ウマ娘プリティダービー《Unusual world line》   作:K.T.G.Y

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ウマが蘇る時

トレセン学園。放課後。ウマ娘達が授業を終え、トレーニングに励む時間だ。

走りでスピードを上げようとする者。プールでスタミナを鍛えようとする者。ジム室で筋トレに励む者。様々だ。

 

チームに所属している者はトレーナーの指示の元合同で練習する事が多く、放課後はトレーナーのプラン通り練習するウマ娘が多い。

 

そして有力視されたウマ娘ほど、優秀なトレーナーが付く事が多い。

デビュー前のウマ娘は主に基礎トレに時間を費やし、それなりに実績があるウマ娘は実践を想定したレースと同じ距離を走ってタイムを測る。

 

そして、ここにもそんなウマ娘が一人……。

 

「はぁっ……はあっ……はあっ……はあっ……」

 

ライスシャワー。

 

菊花賞と天皇賞()を勝った、紛れもないGⅠウマ娘。

しかしそんな実績とは裏腹に、世間の視線は冷ややかだった。

菊花賞の時は無敗の三冠馬として期待されたミホノブルボンを破り、天皇賞(春)では3連覇を期待されていたメジロマックイーンを倒した。

その結果、人々はライスを大記録を阻んだ悪役(ヒール)として扱った。

涙を流した日々は長かった。勝ってもブーイングを浴びせられた事は、今も彼女の心に深い傷跡を残している。

 

そのイメージを覆すためには、勝つしかない。勝って自分の事を世間に認めさせたい。その一心でライスは走り続ける道を選んだ。

 

しかし、思いとは裏腹に、ライスはスランプに陥る。

 

想いとは裏腹に、結果が出せず、もがき続ける毎日が続いていた。

 

 

カチッ。

 

ライスがゴール板を走り抜けると同時に、トレーナーがストップウォッチの停止ボタンを押す。

「はあ……はあ……はあ……はあ……」

「どうしたのライス。全然脚にキレがないわよ」

タイムはトレーナーが心配になるほど悪いものだった。

一度、医者に見せたこともある。異常はなかった。万全ではないかもしれないが、怪我はしていない筈だ。

しかしライスシャワーのスランプは深刻なもののようだ。

(どうして……? 体に異常はない。スタートだって悪くないし、途中のタイムも悪くはない。それなのに、最後の直線にまるでノビがないわ……)

 

「す、すいません……」

ライスは俯いてしまう。

(やはりメンタル面かしら。今も以前のレース結果を引きずって……)

 

「ライス!」

「は、はい……!」

「これがあなたの限界だというの!? 私はそう思わないわ! 菊花賞や春天の頃のあなたはどこに行ったの!?」

「……!!」

「あっ……」

しまった、失言だった。発破をかけるつもりで思わず口に出したが、言い直すにはもう遅い。

「ごめんなさい……」

「いえ……すいません、ライス、気分転換に外を走ってきます……」

「あ、ライス、待ちなさい……」

 

 

「はあ……はあ……はあ……はあ……」

ライスは学園の近くの河川敷を走っていた。

先ほどのトレーナーの発言を、禁句(タブー)だとは思わない。これは自分が乗り越えなくてはいけないものだからだ。

「トレーナーさんは悪くない。ライスが悪いんだ……」

やはり一人をマークしながら追走するスタイルじゃないと結果が出ないのか、それとも自分の走りに傷でも付いているのか、考えても走っても答えは出ない。

(このままじゃ駄目だ……。ブルボンさんだって復帰目指して頑張ってる。ライスだって結果を残さなきゃ……)

 

ミホノブルボンにライバル認定され、自分の事をヒーローとまで言ってくれた恩人。その人の前で恥ずかしいレースはできない。なのに……。

 

 

「……調子悪そうだねえ、ライスシャワー」

「えっ……」

急に話しかけられ、振り向くと一人の老婆が立っていた。

帽子を深く被り、杖を持ち、小さな丸サングラスをかけた老婆であった。

 

しかし何だろう。言葉に強い覇気が纏っている。何より歳はかなり取っている筈なのに、全然腰が曲がっていない。

 

「あの、あなたは……?」

「なあに、通りすがりの変なおばさんだよ」

「えっ……!」

ライスシャワーは思わず後ずさりした。元々臆病で弱気な性格なので、初対面の相手には緊張してしまう。

 

「あ、あの、その変なおばさんが、ライスに何の御用ですか……?」

「あんたがフォームを崩しているのが気になってね」

「えっ……」

「実際、最近調子悪いだろ? 絶不調と言ってもいいね」

「…………」

 

確かに今の自分は実際スランプ中だ。でも、なぜこの老婆がそれを知っているのか?

学園関係者かもしれないし、ひょっとしたら自分のファンかもしれない。いや、後者はありえないか。

 

「走る格好をしてごらん」

「は、はい……」

言われた通り、流されるままライスシャワーはレースと同じ走る構えをしてみる。

「こ、こうですか?」

「ふむ……」

老婆は顎に手をやりながら近付いてくる。

 

「右脚の親指が3cm内側に入り過ぎている」

「えっ……」

「右膝が5cm前に出過ぎている」

「えっ、えっ……」

「左脚が3cm外側に出過ぎている」

「……」

「腰が以前と比べて5度浅い」

ライスは絶句した。服を着ているのに、裸でもないのに、なんでそんな所が分かるのだろう。

 

「脚を一歩踏み出してごらん」

「は、はいっ!」

言われた通り、脚を一歩だけ出してみる。

「踏み出した脚が10cm外側に出過ぎている」

「はいっ!」

「腰が10度高いせいで脚が伸びきるのが早いね」

「はいっ!」

「地面を蹴る時は踵からではなくつま先から。重心がぶれてカクカクに走ってるからコーナーが上手く回れてないね」

「はいっ!」

 

「……うん、こんなところだね」

「そう、ですか? ライス、良くなってますか?」

「前に出ようという思いが強すぎたせいでフォームを崩したんだろうね。矯正してしっかり走れば直線の加速が戻ってくる筈だよ」

「分かりました」

「それから、走る時は脚だけでなく体全体で走るようにね。さもないとすぐに怪我をしてしまうよ」

「はい」

「まあ、おまえさんは呑み込みが早いから一週間も取り組めば大丈夫だろうね。今日言われた事、しっかり反復するんだよ」

「はいっ!」

「それじゃあね……」

「あ、ま、待ってください!」

「ん……?」

「その、有難うございます! おばさま!」

 

老婆はニッコリ笑って、手を振りながら去っていった。

 

 

「フォームの矯正、か……」

指導が正しいかは分からない。ひょっとしたら、もっと悪くなるかもしれない。

でもライスは心の底で、何か手ごたえを感じていた。

「がんばるぞ。おー」

 

 

その後、ライスシャワーは目黒記念2500mに出走。あっさりと勝利をおさめてしまう。

トレーナーが目を丸くするほどの快勝であり、今までのスランプが嘘の様なレース運びだった。

 

ジム室の大鏡に自分を映しながら、徹底的にフォームの矯正に取り組んだ結果、コーナーの減速もなく、直線のキレも戻った。

何より体が劇的に軽くなった。走るのが楽しいと思ったのは久しぶりだった。

 

「でも、何者だったんだろう、あのおばさま……」

あんな的確な指導が出来る人はそういないはずだ。誰だったんだろう……?

引退した元トレーナー? スポーツインストラクターの名伯楽? 考えても答えは出なかった。

 

「そういえば、おでこの辺りに、何か模様のようなものがあったような……」

 

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