付かないようでは、フランスの競争バ連盟というのは相当腐っているらしい……お仕置きが必要ですね」

「久々に、二人で大立ち回りといくかい?」

「いいですね。でもその前に……、おい、貴様……!」

「ひっ……!」

ルドルフは、鬼の形相で男を睨み付けた。

 

「凱旋門を、無礼(なめ)るなよ……!」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「くっ……!」

エムブレムは痛みを堪えながら走っていた。しかし、その走りにはキレがない。

(……このまま終わるのか? 私はこれで終わるのか……?)

どれだけ前を塞がれても勝ってきた。どれだけ妨害行為を繰り返されても、力で捻じ伏せてきた。

勝てば官軍。それが自分の理念である。もし負ければ、それは死も当然。

周りは言うだろう。怪我をしたんだからしょうがない。あんなことがあったんだから仕方ない、と。

 

だがそれを自分は受け入れられるのか? 悪いのは相手であり自分でないのだからと負けも受け入れられるのか?

世界有数のレース凱旋門賞。そこで起きた前代未聞のハプニング。だが、このレースが果たしてなかったことになるのか?

仮に黒歴史に認定されたとしても、自分はそこで起きた『敗北』という現実を素直に受け止めなさいと言われ、黙ってそうするのか?

 

それはもはや、自分ではない。

 

「……ふざけるな」

その瞬間、シンボリエムブレムの漆黒のモチベーションは凶弾の痛みを凌駕した。

 

「……ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

エムブレムの体が、弾けた。『雷光』と謳われたあの走りだった。人間と車のレースとまで言われたあの脚が復活したのだ。

 

『おーっと! シンボリエムブレムが豪脚を見せる。凄まじいスピードだ!』

『目を疑うような走りです。こんな力が残っていたとは……!』

 

「ナニッ!?」

 

その走りは、あっという間にチャンピオンバッジを飲み込み、最後の直線に入ろうとするツインターボを捕らえた。

 

『並んだ! 並んだ! ツインターボとシンボリエムブレムが並んだ! まさに一閃! 驚異的な速度でリードを詰めた!』

 

「嘘っ!?」

「勝つのは、わたし……ぐっ!?」

しかし傷の深さで駆け抜けた代償は大きかった。あっという間にガソリンを使い果たし、エムブレムは失速する。

やはりあの激痛と血が滴り落ちるほどの状態で走ったのはさすがのエムブレムでも無理があったようだ。

ツインターボももはや限界に近い。それでも諦めずに手と脚を動かし、ゴール板目指して走る。

 

「きたなえんぶれむ! ターボはおまえと戦いたいと思ってたんだ!」

ターボは叫ぶ。余裕はないはずだ。しかし声に出さずにはいられなかった。

「ターボはな、おまえと違って負けてばっかりだった。でも諦めずに走ったから、今のターボがあるんだ!」

「……何を急に」

「諦めない走り、それがターボの走りだ! たとえ並ばれても、諦めない! 先頭をゆずる気はない!」

このちびっこは、わたしと本気で殺りあうつもりか。この馬鹿が。エムブレムはそう思った。

「黙れ! レースは勝てば官軍だ! 勝てば全てが手に入り、負ければ泥に塗れるだけだ!」

「嘘つけ! ターボ、おまえが走ってるとこのビデオ見たぞ! おまえ、勝ってもちっともうれしそうじゃなかったじゃないか!」

「何を……!」

「誰だって勝てば嬉しいし、負ければ悔しいんだ! なのに、おまえはなんだ? 勝ってもうれしくないって、いっしょに走ったウマ娘をなんだと思ってるんだ!?」

「何とも思ってないさ。何ともな……!」

「そうか。じゃあターボは負けない! おまえには負けない! おまえみたいな一人ぼっちでターフ走ってるようなやつには、負けない!」

(……一人ぼっち、だと!?)

エムブレムは衝動的に蹴り飛ばしたい気持ちを霧散させた。それだけ癪に障る発言だった。

「おまえは……私の価値観と最も相反する存在だ。……ブッちぎる!」

 

ピシッ……!

 

「……!?」

脚に力を込めた瞬間、違和感が拡がった。力を入れているのに、走り出せない。抜け出せない。

(この違和感……まさか、骨にヒビが……くそっ、何だってこんな時に……!)

