ウマ娘プリティダービー《Unusual world line》   作:K.T.G.Y

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その執念はキングも動かす

ピピピピピ……

「うぅ、ん……」

朝、寮の一室で目覚まし時計の音でキングヘイローは目を覚ました。

キングたるもの、寝坊は許されない。そして最高のコンディションで授業を受けなければ。

「…………ん?」

キングヘイローは隣のベッドを見る。いつもならハルウララが夢見心地のままぐーすか寝ているのだが……、

「ウララ、さん……?」

いないのだ。ハルウララが。キングは慌てて飛び起きる。

ベッドにはまだ温もりが残っている。愛用の抱き枕も同じようにベッドの上に転がっている。

(どういう事……!? ウララさんは直前までここにいた。つまり誘拐ではない。ならば、何処に……!?)

 

「たっだいまー」

キングがあれこれと考えていると、部屋のドアを開けてハルウララが入ってきた。

「ウララさん! い、一体何処に行ってきましたの!?」

「ほえ? えーと、朝のジョギングかなあ? 朝に走るのって気持ちいいね、キングちゃん!」

「なっ……!?」

(あの、超寝坊助のウララさんが、押しても引いても目を覚まさないウララさんが、朝練……!?)

ありえない。キングはそう思った。しかし目の前の現実は、ハルウララが早起きしたことを明確に物語っている。

 

「…………。ウララさん」

「なあに?」

「……私も明日から一緒に走りますわー!」

「え? キングちゃんも一緒に走ってくれるの? やったー」

 

(おそらく一つ勝って自信が付いたのね。もっと勝ちたい、と意識改革が起きたんでしょう……)

キングはそう分析した。

 

 

そしてそれから数日後のオープン戦、ハルウララはまたあっさりと勝ってしまう。

この間の勝利はまぐれではない。本物だった。

 

 

と同時に、ハルウララを勝たせたトレーナーも注目視されていた。どうやら学園内部のものではないらしい。というより、ハルウララにトレーナーは付いていない

 

 

ある日、キングがウララに勉強を教えている時だった。

ハルウララの座学の成績はそれはもう壊滅的である。テストをやれば一桁点数を取るのが精いっぱい。先生が教えてもまるで理解できない。

しかしキングヘイローが教えると、ハルウララの頭でも何とか理解できるらしく、キングは定期的に勉強を教えている。

「…………と、いうことなの。これが方程式の解き方。ⅹに数字を代入して、左右が同じ数字になればいいのよ」

「うーん、分かるような、分からないような」

「諦めない諦めない。簡単なものから例題を出すから、なんとかやってみなさい」

「はーい」

トレセン学園といえど、学園である以上、勉強は必須科目である。そしてキングは中等部でも文句なしの優等生でもあった。学園1位を取ったこともある。

そのキングですら、ハルウララの物覚えの悪さには手を焼いていた。しかしルームメイトである以上、見捨てることも出来ず、定期的に家庭教師役を行っている。

 

『ベン ベン ベベン ベン ベン~♪』

その時、ハルウララの携帯電話から三味線が聞こえてきた。高知のよさこい節だ。

「あれ、誰だろ~? あ、ししょーだ」

「え、師匠?」

キングは前々から興味が湧いていた。あのハルウララを指導し、初勝利をもたらした謎のトレーナー。一度会ってみたい、と思っていた。

『もうすぐ、地方巡業だろうウララ。その前に、少し練習風景を見たいと思ってねえ』

「ししょー、またわたしの練習見てくれるの?」

『ああ。この前のレースを見たけど、まだ脚の運びが悪いねえ。コーナーを経由すると踵で降りる癖が残っている。その際に重心が横に5cmほどブレてるね』

「…………」

キングは何も言わなかったが興味津々という表情で話を聞いていた。しかし、こんな細かい欠点、ただレースを見ただけで普通分かるのか……?

(……そういえば、ウララさん、いつの間にか、まともに泳げるようになっていたのよね)

ビート板ありで懸命にバタ足しても中々前に進まないのが以前のウララの水泳だった。

しかし今ではビート板なしで息継ぎもしっかりしたクロールを泳いでいる。

「明日の放課後、いつもの所においで。いまのあんたなら、闇雲に走るより、泳いだ方が余程いい練習になるよ」

「わかったー。ししょー、わたしがんばるねー」

「ま、待ってください!」

キングヘイローが横から話に入ってくる。

「……おばあさま。私も、ご同伴してよろしいでしょうか?」

『ん、その声はキングヘイローだね』

「そうよ。わたしが一流のウマ娘、キングヘイローよ! おーっほっほっほ!」

『……まああんたも苦労しているからねえ。いいだろう。一緒においで』

「有難うございます。おばあさま。表向きは、ウララさんが迷子にならないように付いていくだけですが」

『そんな建前はいらないよ。本音を言いな本音を。……強く、なりたいんだろう』

「……ええ」

『まあ二人しておいで。じっくり見てあげるよ』

「それじゃあねー、ししょー」

 

 

「ここですか、ウララさんが通っていたスポーツセンターとは」

「うん。すっごくおっきいでしょー? なんでもししょーのものなんだって」

「はあ?」

こんな立派な建物を所有するとは、並大抵の人物ではない筈。ウララの師匠とは眼力だけでなく、財力もあるのか……?

