ウマ娘プリティダービー《Unusual world line》   作:K.T.G.Y

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季節外れの満開桜

トレセン学園は毎年頂点を目指すウマ娘が集う事で有名である。

そして有力視された者にはトレーナーが付き、一層の研鑽と鍛錬の機会が与えられる。

 

故に、ウマ娘全てに専属のトレーナーが付いてくれるわけではない。

精々面倒見の良い先輩が練習を見てくれる程度である。

 

そして、そんな中、デビュー以来勝ち星がないウマ娘がいた。

 

ハルウララ。ピンクのポニーテールが目立つ、天真爛漫なウマ娘。

元は地方競馬場の一つ高知競馬場にいたが、もっとワクワクしたいという一心で中央であるトレセン学園に入学。

筆記は散々だったが、面接で通ったらしい。

 

明るい性格で誰とでも仲良くなれ、レースを心から楽しむ笑顔いっぱいのウマ娘。商店街では知らぬ者はいない程の人気者。

 

しかし彼女の想いとは裏腹に、勝利は果てしなく遠かった。

デビュー以来、ビリとブービーを連発。オープン戦に出場することはあっても、結果は言わずもがな。

大抵のウマ娘はそういった現実を見せつけられれば、心が折れて夢を諦め、学園を去ってしてしまうが彼女は別。

とにかくレースが楽しく、勝ち負けは関係なし。ビリでも観客に笑顔を見せ、次のレースに思いを馳せる。

 

そんなある日、地方のダート競馬場をドサ回りして久々にトレセン学園に帰ってきた時のこと。

 

 

「キングちゃん、久しぶりー!」

「あら、ウララさん。学園に帰ってきましたのね」

ハルウララは寮のルームメイトであるキングヘイローに挨拶をし、お土産を渡した。

 

キングヘイローもまた、優秀過ぎた両親の元に生まれ、そのコンプレックスに苦しんでいるウマ娘である。

一流のウマ娘を目指し、日々練習に明け暮れるも、中々結果は出ない。

それでも彼女は諦めない。地べたを這い、泥を啜ろうとも、必ず『キング』の称号を手にして見せると燃えている少女だ。

 

「聞いて聞いてー! わたしねー、この前初めて3着になったんだよー!」

「あら、頑張ったのねウララさん。私は先日重賞を出て2着だったわ」

「キングちゃんも凄いねー」

「あら、キングは2着で満足するウマ娘ではないわよ。やるからには1着。そしてやがてGⅠを取り、キングの名を日本中に轟かせるのよ」

「えーと、こうじょーしん、だったっけ? キングちゃんすごーい!」

「……ところでウララさん、戻ってきたという事は今日の夜から寮で寝泊まりするのよね?」

「そうだけど、どうしたの?」

「はあ……また寝坊助のウララさんを叩き起こして服を着替えさせて顔を洗って髪を整える日々が始まるのね……」

「キングちゃんいつもありがとー」

「たまには自分でやりなさい!」

 

負けても明るいハルウララだったが、練習は好きである。しかし結果が出ないせいか、飽きっぽい。

そんなハルウララは周りのウマ娘になにかと世話を焼かれることが多かった。生活力が皆無なのである。

 

 

その後ハルウララは学校に学園を空けた際に出す復学届を提出し、その後は体育館外で一人物思いに耽っていた。

商店街の人たちはいつも時間を割いて応援に来てくれる。ハルウララもいつからかそんな応援に答えたいという気持ちがジワジワと高まっていた。

「うーん」

レースは楽しい。いい成績ならもっと楽しい。もしも1着だったら……。

「1着になったら、みんな喜んでくれるかな」

観客が湧いて、インタビューなんか受けて、ウイニングライブだってできる。想像するだけでドキドキしてしまう。

「1着、とってみたいなあー」

「へえ、1着になりたいのかい、ハルウララ」

「え」

ハルウララが振り向いた先には一人の老婆が立っていた。

そう、つい先日、ライスシャワーを指導したあの老婆である。

 

「おばあさん、だれ?」

「私かい、そうだねえ……トレーナー……みたいなものかねえ」

「へえ、トレーナーさんなんだ」

「どうだい、ハルウララ、よければ私があんたの走りを見てやろうかい?」

「おばあさん、わたしのトレーナーになってくれるの!?」

「そうだねえ。あんたが今よりもう少し頑張るならね」

「うん、わかった! わたし、がんばる!」

「そうかい。それじゃ明日、ここにおいで。あんたを指導してあげよう。あ、このことは他の人には内緒だよ」

「ごくひれんしゅうだねー。わかった。よーし、がんばるぞー!」

 

 

「えーと、たしか、このへんなんだけど」

昨日老婆から渡されたのは一枚の名刺のようなもので、裏には施設の住所と地図が書いてあった。

自分だけでは迷子になりかねなかったのでキングヘイローに付いて来てもらおうかなとも考えたが、『ごくひれんしゅう』ということで断った。

「ここは……確か都内有数のスポーツセンターね。ジムもプールも温泉もある立派な所だった筈よ」

「そうなんだー」

「ウララさん、これを何処で?」

「ひみつー」

「…………くれぐれも知らない人に付いていかないように」

 

「うっわー、おっきなスポーツセンターだあ」

列車を乗り継ぎ、駅から徒歩で15分。ようやく見えたところはとても大きな施設だった。

(でもどこに行けばいいんだろ?)