信じたくはないが信じるしかなかった。このタイミングで異常発生。まるで競バの神がこいつを勝たせようとしている様ではないか。

何度も何度も力で捻じ伏せてきた神が、ここで牙を剥いたというのか……?

 

(黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ! 眠ってろ! 座ってろ! 引っ込んでろ! 貴様なんか、お呼びじゃないんだ!)

だが体の異常はいかんともしがたかった。肩の弾痕、脚の違和感、呼吸は乱れ、息をするのも苦しい。体中が痛い。満身創痍だった。

しかしエムブレムは気力だけでターボに肉薄する。負けるわけにはいかない。負ければ全てを失う。おまえ達とは、覚悟が違う。

 

「エムブレムゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!!」

そしてここで一度は抜いたチャンピオンバッジが猛追してきた。執念の走りだった。

 

『チャンピオンバッジじわじわと前の距離を詰める。前は三頭態勢だ。しかし全員一杯か!?』

『残り200を切った。さあこの波乱だらけの凱旋門賞も終わりが近付いてきたぞ! 勝つのは誰だ!』

 

ツインターボか、シンボリエムブレムか、チャンピオンバッジか。

 

『ここに割って入るウマ娘はさすがに……』

 

「いるさ! ここに一人な! ヒュー!」

 

『いや、いた! いたぞ! ゴールドシップ! ゴールドシップだ! 大外回ってやってきたのは日本代表バのゴールドシップだ!』

 

「ラ王はラーメン、ラララララ~」

「こらゴルシ、空気よめー!」

「貴様……!」

「ナゼ、オマエガクル……!?」

 

「何だよ何だよおまえら頑張ってんなー。このまま夕日に向かってダッシュかー? わたしも混ぜろよー」

 

ウオオオオオオオオオオオオオッッッ!!! ゴルシ! ゴルシー! ゴルシ!

 

観客が一斉にゴルシコールを始める。そりゃそうだ。誰も期待していなかった筈のウマ娘が、誰よりも脚を溜めて最後の最後にやってきたのだから。

「おうおう、観客もアガってきたなー。それじゃ、栄光のフィナーレをルパーンダイブしますかね!」

「負けないぞゴルシ!」

「おまえだけには……くっ!」

「フザケルナァァァッ!」

 

これで前は四頭態勢。しかしスタミナの量は比べ物にならない。

レースとは競えば競うほど疲れるのだ。その点最後尾からじっくりまったり走ってきたゴールドシップはまだまだ走れますよと余裕の脚色。

当然だ。完全にノーマークだったのだから。

 

「おりゃあああああああっ!!!!」

ゴールドシップが並び、追い付き、そして遂に抜いた。

『差した! 差し切った! ゴールドシップが差し切った! ゴールドシップだ! ゴールドシップが1着でゴールインンンンンンッ!!!』

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

『勝ったのはゴールドシップ! 今年の凱旋門賞を制したのは、日本代表ウマ娘、黄金色の浮沈艦ゴールドシップだー!』

『日本代表バの凱旋門勝利は勿論これが初勝利! 幾度となく先代たちが挑み、力及ばず消えていったこのフランス・ロンシャンの地で、見事大仕事をやってのけましたー』

 

ゴルシ! ゴルシ! ゴルシ! ゴルシ!

 

「あっははー。さんきゅーべりーまっちんぐマチコ先生ー」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、ちくしょー、負けたー!」

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……くっ!」

「ソンナ馬鹿ナ……。エムブレムヲ倒シ、世界最強バニナルノハコノ私ノハズナノニ……」

 

1着:ゴールドシップ

2着:ツインターボ

3着:シンボリエムブレム

4着:チャンピオンバッジ

5着:ランドドリーム

競争中止:レシオ、グラスアレー

 

日本代表、まさかの1-2-3フィニッシュ。フランスが自滅し、各国のウマ娘も精彩を欠き、終わってみれば日本代表バが上位総なめ。

まさか、まさかの結末だった。

 

「トレーナー!」

「おお、ゴルシ! おまえ、やる時はやる奴だったんだな……!」

「わーいわーい……とりゃ!」

 

ブッピガン!