(会って確かめてみるしかありませんわね……)

二人は『びっぷたいぐー』で奥の方に案内され、着替え室で競泳水着に着替えると、プールに出る。

思えばここに通される前、平日だというのに多くの人がいた。ジム通いと思われる筋肉質な男性、水泳サークルと思われる中年女性の人々、等。

割と流行っているようだ。しかし、通されたプールは貸し切り。そしてこのプールはどこか既視感がある。学園のプールと瓜二つなのだ。

 

二人が着くと、そこには先客がいた。50mプールをターンを繰り返しながら懸命に泳いでいる。

「あ、ライスちゃんだー」

見覚えのあるバラの付いたミニハットを付けたまま泳いでいるのはライスシャワーだった。

「ぷはっ……」

ライスが泳ぎ終え、老婆に声をかける。

「どうでしたか、おばさま。ライス、ちゃんと泳げてましたか?」

「うん。前半から後半までタイムが一定しているね。フォームがいい証拠だよ」

「良かった……」

ライスがプールから上がると、ウララが抱き着いてきた。

「ライスちゃんこんにちわー」

「ひゃっ!? なんだ、ウララちゃんか。ウララちゃんもおばさまに指導してもらってるの?」

「うん、ししょーに教えてもらったらね、すごーく速く走れるようになったんだ!」

「わたしも。おばさまのおかげでフォームの悪いところを直せて、体が凄く軽くなったの」

 

「…………」

二人の掛け合いを見ながら、キングヘイローは考えていた。

(ライスさんはついこの間まで絶不調と噂されていました。それが指導で劇的に変わるものなのかしら?)

「それじゃ、ライス休憩しておいで。さすがに2000mは辛かっただろう」

「分かりました。おばさま」

「なっ……! 2000mですって!?」

キングの驚きに、老婆が振り返る。

「珍しいことじゃない。ライスは基本長距離が得意なステイヤーだ。ステイヤーをやるには、筋力、スタミナもそうだが、長距離を安定したペースで走る頭とフォームが必要になる」

「頭……ですか?」

「そうさ。ちなみに私は500m泳いで、ああ今のタイムはこのくらいだな、と正確な数字が出せる。ストップウォッチなんかいらないねえ」

「それって……凄い事では!?」

ウマのレースで言えば、1000m走ったタイムがこれ、1ハロン走ったタイムがこれ、と自分で計算できるということだ。並みの頭脳ではない。

「それじゃあ、ウララは準備運動した後に、200mほど泳いでおいで」

「はーい」

「そしてキングヘイロー、おまえさんを指導する前に、一つ、やらなきゃいけないことがある」

ごくり。キングは生唾を飲み込んだ。

「な、何でしょうか、おばあさま……」

「おまえさんの母親が競走バだった時代のレースのビデオ、それを実家から取り寄せてもらいな」

 

「なっ……!」

キングはこれまで、一流のウマ娘であることを目指して頑張ってきた。それは全て、一流のウマ娘であった母親への反発でもあった。

ただ練習に没頭することができない。勝っても母親の名を出される。誰も自分自身を見てはくれない。

そんな周囲を見返すには、自分こそが一流であることを自力で証明するしかなかった。

独断でトレセン学園に入学し、妥協を許さないトレーニングで自分を追い込む、辛く険しい日々……。

 

しかしどれだけ勝利を欲しても、結果に恵まれないレースが続く。その度に、掛かってくる親からの電話。それをイライラしながら切るのは、もはやいつもの光景。

 

(諦めないわ……絶対に!)

心が折れそうになることは一度や二度ではなかった。それでも彼女は前を向いた。その執念が、必ず華開くと信じて。

 

「私に、あの親の力を借りろというの!?」

当然キングは反発した。どれだけ実力のあるトレーナーかもしれないが、ここだけは譲るわけにはいかない。

「……痛々しいんだよ。あんたの走りは」

老婆はそう答える。

「練習をするのはあんたの勝手さ。けどね、あんたの母親、そのレースから学べるものもあるんじゃないかい? 実際、見た事なんてないだろう?」

「そ、それは……」

「……プライドというものは難儀なものでねえ。風船のように肥大化し続ける程周りが見えなくなる。そして遂に破裂すれば、もう二度と元には戻らなくなる」

「…………」

「最後に薄皮一枚、残っていればそれでいいのさ。プライドというものはね」

老婆はにこやかに笑った。決してキングを責めているのではない。

だがプライドに固執して周りが見えずに、ただ闇雲に練習し続ければいいというものではない、そういうことを伝えたかった。

「……考えておきます」

「そうかい。それじゃあ、あんたも準備運動しな。とりあえず25mを往復して500m。息継ぎはターンの時一回だけね」

「えっ……」

「泳ぎは得意なんだろう? 知っているよ」

「……分かったわ。やってやるわよ!」

まんまと乗せられるキングヘイローだった。

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