ウマ娘プリティダービー《Unusual world line》   作:K.T.G.Y

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ターボエンジンチューンナップ!

シンザン所有のスポーツセンター、ジム室。

「まずは筋トレから開始だ」

「ま、待って……はぁー……ぜぇー……も、もう……はぁ……はぁー……息が……」

ツインターボはシンザンに言われるままに、ランニングマシンで800mダッシュ10本をこなしたが、息も絶え絶えだった。

「もうギブアップかい?」

「だってばーちゃん、こんな走ってすぐに筋トレなんてできないよ! ほら、いんたーばるとかなんとかあるじゃん!」

「基本がなってないからしょうがないだろう」

 

「ふぎぎ……ぐおー……上がらないー……」

続けてターボはベンチプレスに挑戦していた。ウマ娘とはいえ、この重量を持ち上げるのは厳しい重さだった。

「持ち上げなくていいんだ。力を込めた状態を持続するんだよ」

「ぐあーっ、ばーちゃん、スパルタだぁー……」

「何でもやるって言ったのはあんただろう」

「いつまでやるのー?」

「最低あと10分だね。手を抜いたら最初からやり直し」

「ふぐーっ! うぎーっ! んああーっ……!」

 

ジムで上下半身余すことなく鍛えさせられたターボは、今度はプールに連れて来られた。

ターボは泳ぎは決して得意な方ではない。しかも準備運動もせずにプールに飛び込もうとする。

今回はガチガチになった筋肉をほぐしながら、ハルウララと同じくバタ足から指導することになった。

「ねーばーちゃん、こんなんでターボ強くなれるの、トレーナーに比べて根性論すぎない?」

「そうは思わないね。能力がGⅠウマ娘の域に達してないんだ。2、3倍やるのは当たり前だろう?」

「うー……」

「それにね、ターボ、おまえさんの大逃げなんかね、やろうと思えば誰だってやれることなんだよ」

 

ぐさっ

 

ターボは自身のアイデンティティーを深く傷つけられた気がした。

 

「しかもあんたは体が小さい。体型(タッパ)も今の辺りで打ち止めだろう。

その体で大逃げを唯一無二にするためには、筋肉の向上は勿論、頭の頂点(てっぺん)から爪先まで空気を含んだ体を作り上げ、そこにスタミナをぶち込むしかない」

「むー……」

「肺や心臓と言った臓器も鍛えなきゃいけないね。つまり鍛える箇所は全部だ。これはターフで走り込んだだけじゃ絶対無理だろうね」

「ううー……」

「同時に、おまえさんの走りの原点に回帰することでもある」

「ターボの、原点……?」

 

「……かつて、トウカイテイオーは三度目の骨折によって走りたいという想いを失い、引退をしようと考えていた」

「うん、知ってる」

「そこへターボ……おまえさんの走りに勇気を貰い、もう一度頑張ろうという気になったんだ」

「そうだね。テイオーも同じこと言ってた。有難う、って言われた!」

「分かるかい? ターボ……あんたの走りはね、人に勇気を与える『希望の走り』なんだ」

「希望の……走り……」

「だから、どんなに苦しくても、絶対に諦めちゃいけないんだよ」

 

この時、ターボはかつてテイオーに言われたことを思い出していた。諦めないことが大事だ、と。

イクノにも言われた。諦めないことが大事なんだ、と。

そして目の前のばーちゃんも、同じ事を言った。

 

(ターボは、絶対に諦めちゃいけないんだ……。皆に勇気を与えるために……)

 

「……分かった! ターボ、絶対に諦めない! 皆に希望を与えるウマ娘になる! ばーちゃん、ターボを遠慮なくしごいてくれ!」

「分かればいいんだよ。それじゃ、まずは、平泳ぎ5000mからいってみようか」

「ひぃーっ! ばーちゃん、やっぱスパルタだー!」

 

 

ツインターボの猛練習が始まった。

朝起きるのは苦手、授業中はいつも寝ている。練習はバテる。そんなターボの意識改革も並行して行われた。

 