よく分からなかったので、とりあえず入口まで行ってみる。

「すいませーん」

「……おや、ハルウララさんですね」

「そうです」

「お待ちしておりました。私が案内しますので、こちらへどうぞ」

「うわー『びっぷたいぐう』だー」

 

そしてハルウララが通された先にあったのは、プール施設だった。周りに誰もいない。『貸し切り』である。

「来たね、ハルウララ」

昨日の老婆がそこにはいた。ハルウララは改めて老婆を見る。相当歳を取っている筈なのに、皮膚にはしわや斑点がない。

「あんたにはまず泳ぎをマスターしてもらう。その為にここへ呼んだ」

「どうして泳ぐの?」

「いいかい、ウララ、おまえさんはただがむしゃらに走っているだけなんだ。それじゃあスピードは出ない。人間には人間の、ウマ娘にはウマ娘の走りってものがある」

「ふむふむ」

「その為には、まず水泳のような全身運動で体を万遍無く鍛えるのが一番いいのさ。フォームを作るのはその後だね。体が別人みたいに変わるはずだよ」

「でもわたし、泳ぐのにがて……」

「心配しなくていい。バタ足からしっかり教えてあげるよ。いずれはビート板なしで50mをクロールで泳げるようになるはずさ。頑張るんだよ」

「うん。わかった。おばあさん!」

「これ、私の事は師匠とお呼び」

「うん。わかった。ししょー!」

 

 

そんなこんなでハルウララが『ししょー』と極秘練習を続けて一か月が経過したある日。

 

 

大井競馬場ダート1400m未勝利戦。

 

『さあ、レースも終盤。最後のコーナーを抜けて各ウマ娘が直線へ』

本日9頭立てで行われた第8R。ハルウララはこのレースに出ていた。

 

「ウララちゃん頑張れー!」

「ウララちゃんファイトだー!」

 

商店街のみんなの応援を受け、ハルウララは走っていた。

普段ならズルズルと後方に落ちていくはずだが、今日は粘っている。現在4番手。

そして直線に入る直前で、ハルウララは仕掛けた。

(すごーい! 体がすっごく軽い! 息もきれないし、足も痛くならない。わたし、速くなってるー!)

『おーっと、後方から猛烈なスピードで追い込んでくるのは、まさかまさかのハルウララだ!』

 

「とりゃー!」

「え?」

 

「てりゃー!」

「へ?」

 

「えーい!」

「嘘っ!?」

 

『ハルウララだ! ハルウララ現在一番手! ハルウララがんばれ! ハルウララがんばれ! ハルウララの初めての勝利が見えてきた!』

実況も公平さを忘れてハルウララを応援する。残り200m、100m、ウララの脚色は全く衰えない。

 

「いっちゃえーーーーー!!」

 

『ゴーーーーーーール!!! ハルウララ1着! 初夏の大井に桜が満開! 本日の最終レース、念願の初勝利を手にしたのはハルウララだー!』

 

「うわわわわわっ、や、やったーーー!! みんな、やったよーー!!」

「うおおおおおっ、ウララちゃんが1着だー!」

「凄いぞウララちゃーん!」

「長かったねえ……。でも今日まで頑張ってきたんだねえ……」

商店街の皆は惜しみない拍手喝采を送る。皆で作った横断幕が静かにたなびいた。

 

「は、ハルウララに負けた……」

「こ、これは夢よね……? 悪夢よね……」

「わたし、明日から恥ずかしくて外歩けない……」

対して一緒に走ったライバル達は完全にお通夜ムードであった……。

「ほぇ?」

 

 

ウイニングライブの前に、ハルウララはインタビューを受けた。

「初勝利おめでとうございます。ここまで長かったですね」

「はい! さいこうです! うらら~んって気分です!」

「今日は普段とは見違えるほど素晴らしい走りでしたね」

「はい! ししょーのおかげです!」

「……師匠?」

「そうだよ。ししょー、わたしを早くしてくれたんだあ! ししょーってすごいんだよ!」

 

ハルウララ初勝利はその日のニュースでも大々的に取り上げられた。高知では号外が舞った。

トレセン学園でもその話は持ち切りであり、ウララはライスシャワーやキングヘイロー達から惜しみない拍手を受けた。購買のにんじんパンを奢ってもらったらしい。

 

そしてハルウララ躍進の影に謎の師匠あり。果たして何者? という記事も上がり、メディアもこそこそと嗅ぎまわり始めた。

 

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