 

ゴルシ、渾身のドロップキック。

「ごぐぁはっ!」

「へへ、どーよ?」

 

「あーあ、ごめん、トレーナー。ターボ、負けちゃったよ」

「そんなことありませんよターボさん。2着でも十分な結果です」

「でもターボ、一着がよかったなー……」

 

「なあ、会長は?」

「おやエムブレムさん、お疲れ様でした。肩の調子はいかがですか?」

「問題ない。弾は貫通してる。痛みはあるけどな。それより会長は?」

「ああ、何でもふざけた連中をシメに行くとかどうとか言って、一足先に場内を出ていきましたよ」

「…………」

(ふっ、そうか。会長も、わたしを見限ったか……)

誤解でしかないのだが、この時、エムブレムは全てを理解した気になっていた。

 

「あー、いたいた。おい、おまえら、行くぞ」

「なんだゴルシ」

「今更何処に行くんだ?」

「なーに、言ってんだ。ウイニングライブだよ。2着と3着のおまえらも来い。でないと始まらないんだよ」

「しょうがないなあ……」

「……敗者は断る事は出来ない。仕方ない。付き合おう」

「よーし、行くぞー! 全世界に、『うまぴょい伝説』を響き渡らせるぞー!」

この時、南坂トレーナーは思った。え、あれをやるんですか、と。そう、あれを。格好悪いという理由で誰もやりたがらない、あれを。

 

 

ちゃららら~ん ちゃらら~ちゃっちゃ ちゃっちゃちゃ~(例のイントロ

 

位置について よーいどん

 

うー(うまだっち)

うー(うまぴょい うまぴょい)

うー(すきだっち)

うー(うまぽい)

うまうまうみゃうみゃ

3 2 1 fight!

 

(以下略)

 

 

世界中の人々は配信されたウイニングライブの内容に戦慄した。

言葉の意味も内容も分からないが、とにかくノリのいい曲ということだけは伝わった。

きっと配信が決定すれば、世界中のDLサイトでDLする物好きがいるだろう。なお違法DLはNG。

 

「よーしもう一曲いくぞー!」

 

 

『そのとき日本から、エデンの戦士がやってきたのです・・・』

(あ、あれは誰だー!誰だー!誰なんだー!)

『それは…ゴルシちゃんでーっす☆

ああ、ちょっとおまえらドン引きするんじゃねーよ!

ゴルシンパワーで1着のポーズ☆

富、名声、この世の全てを手に入れた破天荒ウマ娘

ゴールドシップ様が、頑張っちゃうぜー☆

 

ゴルシンシン ゴルシンシン ゴルシーン! ×3

ゴールドシップ ゴルシーン!

 

 

その後、ゴールドシップの独り舞台は延々1時間にも渡って行われた。

耐えきれず、関係者が「もういいですから!」と止めたが、「あたしはまだ歌い足りねーな」とブツブツ言っていた。

 

 

そして、ようやくインタビューの時がやってきた。

壇上に立ったゴールドシップはカメラに向かって投げキッス&熱いウインク。

『えー……大変長らくお待たせしました。今日この日、一つの伝説を作り上げたウマ娘、ゴールドシップさんです!』

 

ウオオオオオオオオオオッ!! ワー! ワー! ゴルシ! ゴルシ! ゴルシ!

 

『本当におめでとうございます!』

「ん、あー、そうだな。わたしの歴史に、また1ページってとこかな」

『日本代表に選ばれた時、どのように思いましたか』

「応援してくれるチームメイトと全国のファンのためにフランス遠征を決断したな。あー、そうそう、テイオー、見てるか? いつも飯奢ってもらってサンキューな。

あとマックイーン、それとスぺ、たまにはダイエットしろよ。スカーレットとウオッカはキスでもして仲良くなれよ」

 

ドッ!! ワハハハハハハハ!!

 

その時、遠く離れた日本の部室では、

「ゴルシ、やりたい放題だね」

「まるで水を得た魚のようですわ……およよ」

「日本の恥部が輸出されたな。もう知らねーぞわたしは」

「なんでわたしがこいつとちゅーしなきゃならないのよ!?」

 

『他のウマ娘はいずれも劣らぬ精鋭揃いでしたが、走ってどう思いましたか?』

「うーん、あんまりそういうのは感じなかったなあ。どいつもこいつもエムブレムの奴に金魚の糞みたいに付いて行くだけで、おかげですげー楽だった」

『今年の凱旋門賞は前代未聞のハプニングか多々ありました。それについて一言お願いします』

「そうだなあ、まー、あれだ。喧嘩はよくない。それははっきりしているな」

『日本にとって大きな賞を戴冠しました。将来はどのような道に進みますか』

「なぁにぃ~。将来~! あほか! 将来もクソもねー、今だ今! 今面白く生きなきゃ意味ねーだろ!