朝は誰よりも早く起きてランニング。その際はマスクをして、呼吸を苦しくしてのランニングだった。

神社の境内までの階段をダッシュで何度も昇り降りした。毎日、速く走れるようになりますように、と祈った。

授業中はいつも寝ていた。それこそ先生が頭を叩こうが揺すろうが全く起きない程熟睡した。

放課後はシンザンのスポーツセンターへ。

筋トレ、泳ぎ、温泉で一服をこなしながらトレセン学園を往復した。

 

その姿は、ウマ娘というより、とことんまで自分を追い込むボクサーか、刀を振り続ける剣豪に近かった。

モチベーションの低下を懸念されたが、意外にもターボは食らい付いていった。そこにあるのは、トウカイテイオーの存在だった。

(足りない……まだ足りない……! この程度では、ターボはテイオーには追い付けない……!)

今でも自身の遥か高みにいるトウカイテイオー。そこに追いつくためにターボは必死だった。

 

全ては『勝つ』ために……。

 

 

一方、シンザンから挑戦を受けたトレセン学園会長シンボリルドルフである。

寮長であるヒシアマゾンとフジキセキを呼び出して、カフェテリアでの会議が始まった。

「……ふぅん、そりゃ会長も面白い勝負を引き受けたもんだね」

「私たちでよければ、喜んで力を貸そうじゃないか」

「済まない。恩に着る」

 

ヒシアマゾンもフジキセキも寮長だ。面倒見はいい。

学園を辞めようとする後輩は多々いたそうだが、元気づけたり、励ましたり、自身の走りで勇気付けたりして、奮起させた。

しかしトレセン学園は日本中から優秀なサラブレッドが集まってくる実力主義の学園である。

どれだけ気を配っても、現実を見せられ、自信を喪失し、辞めていくウマ娘も多い。

中には自殺寸前まで思い詰めてあわやマスコミが騒然としたかもしれない事件もあった。

寮長の二人が尽力してこうなのだ。他の者が寮長をやっていなければどうなっていたか、想像するだけでも恐ろしい。

 

「ところで二人に聞きたい」

「ん?」

「なんだい会長?」

「人生は一度切り、モノにならないと分かって学園に居続けさせて、将来の芽を摘み取る……これについてどう思う?」

 

シンザンは、むいてないから辞めな、と引導を渡せと言った。しかしそれは自分の信念ではとうてい賛同できない思想だった。

だが、華やかながら厳しい競バ世界、中には一勝もできないまま終わるウマ娘もいることは事実である。

 

「考えを改めさせるに決まってるじゃないか」

「諦めないことが大事だと諭すね」

「ふむ……。二人の言うとおりだ。ウマ娘には無限の可能性がある。それを我々が判断すべきことではないな」

 

かくして、リストアップされたウマ娘の選定が始まった。

対象はまだ一勝もしておらず、トレーナーも付いていないウマ娘である。

「狙い目は気性難と判断されてトレーナーが逃げたウマ娘だ。これなら才能を持つ者はいる」

「けど、蒔かぬ種は生えぬ、って言うけどね」

「会長に言われて断れるほど度胸が据わったウマ娘もそういないだろうけど……」

しかし中々有力なウマ娘は出てこない。この娘は模擬レース最下位、この娘は学園の勉強に付いていけず追試の常連、等々……。

 

「どれも帯に短し、というやつだな」

「まあいきなり凄いのが出てくるわけないさ。気長に行こう」

 

「あ、いたいた! 会長ー! 会長ー!」

カフェテリアはウマ娘が多くいる場所である。当然会長たちの存在は目立つ。

「君は、バンブーメモリー……」

「はいっス! トレセン学園鬼の風紀委員長バンブーメモリーっス!」

頭にはハチマキ、手にした竹刀をブンブン振り回して学園の風紀を守る正義(?)のウマ娘である。そんな彼女が、どうしたのか。

「聞いてくださいよ会長ー。学園のトイレでタバコ吸ってる奴がいたんスよー!」

「何!? それは聞き捨てならないな。校則なら2週間の停学処分だ」

横からエアグルーヴが言う。

「というかまたなんスよこいつ! 何というか、一昔前の不良生徒の模範みたいな酷い奴でしてー」

「ふむ、確かにそれは問題だな。して、そのウマ娘の名前は?」

「チカチーロってやつっスけど」

「げ……!」

「あのポニーちゃんか……」

ヒシアマゾンとフジキセキの表情が曇った。どうやら違う寮の者でも知っているウマ娘らしい。

「ん……チカチーロ……チカチーロ、旧ソビエトの殺人鬼と同姓だな。……いや、待てよ、確か……」

シンボリルドルフはリスト化された書類の奥の方を探し始めた。自分の記憶が確かなら、同じ名前のウマ娘がいた筈だ。

「……あった。チカチーロ。中等部。トレセン学園選抜特待生試験の走力テストで驚異的なタイムを出し、他の過程をすっ飛ばして合格通知を受けたウマ娘。

しかし素行は最悪で勉強も出来ず退学は間近。特徴は、某ウマ娘曰く『海よりも空よりも深い、地獄の淵を見てきたかのような目』」

 

「やれやれ、そんな素行の悪いウマ娘を見逃していたとはな、このエアグルーヴ、副会長として不覚の至りだな」

「だが、面白いじゃないか」

「……会長!?」

「バンブーメモリーよ、彼女を呼ぶことはできるか? なあに、行先は生徒会室だと言えば多分来るだろう」

「ええっ!? か、会長!? こいつに用でもできたんスか……?」

シンボリルドルフはニヤリと笑った。

「素行は確かに悪い。だが走力テストの結果だけで学園に入学したというのは興味深い。なにより、私は彼女の走りを見てみたい」

「会長、まさか、彼女を選ぶつもりなのですか?」

「あくまで会うだけだよ。裁定は自分で決めるさ」

 

「「いやー会長、止めておいた方がいいと思うな」」

ヒシアマゾンとフジキセキの言葉が重なった。

「「彼女は……」」

 

「梅毒だぜ」

「地雷だね」

 

 

そして3週間後。北海道南部、函館競馬場。GⅢ函館記念芝2000m。

 

待ちに待った新生ツインターボの走りをカノープスの面々が見れる時が来た。

「あっつ~、ここ本当に北海道? 滅茶苦茶暑いんだけど……」

「温度計は27℃ですね。北海道に梅雨はありませんが、海沿いの街ですから湿度は高いでしょうね」

「レースが終わったら湯の川温泉入って、海の幸食べて、飛行機の中でぐっすり寝たいねー」

マチカネタンホイザだけが一人呑気な事を言っていた。

「しかし……、3週間でターボさんはそんなに変わるんでしょうか」

南坂トレーナーは不安だった。

 

シンザンの手腕を疑っているわけではない。実際ターボはこの3週間、学園の誰よりも努力していたと聞く。

しかし実力というものは、これまで培ってきた努力の結晶だ。果たして3週間程度でどうにかなるものだろうか。

 

「あっ、出てきたよ、ターボ」

ゼッケン8番を与えられたツインターボが姿を現した。

見た目はいつものターボだが、落ち着いているようだ。ネイチャ達に気付き、手を振る。

「見た目は変わってないね」

「そりゃ3週間でいきなり体型が変わったりはしないでしょー」

「ウルトラマンみたいにですか?」

「あれは変身」

 

ファンファーレが函館の晴天の空に鳴り響く。函館陸上自衛隊基地は街の真ん中にあり、隊員たちが今日の為に演奏を練習してきた。

 

『一年間でほんの僅かの期間しか開催されない函館競馬場。函館記念GⅢ。芝2000m。16頭のウマ娘が挑みます。

三番人気はご存じ大逃げウマ娘ツインターボ。二番人気はこの娘トーセンスーリヤ。一番人気はカフェファラオとなっております』

 