あ、そうだ。日本政府、立ちションできなくなるから国民栄誉賞授与とかやめてくれよ。わたしは誰よりも自由に生きるからよー」

 

ドッ!! ワハハハハハハハ!!

 

その後もゴルシのインタビューは本人がすぐ脇道にそれる発言をしまくる中、何とか無事に終わった。

そしてそれは、ゴールドシップという『世界一破天荒なウマ娘』を世界中に知らしめるには充分すぎるものだった。

以後、ゴルシの走りを見たい、ゴルシにサインを貰いたい、ゴルシと囲碁で勝負したい、といった変わり者が海を渡り会いにいくことになるのだがそれは余談である。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

時刻は夜になった。

フランス有数の高級ホテルでは、ゴルシの祝勝会兼出場者を労う慰安会が行われていた。

「うまっ! フランス料理うまっ!」

ゴルシはまるで元禄寿司のように皿を積み上げながら高級フランス料理に舌鼓を打っていた。

「はぐっ! はぐっ! はぐっ! うまいぞこれ!」

疲れが溜まっていたツインターボは爆睡していたが、おいしい料理が食べられますよ、とトレーナーに突かれると飛び起き、今は飯をかっこんでいる。

食事中、ゴルシの元に、レースの時にナイフをチョップで叩き落とされたフランスのウマ娘がお礼を言いに来た。

ゴルシは、「ん、まあ気にすんな。でも命は大切にしろよ」とだけ答え、おまえも食えと皿の上の料理を強引に食わせた。

 

 

また、その祝勝会の直後、ニュースが報道される。

凱旋門賞で起きた前代未聞のハプニング。それはフランス競走バ連盟からの勅命だったことが判明した。

「はい。命令されました。背中を刺せ、と。とにかくどんな手段を使ってもいいからシンボリエムブレムを妨害しろ、と」

「本物の銃を渡された時、私は震えました。撃ったこともないのに、当たるわけがないと、でも狙って、当たっちゃって……すみません。すみません……」

フランス代表のウマ娘達はカメラの前で泣きながら謝罪した。しかしいくら謝罪したといっても、やったことが許されるわけではない。

今後二人はどうなるかは不明だが、情状酌量の余地はあるのではないか、という各国の声もあり、ひとまず処分は保留となった。

 

その一方で、夕方、メディアが取材に来る直前、謎の仮面を被った二人組が現れ、ボディガードを瞬殺し、内部に侵入。

指示を出した主犯格から実行委員会を開いていた代表者まで、あらゆる人間がフルボッコにされていたという報告が入った。

 

監視カメラで撮らえられた映像には、拳法でボコボコにされるフランス競バ会のお偉いさんの姿が映っていた。

ウマ耳と尻尾があるところ、ウマ娘なのだろうが、何者かは不明である。

 

二人は最後に、会議室にて、ペンキで『Les sanctions』(制裁)と書き、その場所を後にしたという。

 

何にせよフランス側の責任は重大である。しばらくは炎上は止まらないだろう。

これで我田引水の如し連中が浄化され、山紫水明の如き組織に生まれ変わることを祈る。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

一方、シンボリエムブレムは病院からホテルの一室に戻ってきていた。

入院を勧められたが、彼女は断った。手当だけで十分だと。

 

夜だというのに、部屋に灯りは付いていなかった。カーテンは開かれており、ここからは美しいフランスの街並みが夜景として楽しめる。

 

だが、エムブレムの心はそこにはなかった。

 

「負けた、な……」

フランスまで付いて来てくれた日本の単独取材を続けていた者には、今日は一人にさせてくれと頼んだ。男は承諾した。

 

「…………」

エムブレムは持ち歩いていたバッグからある物を取り出した。

 

それは、自決用のナイフだった。




シンボリエムブレムをどうするか、今も迷っています
仮に生かしてもその先はありません。
それでも生かした方が本人の為なのか……さあどうしてくれようか
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