本日、ツインターボは三番人気となった。しかし詰めかけたファンの狙いはやはりツインターボの大逃げが成就するかだ。

「ターボ、頑張れー!」

 

『ゲートイン各ウマ娘態勢完了しました。……スタートしました。各ウマ娘、まずは綺麗なスタート。

おっと、スタートから全力でダッシュするウマ娘がいる。ツインターボだ。やはりツインターボがハナを切って飛び出した』

 

スタンドからは拍手と笑いがこみ上げる。

「いつものターボじゃん」

「落ち着いてネイチャさん、少し様子を見ましょう」

 

「…………」

大逃げウマの利点は競り合いがないこと。ウマ群に埋もれ、最後の直線で抜け出せないという事もない。

もう一つはバ場が荒れてもいいバ場だけを選んで走ることも可能ということ。

今日はもう11R。芝も荒れてきている。特に内ラチ付近は芝が禿げあがっていて走るのは難しい。ターボは比較的芝が良好な部分だけを選んで走った。

 

『さあツインターボ、とにかく逃げる逃げる。1000mの時計は58秒を切ったか? やはりかなりのハイペースだ』

 

「駄目だ。これはいつものパターンだ……」

「ターボ逃げ切れ―! 逆噴射するなー!」

カノープスのメンバーが不安がりながらも懸命に応援する。後ろのウマ娘はまだ仕掛けない。どうせ追いつけると高を括っているからだ。

 

しかし間もなく、後ろのウマ娘達は青ざめることになる。

 

『さあ、レースも終盤。先頭はまだツインターボ、最終コーナーを回って直線へと駆けていく』

 

「ターボが逆噴射しない……」

「まだ余裕があるように見えますね」

 

「よーし、行くぞー!」

 

ダダダダッ!!

 

『おーっと、ツインターボ、直線で更に加速! 後続をグングン引き離していく! 後ろのウマ娘はまだコーナーを回ったところだ!』

「そ、そんな!」

「嘘でしょ!?」

 

「え? え? え? ターボって逃げウマだよね? リードを使って逃げ切るウマだよね?」

「ええ、間違いなく」

「なんで追い込みウマみたいに加速してるのー?」

カノープスの面々もこれにはびっくり。

 

『ツインターボ、今一着でゴーーーーーール!! 2位以下に10馬身以上の大差を付け、函館記念コースレコードを出しての圧勝です!』

 

ワアアアアアアアアアアアアアッ!!

 

この圧勝劇に観客席からも万雷の拍手が。GⅢとはいえ、ここまで圧勝では、もはや文句のつけどころがない。

「いいぞーツインターボー」

「俺らに構わず逃げたな! ツインターボ!」

 

「見たかテイオー! これが生まれ変わったターボ様の走りだ!」

ターボはカメラに向かってVサインした。

「よくやったね、ツインターボ」

「ばーちゃん、勝ったぞ!」

「うん。まあこの面子なら勝って当然、次からが勝負だね」

「当然! ターボ、次も勝つから! GⅠも取るから!」

 

「はぇ~、私びっくりしたわ……」

「速くなるとは予想していましたが、ここまでとは……」

「これならやっぱりわたし達も指導してもらうんだったねー……」

「ははは……トレーナーの私の立場がありませんね……」

 

こうして、函館記念はツインターボの圧勝で幕を閉じた。ターボは久々のウイニングライブを楽しみ、ついでにYOSAKOIソーランも踊った。

その後は湯の川温泉で一湯浸かって、カニ、ウニ、イクラだらけの料理に舌鼓。カノープスの面々は日帰りの旅行を楽しみ、凱旋した。

 

 

そしてシンザンは南坂トレーナーと本格的に連携を取ることを約束。ここにカノープスとの契約が締決した。

 




筆者は函館出身です。
函館競馬場でレースが開催される頃は地元も盛り上がるのですが、
コロナのせいでイベントもなにもなく、子供たちも来ず、
ただ馬がかっぽかっぽするだけの時期になったそうです。

……痛いですね。これは痛い……
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